第44話 偽りのハーレム編⑥ 勇者とクロの特性
転移勇者の活躍により、山賊は逃げ出した!!
けれど残念ながら山賊は見失った・・・。
と思ったら、何故か聖女は山賊の行方に心当たりがあるみたいなの。
「こっちよ。」
「・・・ねえ、聖女。
なんで山賊がどこへ逃げたかわかるの?」
聖女だけそんな事がわかるなんて、変じゃない?
「そりゃあ、式神に後を追わせてるからよ。」
式神・・・?
あっ!?
「なるほど。
どさくさ紛れに『ペーパー・サモン』の魔法、使ったんだ。」
「それって、紙の式神を召喚する魔法だっけ?」
「ええ。
勇者様のおっしゃる通りです。」
『ペーパー・サモン』は紙の式神を召喚し、意のままに操る魔法よ。
戦闘に向くとは言えないけど、雑用や偵察なんかで役に立つわ。
確か聖女、ドラゴンやヒドラを解体する時も同系統の魔法、使ってたっけ。
・・・にしても。
「咄嗟にそんな魔法を使ってたなんて、さすがね。
聖女。
頼りになるわ。」
「聖女様、すご~い!!」
「まっ、攻撃以外の魔法は私に任せなさい。」
「・・・。
俺にもあんな感じで褒めてくれないかなぁ。」
聖女を褒め称える私達を見て、不満そうに呟く勇者。
いやいや・・・ダメだって。
ハーレム要員があんな馴れ馴れしい態度で男を褒めるなんて、良くないわ。
「凄いと言えば、クロ。
どうしてあの時、山賊が傍にいるって気付いたの?
ゴブリンの時もそうだけど・・・。」
「・・・ん~っとねぇ。
なんとなくそんな気がしたの~。」
「なんとなくって。」
あ~、あれね。
「勇者様。
それはクロが『索敵』の特性を持ってるからですわ。」
「『索敵』!?
それって、敵の気配を感じ取ったりする能力?」
「そんな感じの能力です。
そして『特性』は意識せずとも、常時効果が発動しています。
『バッシブスキル』とも呼ばれていますわ。」
『索敵』は獣人がよく持っている特性で、近くにいる人や魔物の気配を感じ取れる能力よ。
一応、聖女が以前に使っていた『サード・サイン・サーチ』でも似たような事は出来るんだけどね。
でもわざわざひと手間掛けなくても、敵を察知可能な点は大きな強みとなるわ。
「「へ~え、そうなんだ~。」」
勇者はともかく、クロ・・・。
今、説明しているのはあなた自身の特性よ?
そりゃ『特性』を持っている事に気付いてない人も珍しくないけどさ。
「けど、特性かぁ。
良いなぁ。
常時効果が発動するなんて、魔法やスキルの上位互換じゃん。」
「・・・そうとも限りませんわ。
基本的に特性は自分の意志でON/OFFを切り替えられません。
言い換えれば、特性による能力は抑えるのが非常に困難なのです。」
まあ『索敵』に関しては、常時発動しても特にデメリットは無いでしょう。
けれど、そうではない特性も珍しくない。
「えっ!?
そうなの・・・。」
それは勇者が一番痛感しているはずよ。
だってね。
「・・・あの~。
勇者様の『魔法・スキルの威力を通常の数十倍、数百倍にする能力』も特性の一種ですよ?
それ故にあなたは力のコントロールが出来ずにいるのです。」
「あっ!?」
彼に限らず、異世界人は基礎能力がずば抜けているだけでなく、強力すぎる特性・・・チート能力を持っている事が多いわ。
そしてどんな能力に目覚めるかは、本人が何を求めているかが大きく影響する。
「それは困ったなぁ・・・。
確かに俺、強くなりたいって望んでたけどさぁ。
強くなりすぎて、逆に扱い辛いもの。」
勇者が本気で困った風に呟く。
チート能力を羨んだり、一種のズルみたいに語る人も多いけど、良い事ばかりとは限らないのよね。
********
「あらら!?
これが奴らのアジトなの・・・?
まるで古城じゃない。」
聖女に導かれるまま進む事しばし。
ようやく山賊のアジトを見つけ出したようね。
って、古城?
「古城って、あれのこと~?」
クロが指差す方を振り向くと、確かに古城が見える。
あそこに山賊に捕らわれた人々がいるのかしら。
「ふむふむ。
どうやら彼らのお頭、今は留守のようね。
入口に鍵が掛かってるみたいで山賊、立ち往生してるわ。」
式神を通して、山賊の事情を察知する聖女。
「おお~・・・。
それはチャンスだ!!
今のうちに囚われた人達を助け出そうよ。」
そうね。
でも少し気になる事があるわ。
「・・・?
王女?
何を悩んでるの?」
「え、いえ・・・。
あの山賊ですが、ギルドが必死になるほどの強者だったかな~、と。」
「わかるわ。
あれじゃその辺の山賊と大差ないもの。」
私一人で蹴散らせるほど弱くはないけど、あの程度の強さで討伐報酬が金貨5000枚なんて、絶対変よ。
「となると、お頭がとんでもなくヤバいとか?」
「かもしれないわね。
だったらなおさら、急ぐべきだわ。」
「うん!!」
お頭がどれほどの強者かはわからない。
だけど戻ってくる前に攫われた人々を救助する方が良さそうね。
「やい、お前ら!!」
「なっ!?
貴様ら・・・。」
まずは勇者が颯爽と姿を現し、その後を私達が続く。
「何故、お前らがここに!?
後を付けていない事はちゃんと確認したぞ!!」
「本当にそうかしら?」
聖女は山賊の傍にいた式神を浮かせ、彼らにアピールする。
役目を終えた式神は聖女の元へ近づいた後、音もなく消え去った。
「し・・・式神だと!?
しまった!!」
「最後のチャンスだ、山賊ども。
大人しく攫われた人々を解放すれば、命だけは助けてやろう!!」
本当は殺す覚悟を持てないにも関わらず、堂々とした態度で宣言する勇者。
・・・彼、いつの間にこれほど演技が上手くなったのかしら?
「お前らなんて、お前らなんて!!
お頭さえ戻ってくれば・・・。
そういやお頭、どこ行ったんだ!?」
「けっ、あいつの事だ。
どうせ女どもと一緒に遊び回ってんだろうよ!!」
なんかえらくトゲトゲした言い様ね。
もしかしてお頭、あんまり人望が無いのかしら?
「へ~え・・・。
社会のゴミ風情が、随分とデカい口、叩くじゃねえか!!」
!??
「「「お、お頭!!」」」
声がした方を振り向くと、10人もの美少女を侍らせた茶髪で目付きの悪い少年が佇んでいた。
あの子供が・・・山賊のお頭なの!?




