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第40話 偽りのハーレム編② 王女の嘘

「王女様!!

 ど~してあんな嘘、付いたの!?」





転移勇者一行はギルドから依頼された山賊討伐を断り、宿へと戻る。

互いにしばし無言だったが、勇者が風呂へ入るために席を外した途端、クロが私を問い詰めた。


「う・・・嘘って、何の事かしら?」


「そりゃ『山賊怖い♪』なんて、戯言に対してでしょ。」


「だって王女様はそんな事を言う人じゃないもん!!」


・・・ちょっと。

それはどういう意味なの?


「いや、あの・・・私。

 自分で言うのもなんだけど、か弱い女の子なのよ。

 山賊に怖がって、何がおかしいのよ?」


勇者や聖女と違い、私の実力なんて全く大した事は無い。

仮に大勢の山賊に襲われたらきっと、何も出来ずに蹂躙されるでしょう。

だから私が山賊を怖がるなんて、当たり前の話だと思うけど。


「全然おかしいに決まってるじゃない。

 ヒドラにさえ、ロクに怖がってなかった癖に。」


「そうだもん!!

 王女様はご主人様や聖女様と同じくらい、強い人だもん!!

 だから山賊に怖がるなんて、ありえないんだもん!!」


あのねぇ。


「あなた達・・・。

 私の事、誤解しすぎでしょ。」


「誤解じゃないって。」


聖女もクロも私をなんだと思ってるのかしら?

反論したいのは山々だけど、二人揃って疑わし気な目付きで睨まれると、これ以上誤魔化すのも躊躇ってしまう。


はぁ。

仕方ないわね。


「そりゃ山賊怖いなんて、嘘だけどね。」


「やっぱり!!」


その『やっぱり!!』ってのはど~いう意味よ?

クロ。


「まあ、嘘なのはわかってたけどね。

 でもなんでそんな嘘を付いたの?

 前と違って、あのギルドの人達は嘘依頼で私達を騙そうとか、考えてないと思うわよ。」


それは聖女の指摘通りだと思う。

本当にあの人達が言うような山賊が実在するかは疑問だけど。

それでも大金を払ってでも、山賊をどうにかして欲しいと願う気持ちに嘘は無いと思うわ。


・・・思うけど、問題はそこじゃないの。

私が嘘を付いてまで山賊討伐の依頼を断るよう、仕向けた理由。

それは・・・。





「そんなの決まってるじゃない。

 勇者に人殺しをさせないためよ。」





それ以外に理由なんて無いわ。



「『人殺しをさせない』って、あのねぇ。

 そりゃ私だって、テンイが罪の無い一般人を殺そうとしたらさ。

 全力で止めるわよ。


 けど相手は山賊よ?

 いくら殺したって許されるに決まってるじゃない。

 ゴブリンにも劣る、世界のゴミなんだから!!」


「そりゃ、そうだけど・・・。」


聖女の意見は決して間違っていない。


何せ彼らは勇者の世界で言うところの『強盗殺人犯』と同じだもの。

身勝手な理由で罪も無い人の財産や・・・命さえ奪うモンスター以下の外道よ。

はっきり言って、絶滅するならそれに越した事は無いと思うわ。


・・・世の中には『山賊だからって平気で殺す奴はクズ』なんて、意味不明な戯言をほざく人も稀にいるようだけど。

そんなに身勝手な強盗殺人犯が大好きなのかしら?

どういう思考回路なのか不思議で仕方ないわ。



「別に私だって、山賊の命を尊重したいわけじゃないわ。

 けど転移勇者・・・いや、人間はね。

 例え救いようのない悪人だったとしても、誰かを殺せば殺すほど、殺人を躊躇わなくなっていくの!!」



例の本曰く、転移勇者含む異世界人はよほど頭のネジが外れていない限り、最初は人殺しを極端に嫌がると記されている。

けれど一人でも殺してしまった途端、殺人に対する意識が決定的に変わってしまうの。

そして人殺しに対する忌避感がどんどん小さくなり、最終的には破壊神かと疑うくらい、大勢の命を奪う可能性もあるそうよ。


・・・それでも決して転移勇者の正義を疑うな、って書かれてたけど。

最終的にはどんな形であれ、世界が転移勇者を正義として認めるからって。


いくらなんでも大袈裟すぎる意見かもしれないわ。

しかしだからと言って、一から十まで間違っているとは思えない。

転移勇者に限らず、人なんて所詮、そんなものだから。


実際、転移勇者は並の人間とは比べ物にならない程の強い力を秘めている。

その気になれば、人どころか町や国だって簡単に破壊出来てしまう。

だからいつまでも人殺しは禁忌だと、そう思い続けてもらう方が世界にとって安全なの!!


それにね。


「あっ・・・それはそうかも。

 それにあの時のテンイ、やけに怖がっていたわ。

 もしかして『山賊に殺される事』を怖がってたんじゃなくて『山賊を殺す事』を怖がってたのかしら?」


「おそらくそうでしょうね。」


例え勇者がどんなに強くとも、元は殺し合いとは無縁の国で育った普通の少年に過ぎない。

だからこそ山賊討伐を迫られ、恐怖したのでしょう。


悪人でも人殺しなんて嫌だ!!

でも異世界でそんな理屈は許されない。

殺るしかない、のだと。


「戦争に強制参加した時もいたからねぇ。

 人殺しを強要された挙句、心を壊しちゃった人が。

 あの様子からすると、テンイもそういうタイプの人間かも・・・。


 ・・・・・・・・・・・・しょ~がない。

 テンイに山賊討伐なんて、やらせないでおきましょっか。

 さすがに可哀そすぎるし。」


私の話を聞いて、聖女は意外と簡単に納得してくれた。


「やけに素直ね。」


「あんたねぇ、私だって鬼じゃないのよ。

 それにど~せ、お金が欲しけりゃ野良ドラゴンでも狩りゃ済むんだし。

 ど~しても嫌だって事を無理強いせんで良いでしょ。」


「聖女らしい考え方だわ・・・。」


けど聖女の言う通り、勇者は人殺しに手を染めずとも、お金を稼ぐだけの能力がある。

ならば、山賊討伐を強要させる理由なんて一切ないと思うわ。


でも聖女が割とあっさり私の意見を受け入れた半面、思わぬ人物が強く反発した!!



「なんで!?

 ・・・どうしてっ!!


 あたし、わかんない!!

 なんでご主人様、山賊討伐、嫌なの!?

 なんで・・・!!」



そう。

クロが山賊討伐に否定的な私達に怒りを露わにしたの。


「山賊なんて、山賊なんて・・・。

 み~んな死んじゃえば良いのに!!」


「ちょ、ちょっとクロ。

 どうしたのよ?

 あなた、少し変よ。」


・・・クロってこんなに過激な性格だったかしら?

ゴブリン討伐の時はここまでムキにならなかったのに。


「王女、忘れたの・・・?

 クロは山賊に両親を殺された挙句、奴隷として売り飛ばされたのよ。

 恨んで当然だと思うわ。」


あっ!?


そっか・・・。

だからあんなに山賊討伐に積極的だったんだ。


もちろんクロを売り飛ばした山賊と、ギルドの人達が討伐して欲しい山賊は別物のはずよ。

少なくともここいら一帯に黒猫族の村や町なんて、存在しないのだから。


とは言え、クロにとっては山賊は皆、憎むべき怨敵なのかもしれない。

・・・だとしてもね。



「クロ・・・。

 あなたの気持ちはよくわかるわ。


 でもダメよ。

 勇者に山賊退治を・・・人殺しを望むなんて。」


「どうして!?」


「勇者はね、どんなに救いようのない悪党だったとしてもね。

 人を殺したくないのよ。

 嫌で嫌で仕方ないのよ・・・。」



それを理由に勇者に人殺しを望んではいけない。


「ご主人様は・・・人を殺すのが、嫌?

 ・・・・・・!!

 ・・・でもっ、けどっ!!」


「クロ。

 あなたは勇者のハーレム要員である以前にね。

 彼の仲間なのよ。


 仲間が本気で嫌がる事を無理強いするなんて、絶対にダメ。

 お願い・・・勇者の気持ちをわかってあげて。」


何故なら、勇者は心の底から人殺しを忌避しているのだから。


仲間が本気で嫌がる事を無理強いしてはいけない・・・。

こればっかりは上手にハーレム要員演じるよりも、優先すべき大切な事だと思うわ。


私の話を聞いて、クロが迷っている。

山賊を憎む気持ちと勇者を想う気持ちがせめぎ合っている。


「・・・ご主人様・・・。」


そして・・・。


「・・・うっ、うっ。

 うえーーーーーーーーん!!

 ごべんなざーーーーい!!

 あたし、ご主人様の仲間なのに、あたし・・・。」


「・・・良いの、良いのよ。

 あなたが山賊を憎むのは当然なんだから。」


勇者を想う気持ちが上回った。

わかってくれて良かったわ。


「けどもちろん、聖女やクロ、そして勇者自身の命を守るために手を掛けること・・・。

 それさえも否定する気はないわ。」


例え殺されようが、人殺しなんか止めるべきだ!!

な~んて、悪党に都合良すぎる理屈に従う必要は無いと思う。

とは言え。


「それでも可能な限り、人殺しは避けるべきだけどね。

 だって勇者はいつの日か元の世界へ帰るんだから。

 そんな経験をしてしまったら、真っ当に生きられないかもしれないわ。」


「・・・私としては、テンイに元の世界へ帰って欲しくないんだけど。

 だけどそういう理由があるんなら、見え透いた嘘なんか付かず、正直に話せば良かったんじゃない?」


見え透いた嘘って・・・。





「そうだよ!!」





えっ?


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読んで頂き、ありがとうございました。

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