第39話 偽りのハーレム編① 山賊討伐の依頼
「どうかこの町の人々を苦しめる、山賊の討伐依頼を引き受けて頂けないでしょうか?
お願いします!!」
ゴブリンの討伐クエストを無事、達成した転移勇者一行。
意気揚々とギルドへ戻った矢先、受付達から山賊の討伐依頼を引き受けるよう、頼まれてしまった!!
「山賊討伐・・・?
そう言えばやたら山賊がどうとか騒いでたわね。」
「山賊!!
この町でも山賊が悪さしてるの!?」
他人事のように呟く聖女と、何故か憤慨するクロ。
そして勇者は・・・。
「さ・・・山賊討伐だって!?
ねえ、王女。
この世界には『山賊』って名前のモンスターがいる・・・とか?」
「・・・そんな名前の『モンスター』なんていませんよ。
山賊とは罪の無い人々からお金や命を奪う『人間』の事ですわ。」
外見が人間なだけで、中身はモンスター以下だけど。
「や、やっぱり・・・。」
体を震わせながら、酷く蒼褪めた表情をしている。
「?・・・。
やけに怯えてるわね、テンイ。
そんなに怖がらなくてもへ~きよ。
あいつら、中途半端に厄介だけど、ヒドラよりはマシだから。」
「・・・。」
聖女から励まされても、勇者の表情は変わらない。
「いえ・・・。
あの山賊達はヒドラよりも危険な存在かもしれません。」
「えーーーー!?
嘘でしょ・・・。
ヒドラよりも危険な山賊なんて、いるわけないじゃない!!」
何故か異世界人からは軽んじて見られがちだけど、山賊は決して油断のできる相手じゃない。
魔物も巣食うような場所を根城に出来る程度の能力は持ち、しかも人間ならではの悪知恵も働く、危険な連中よ。
ただその一方、山賊の中に優秀すぎる人間はまずいない。
だってそこまでの実力があるなら、山賊よりも効率の良い生き方を選ぶもの。
なので聖女の言う通り、山賊はそれなりに手強いけど、中途半端な連中だと言えなくもないわ。
さすがに素人が挑むのは自殺行為だけど、ギルドや国が本気になれば割とどうにでもなっちゃうのよね。
・・・どうにでもなっちゃうはずなんだけど。
「多くの冒険者達もたかが山賊と高を括り、奴らへ挑みました。
・・・しかし無事、戻って来た者はほとんどいません。
幸運にも命からがら逃げ延びた方はいますが、口を揃えて言うのです。
あの山賊達は神々ですら裸足で逃げ出すほどの化物だと。」
どれだけ強い山賊なのよ・・・。
「もしも山賊の討伐に見事、成功しましたら、報酬として金貨5000枚をお支払いします。」
「「「金貨5000枚!?」」」
「これでも報酬としては安いのかもしれませんが、どうか引き受けて頂けないでしょうか?
私達はもう、あなた方に頼るしかないのです・・・。」
いやいやいやいや。
金貨5000枚で安いて。
本気なの?
「どうして山賊討伐如きで金貨5000枚!?
そんな大金、誰が払うのよ!??」
あまりに非常識すぎる大金に欲望駄々洩れの聖女すら困惑する始末。
「我々の町以外にもですね。
件の山賊に攫われたり、殺された方達が大勢います。
その中には貴族などの権力者も多く、金ならいくらでも払うから何とかして欲しい、と頼まれる程です。」
なるほど。
だからそんなに報酬が高いのね。
だけど受付の話が本当であれば、例の山賊達は最低でも並の権力者では歯が立たない程度の強さを誇る事になる。
・・・それでも相当おかしな話だけど。
「ねえ、王女。
これって前の偽ギルドの時みたいに私達を騙そうとしているのかしら?」
「う~ん・・・。」
聖女がそう疑うのも無理はないわね。
山賊退治で金貨5000枚なんて非常識すぎるもの。
・・・ただ。
「違います!!
私達は本当にあの山賊どもに苦しめられているのです・・・。」
「でもあの山賊達は強すぎる。
・・・俺達なんかじゃ手も足も出ない。」
「我々にはもうドラゴンやヒドラをも打ち倒す力を持つ、勇者様に頼る他ありません!!」
性質の悪い嘘で私達を騙そうとしているようには見えない。
本当に報酬に糸目は付けないから山賊達を討伐して欲しい、と。
彼らからはそういった思いがひしひしと感じられるわ。
「1つ、聞いて良いかな。
山賊討伐って、その・・・山賊を殺せ、ってこと?
捕まえて引き渡す~、とかじゃなく、て・・・。」
「もちろんです!!
・・・情けない話ですが、私達では奴らを拘束し続ける力もありません。
そもそも奴らには生かしておくだけの価値すら無い。
だから遠慮なく処分して頂ければ、と。」
「処分って。」
話を聞き、勇者が更に蒼褪める。
やっぱり彼、単純に山賊を怖がってるんじゃなくて・・・。
「ご主人様!!
山賊なんか、み~んなやっつけちゃおうよ。」
クロ!?
何よ、その過激発言は・・・。
「・・・まあ、別に構わないんじゃない?
いくら強くとも、テンイが本気を出せば山賊なんて余裕でしょ。
報酬だって魅力的だしね。」
聖女も山賊討伐を引き受ける気になりかけている。
彼女にしては珍しく、報酬が・・・って言うより、周りの必死さに押されてって感じだけど。
まずい、まずいわ!!
このままじゃ・・・。
「そうだ・・・ここは異世界なんだ。
日本とは違う。
人を殺したくないなんて、そんな甘えは許されない!!」
勇者?
「山賊くらい。
悪人くらい・・・。
平気で殺せる人間じゃなきゃ、この世界を生き抜けないんだ。」
彼の目、まるで大罪を犯す前の人間だわ。
恐怖を狂気で無理矢理、ねじ伏せようとしているみたい・・・。
「だから・・・やるんだ。
俺は、殺るんだ!!」
・・・・・・・・・・・・。
「私、やだな~・・・山賊討伐なんて。
だって怖いんだもん♪」
私は・・・『私達』は山賊討伐なんてやりたくない。
やるわけにはいかない!!
だから勇者が場に押され、依頼を引き受けないよう、振る舞う事にしたわ。
「「「ええええええええ!!??」」」
けれど私の態度に勇者達が一番驚きを示している。
・・・何よ。
その反応は!?
「・・・怖いって。」
「ねえねえ、勇者様。
おねが~い、山賊討伐なんて引き受けないで~♪
だってもし山賊に攫われたら、って思うと私、泣いちゃいそうで・・・。」
普通の女の子なら当たり前であろう感情を語り、瞳を潤ませながら懇願したわ。
なのに勇者は私に向かって、未知の妖怪でも眺めるかのような眼差しを向けていたの。
えっと・・・。
いくら相手が自分を誘拐した男の娘だからって、その反応は酷すぎない?
とは言え。
「そ、そうだね!!
いや~、王女が怖がるんならしょうがないな~。
この町の人達には悪いけど、山賊討伐の依頼は断ろっか。」
渡りに船と思ったのでしょう。
私の態度を訝しく感じつつも、強引に依頼を断った。
「ゆ、勇者様!!
・・・しかし。」
「悪いけど、仲間の命には代えられないしね。
さっ、今日はもう遅いから早く宿へ戻ろっか。」
山賊討伐を強要されるのを恐れてか、勇者は急ぎ冒険者ギルドを出て行く。
「あっ!?
ちょっと待ってよ。
テンイ。」
「・・・。」
慌てて彼を追いかける聖女と、何故か私を睨み付けるクロ。
けどまあ、山賊討伐の依頼はなんとかキャンセル出来そうね。
もっとも私は最初から勇者に山賊討伐なんてさせるつもりはなかったけど。
だって彼に・・・転移勇者に山賊討伐なんてさせたくなかったから。




