第43話 偽りのハーレム編⑤ 転移勇者VS山賊
転移勇者一行は山賊とエンカウントしてしまった!!
私や聖女、クロではあれほど大勢の山賊を倒せない。
かと言って、勇者が本気を出せばオーバーキルになって、確実に相手を殺してしまう!!
聖女の防御魔法のおかげで、私達が殺される心配も無いけど・・・。
一体、どうしたら良いのかしら?
「はっ!!
少し魔法が使える程度で、俺達に勝てるなんて思うなよ!!」
確かにそうだわ。
「ここは撤退すべきかしら?」
「そんな!?
・・・王女様。」
「ま~、私達のPTってアンバランスだからねぇ。」
器用貧乏な私に、防御を中心としたサポート特化の聖女。
非戦闘要員のクロ。
そして力が強すぎるせいで、お手頃な攻撃が出来ない勇者。
全く聖女の意見を否定出来ないわ・・・。
「何か殺さずにあいつらをどうにかする方法、ないのかしら?
・・・気絶させたり、脅して追っ払う、みたいな。」
勇者には一目で魔法やスキルのコツを掴み、会得する天性の素質がある。
だから私の技術を強大なパワーを持つ勇者に伝え、どうにかしてもらうって手もある。
とは言え、そう簡単に上手いやり方なんて、思いつかないわ。
「脅して追っ払う、か。
よしっ!!」
しかし私の呟きで何か閃いたのか、勇者が勇ましい表情で山賊の前へと躍り出る。
「罪なき人を苦しめる卑劣な山賊め!!
お前達が攫った人々を解放するんだ。
そうすれば命だけは助けてやろう。」
勇者!?
あなたにそんな英雄みたいな台詞、似合わないわよ。
「あ~ん、ざけんなよ。
勇者気取りのガキが出しゃばりやがって!!
せっかく捕まえた奴隷をわざわざ解放するバカがどこにいる?」
「奴隷って!!」
人を人とも思わぬ山賊の態度にクロが怒りを露わにする。
だけど勇者は涼し気な顔で・・・。
「・・・あ、そう?
まっ、俺はどっちでも良いんだけどさ。
この世界ではお前らみたいなゴミ、いくら殺したって許されるしな。」
とんでもない発言を行った!?
ちょ!!
「勇・・・。」
「しっ!!
ここは一旦、彼に任せましょう。」
勇者の暴走(?)を止めようとする私に聖女が待ったを掛ける。
そして肝心の勇者は一瞬だけ、私達に向かって視線を向けた。
ここは俺に任せてくれと言わんばかりに。
「ななな、なんだ、と?」
「・・・あのクソガキ。
じゃなくて、お頭みたいな台詞を吐きやがって。」
「ふっざけんじゃねぇ。
やれるもんなら、やってみやがれ!!」
見知らぬ子供の大口に山賊がやや怯む。
が、それでも逃げようとまではしない。
「ははは・・・。
なら、お望み通り、この勇者様がお前ら悪党を成敗してくれる!!
巨大化!!」
邪悪な笑みを浮かべながら、勇者がランク1のスキル『巨大化』を発動!!
通常であればランク1の『巨大化』は手に持つ武器を2~3倍に大きくする程度の効果よ。
だけど勇者が使えば、手に持つ武器の大きさは山賊どころか、町さえ潰せるほどのサイズへ変貌する。
「ななな・・・!?
嘘、だろ?」
「なんだ、その力は。
なんなんだ、その力は!!」
悪逆の限りを尽くした山賊さえ、巨大すぎる剣を携えた勇者にただただ震え上がるしかない。
「所詮、山賊なんてボーナスキャラクターだからな~。
好きなだけ財産を奪って良し、ぶった斬ってストレス解消しても良し!!
あ~・・・こんな奴らが存在するなんて、異世界って素晴らしい所だよなぁ。」
彼は勇者どころか魔王でさえ早々言わないような台詞を吐きながら、山賊を睨み付ける。
「さ~ってと、誰からぶっ殺そっかな~♪」
楽しそうな口調で勇者が山賊へ迫り寄った途端・・・。
「ぎゃ~~~~。
命だけはお助けください~!!」
「助けてくれ・・・。
助けてくれ~~~~!!」
「ペーパー・サモン!!」
「は、早くお頭に報告を!!
こんな化物を何とか出来るのはお頭しかいねぇ。」
「おいこらてめえら。
とっとと道開けろよ!!
俺が殺されちまうだろ~~~~・・・。」
山賊達が一目散に逃げ出した!!
・・・なんか変な言葉が混じっていた気もするけど。
そんな山賊を勇者は追おうともせず、一人残らず逃げ去ったのを確認した後『巨大化』を解除した。
「・・・ふ~。
こんなもんで良いかな、皆?」
「やるじゃない、テンイ。
見事なブラフだわ。」
「はわ~・・・。
ご主人様、やっぱ強いんだ~。」
どこか上の空な調子で褒める聖女と、素直に感心するクロ。
・・・あっ。
ブラフって、つまり。
「そっか、勇者様。
『巨大化』を脅しのためのスキルとして使ったのですね?」
「うん、そうだよ。
この前のチンピラがこのスキルで震え上がったのを思い出して、さ。
上手く使えば、山賊を追っ払えるんじゃないかって。」
確かあの時は女の子に迷惑掛けるチンピラを『巨大化』で脅し、反省させようとしてたっけ。
脅しすぎて大騒動に発展したけど。
「それにクロと約束したからね。
どんな悪党が現れても、俺が必ず追っ払うってさ。」
「ご主人様!!」
勇者はクロの頭を撫でながら、何時ぞやの約束を語る。
そんな彼をクロは感激した様子で見つめていた。
それにしても以前の失敗を活かし、山賊を見事、追い払うなんて・・・。
「・・・勇者。
あなたも少しずつ、強くなっているのね。」
「そ、そうかな?
えへへ・・・。」
・・・って。
「違う、違う。
そうじゃない!!」
「!??」
いや・・・。
勇者が成長し、強くなっているのは事実だけどさ。
こんな上から目線・・・百歩譲って対等な物言いで称賛するなんて、ハーレム要員失格だわ!!
・・・彼に対する正しい称賛のやり方はこうよ。
「さすがですわ、勇者様!!
あのような策で山賊を追い払うなど、私如きの知能では考えも及びませんでした。
やはり勇者様は強くて見目麗しい、完全無欠の英雄ですわ♪
あなたのような素晴らしい方のお供になれて、私は幸せです!!」
私は大慌てで笑顔を作り、彼の功績を全力で褒め称えた。
あっ、そうそう。
クロにも勇者が活躍したらきちんと褒め称えるよう、教育しなくっちゃ。
「ほらほら、クロもいつまでもぼんやりしないで。
勇者様の功績を褒め称えるのよ!!」
「あっ、そうだった!!
え~っと・・・さすがですわ、ゆうしゃさま。
あのようなさくでさんぞくのちのうを・・・あれ?
しあわせなえいゆうで、みめうるわしいわたし??
あ~ん、王女様~・・・。
長すぎて一回じゃ覚えられないよ~!!」
しかし急に振られたのもあって、彼女の台詞はぐちゃぐちゃだわ。
や・・・やっぱりクロはハーレム要員に向いてないのかしら?
「ちょっと、クロ!!
焦り過ぎちゃダメよ!?
ほらほら。深呼吸でもして、息を整えなさい。
笑顔をしっかり作ってもう一度・・・。」
「(-ε-)」
だけど、そんなやり取りをする私達に勇者はどこか不服そうね。
・・・な、何が悪かったのかしら?
「あの・・・勇者様?」
「もう、王女!!
そうやって胡散臭く褒め称えようとするの、いい加減止めてよ!!
クロも真似しなくて良いから・・・。」
「え・・・っと。
あの、前々から気になっていたのですが。
勇者様は褒められるのがお嫌いなのですか?」
いくら頑張って褒め称えても、彼ったらいっつも不満そうだからねぇ。
それともやっぱ、誘拐犯の娘に褒められても嬉しくないのかしら?
「そうじゃなくてさ。
あのね、王女。
人を褒めるってのがどういう事か、本当にわかってるの?」
呆れ果てた様子で勇者が反論する。
もしかして私の褒め方が間違ってるとでも言うの!?
例の本に書いてあるやり方で褒め称えたつもりなんだけど。
「私は知らず知らずの内に褒め方を間違えていたのでしょうか?」
「・・・むしろ、わざと間違えようとしてない?」
う~ん・・・。
誘拐犯の娘云々以前に私もクロ同様、ハーレム要員としてレベル不足なのかしら?
難しいわね。
「はいはい。
しょ~もない言い合いはそれくらいにしなさい。
早く山賊の後を追いかけるわよ。」
どこか上の空な様子ながらも、しっかりした足取りで聖女が走り始める。
って、いやいや。
後を追いかけるってもう山賊、見失ってるじゃない。
どこへ行く気よ?
「エミリー!?」
「こら、聖女。
待ちなさい!!」
「あっ、待って~。
聖女様~。」
私達三人は急いで彼女の後を追い掛けた。




