第37話 ゴブリン討伐編③ チート能力縛り
ゴブリンの討伐依頼を引き受けた転移勇者とそのハーレム達。
私達は今、依頼書に記されている目的地まで来ていた。
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「今度は大丈夫だよね・・・。
ヒドラみたいな怪物と出くわさないよね?」
「・・・そんな事が頻繁に起きても困りますって。」
前回のクエストのトラウマからか、勇者は斜め上の心配事を呟き続ける。
その怪物を一撃で倒したの、忘れちゃったのかしら?
それ以前に今回の冒険者ギルドの受付はまともそうだったしね。
さすがにゴブリン討伐と偽ってヒドラの元へ向かわせる~、な~んて鬼畜行為、しないはずよ。
「!??
あわ、あわわわ・・・。」
?
クロったら、どうしたんでしょ?
急に怖がり出して。
勇者のビビりが移ったのかしら?
「ちょっと、クロ。
魔物と出会う前から怖がって、どうするのよ?」
これには聖女も呆れ顔ね。
・・・しかし。
「怖いよ、怖いよ~。」
クロは増々怖がるばかり。
?・・・。
「「「グギャギャーーーー!!!!」」」
あっ!?
茂みから野生のゴブリンが現れた!!
その数は依頼書に記されていた通り、ちょうど十体。
「うわっ!?
あれがゴブリンか!!
この如何にもモンスターって感じ、グロいなぁ。」
ヒドラの時ほどではないにせよ、勇者も初めてのゴブリンに少し引いている。
ちなみにゴブリンは小鬼のモンスターで、尖った耳と緑色の胴体が特徴よ。
体は小さく、腕力も知能も人間で例えるなら、普通のお子様と大差ないわ。
1VS1なら、クロだって勝てるかもしれない。
しかし群れると侮れない連中で、油断した冒険者が多数のゴブリンに蹂躙される・・・。
な~んて話も珍しくはないの。
「怖いよ、怖いよ~。」
それにしてもクロ、妙なタイミングで怖がりだしたわね。
・・・もしかして。
「「「グギャギャーーーー!!!!」」」
って、今はのんきに考察なんかしてる場合じゃないわ。
弱そうに見えたからか、聖女やクロに向かって、七体ものゴブリンが一斉に襲い掛かった!!
が。
「バリア!!」
「「「グギャ!?」」」
聖女は防御魔法でゴブリンの襲撃を容易く防ぐ。
『バリア』はランク1の防御魔法で、ヒドラ戦で使用した『フォース・バリア』と比べ、防御力は圧倒的に劣る。
けれどその分、魔力の消耗は少なくて済むわ。
それにランク1の防御魔法とは言え、ゴブリンの攻撃くらいなら余裕で耐えられるしね。
「グギッ、グギッ!!」
「ガ~・・・!!」
けれどゴブリンもムキになっているのでしょう。
バリアを壊そうと、諦めずに攻撃を続けているわ。
「うわぁああああんんんん。
怖いよ、怖いよ~・・・。
・・・助けて、ご主人様~!!」
弱小ながらも、モンスターの凶悪な姿にクロはすっかり取り乱している。
いくらバリアのおかげで安全とは言え、戦い慣れていない人間からすれば、そりゃ恐ろしいでしょうね。
けれど・・・。
「クロ。
クエストに行く前の元気はどこへ行ったの?
この程度のモンスターに怖がってちゃ、テンイと一緒に冒険なんて出来ないわよ。」
そんなクロに聖女が発破を掛ける。
「!!
・・・わかった。
あたし、ゴブリンなんかに怖がらない!!」
「その意気よ、クロ。
安心なさい。
私の防御魔法はゴブリン如きに破れたりしないから。」
聖女の言葉を受け、クロは怯えながらもゴブリンに屈しないよう、抗う。
この様子なら彼女達は大丈夫そうね。
大半のゴブリンが聖女達へと向かっている隙に、私と勇者でゴブリンの数を減らすとしましょう。
「グギャギャーーーー!!!!」
一体のゴブリンが私に襲い掛かって来たので、魔法を使って迎え撃つ!!
「サンダー!!」
「グギャーーーー!??」
私はランク1の雷魔法を駆使し、ゴブリンを一撃で絶命させた。
「おおおっ!!!!
雷の魔法かぁ・・・カッコいいなぁ。
俺も使いたいなぁ。」
「・・・ダメですよ、勇者様。
今回はスキルや魔法に頼らず、あなたがどれほど戦えるか、確かめるのが目的ですから。」
「わ、わかってるよ。」
そもそも勇者が雷魔法なんて使ったら、あまりの威力に天変地異の前触れか!?
って、騒がれそうだわ。
「うん、そうだ・・・。
これでも俺は元の世界からずっと鍛え続けてきたんだ。
例え、チート能力を使わなかったとしても、ゴブリンなんかに負けるものか!!」
覚悟を決めた勇者が一体のゴブリンに向かって、剣を構える。
「グギャ!?
グギャギャギャ・・・。」
彼の構えには隙が全く見当たらず、その姿は正に剣の達人のよう。
剣を向けられたゴブリンは迂闊に飛び込む事も出来ない。
・・・『剣を向けられたゴブリン』は。
「勇者、危ない!!」
「グギャギャーーー!!!!」
「ええっ!?」
勇者が一体のゴブリンに集中している隙を突き、もう一体のゴブリンが彼に襲い掛かったのだ!!
これも鍛錬と実戦の違いね。
基本的に鍛錬による戦闘は1VS1になりがちで、複数VS複数で戦う事は少ないもの・・・。
特に勇者のいた世界では、鍛錬による戦闘の大半が1VS1だと伝えられている。
けれど。
「う、うわぁああああああああ!!」
「グギャ!??」
勇者がゴブリンのこん棒で殴られる前に、彼の剣が相手を斬り倒していた!!
完璧に不意を突かれたのに、敵より早く攻撃を命中させるなんて、大した反射神経だわ。
「ぜぇー、ぜぇー・・・。」
「グギ・・・グギャギャーーー!!!!」
だけど、彼の気が動転している今こそチャンスだと思ったのでしょう。
剣を向けられていたゴブリンが勇者に突撃する!!
「へっ!?
う、うぉおおおお!??」
ギィン!!
「ギ・・・?」
ところが勇者の剣はゴブリンのこん棒を易々と斬り飛ばした!!
・・・彼の装備している剣は安物だけど、それでもゴブリンの持つこん棒よりは質が良い。
加えてお互いの剣術レベルにも差がありすぎるし、こうなるのは必然ね。
「はぁああああ!!!!」
「グギャア!??」
武器を失って呆然としているゴブリンを勇者の剣が一刀両断した!!
「こ、怖かった・・・。」
「勇者様!!
今回は敵の方が数が多いのです。
一体相手に集中しすぎると、危険ですわ。」
「そうみたいだね。
うん。
相手がゴブリンでも侮れないや・・・。」
とは言え、ヒドラの件を除くと、初の実戦なのにこれほど動けるのは大したものだわ。
やっぱりこの勇者、性格こそ頼りないけど、チート能力抜きで見ても、只者ではない。
これで倒したゴブリンは計三体。
あとは聖女達に絡んでいるゴブリンをなんとかしないと。




