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第4話 序章④ 元の世界へ帰す理由

「へぇ。やっぱりこの世界だと魔法が使えるんだ。

 ・・・俺も使えるようになるのかな?」


「もちろんです!!

 ・・・私、攻撃魔法は苦手ですが、防御魔法や回復魔法は自信がありましたの。


 けどテンイ様は、無意識に発動させた魔法で私の防御魔法を打ち破った・・・。

 きっとあなた様には天性の才能があるのでしょう。」


「そ、そうかな?」


「そうですとも!!」





ここは城のとある一室。

そこでは、転移勇者と闇聖女エミリーが和気あいあい(?)と雑談に興じていた。

私、王女デルマはそんな彼らの様子をぼんやりと眺めている。


ちなみにテンイってのは、勇者の名前ね。


現在、王様達は勇者をどう扱うべきか、緊急会議を行っている最中よ。

勇者の扱いが決定するまでの間、彼の世話係として聖女と・・・どうしてか私が選ばれた。


解せぬわ。


聖女の暴走が心配だったけど、さすがに少し落ち着いたのか、先ほどのような猛アタックはしていない。

でもやたらと褒めちぎったり、ボディタッチをしたり、彼の手に胸をくっつけたりと、アピールに余念がない。


・・・聖女、必死ね。


とは言え。


「ゆ、勇者様、聖女様、王女様・・・。

 おおお食事を持ってまいりましたたた。」


「きゃ、きゃあ。こっち見たわ。

 こ、殺され・・・し、失礼します!!」


城内でどのような噂が流れたのか、勇者に対し過剰に怯えるものばかり。

本音で言えば、私も彼に怯えてるんだけど、もしそんな素振りを見せたら、機嫌を損ねるかもしれない。


そうなったら、私は。

あわわわ・・・。


そう考えると動機はどうあれ、勇者に臆す事なくスキンシップを取る聖女は凄い胆力ね。

なんだかんだで、彼女にはかなり助けられているわ。


・・・勇者も彼女に対しては徐々に打ち解け始めているようだし。

これはチャンスよ。


「勇者様、申し訳ございません。

 急用が出来ました故、少し席を外させて頂きます。」


「えっ、ええ!?」


なんだか彼、えらく心細そうね。

けど多分、大丈夫よ。

聖女は打算まみれだけど、あなたに害を成す気はなさそうだから。


「聖女エミリー。

 勇者様の事、よろしくお願いしますね。」


「もちろんですわ!!

 お任せください、王女デルマ。」


・・・きっと私がいない内に勇者の好感度を上げようとか、企んでそう。

それはまあ良いとして、変に暴走しないか少し不安だわ。


とは言え、私にはやるべき事がある。

きっと大丈夫だと自己暗示を掛け、とある場所へと向かった。



********



「う~ん、本当に無いのかしら。

 帰還の転移陣。」


私は城の宝物庫へ行き、『帰還の転移陣』と呼ばれる道具を探していた。

『帰還の転移陣』は『召喚の転移陣』とは逆に、転移勇者を元の世界に帰すためのアイテムよ。


王はそんな物は持ってない・・・って話してたけど、隠していただけかもしれないし。

けど見つからないって事は、嘘じゃなかったのかしら?


「こんな所で何をやってるんだい、デルマ。」


「ノマール兄様!!」


ノマール兄様はこの国の第一王子よ。

何事も要領よくこなす優秀なお方だけど、時折妙にはっちゃけた態度を取るのよね。


「兄様、私は帰還の転移陣を探している所なの。

 勇者様を元の世界へ帰すために。」


「へぇ。

 デルマは勇者様を元の世界へ帰したいのかい?」


何を言うかと思えば。


「当然ですわ!!

 あのお方は生きる破壊兵器のような存在ですもの。

 元の世界へ帰す方がお互いのためです。」


「容赦ねぇな、デルマは!!

 ・・・王の前では『罪の無い青年を誘拐するなんて最低』とか、ほざいていた癖に。

 女って怖ぇ・・・。」


「・・・あれも本音ですけど。

 普通は私のように考えるのが、一般的だと思いますが。」


転移勇者とは『恐るべき破壊兵器』であり、『勝手な理由で誘拐された被害者』でもある。

客観的に見れば、そう考えるのが普通だと思うのだけど・・・私、何か間違ってるのかしら?


「まあ、それはともかく・・・。

 別に勇者を元の世界へ帰す方法なんて、探さなくて良いと思うけど。」


「えっ!?」


「簡単な事さ。

 君が勇者を殺せば良いんだ。

 王もそう言ってたよ。」


「・・・何のご冗談を。

 私ごときの力で勇者様を殺せるはずありませんわ。

 しかもあの方の傍には聖女様もいるのですよ。」


一応、私は教育の一環として武術や魔術を嗜んでいる。

しかし私の実力なんて所詮、弱めの魔物やそこいらのごろつきよりは多少上、程度でしかない。

勇者や聖女を殺すなんて、到底無理な話よ。


「けれど勇者は君の事を信頼している。

 不意を突いてグサリ・・・なんて事も可能だと思うけど。」


「まさか。誘拐犯の娘を信頼するなど、ありえませんわ。

 聖女以外に話をしてくれそうな人がいないから、消去法で私に頼っているだけです。」


場合によっては、マッチポンプだと思われてもおかしくないはず。

・・・もちろん、マッチポンプなんかじゃないけどね。


私は本当に勇者召喚には反対だったから。


「やれやれ、デルマ。君は常識にとらわれすぎだ。

 飢えた人間に一切れのパンを渡す事で、一生分の信頼を得られる事もある。」



「おっしゃりたい意味がよくわかりませんけど・・・。

 仮に勇者様を暗殺できたとしても、そんな事をする気はございませんわ。」


「ほう、何故だい?」


「だって、それは『誘拐した人間が邪魔になったから殺す』って事でしょ?

 低俗な犯罪者達と何も変わらないじゃない。

 そんな醜い行為に手を染める気などありません。」


「て、手厳しいね。デルマは。

 だが世界のためには時として、手を汚さなければならない場合もあるんだよ?」


つまり世界のためなら、薄汚い事でもやるべきだって言いたいのね。

それも一つの真理なのかもしれない。


だとしても・・・。


「仮に手を汚すとしても、最優先で処分すべきは転移勇者達を考え無しに召喚する連中じゃないかしら?

 どうせ元を断たなければ、いくらでも勇者達はやってくるのですよ。」


私には召喚者達を処分するなんて、無理だしやる気も無いけど。

しかし一番罪深いのが転移勇者を召喚した者達だって事は確かだわ。


「それ、父上の前で言ったら君が処分されるよ!?

 ・・・心配になってくるわ、この妹。」


あ、あらら。

私としたことがついうっかり。


「まあ、今の発言は聞かなかった事にするよ。

 けれど、勇者を元の世界に帰したいなら急いだ方が良い。」


「どういう事ですの?」


「明日、勇者と聖女には魔王討伐の旅に出てもらうつもりだ。

 だから、彼らはすぐにこの城から離れる事になる。」


・・・やっぱりそうなるのね。


身勝手な話だとは思うけど、勇者からすればこの城に残るよりも外に出た方がマシでしょう。

無理に反対しない方が彼のためか・・・。


「わかりましたわ、兄上。

 ご忠告、ありがとうございました。」


「もしかしたら君も・・・いや、なんでもない。

 勇者を元の世界に帰す方法、見つかると良いね。」


そう言い残し、兄上は去っていった。


タイムリミットは明日。

それまでに何としても、勇者を元の世界に帰す方法を見つけなければ!!



********



しかし結局、宝物庫に「帰還の転移陣」は無かった。


なので私は書庫を漁り、転移勇者を元の世界に帰す方法を探していたの。

でも。


「・・・ね、眠い。」


今、夜中の何時なのかしら?

私、普段は徹夜なんてしないから、眠くて眠くてしょうがない・・・。

けど、何としても勇者を元の世界へ帰す方法を見つけないと。


彼が怖いってのももちろんある。


だけど今の彼、誘拐犯の娘に頼らざるをえない程、追い詰められている。

それも全て、自分の父親のせいだと思うと心が痛い。


だから・・・けれど、やっぱり眠い。


「zzz・・・はっ、ダメダメ。

 もう時間がない・・・んzzzんんん?」


「・・・王女?」


「うぇ!?

 勇者・・・様?」


どうして彼がこんな所にいるんだろう?

しかし今の私は、彼を怖がる気力すら無いほど眠くて・・・頭が働かない。


「ずっと戻ってこなかったから心配したよ。

 ・・・ここは書庫のようだけど、何をしてたんだい?」


「ええっとzzz、勇者様を、元の世界へ帰す・・・。

 方法探してたの。ムニャムニャ。」


「お、俺を元の世界へ帰そうと!!

 ・・・それは俺が危険な存在だからかい?」


「それ・・・も、あるzzzけど。

 勇者zzz様、父上の・・・せいで辛い、目に合って可哀そうzzz。

 ・・・だから。」


いけないわ。

眠たすぎて自分でも・・・何を話してるのかわからない。


「zzz私が罪を・・・償う。

 そして勇者・・・様を元のzzz平和な、世界・・・へ。」


も、もうダメ。

意識が。





「・・・王女。

 俺は・・・。」





こうして私は夢の世界へと誘われた。

しばし経った後、私の体が柔らかい何かで温められていくような気がした。


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
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