第46話 偽りのハーレム編⑧ 勇者と共に行く理由
山賊のお頭ジークはなんと元転移勇者!?
彼は気まぐれに手下を皆殺しにした後、私達三人に向かって・・・。
「よ~し、お前ら!!
そんな優男なんか見捨てて、今日から俺のハーレム要員になれ!!
そうすれば命だけは助けてやろう。」
な~んて言い出したの!!
「え~~~~!!??
ちょっと彼女達は俺の・・・。
・・・俺の何だろう?
と、とにかくそれは!!」
「うっせぇ!!
てめえには聞いてねえんだよ・・・。
死にたくなけりゃ、黙ってろ。」
「(#^ω^)ピキピキ。」
あ。
ジークの横暴な態度に、さすがの勇者も腹を立てたようね。
って、まずいわ!!
クロはともかく、聖女はもしかしたら寝返るかもしれない。
なんだかんだで聖女は黒いところがあっても、根っこはそんなに薄情じゃないと思う。
・・・思うけど、元々彼女は打算で勇者と行動を共にしていたのだから。
力は凄くとも頼りない勇者より、平然と悪事を行い、贅沢三昧させてくれそうなジークを選ぶかも・・・。
「な~にをふざけた事を。
あんたに付いて行くなんて、嫌に決まってるじゃない!!」
あら?
「・・・なんだと?
そんな優男の何が良いんだ!?」
めっちゃきっぱり断った!?
平気で手下を殺すような奴にそんな対応するなんて、やっぱ聖女って大物よね・・・。
「テンイがどうこう以前の問題よ!!
あんたからは醜い権力者と同じ匂いがするもの。
人を平気で使い捨ての道具として扱う、クズどもと同じ匂いがね。」
「貴様・・・!!
この俺がよりによって、あんな醜い生物と同類だと!?」
「当然!!
あんたに付いて行くなんて、死んでもごめんよ。
・・・それより私は普通に優しいテンイと一緒の方が良い~♪」
あ~・・・。
聖女って、過去に醜い権力者から散々な目に合わされたんだっけ?
なら、嫌がって当然かぁ。
「あはは・・・。
ありがとう、エミリー。」
呆れながらも、少し嬉しそうに呟く勇者。
「ちっ!!
これだから脳みそ空っぽの女は・・・。」
平気で仲間を焼き殺すような奴に寝返るのって、賢い選択かしら?
「おいっ、そこの黒猫族のガキ!!
・・・お前はどうなんだ?
俺の仲間になったら、あんな奴の傍にいるよりず~っと良い暮らしをさせてやるぞ。」
「い・・・嫌!!
あたし、ご主人様と離れたくない。
だってご主人様はあたしにとって、命の恩人だから!!」
そしてクロは予想通り、ジークの誘いをきっぱりと断った。
ま~、ただでさえ山賊を忌み嫌っているのに、恩人である勇者を裏切るはずない、か。
「命の恩人・・・?
このガキ、元奴隷かなんかかぁ!?」
「・・・ええ、そうよ。」
「へ~え・・・。
テンイ。
お前、奴隷のガキを格好良く救って、心酔させたのかぁ?
所詮、奴隷なんて頭の悪いチョロインだからよ~。
ちょっと優しくしただけで、す~ぐ妄信しやがる。
ひゃはは。善人ぶって幼女を洗脳とか、ガチクズすぎ~。」
ジーク。
あんた、いくらなんでも悪しき様に解釈しすぎでしょ?
「?・・・。
お話、難しくてわかんないけどあたし、ご主人様と一緒にいるの!!
・・・あたしもご主人様もお家には帰れない。
だけど一緒なら、皆、一緒なら大丈夫だから!!」
「クロ・・・。」
クロの言葉に勇者は目を潤ませながら感動する。
「・・・なんだよ?
この異世界はあんな優男にばっか甘々なのかよ!?
クソが!!」
にしてもなんでジークがクロの話に苛立つのかしら?
聖女みたいにdisられたわけでもないのに・・・。
「じゃあ、そこにいるお前!!
王女とか呼ばれてるてめぇだ。
名はなんて言う!?」
「名前?
えっと、デルマよ。」
「ほ~う・・・。
おい、デルマ!!
お前は他の二人に比べると、利口そうだ。
ならあんな優男じゃなく、俺に付いてく方が良い事くらい、わかってるよなぁ!?」
・・・えっとね。
誰に何と言われようが、私の返事は変わらないわ。
「私が尽くすべき相手はテンイ様よ。
悪いけどジーク、あなたじゃないの・・・。」
「なんだぁ?
お前もそこの黒猫みたいに、テンイを心酔してやがんのかぁ??
本気でテンイが『勇者』で、俺が『カマセ』だって思ってんのかぁ!?
ひゃはは、それこそお前の勝手な思い込みだ。
俺が『勇者』で、テンイが『カマセ』に決まってんだろうがぁ!!
そんな事も理解出来ねえのかよ!?」
テンイが本物の『勇者』かはさておき、ジークが『勇者』だってのは絶対にありえないわ。
罪も無い人を攫い、手下をゴミのように処分する人間はいくら強くとも『勇者』じゃない!!
・・・だけどそれ以前にね。
「ジーク。
仮にあなたが『勇者』で、テンイ様が『カマセ』だとしても・・・。
私が尽くすべき相手はテンイ様、ただ一人なの。」
「お・・・おう、じょ!?」
熱にやられたわけでもないのに、顔を真っ赤にする勇者。
「・・・デルマ、お前。
もしかしてテンイにべた惚れなのかぁ!?
顔だけは良いからな、こいつ。」
べた惚れって。
あのね。
「違うわよ。」
「(´;ω;`)」
「いやいや、王女・・・。
そんな淡々と否定したら、テンイが可哀そうじゃない。」
「・・・ああ。
ツンデレですらないとか。
さすがの俺もその態度は予想外だわ~・・・。」
聖女どころか、ジークでさえ、勇者を気の毒そうに見ているわ。
可哀そうなはずないのにね。
「じゃあなんで、テンイに尽くそうとすんだ!?」
「それはね。
テンイ様をこの世界に誘拐したのが私の父だからよ。
私の父のせいでテンイ様は故郷へ帰れずにいる。
・・・そして悲しい思いをしているから。」
そう。
平和に暮らしていた勇者の運命を狂わせたのは、ジャクショウ国の王である私の父よ。
勇者を誘拐した男の娘である私が、勇者に惚れました~なんて、厚顔無恥すぎるわ!!
・・・まあ、惚れてないってのも本音だけどね。
嫌いではないけど。
「ははぁ、読めたぞ。
テンイ。デルマがてめぇに忠誠誓ってんのは、あいつの父親殺して脅したからだろ。
恐怖と罪悪感で女を縛るとか、優男の振りしてサイコパスすぎ~♪」
それでも恐怖と罪悪感から彼に従っているのは、あながち間違いでもない。
だけどジークは一つ勘違いをしてるわ。
「ジーク。
俺は王女の父親を殺してなんかいない。
危うく死なせる所だったけど、聖女と・・・王女のおかげで殺さずに済んだんだ。」
「なん・・・だと?」
「彼女達がいてくれたから、俺は殺人という大罪を犯さず済んだ。
・・・感謝してもしきれない。」
勇者・・・。
あなた、何を誤解しているの?
「勇者様、勘違いしてはいけません。
確かに聖女には感謝すべきでしょう。
けれど、私に感謝するのは間違っています!!
・・・元はと言えば、私がもっとしっかりしていれば。
あなたはこの世界へやって来なかったのですから。」
私は一貫して、勇者召喚に否定的だった。
でも結局、止められなかった。
もっと、私が・・・・・・いえ、後悔しても遅いわ。
「王女!!」
「!??」
内心、落ち込んでいる私に向かって、勇者が大声を掛ける。
び、びっくりしたぁ。
「ねえ、王女。
君が何を考えて俺の傍にいるか、知ってるよ。
・・・でもね。
もうそろそろ、俺を受け入れて欲しいんだ。」
「えっ!?」
勇者は一体、何を言っているの!?
私があなたを受け入れられないんじゃない。
あなたが私を受け入れられないのよ。
もちろんそれは状況から考えれば当たり前。
あなたは何一つ悪くない。
悪いのはあなたを強引に誘拐した私達、ジャクショウ国の王族なんだもの!!
「勇者様・・・。
あの、その。」
「・・・王女。」
そう返そうとするも、勇者の真意な眼差しに口を噤んでしまった。
理由はわからないけど、それを告げるとどんな罵倒よりも彼を傷付ける気がして・・・。
「・・・いちゃいちゃしてんじゃねえぞ。
てめえら!!」
あっ!?
ジークの事、すっかり忘れてたわ。
「ちょ!?
べべべ、別にいちゃいちゃなんて・・・。」
「なあ、テンイ。
俺はず~っと、この世界で寂しい思いをしてんだぜ?
・・・なのに、お前だけずるすぎるだろ!!
そんなに理解者に囲まれて・・・。」
ずるいのかしら?
テンイもジークも置かれている立場は一緒でしょ。
でも決定的に違う所がある。
テンイは失敗しながらも真っ当に生きようと頑張っている。
だけどジーク、あなたは悪逆の限りを尽くし、罪も無い人さえ傷付けている。
そんなあなたにテンイを責める資格なんてないわ!!
「まっ、いっか・・・。
テンイ。お前も、俺に従わないお前のハーレムもみ~んな、ぶっ殺してやんよ!!
・・・覚悟しやがれ。」
けれど怒り狂うジークはそんな事にすら気付かない。
恐るべき力を持つ異世界人が今、私達に襲い掛かろうとしていた!!




