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第53話 定型文編① 良いハーレム要員

Side ~聖女~


私は旅の聖女、エミリー。

転移勇者テンイと共に魔王討伐・・・なんて目指さず、気ままに旅を続けている。


気ままと言っても、危険な目に合ってばかりだけどね。

昨日だって山賊との争いの末、私の命どころか世界が滅亡しそうになったし。


だけどそんな大事件もギリギリ乗り切り、今は町の宿屋でまったりしているわ。



********



「『ボム』はね。

 モンスターをボカーンってしちゃう魔法よ。

 ゴブリンくらいなら一発でやっつけちゃうの。」


「わぁああああ、すご~い!!

 今度、ご主人様に頼んで見せてもらおっと。」


「うふふ、ダメよ。

 モンスターごと私達もボカーンってなるもの。」


宿の一室で旅仲間の一人、デルマが魔法について語っている。

彼女はジャクショウ国の第4王女で、凄く見目麗しいお姫様よ。

私も容姿に自信はあるけど、それでもあの子に勝っているかはわからない。


「え~・・・。」


「勇者の力は見世物じゃないのよ?

 魔法が見たいなら、いつか私が見せてあげるから。」


「ほんと?

 やったぁ!!」


そして王女から魔法を学んでいるのは黒猫族の少女、クロ。

元奴隷だけど、かなり可愛い女の子よ。

ヒドラに襲われていたものの、テンイに助けられ以降、私達の旅に付いて来ている。


「さてと。

 魔法のお勉強はこんなものかしらね。

 次はハーレムのお勉強よ。」


「・・・・・・。」


クロは元奴隷で勉強不足だから、空いた時間があれば、王女が様々な事を教えているの。

・・・それは良いんだけど、どうも王女はテンイのためにクロをハーレム要員にしたいようでね。

8歳児相手にハーレムのお勉強をさせているわ。


さすがにエッチな教育は自重してるようだけど。

それでもお子様にそんな教育を施すのは如何なものかしら?





「・・・・・・。

 あたし、ハーレムのお勉強。

 したくない・・・。」


「ええっ!??」





あらら?

クロ、とうとう・・・。


「とうとうハーレムのお勉強がアホらしくなったのね。」


「ちょっと、聖女!?

 アホらしくなったって、どういう意味よ!!」


「・・・そのままの意味だけど。」


「うっ!?」


私の返答に言い淀むって事は彼女自身、アホらしく思っているのかもしれない。

王女はね。

『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』って本から学んだ知識をクロに教えているの。


でもあの本って『ナデポ』だの『ハーレム要員の定型文』だの、変な事ばかり書かれているようでね。

他にも『奴隷少女はハーレム要員として、最高級の逸材』みたいな謎理論とかさ・・・。


一応、異世界人の特徴を知れるって意味では貴重な書物なんだけどさぁ。

どこまで信用して良いのやら・・・。


「そ、そう言えば、どうして聖女はハーレム要員らしく振る舞おうとしないの?

 別に無理強いする気はないけどさ。

 あなた、勇者に好かれたいんでしょ?」


王女の言う通り、私は桁外れの力を秘めている勇者に好かれたい。

そしてゆくゆくは彼の伴侶となってね。

金も地位も・・・なにより私自身の運命をも勝ち取りたいの!!


けどねぇ。


「あんた達見てると、素で接した方がマシに感じるのよ!!」


「そ・・・そんなouz」


ハーレム要員として振舞う・・・言い換えるなら、男に媚びへつらいながら生きると言う事。

しかし上手に媚びるのは意外と難しく、失敗すると逆に信用を失ってしまう。


でも王女やクロの場合、あまりにハーレムぶるのが下手過ぎて、媚びる・媚びない以前の問題と言うか・・・。

ある意味、不幸中の幸いかもね。


「クロ。その・・・。

 もしかしてハーレムのお勉強、アホらしくなったの?」


王女ったら、随分不安そうに尋ねちゃって。

大体ハーレムのお勉強なんてする暇あるなら、絵本でも読み聞かせた方が有意義でしょうに。


しかし王女の問いに対し、クロは首を横に振る。


「ううん、違うの。

 ハーレム要員になんか、ならない方が良いかもって。

 そう思って・・・。」


「そうね。

 確かにそんなもん、自分からなりたがる方がおかしいわよね。」


不可抗力ならともかくさぁ。

自らハーレム要員になりたがる女なんて、どう考えても普通じゃない。


「ちょっと聖女、黙ってて!!

 ・・・クロ。

 どうしてそんな風に思うの?」


「ジークのハーレム達見て、思ったの。

 いくらジークが悪い山賊だったとしてもさ。

 あの人達、酷すぎるって!!」


あ~・・・。


「もし立派なハーレム要員になったら、あの人達のようになっちゃうのかなって。

 ご主人様を裏切って、悲しませちゃうのかなって・・・。

 だったらあたし、ハーレム要員になんてなりたくない!!」

 

なるほどねぇ。


ジークはテンイと同じく、異世界からやって来た転移勇者なんだけど、グレて山賊になってしまった。

それでも彼にはたくさんのハーレムがいたわ。

テンイに負けた瞬間、あっさり裏切られたけどね。


そのせいでジーク、暴走しちゃって世界を滅ぼし掛けたんだから。


「あなたの言いたい事はわかったわ。

 でもね。

 クロ、誤解しちゃダメよ。」


「えっ!?」


「彼女達はハーレム要員として、恵まれた才能を持っていたわ。

 けれど彼女達はその力に溺れ、私欲の限りを尽くしてしまった・・・。」


端的に言えば、彼女達は男を騙して甘い汁を吸うのが上手かったの。


「彼女達はね、悪いハーレム要員なのよ!!」


「悪い、ハーレム要員・・・。」


「いや・・・あの、悪いハーレム要員て。

 確かに悪女丸出しだったけどさ。」


私は綺麗な理由でハーレム要員になりたがる女なんて、極一部の例外を除き、いないと思ってるわ。

愛を求めて、ってケースもほぼほぼ無いでしょう。

大勢の女に好かれる男はいても、大勢の女と付き合って受け入れられる男なんてさ。

お金で結ばれているパターンを除くと、絶滅危惧種に近いもの。


そういう意味ではジークのハーレム達は、至極スタンダートなハーレム要員だったのかもね。

・・・それでもあの子達は薄情過ぎると思うけど。



「クロ、あなたの言う通りよ。

 私達はあんな人達を目指しちゃダメ。

 勇者を幸せにする、良いハーレム要員になりましょう!!」


「良いハーレム要員・・・。

 うん!!

 わかった~♪」


「・・・良いハーレム要員、ねぇ。」


ああ見えて彼女達・・・特にクロは純粋にテンイの幸せを願い、ハーレム要員を目指しているわ。

立派なハーレム要員になれば、自分を救ってくれたテンイが、元の世界に帰れず悲しい思いをしているテンイが、笑顔でいられると信じて。


そこだけ切り取れば、本当に美しい話なんだけどね。

そこだけ切り取れば。


だって、肝心の中身がさ・・・。





「じゃあさっそく、ハーレム要員の定型文をおさらいよ!!」





・・・これだもの。


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