第50話 偽りのハーレム編⑫ 最凶の自爆魔法
「きゃああああああああ!!!!!!!!」
山賊のお頭ジークは勇者に敗北し、自分のハーレム全員に裏切られてしまった・・・。
憎しみのあまり、彼は元ハーレムを次々と惨殺する。
・・・そして。
「逃げても、止めようとしても無駄だ。
・・・俺はもう決めたんだ。
こんな腐った世界、ぶっ壊してやるって。
だから一緒に死んでくれ・・・。」
「やだぁーーーー!!!!
離して、逃がして・・・。」
元ハーレムの最後の一人を抱えながら、ジークが叫ぶ。
その後、彼の体からはち切れんばかりの光が放出された!!
この輝きは・・・まさか!?
「自爆魔法!?」
「えっ・・・あ、本当だ。
あの輝きは確かに自爆魔法の前触れ・・・。
ってジークってば、自爆する気なの!?」
「ま、まぶしいっ!!」
「・・・嘘だろ。
ジークは自爆してでも、この世界を破壊したいのか!?」
それほどまでにジークの絶望は深いの!?
「させないわ。
フォース・バリア!!」
聖女がジークに向かって防御魔法を放つ?
?・・・。
あっ、なるほど!!
「エミリー!?
どうしてジークへ防御魔法を・・・?」
「それはですね。
自爆によるエネルギーをバリアの中で抑えるためですわ。」
「なるほど!!
凄いや、エミリー。」
・・・しかし。
「くくく・・・。
あ~はっはっは!!」
パリンっ。
彼女お得意の防御魔法がガラス細工の如く、あっさりと壊されてしまう!!
「そんなっ?
ジークの魔法はまだ発動すらしていないのよ!!
魔法発動前の余波だけで、ランク4の防御魔法を打ち破ったとでも言うの!?」
「エミリー・・・いくらお前が聖女だとしてもなぁ。
ランク5の自爆魔法を防げると思うなよ?
俺の自爆は神々の自爆と同等のパワーだぜ??」
ランク5の自爆魔法・・・ですって!?
そん、な。
「・・・ねえ、王女。
いくら俺のチート能力がヤバくても、さ。
防御魔法なら大丈夫だよね?」
へっ?
どうしたのよ??
こんな時に・・・。
「・・・は、はい。
そのはずですけど。」
勇者には魔法・スキルの威力を数十倍、数百倍に引き上げるチート能力があるの。
けれど今までの様子を見る限り、魔法・スキルの性質そのものは変わらなかったわ。
だから防御魔法で周りが破壊されるとか、そういった事態にはならないはずよ。
「それでもランク2以上の魔法は怖くて使えないけど、さ。
そもそも使えないだろうし。
けど、ランク1の魔法でも俺なら・・・。」
勇者が何かを呟いているけど、今の私にはその呟きをきちんと聞く余裕が無かった。
だって今、正にランク5の自爆魔法が使われようとしているんだもの。
「ぎゃああああああああ!!!!!!!!」
彼の自爆魔法の余波をもろに受け、元ハーレムの最後の一人が苦しみの余り、喚き散らす。
だけどジークはそんな悲鳴など気にも留めず、とうとう魔法を発動させた!!
「皆、死んでしまえーーーー!!
フィフス・セルフ・ディストラクトーーーーーーーー!!!!」
・・・『フィフス・セルフ・ディストラクト』。
自らの命と引き換えに巨大な爆発を引き起こすランク5の自爆魔法・・・。
ジークの言う通り、破滅を願う神々が世界を壊す目的で使用する魔法なの。
・・・こんな魔法が使われてしまっては、もう。
「させない!!
バリア!!」
バリア!?
一瞬、聖女の魔法かと思ったけど、そうじゃないみたい。
勇者がジークに向けて放った防御魔法だわ!!
「・・・って、勇者様!?
いつの間に『バリア』なんて覚えたのです?」
「この前のゴブリン討伐の時にさ。
エミリーが使ってたじゃん?
それを思い出して、ね。」
確かに使ってたけど、だからってそんなあっさりと使えるようになるなんて。
正直、その辺のチート能力よりもヤバい特技よね。
一目で魔法・スキルのコツを掴むなんてさ。
「なっ!?」
ジークの自爆魔法が勇者の防御魔法に包まれ、抑え込まれる。
さっきの聖女のやり方を真似たのね。
しかしランク1の防御魔法ながら、その強度は聖女の『フォース・バリア』をも大きく上回る。
「ご主人様~~~~。
やったぁああああ!!!!」
「あ~ん、テンイ~。
私のアイアンティディー、取らないで~・・・。」
「こら、聖女!!
・・・気持ちはわかるけどさぁ。
今は助かった事を喜びなさいよ。」
本気で焦ったけど、勇者のおかげでジークの自爆はなんとか防げそうね。
本当に良かっ・・・。
「助かった?
・・・な~にを勘違いしてやがる??」
え?
「ぐっ・・・。
うっ・・・。」
ピシッ、ピシッ!!
・・・嘘でしょ?
勇者が張ったバリアに亀裂、が!?
「はぁ・・・はぁ・・・!!」
亀裂が走る度に勇者は魔力を込め、防御魔法の維持に務める。
でもかなり無理をしているのか、彼の息遣いは荒い。
そん、な。
だって勇者の魔法はランク1でもランク5以上のパワーを発揮するのよ!?
「なあ、テンイ。
お前、自分に自信が無かったのかぁ?
それとも、自分のチート能力にびびってたのかぁ??」
何の・・・話よ?
ジーク。
「・・・どっちにしろテンイ、お前は選択を誤った。
例えお前がデタラメなパワーの持ち主だったとしてもだ。
ランク1の防御魔法でランク5の自爆魔法を防げるはず、ね~だろ?
自爆魔法はな、己の命と引き換えに全てを破壊する魔法なんだ。
そんじょそこいらの攻撃魔法とは桁が違うんだよ!!」
あっ!?
確か自爆魔法の威力って、普通の攻撃魔法と比べて1ランク分の差があるって・・・。
「魔法をかけ直そうとしても無駄だぞ?
お前が一瞬でも防御魔法を解いた瞬間、俺の自爆魔法は世界を破壊する!!
テンイ。お前のような天才からすりゃ、俺なんて『カマセ』同然だ。
だがな、『カマセ』の自爆で無様にやられるヒーローだっているんだぜ?
あはははは、はーっはっはっはっ!!」
これ以上に強い防御魔法なんて使えないと思うけど、仮に使えたとしてもジークの言う通り、かけ直す余裕は無い。
だからと言って・・・。
「くそっ!!
このままじゃ・・・このままじゃ。」
勇者が苦しそうにしながらも、必死になって防御魔法を維持している。
このままじゃ、バリアが壊されるのも時間の問題よ。
「・・・そんな。
テンイの力でもあいつの自爆を防げないの?」
「ご主人様~・・・。」
それを薄々勘づいているのか、聖女やクロの表情が暗い。
もう、ダメだわ。
きっとジークの自爆は防げない。
そして勇者や私達はおろか、ジャクショウ国辺りまでならあっさりと巻き込まれ、数万・・・下手したら数十万もの命が失われるでしょう。
私、ここで死ぬのね。
そりゃ転移勇者と行動を共にしている時点で、いつ死ぬかわからない身だったけどさ。
それでも死が間近に迫っているのを実感すると、震えが止まらないわ。
間もなく勇者のバリアが打ち破られ、命尽きる・・・!!
「ぐっ・・・。
あきらめる・・・かぁ!!」
と思ったが、私達はまだ生きていた。
勇者が必死になって、ジークの自爆を食い止めていたから。
だけど彼の体力はかなり消耗しており、いつ倒れるかわかったものではない。
・・・それでも諦める事無く、彼はバリアを維持し続ける。
ど、どうして・・・。
「・・・随分と足掻くじゃねぇか、テンイ。
見直したぜ。
お前、顔とチート能力だけのヘタレかと思ったが、想像以上に根性あんだな。
だがな、無駄なんだよぉ!!
てめえの防御魔法より、俺の自爆魔法の方が強ぇんだからなぁ!!」
そうよ。
いくら足掻いてもあなたの『バリア』より、ジークの『フィフス・セルフ・ディストラクト』の方が強いの。
どんなに頑張っても、結果は同じなのよ。
なのに、どうして・・・!!
「ジーク!!
・・・お前がこの世界を憎む気持ち、痛いほどわかるよ。
でも!!
この世界には罪も無い人達もたくさんいるんだ。
この世界の誰もが救いようのない悪党ってわけじゃないんだ・・・。
だから・・・だから!!」
勇者。
・・・そうよ。
彼の言う通りよ。
このままだと何の罪も無い勇者が殺されてしまう。
罪も無い人を救おうと、必死に頑張っている勇者が・・・殺されてしまう!!
そんなのダメよ。
私は決めたんだから!!
必ず勇者を元の世界へ帰すんだって。
だから私だって最後まで諦めない・・・。
勇者を生かすため、足掻いてみせる!!
・・・と、決意したもののどうしましょう?
どうすればこの状況を打破出来るかしら??
彼の力になれる方法が一つでもあれば!!
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「まっ、攻撃以外の魔法は私に任せなさい。」
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そうだ!!
あの魔法があったわ!!
「聖女!!」
「な、何よ?」
「お願い!!
勇者を助けるために・・・。
あなたの力を貸して!!」
「ええっ!?
・・・まあ、テンイに力貸すのはい~けどさぁ。
私なんかが出しゃばった所でどうしようも・・・。」
いつになく意気消沈している聖女。
そりゃ勇者とジークの争いは次元が違いすぎるわ。
でもだからと言って、私達が無力なわけじゃない!!
「そんな事はないわ!!
聖女、あなたなら使えるはずでしょ・・・?
『ストロング・バリア』の魔法を!!」




