第58話 婚約破棄編② 破棄した者と破棄された者
「この異界の力を宿した魔女が!!
お前のせいで俺はこんな目に・・・。」
「ふざけてないでくれる?
あなたが落ちぶれたのは全部自業自得じゃない!!」
「・・・なんだと?
貴様ぁ!!」
???
何かしら、あれ?
私は元ジャクショウ国の第四王女、デルマ。
今日も勇者テンイや彼のハーレム(?)と共に旅を続けていたの。
その最中、痴情のもつれなのか、珍妙な言い争いを続ける男女と出くわした。
「あらま?
痴話喧嘩かしら??」
「ダ、ダメだよエミリー。
人様の色恋沙汰に首突っ込むなんてよそうよ。」
「勇者様に賛成ですわ。
巻き込まれる前に早く立ち去りましょう。」
こ~いう事に関わってもロクな目に合わないのが世の常だしね。
「だがな、ミロ。
このカジリ様の元に戻って来ると誓うなら、許してやらんでもないぞ?」
「意味わかんないわ!!」
私達が眺めている間にも男女・・・ミロとカジリの言い争いは白熱する一方。
飛び火する前に早く離れなくちゃ。
「?~・・・。」
しかしこ~いうやり取りが珍しいのか、クロが不思議そうな表情でミロ達を見回している。
・・・何故かカジリの傍の茂みだったり、ミロの斜め後ろの木を見つめているけど。
「あ″!??
なんだ、貴様等は!?
見世物じゃねぇんだぞ!!」
「そうよ!!
さっさとどっか行ってちょうだい!!」
そしてとうとうミロ達に気付かれてしまい、罵声を浴びせられてしまう。
まずい事になったわね。
「ク~ロ。
あんなもの、見ちゃいけません!!
早くこっちへいらっしゃい。」
「・・・そ~なの?
じゃ~他の人達みたいに、かくれんぼしながらだったら見てい~の~?」
「あのねぇ。
かくれんぼしながらでも、ダメなものはダメ・・・・・・。
・・・ん″!??」
黒猫族のクロには『索敵』の特性がある。
そんな彼女が『他の人達』だの『かくれんぼ』だの不可解な単語を使っている。
そこから導き出される答えは・・・。
「・・・クロ。
もしかしてミロやカジリの近くに誰か、隠れてるの?」
「うん。」
「「なんでわかった(の)!??」」
仲良く(?)驚くミロとカジリ。
だけどこの反応・・・。
つまり彼らは何らかの意図があって同行者を隠していたって訳ね。
・・・なんか良くない事が起きそうだわ。
「くっ・・・。
バレてしまっちゃ、しょうがねぇなぁ。
出て来い、お前ら!!」
ミロが吠えると同時に茂みの傍から3人のチンピラが姿を現した!!
しかし単なる人相が悪いだけの護衛とは思えない。
「う、うわぁ!??
チンピラだぁ!!」
突如現れたチンピラ達に恐れおののく転移勇者。
「・・・テンイ。
いくらチンピラ相手に色々あったからって。」
「まあ、一種のトラウマなんでしょうね・・・。」
彼は世にも珍しい、チンピラとひたすら相性の悪い転移勇者なのよね。
どういう訳か彼はチンピラと関わると、妙な大騒動を巻き起こした挙句、大泣きする事が多い。
「・・・なっ!?
何よ、この人達!??」
「ミロ・・・俺はな。
お前のせいで全てを失ったんだ。
もう人生お終いなんだ!!
モンスターに襲われ、エーリには浮気がバレ、そのせいで父さんからは勘当され・・・。
手元に残ったのはお情けでもらったはした金の金貨1000枚のみ。」
「だから何でそれが私のせいになるのよ?
さっきから言ってるでしょ。全部あんたの自業自得よ!!
どんだけ私に濡れ衣着せたいのよ!??」
・・・話を聞く限り、ど~やら道理はミロの方にあるようね。
一応、モンスターに襲われたのは自業自得じゃないかもだけど、それでもミロのせいにするのは筋違いでしかないわ。
それにカジリ、もう人生お終いなんて言ってるけど・・・。
「金貨1000枚・・・って事は、日本円だと1000万円!?
うっわぁ。
異世界の金持ちって太っ腹なんだね。」
「羨ましいわねぇ。
金貨1000枚あれば、働かなくても5~6年は生きていけるじゃない。
ちっとも人生お終いじゃなさそうだけど。」
「ふざけるな!!」
呆れながら呟く勇者と聖女に怒鳴るカジリ。
口にこそ出さないものの、チンピラ達もバカにするような目付きで彼を眺めている。
「既にもらったお金の半分も残ってないんだぞ!!」
「無駄遣いの天才ね。」
「なんだと!?
(#゜Д゜)ゴルァ!!」
聖女に図星を突かれ、カジリは更に怒り狂う。
「とにかく、だ。
俺が不幸になったのは全てあの女のせいなんだ・・・。
ミロ・・・あの魔女には他人を不幸にする力が宿っている。
だから元婚約者であるこの俺が正義の鉄槌を下すんだ!!」
・・・どうやらカジリはみっともないを通り越して、相当危ない奴のようね。
噂に踊らされて、悪人(と自分が思った人物)に暴力を振るう犯罪者と同じレベルだわ。
「元カノを魔女扱いして八つ当たり!?
大体、ミロのどこが魔女・・・。
・・・・・・。
・・・???」
「まっ、動機にゃちっとも共感出来ねぇが、仕事は仕事。」
「悪く思わないでくれよぅ。
へっへっへっ・・・。」
何故か聖女が戸惑っているのを尻目に、チンピラ達が彼女を襲わんと迫り出す!!
「ど~しよ・・・。
ど~しよ~・・・・・・?
・・・あわわわ。」
「?~。」
チンピラへのトラウマからか、割って出る勇気を持てない勇者。
事態を理解出来ずにキョロキョロと周りを見渡すクロ。
・・・こ、これは見て見ぬ振りして良いのかしら?
ただの喧嘩で済むとは到底思えないんだけど・・・。
とは言え、あのチンピラ達は中々強そうだわ。
少なくとも私一人で三人同時に相手取れるとは思えない。
だったら!!
「聖女!!」
「・・・引っ掛かる所はあるけど、しょ~がないわね。
ミロは私が守ってあげるわ。」
聖女は攻撃能力は低いけど、防御能力は凄まじい。
あのチンピラ達からミロを守るくらい、容易いでしょう。
「あなた達の気遣いには感謝するけど、心配無用よ。
私には『彼』が付いてるから!!」
彼?
「任せたわよ。
サーラ!!」
「お任せ下さい!!」
ミロの呼びかけと同時に彼女の斜め後ろにある木の上から何者かが現れた!!
その何者かは角や翼を生やし、その身を漆黒に染めている。
整った顔立ちをしているけど、まさか彼は・・・。
「「「「「「「「魔族!??」」」」」」」」




