第42話 偽りのハーレム編④ 山賊との遭遇
ひょんな事から、山賊に攫われた人々の救出依頼を受けた転移勇者一行。
なので私達は今、冒険者ギルドからの情報を元に山賊が住む山へと向かっていた。
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「さて、張り切って攫われた人々を救出するわよ。
目指せ、金貨1000枚!!」
「・・・張り切るのは良いけど、油断しちゃダメだからね。
聖女。」
実は最初、山賊の『討伐』を求められたわ。
だけど勇者に人殺しは無理だったから、『討伐』依頼から攫われた人々を『救出』する依頼に変わったの。
依頼内容が変わったから、報酬も1/5に減っちゃったけど、それでも金貨1000枚だからねぇ。
いくら勇者の力が凄くとも、楽勝とはいかないでしょう。
「やっぱりギルドの皆の言う通り、ヒドラよりも強い山賊なのかなぁ。
だったらさ、王女。
俺もランク2以上の魔法やスキルを修得して、対抗すべき?」
「修得しないで下さい。
世界が滅びてしまいます。」
「そこまではっきり言わなくても・・・。」
勇者はチート能力のせいでランク1の魔法・スキルでも、ランク5以上のパワーを引き出せる。
そんな状態でランク2以上の魔法・スキルを身に付けたら、冗談抜きで世界が滅びかねないわ。
「そもそもね、テンイ。
普通、高ランクの魔法・スキルなんて、そう簡単に修得できないわ。
才能豊かな人間が長い修行を積んで、身に付けるものなんだから。」
「そうなんだ。」
聖女の指摘通り、魔法・スキルはランクが1つ上がるだけで威力が大幅に上昇する。
故にそんなあっさりと使いこなせるようにはならない。
普通であれば・・・。
「一応、異世界人は最初からランク3~4の魔法・スキルくらいは使えるケースが多い。
と、例の本には書かれていますけど。」
ちなみにランクによる魔法・スキルの修得難易度は大まかに言えばね。
ランク1の魔法でも、使えれば一人前。
ランク2の魔法ですら、プロを名乗れるレベル。
ランク3の魔法なんて、達人と呼ばれる人達しか使えない。
ランク4の魔法まで来たら、使えるのは世界でも有数の実力者だけよ。
ランク5の魔法はそうね・・・扱えるのは神々のみとさえ言われているわ。
「勇者様の場合、チート能力で魔法・スキルの威力が通常の数十倍、数百倍になっています。
だから他の異世界人と同じように、高ランクの魔法・スキルを扱えるかはわかりません。」
勇者のチート能力は一見、ズルすぎるように感じるけど、使い勝手はすこぶる悪い。
破壊力がありすぎて、少しでも使い方を誤ると自滅しかねないもの。
「・・・じゃあさ。
もし俺がランク2の攻撃魔法を使ったらさ、どうなると思う?」
「ランク1の魔法・スキルでさえ、ドラゴンやヒドラを軽々と倒せるくらいです。
ランク2の攻撃魔法なんて使用したら、世界の1%が消滅するのでは・・・。」
つまり100回も使えば、世界を完全に破壊できるってわけね。
・・・あまりにもヤバすぎる。
「うん!!
俺、ランク2の魔法・スキルを覚えるの、諦めるよ。」
諦めるの早っ!?
だけど賢明な判断だと思うわ。
世界を破滅させないためにも。
こんな感じで軽く雑談しながら、山の中を進んでいると・・・。
「!??
がるるるる・・・。」
何故か突然、クロが唸り声を上げ始めたの。
「あら?
どうしたのクロ。
急に唸り声なんか上げちゃって。」
「聖女様、皆。
近くに嫌な人達、たくさんいる!!」
えっ?
「へっへっへっ・・・。
ま~だ俺達に歯向かうバカがいるとはな。」
声と同時に茂みの中からハゲ頭で人相が悪く、上半身裸の男達が現れた!!
その数、ざっと20~30人ほど。
これがギルドの人達が言う・・・山賊?
「ん・・・おおおおおおおお!!!!
あそこにいる姉ちゃん達、すっげぇ可愛いじゃん!!」
・・・その台詞、どこかで聞いた事があるわね。
路地裏でチンピラといざこざを起こした時だったかしら?
「あのイケメン野郎の連れかぁ?
よ~し。さっそく邪魔者をぶっ殺して、俺達の女にしようぜ!!
そして・・・ぐひひ。」
だけどせいぜい軽いナンパ程度のノリで、大して悪意のなかった彼らとは違う。
本気で勇者を殺し、私達を強姦しようと考えてるみたい。
「・・・き、気持ち悪いわねぇ。」
チンピラの時は大して嫌がっていなかった聖女でさえ、嫌悪感を剥き出しにしている。
そりゃまあ、本物の性犯罪者に拒絶反応を示すのは人として当然よね。
でも彼ら・・・?
・・・・・・まあ、考えていても仕方ないわ。
「皆、まずは私からいくわ。
サンダー!!」
先手必勝!!
私はさっそく、ランク1の雷魔法を使用した。
手から放たれた電撃が眩しい光を放ちながら、山賊へと襲い掛かる。
「おおっと?
だったら、こっちもサンダーだ!!」
が、山賊の1人が私と同じ、雷魔法を使用する。
雷と雷が激しくぶつかり合い、火花を散らしながら、相殺された。
くっ?
さすがにゴブリンと同じようにはいかない、か。
「ほう。
あの女、魔法が使えるのか。
華奢に見えて、意外とやるじぇねぇか。」
「だがよう。
その程度の魔法で俺らを倒せると思うなよ!!」
雄叫びを上げながら、何人かの山賊が武器を片手に突撃する。
「セカンド・バリア!!」
バギッ!!
「「「ぐへっ!?」」」
しかし聖女の防御魔法により、山賊の突撃はあっさりと防がれた。
『セカンド・バリア』はランク2の防御魔法で、強度は『バリア』以上、『フォース・バリア』未満と言った所かしら。
それでも並の人間や魔物では、この防御魔法を打ち破る事は出来ないでしょう。
「ちっ!!
あっちの女は防御魔法の使い手かよ?
厄介だな。」
とは言え・・・。
「・・・う~ん、王女。
これはちょっとまずくないかしら?」
「そうね・・・。」
「う~~~~!!」
聖女は防御魔法こそ凄いけど、攻撃能力に欠けるわ。
けど私の実力では、1~2人ならともかく、あれほど大勢の山賊は打ち倒せない。
クロはそもそも非戦闘要員。
「・・・・・・。」
そして勇者は・・・。
もし彼が相手を殺す気で戦えば、あんな山賊なんて虫けらの如く、捻り潰せるでしょう。
・・・あくまで『殺す気で戦えれば』の話だけど。
一体、どうしたら良いのかしら?




