第41話 偽りのハーレム編③ 勇者の善意
「そうだよ!!」
えっ?
聖女とクロに『山賊怖い♪』と嘘を付いた理由について、話していた途中・・・。
いつの間にか勇者が戻ってきていた。
「あら、テンイ。
戻ってたのね。」
「王女が『山賊怖い♪』なんて、おかしいと思ったよ。
あの時の態度にはそういう意図があったんだね。」
勇者まで『おかしい』って。
「あの~・・・。
嘘を付いたのは申し訳無いのですが、私が山賊を怖がったらおかしいのでしょうか?
普通の女性は山賊に怯え、恐怖するものですが。」
「もちろんおかしいよ。
だって王女は普通の女の子じゃないもの。」
いつになく堂々と答える勇者。
・・・そんなきっぱりと言わなくても。
「えっと。
確かに元王女という立場は普通ではありません。
が、私自身は何の特徴もない、普通の女性ですよ?」
「どこがよ?
あんたみたいなヘンテコ女、早々いないってば。」
聖女の指摘に力強く頷く勇者とクロ。
私って一体・・・。
「って、そんなわかりきった事はどうでも良いんだよ。」
どうでも良い!?
内心、衝撃を受ける私に対し、勇者がいつになく真剣な眼差しを向ける。
なんかやり辛いわね。
「・・・王女は悪党とは言え、俺が人なんか殺したくないと見抜いてたから。
一人でも誰か殺してしまったら、殺人を躊躇わなくなるかもしれないから。
だからあんな態度を取って、山賊退治を断るよう、仕向けたんだね?」
「はい、そうです。」
やたらと正確に意図を理解してるじゃない。
勇者ったら。
いつから私達の話を聞いていたのかしら?
「だけど、本当に良いの?
あんなに困っている人達の依頼を引き受けなくて・・・。
俺は勇者として召喚されたから。
他人を簡単に救えるだけの力を持っているから。
なのに、自分勝手な理由で誰かの手を払いのけるのは悪い事・・・じゃないかな?」
「そんなわけありません。」
「えっ?」
もしかして彼、自分が特別な力を秘めているからって、思い違いをしてるのかしら?
「勇者様。
確かにあなたにはとんでもない力が秘められています。
が、元を辿れば醜き王の身勝手な悪意のせいで、こちらの世界へやって来ただけに過ぎません。
故に果たすべき使命など、何一つありません。」
「そ、それは・・・。」
「・・・だからこそ、自分の気持ちを押し殺してまで、誰かのために生きなくて良いのです。
だってあなたは被害者なのだから。
罪なき人をいたずらに傷付けるような真似さえしなければ、どのように過ごそうが自由なのです。」
そう。
彼は果たすべき使命を持って、召喚された勇者ではない。
醜き権力者に誘拐された、悲しき被害者なのだから。
だからこそこの世界でどのように過ごそうが、誰にも責められる云われはない。
「で、でも、この世界ってさ。
結構、物騒じゃん。
人を殺す覚悟もなく、生きていけるの・・・かな。
それに俺、一応、冒険者だから。」
「勇者様のおっしゃる通り、この世界はあなたがいた世界よりも物騒です。
が、それでも誰を殺さず過ごしている人の方が多いのですよ?」
例の本曰く『転移勇者は異世界では人を殺せなければやっていけない、と考えやすい』って書かれていたわ。
しかしこの世界だって、戦いとは全く無縁な生活を送っている人の方が圧倒的に多いの。
「それにね、テンイ。
冒険者の中には殺人を嫌い、魔物だけ狩っているPTもいるの。
そもそも冒険者なんて、いつどんな依頼を受けようが、構わないしね。」
聖女の話は初耳だけど、特におかしな話でもないわね。
「・・・そっか。
俺、思い違いしてたよ。
異世界で生き抜くなら悪党くらい、平気で殺せなきゃダメだってさ。」
「まあ、お金も力も無かったら、そういう生き方を強要されたかもしんないけどさ。
けどテンイなら人殺しなんかしなくても、十分稼いでいけるじゃない。
だからどうしても嫌な事はやんなくてい~のよ、別に。」
「そうなんだ・・・。
良かった。」
凄くホッとした様子で呟く勇者。
その後、彼は半泣きで俯いているクロの方へ顔を向ける。
「ごめんね、クロ。
俺は臆病だから・・・。
例え、山賊であっても殺せそうにないんだ。」
「・・・・・・ううん。
ご主人様が本当に嫌なら、あたし、あたし・・・。」
「でも、安心して。
仮に山賊が・・・悪党がクロの前に現れたとしてもさ。
俺が必ず追っ払うから!!」
「!!・・・。
うんっ。」
なんとか話が丸まったみたいね。
良かったわ。
「じゃ、明日ゴブリン討伐の報酬だけ受け取ったらさ。
さっさと次の町へ向かいましょうか。」
あっ!?
そう言えばゴブリン討伐の報酬、貰いそびれたんだっけ。
けどね。
「あなたねぇ。
あのギルドへ行ったら、また山賊討伐に行けとか言われるじゃない。」
「んなの私が断ってあげるわよ。
せっかく仕事したのに報酬を貰わずじまいなんて、絶対に嫌!!」
「ははは・・・。
心配しないで、王女。
俺も何を言われようが、山賊討伐なんて引き受けないからさ。」
随分とふっきれた表情で答える勇者。
まっ、この様子なら何を言われたとしても大丈夫かしらね。
********
そして一夜が過ぎ、私達はゴブリン討伐の報酬を受け取るため、再び冒険者ギルドへとやって来た。
「・・・あっ、勇者様!!
もしかして山賊討伐の依頼を・・・。」
「違うわよ。
ゴブリン討伐の報酬を受け取りに来ただけだから。
ほらほら、早く準備して頂戴。」
「えっ!?
は、はぁ・・・。
では、報酬の金貨5枚となります。」
聖女の態度に戸惑いつつも、受付は素直に報酬の金貨5枚を渡す。
「どうも~。
さっ、早く次の町へ行きましょ。」
「そうね。」
どうもまだ山賊討伐を諦めていないようだしね。
「お、お待ちください!!
あの・・・お仲間の方が山賊を恐れているから、依頼を断ったのですよね?
ならば、初めから連れて行かなければ・・・。」
「違うよ。王女が山賊に恐れを成してるんじゃない。
俺が山賊に恐れを成しているんだ。
山賊を・・・人を殺す事に恐れを成しているんだ・・・。」
申し訳なさそうな態度ながらも、きっぱりと断りを入れる勇者。
「人を殺す事に恐れを・・・。」
「そ~よ。
テンイがどんだけ強かろうが、そ~いうのには相性があるのよ。
だからね、悪いけど諦めてくれないかしら?
きっといつの日か、あなた達の望みを叶えてくれる人がやって来るから。」
私は救いようがない悪党が誰かに殺される事そのものは否定していない。
世の中には兵士やお役人のような、人を殺し、裁く役目を背負っている人達がいる事も知っている。
やむを得ないのであれば、彼らが誰かを殺したとしても、それを責める事は出来ない。
けれど、そういった事は決して他人に強要されるべきじゃない。
動機はどうあれ、果たすべき役目に納得した上で、自分の意志で背負うべきだと。
私はそう思うわ。
「やって来ないですよ!!
私達の願いを叶えてくれる人なんて、もう・・・。
・・・けれどギルドの職員として、依頼を強要するわけには。
・・・・・・。
でしたら!!
人を殺せないのであれば、山賊を『討伐』しろとまでは言えません。
だけどせめて・・・山賊に囚われた人達だけでも、助けて頂けないでしょうか?」
助・・・ける?
「あっ!?
ギルドのおね~さん。
山賊に『攫われた』人もいっぱいいるって、言ってた!!」
「はい・・・。
山賊に殺された方々の無念を晴らすのは諦めます。
・・・だけど、まだ生きている人だけは。
奴らに奴隷にされ、望まぬ行為を強要されている方だけは救って頂きたいのです。
仮に失敗し、逃げてしまったとしても、違約金などは一切求めません。
なのでどうか・・・お願いします。」
そんなに山賊をどうにかして欲しいの・・・?
確かにそういう形で依頼を引き受けるのであれば、山賊を殺す義務は発生しない。
けどそれでも、山賊との争いはまず避けられないでしょう。
山賊に殺される可能性も、殺してしまう可能性も・・・決して0ではない。
「攫われて・・・奴隷にされて、苦しんでいる人達がいる。」
受付の話を聞き、勇者に迷いが生じてしまった。
止めるべき、なのかしら?
「・・・ご主人様。
あたしからもお願い。
山賊に苦しめられている人達を助けてあげて!!」
「クロ・・・。
うん、わかった。
殺すのは無理だけど、囚われた人達を助けるだけで良いなら、引き受けるよ!!」
「!!!!
ありがとうございます!!」
って、ちょっと!!
「勇者様。
・・・それは。」
「ごめんね、王女。
でもさ、俺だって『攫われた人間』だからさ。
やっぱ、放っておけないよ。」
勇者・・・。
「わかりました。
・・・あなたがそう望むであれば。
私も微力ながら手伝わせて頂きます。」
「あたしも~!!」
「しょ~がない。
私も協力してあげるわ。
だけど報酬、目減りするのは仕方ないにしても、ちゃんと払ってくれるんでしょうね?」
「もちろんですとも!!」
こうして私達は山賊に攫われた人々を救うべく、動き出した。
件の山賊が想像を絶する強者である事も知らずに・・・。




