第54話 定型文編② 転移勇者が求めるもの
Side ~聖女~
「じゃあさっそく、ハーレム要員の定型文をおさらいよ!!」
「は~い。」
今日も今日とて、へんてこなハーレム講師に成り下がる王女と、彼女のアホらしすぎる講義を健気に受けるクロ。
2人のハーレム要員としての迷走っぷりは留まる所を知らないわね。
「クロ、ちゃ~んと覚えてる?」
「えとえと・・・。
『さ』:『さすが○○様~』
『し』:『しらなかった~』
『す』:『すご~い』
『せ』:『センスある~』
『そ』:『そ~なんですね~』
・・・だっけ?」
「はい、よく出来ました~。」
クロはお子様だからか、単純な暗記力は割と良いのよね。
暗記する知識が果てしなくおかしい気はするけど。
「で、王女。
そのハーレム要員の定型文とやらを使うと、なんで転移勇者は喜ぶの?」
なんとなく気になって、聞いてみる。
「・・・そうね。
『さ』は転移勇者様凄い、って持ち上げる事で、自尊心をくすぐれるでしょ?
『し』は転移勇者様賢い、っておだてる事で、自尊心をくすぐれるでしょ?
『す』は転移勇者様凄い、って持ち上げる事で、自尊心をくすぐれるでしょ?
『せ』は転移勇者様凄い、って持ち上げる事で、自尊心をくすぐれるでしょ?
『そ』は転移勇者様賢い、っておだてる事で、自尊心をくすぐれ・・・。」
「どんだけ自尊心をくすぐりたいのよ!!??」
しかも言葉の役割、ダブりまくってるじゃない!!
「ほら、まあ・・・。
自尊心をくすぐると、優越感に浸れるじゃない?
例の本にも、転移勇者は優越感に浸りたくて仕方のない生物だって・・・。」
「それにしたって、極端すぎるでしょ!!
転移勇者は優越感に浸る事しか頭に無いの!?」
「?~。」
確かに人間、多かれ少なかれ、優越感に浸りたいって気持ちはあるでしょう。
・・・けどだからって、そういう事しか頭に無いって決めつけるのも如何なものかと。
ってか例の本の筆者は、転移勇者とそのハーレムをバカの極みとでも思ってたのかしら?
「優越感に浸るのも大好きなんだけど・・・。
例の本には、転移勇者達が真に求めているものは、金・暴力・SEXの3つなんですって。
だとしてもハーレム要員なら喜んで心酔するように、とも書かれていたわ。」
「例の本の筆者は転移勇者を悪党に仕立て上げたいの?
彼らに肉親でも殺されたの!?」
「え~っと・・・。
まあ本当に転移勇者がそんな人達なら、上手くやっていけるか、不安ね。」
どうしてそこまで転移勇者を貶したいのかしら?
ちなみに王女の話す例の本ってのは『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』の事よ。
タイトルからして、誰向けに書いたのか理解不明ね。
前々から内容がおかしいと思ってたけど、聞けば聞くほど増々おかしく思えるわ。
・・・一応、元転移勇者のジークは『金・暴力・SEX』を体現したような奴だったからさ。
一概に完全否定も出来ないけど。
とは言え、彼がああなったのは寂しさ、悲しさの裏返しでもあるからね。
勇者召喚するようなクズ共さえいなければ、あれほどの外道には堕ちなかったはずよ。
あと根本的な話・・・。
「あのさぁ、王女。
本当に例の本に書いてある事、ぜ~んぶ正しいって思ってるの?
テンイの事、金・暴力・SEXしか頭に無い畜生だと思ってるの??」
「・・・・・・・・・・・・。
う、う~~~~ん・・・。
ひょっとして例の本の内容、意外と間違いも多いのかしら?」
ひょっとしなくても、間違いや偏見だらけだって。
けどまあ、いくら例の本の信者である王女でも、そこまでテンイを悪しき様には見てないようね。
「そもそもテンイって、お金からしてそんなに執着してないでしょ?」
「・・・ま、まあ、生活費程度は求めてるはずよ。」
いやいや・・・。
「そんなの人間なら当たり前でしょ~が!!」
「確かにそうだけどね。
生きていく上で必要なお金を求める事さえ強欲だ~~~~!!
な~んて言い出す人間は、頭や性格が腐ってると思うわ。」
辛辣だけど私も同感ね。
苦しみながら死ねって言ってるのと変わらないし。
「暴力は・・・・・・どうなのかしら?
勇者って力を暴走させる事は多いけど、決して乱暴な性格ではないと思うわ。
・・・けどね、う~~~~ん・・・。」
「あ~~~~・・・。
もしかして、ちょっと引っ掛かってるの?」
「・・・うん。
いえ、罪も無い人を暴力で苦しめようとか、そんな事は望んでないはずよ。
ただなんて言えば良いか、上手く表現出来ないんだけど・・・。」
王女の引っ掛かりは何となく理解出来る。
表面上、テンイはチンピラにさえビビる臆病者だし、普段の性格もどちらかと言えば温厚よ。
でもね。彼、剣を振るう時、凄く生き生きとした表情になるの。
テンイに惚れ込んでいない私でさえ、格好良く感じちゃう程に。
そしてそれ以上に、肝心な場面では危険な戦闘にも躊躇いなく挑む精神性。
実はテンイは、戦いを・・・・・・・・・・・・。
・・・って、それもよくよく考えたらさぁ。
「とは言っても、異常者って程じゃないわ。
思春期の男の子にはよくある話だもの。」
「・・・難しいわね。」
まっ、その辺は彼の望みがはっきりしてから考えましょう。
あとは・・・。
「SEXは・・・うん。
否定できないわね。」
「否定できないわね。」
テンイは絶対、性欲が強いタイプだと思う。
こ~んな綺麗な女の子を3人も連れ歩いてる時点で、ね。
私や王女をエッチな目で見たり、どさくさ紛れに抱き着いて来る事もそれなりに多い。
別にあれくらいなら全然構わないんだけどさ。
そもそもその程度の事さえ嫌がっているようじゃ、伴侶になんてなれるはずもないし。
「?~。
よくわかんな~い。」
あらま!!
クロの事、すっかり置いてけぼりにしてたわ。
「あっ!?
ごめんね、クロ。
つい話が脱線しちゃって・・・。」
「ま~、どうしてもハーレム要員目指したいなら、止めはしないけどさ。
あんまり例の本を鵜呑みにするのは、ど~かと思うわよ。」
むしろ例の本に書かれている事を忠実に実践したら、テンイがジークのようになっちゃいそうで不安だわ。
「で、でも私・・・。
例の本が無いと勇者とどう向き合えば良いかわからないの。」
「普通に接すればい~じゃない。
普通に接すれば。」
「・・・いや、だってさ。
私は勇者と普通に接して良い立場じゃないから・・・。」
ま~たいつものあれね。
王女はテンイを誘拐したのが自分の父親だったせいで、彼に対して相当後ろめたい感情を抱いているの。
別に彼女自身はクソ王の悪事に加担してないんだし、実は罪悪感を抱く必要すらないんだけど。
とは言え、ど~してもそう割り切れないよ~でさぁ。
あの様子じゃクロに話した通り、父親から呪いを掛けられてるも同じね。
「まあ、そんなに割り切れないなら、好きにすれば?
その、ハーレム要員の定型文だっけ。
あれくらいなら使っても平気でしょ。」
テンイはあれほど実力がずば抜けている割に自信なさげだし・・・。
たまには優越感に浸らせるのも良いでしょ。
「そうよね・・・そうよね!!」
そんなにがっつかなくても。
やれやれ。
「そうと決まればクロ。
明日からさっそく、ハーレム要員の定型文を使っていくわよ!!」
「明日から!?
・・・どうしよう。
『さすがご主人様~♪』って言うタイミング、よくわかんない・・・。」
そ~いや少し前、傷口に塩を塗るような形で『さすがご主人様~♪』って、言っちゃったんだっけ。
クロったら。
「あ~・・・・・・。
『さすが○○様』に関しては、私の後で言うようにしなさい。
そうすれば問題ないはずだから。」
王女も大概、褒めるのが下手くそだけどね。
「うん!!
わかった~♪」
本音で言えば、例の本の内容通りにテンイと接するのは良くないと思うわ。
けど、私はそれほど心配していない。
「任せなさい!!
私だって常日頃、立派なハーレム要員として振舞えるよう、勉強を重ねているもの。
先輩としてクロをきちんと導いてあげるわ♪」
ど~せ王女とクロが上手にハーレム要員演じるなんて、無理に決まっているのだから。




