第45話 偽りのハーレム編⑦ 山賊のお頭ジーク
勇者や聖女の活躍により、山賊のアジトを見つけられた!!
これで奴らに攫われた人々を助け出せる。
・・・と、思ったのも束の間。
助け出す前に山賊のお頭と遭遇してしまったの。
でも。
「あの子供が・・・山賊のお頭?」
子供と言っても、年齢は私や勇者と同じくらいだと思うわ。
整った顔立ちだけど、茶髪で目付きが悪く、山賊のお頭と言うより不良少年みたい。
そして、そんなお頭の周りには10人もの美少女が佇んでいた。
「子供だからって、侮っちゃダメよ。
テンイ、王女。
あいつ・・・出来る!!」
聖女がいつになく真剣な目で忠告するも、言われるまでもないわ。
「ええ、もちろんよ。
彼の周りにいる女の子達・・・。」
「・・・あの女の子達?
はっきり言って、あんまり強そうに見えないけど。
あなた一人でも余裕で勝てるんじゃない?」
虚を突かれたように語る聖女だけど、私が『出来る』と感じたのは強いと思ったからじゃない。
女の子達の何人かは、山賊のお頭へ体を密着させつつ、心酔しきった眼差しで彼を見つめている。
他の子も彼がいれば恐れるものは何一つない!!
と、言わんばかりの自信の満ちた態度ね。
あれが。
あれこそが・・・。
私やクロの理想とする姿!!
「単純な強さじゃないわ。
あの女の子達、私達とはハーレム要員としての格が・・・違い過ぎる!!」
「そこぉ!??
どうでも良いでしょうが、んなしょ~もない事!!
あんた、バカでしょ?
やっぱバカなんでしょ!?」
急に喚き出す聖女だけど、どうしてあの女の子達の実力がわからないの?
「くっ、確かに!?
容姿だけなら王女達も全然負けてない、だけどそれ以外の振る舞いに差がありすぎる。
・・・なんて羨ましいんだ!!」
「テンイまで!?
あのねぇ、あなた達。
少しくらい緊張感、持ちなさいよ!!」
「?~。」
思わぬ伏兵に私達は混乱を隠せない。
「ほ~う。
お前らがこの俺に歯向かう、身の程知らずな冒険者かぁ!?
ひゃはは、なんて弱そうなんだ!!」
「失礼だな!!
そういう君は・・・???
・・・日本の高校生?」
『高校生』って。
例の本によると、あっちの世界では勇者くらいの年齢の子は大抵『高校生』と呼ばれてるようね。
だからって彼に『高校生』なんて言っても、意味が通じるわけ・・・。
「日本・・・。
高校生!?
それにその見た目、お前、まさか日本人か!??」
って、通じてるの!?
まさかこの子!!
「そうだけど・・・。
!!!!
そういう君も、もしかして日本人!?」
「ああ、そうだ。
この異世界に巣食うクズどもに、勇者として召喚された日本人だ!!」
どこかで聞いたような話だけど、彼も勇者召喚された日本人だったなんて。
とは言え、彼のように悪事を繰り返す連中を転移『勇者』とは呼ばない。
「・・・なるほど。
彼は堕ちた転移勇者『カマセ』だったのね!!」
そう。
彼のように力に溺れ、悪事を繰り返す転移勇者を『カマセ』と呼ぶらしいの。
だけど大抵の場合、より強い力を持つ者に潰され、命を落とすそうよ。
一見すると、まるで三流悪役のようだけど・・・。
「ふざけんな!!
なにが『カマセ』だ、ゴルァ!!」
「あのね、王女。
いくら相手が悪党だからって、貶しすぎだって!!」
お頭だけじゃなく、何故か勇者まで私を批難してるけど、勘違いしちゃダメ!!
「貶してなどいません、勇者様!!
『カマセ』はより強き者に制裁を加えられるまでの間、数多の人々に災厄をもたらす、極めて危険な存在です。」
「え・・・う、うん?
そういう言い方をされると凄く怖い、のかな?」
だって端的に言えば、ドラゴンやヒドラよりも強い『人間』が悪行の限りを尽くすわけだから。
『カマセ』による被害は、並の魔物や悪党なんて足元にも及ばないほど大きい。
「勇者様、だと?
なるほど、お前も転移勇者だったのか。
そりゃ山賊如きじゃ歯が立たんわけだ。」
「如きだと?
・・・ムグ!!」
「ダメです、あいつに逆らっては・・・。
殺されてしまう!!」
あの様子からすると、山賊は『カマセ』の力に屈服し、配下になってたようね。
同情はしないけど。
「はい、ジーク様。
あの金髪のガキ、見た目によらず信じられない力を持ってるんっすよ!!
頼んます、あなた様のお力であいつをぶっ殺してください。」
「しかも、あいつら。
お頭がとっ捕まえた奴隷を解放しろ~、な~んて言うんです。」
山賊が『カマセ』もとい、ジークに媚びへつらう。
「言われなくても、俺の所有物に手を出す奴らは全員、ぶっ殺してやるさ。
・・・が、その前に、と。」
けれどどうしてかジークが山賊に向かって、手を伸ばす。
「あ、あの・・・お頭?
一体、何を。」
「やっちゃえ、ジーク様~♪」
そして女の子の一人が嬉しそうにジークを煽る。
って、まさか!?
「サード・ファイア!!」
彼の手から強力な炎が放たれ、手下であるはずの山賊が火だるまとなった!!
「「「ぎゃあああああああああ!!!!」」」
「「「お頭~~~~!!!!」」」
炎に包まれ、山賊が悲鳴を上げながら焼え尽きていく・・・。
人が焼けた事による匂いか、辺りに異臭が漂い、はっきり言って気持ち悪いわ。
そして炎が静まった後、山賊は骨すら残らず消し炭となっていた。
『サード・ファイア』・・・ランク3の強力な炎魔法。
この魔法を受けてしまったら、並の人間ではまず助からない。
でも敵である私達に使うのであれば、まだわかるわ。
・・・だけど手下に向かって、そんな魔法を使う理由はわからない。
「おお~・・・。
さすがは社会のゴミだ。
良い燃えっぷりだなぁ。」
「きゃ~~~~~~~~。
さすがですわ、ジーク様!!」
「お見事です!!」
更に彼のハーレムが虐殺を褒め称える理由はもっとわからない!!
ジーク達の非道すぎる行為に勇者も、聖女も、クロさえも唖然としている。
「えっと、ジーク・・・。
なんで手下を殺したの?
彼らはあなたの仲間じゃなかった、の??」
「仲間ぁ!?
んなわけ、ね~だろ!!
身の程知らずにも襲い掛かって来たから、返り討ちにしてこき使ってただけだっつ~の。」
「あんなゴミどもがジーク様の仲間なわけないじゃない。」
「バカなの、あんた?」
私の疑問に対し、ジークや彼のハーレム達が小バカにしながら返答する。
「それでも俺に文句を言わず従うってんなら、生かしてやったがよ。
ど~にも反抗的だし、その癖ちっとも役に立たねぇ。
だからお前達より先に処分したまでだ!!」
「しょ、処分・・・ですって?」
「ひっ!?
あたし、あの人、怖い・・・。」
『カマセ』・・・。
まさかこれほど危険な存在だったなんて。
「・・・ったく。
あんたら、ゴミを燃やしたくらいで騒ぎ過ぎなのよ!!」
「あいつら、役に立たないどころか、ず~っとジーク様に反抗的だったしね~。
死んで当然よ~♪」
「それに引き換え、ジーク様の炎魔法はいつ見ても素晴らしいですわ。
私、増々惚れ直しました♪」
けれど彼のハーレムは主の悪行を諫めるどころか怯えさえせず、惜しみない称賛を送り続ける。
「ははは、よせやい。
あの程度の魔法、俺からすりゃお遊びみたいなもんさ。」
「きゃ~~~~~~~~。
さすがですわ、ジーク様!!」
「「「ジーク様~♪」」」
・・・・・・。
あの女の子達、例の本に書いてある理想のハーレム像と完全に一致しているわ。
自らの主を一から十まで肯定し、誠意を尽くしている・・・のかしら?
でも私は・・・仮に勇者が誰かを殺してしまったとしても、あんな風に称賛出来ない。
それが勇者の幸せに繋がると思えないから。
そして私自身、どんな事情があれ、殺人だけは褒める気になれないから・・・。
こんなハーレム要員でごめんね、勇者。
「・・・あのハーレム。
ジークは手下だった奴らを笑いながら殺したんだぞ!!
なのに、あんな楽しそうに褒め称えて・・・。
・・・・・・。
やっぱり俺、あんなハーレムなんて全然羨ましくないや。
例え、残念美少女だったとしても・・・。
王女達が傍にいてくれる方がずっとありがたいよ。」
・・・って、んんん?
勇者ったら、どういう心境の変化かしら?
さっきまではジークの事、あんなに羨ましがってたのに。
「はっ!!
負け惜しみを・・・。
だが、テンイっつったな。
お前、たった三人しかハーレム要員、いないクソ雑魚だがよ。
趣味は悪くね~じゃん?」
ジークの奴、一応、私達を褒めているのかしら。
嫌な予感しかしないけど。
「よ~し、お前ら!!
そんな優男なんか見捨てて、今日から俺のハーレム要員になれ!!
そうすれば命だけは助けてやろう。」
なんとジークは私達三人に自分のハーレム要員となるよう、命令したの!!
・・・・・・ええええええええ!!??




