第53話 定型文編① 良いハーレム要員
Side ~聖女~
私は旅の聖女、エミリー。
転移勇者テンイと共に魔王討伐・・・なんて目指さず、気ままに旅を続けている。
気ままと言っても、危険な目に合ってばかりだけどね。
昨日だって山賊との争いの末、私の命どころか世界が滅亡しそうになったし。
だけどそんな大事件もギリギリ乗り切り、今は町の宿屋でまったりしているわ。
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「『ボム』はね。
モンスターをボカーンってしちゃう魔法よ。
ゴブリンくらいなら一発でやっつけちゃうの。」
「わぁああああ、すご~い!!
今度、ご主人様に頼んで見せてもらおっと。」
「うふふ、ダメよ。
モンスターごと私達もボカーンってなるもの。」
宿の一室で旅仲間の一人、デルマが魔法について語っている。
彼女はジャクショウ国の第4王女で、凄く見目麗しいお姫様よ。
私も容姿に自信はあるけど、それでもあの子に勝っているかはわからない。
「え~・・・。」
「勇者の力は見世物じゃないのよ?
魔法が見たいなら、いつか私が見せてあげるから。」
「ほんと?
やったぁ!!」
そして王女から魔法を学んでいるのは黒猫族の少女、クロ。
元奴隷だけど、かなり可愛い女の子よ。
ヒドラに襲われていたものの、テンイに助けられ以降、私達の旅に付いて来ている。
「さてと。
魔法のお勉強はこんなものかしらね。
次はハーレムのお勉強よ。」
「・・・・・・。」
クロは元奴隷で勉強不足だから、空いた時間があれば、王女が様々な事を教えているの。
・・・それは良いんだけど、どうも王女はテンイのためにクロをハーレム要員にしたいようでね。
8歳児相手にハーレムのお勉強をさせているわ。
さすがにエッチな教育は自重してるようだけど。
それでもお子様にそんな教育を施すのは如何なものかしら?
「・・・・・・。
あたし、ハーレムのお勉強。
したくない・・・。」
「ええっ!??」
あらら?
クロ、とうとう・・・。
「とうとうハーレムのお勉強がアホらしくなったのね。」
「ちょっと、聖女!?
アホらしくなったって、どういう意味よ!!」
「・・・そのままの意味だけど。」
「うっ!?」
私の返答に言い淀むって事は彼女自身、アホらしく思っているのかもしれない。
王女はね。
『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』って本から学んだ知識をクロに教えているの。
でもあの本って『ナデポ』だの『ハーレム要員の定型文』だの、変な事ばかり書かれているようでね。
他にも『奴隷少女はハーレム要員として、最高級の逸材』みたいな謎理論とかさ・・・。
一応、異世界人の特徴を知れるって意味では貴重な書物なんだけどさぁ。
どこまで信用して良いのやら・・・。
「そ、そう言えば、どうして聖女はハーレム要員らしく振る舞おうとしないの?
別に無理強いする気はないけどさ。
あなた、勇者に好かれたいんでしょ?」
王女の言う通り、私は桁外れの力を秘めている勇者に好かれたい。
そしてゆくゆくは彼の伴侶となってね。
金も地位も・・・なにより私自身の運命をも勝ち取りたいの!!
けどねぇ。
「あんた達見てると、素で接した方がマシに感じるのよ!!」
「そ・・・そんなouz」
ハーレム要員として振舞う・・・言い換えるなら、男に媚びへつらいながら生きると言う事。
しかし上手に媚びるのは意外と難しく、失敗すると逆に信用を失ってしまう。
でも王女やクロの場合、あまりにハーレムぶるのが下手過ぎて、媚びる・媚びない以前の問題と言うか・・・。
ある意味、不幸中の幸いかもね。
「クロ。その・・・。
もしかしてハーレムのお勉強、アホらしくなったの?」
王女ったら、随分不安そうに尋ねちゃって。
大体ハーレムのお勉強なんてする暇あるなら、絵本でも読み聞かせた方が有意義でしょうに。
しかし王女の問いに対し、クロは首を横に振る。
「ううん、違うの。
ハーレム要員になんか、ならない方が良いかもって。
そう思って・・・。」
「そうね。
確かにそんなもん、自分からなりたがる方がおかしいわよね。」
不可抗力ならともかくさぁ。
自らハーレム要員になりたがる女なんて、どう考えても普通じゃない。
「ちょっと聖女、黙ってて!!
・・・クロ。
どうしてそんな風に思うの?」
「ジークのハーレム達見て、思ったの。
いくらジークが悪い山賊だったとしてもさ。
あの人達、酷すぎるって!!」
あ~・・・。
「もし立派なハーレム要員になったら、あの人達のようになっちゃうのかなって。
ご主人様を裏切って、悲しませちゃうのかなって・・・。
だったらあたし、ハーレム要員になんてなりたくない!!」
なるほどねぇ。
ジークはテンイと同じく、異世界からやって来た転移勇者なんだけど、グレて山賊になってしまった。
それでも彼にはたくさんのハーレムがいたわ。
テンイに負けた瞬間、あっさり裏切られたけどね。
そのせいでジーク、暴走しちゃって世界を滅ぼし掛けたんだから。
「あなたの言いたい事はわかったわ。
でもね。
クロ、誤解しちゃダメよ。」
「えっ!?」
「彼女達はハーレム要員として、恵まれた才能を持っていたわ。
けれど彼女達はその力に溺れ、私欲の限りを尽くしてしまった・・・。」
端的に言えば、彼女達は男を騙して甘い汁を吸うのが上手かったの。
「彼女達はね、悪いハーレム要員なのよ!!」
「悪い、ハーレム要員・・・。」
「いや・・・あの、悪いハーレム要員て。
確かに悪女丸出しだったけどさ。」
私は綺麗な理由でハーレム要員になりたがる女なんて、極一部の例外を除き、いないと思ってるわ。
愛を求めて、ってケースもほぼほぼ無いでしょう。
大勢の女に好かれる男はいても、大勢の女と付き合って受け入れられる男なんてさ。
お金で結ばれているパターンを除くと、絶滅危惧種に近いもの。
そういう意味ではジークのハーレム達は、至極スタンダートなハーレム要員だったのかもね。
・・・それでもあの子達は薄情過ぎると思うけど。
「クロ、あなたの言う通りよ。
私達はあんな人達を目指しちゃダメ。
勇者を幸せにする、良いハーレム要員になりましょう!!」
「良いハーレム要員・・・。
うん!!
わかった~♪」
「・・・良いハーレム要員、ねぇ。」
ああ見えて彼女達・・・特にクロは純粋にテンイの幸せを願い、ハーレム要員を目指しているわ。
立派なハーレム要員になれば、自分を救ってくれたテンイが、元の世界に帰れず悲しい思いをしているテンイが、笑顔でいられると信じて。
そこだけ切り取れば、本当に美しい話なんだけどね。
そこだけ切り取れば。
だって、肝心の中身がさ・・・。
「じゃあさっそく、ハーレム要員の定型文をおさらいよ!!」
・・・これだもの。




