表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/210

第34話 お勉強編⑦ 心の修行

「本当に凄い魔法やスキルを修得すれば、自信を持てるのでしょうか?」


「・・・えっ?」



強くなりたい勇者から、凄い魔法やスキルを教えて欲しいと頼まれた。


私はパワーこそ弱いものの、多種多様な魔法・スキルを修得している。

そして勇者のセンスであれば、教えたら教えた分だけあっさりと自分のものとするでしょう。

そうなれば、勇者の『力』はより一層強くなる。


けれど、それで『心』まで強くなれるのだろうか?


「一理あるわね。

 『力』が強くなる事で『心』が強くなるケースは多いけど、テンイの場合『力』自体はもう十分強いもの。

 『心』を強くしたいなら、もっと違うやり方の方が良いんじゃないかしら?」


「私も聖女の意見に賛成です。

 そもそも勇者様はどういう風に『心』を強くしたいのですか?」


「それは・・・。

 こう、チンピラやモンスター相手にビビらず立ち向かいたい、とか、何があっても取り乱したり落ち込んだりしたくない、とか?

 そんな感じの強さ、かな??」


自分でも考えがまとまっていなかったのか、しどろもどろに答える勇者。

まあ、なんとなく納得出来るわね。


けどやっぱり、そういう方向で強くなりたいのであれば、魔法やスキルをたくさん身に付けるってのは、やり方として不適切なような・・・。





「?~。

 ご主人様、とっても強いよ~。」





・・・クロ?


「あはは、ありがとう。

 でも俺はね、チート能力のおかげで力が強いだけなんだ。

 心はこの世界へ来る前と同じ、弱いままさ・・・。」


「?~。

 心も強いと思うけどなぁ。


 だってあたしを助けようとヒドラに立ち向かった人、ご主人様だけだもん。

 他にヒドラに立ち向かおうとした人、誰もいなかったもん!!」


あっ!?


「それもそうよね。」


「・・・勇者はヒドラが怖ろしいモンスターだって理解した上で、クロを助けるために立ち向かったわ。

 手の施しようがない臆病者には真似出来ない芸当よ。」


例の本には、異世界人はチート能力があるせいか、ドラゴンなどにさえ怖がったりしない事が多いとある。

危険な目に合わないと確信出来るからこそ、勇敢な人間でいられるのかもね。


けど私は恐怖しつつも、誰かのために立ち上がれる人の方が強い心の持ち主だと思う。


「クロ・・・。

 皆。」


とどのつまり。


「勇者の心には強い部分も確かに存在する。

 でも今はまだ、心の強さを思うように引き出せないって所かしら?」


「なるほど。

 勇者はまだ若いからね。

 精神が未熟って事かしら?」


聖女ったら、おばさんじゃないんだから。

勇者を若いなんて言ってるけど、聖女と勇者の年齢差はほとんど無いでしょ。


まあ、それはともかく。


「では、精神を鍛える修行が良いのでしょうか?

 ・・・そんな修行法、聞いた事もありませんが。」


「精神を鍛えるための修行・・・か。」


何やら考え込んでしまう勇者。

それにしても・・・。



「勇者様は相当、強くなる事に拘りがあるようですね。

 だから『魔法やスキルの威力を通常の数十倍、数百倍にする』チート能力が身に付いたのかもしれません。」


「ええっ!?

 それって、何か関係あるの?」



あら?

勇者は知らないんだっけ。


「異世界人がどのようなチート能力に目覚めるかは、本人の資質と願望によって大きく左右されます。

 基本的に戦闘向けのチート能力に目覚める方は大抵、強くなりたい気持ちが人一倍あるのです。」


「じゃあ俺がこんな危険なチート能力に目覚めたのも、心の奥底で強さを望んでいたから・・・。」


「別に勇者様が悪いわけではありませんよ?

 罪無き異世界人を誘拐しようなどと考える愚か者さえいなければ、チート能力に目覚める事は無かったのですから。」


けど勇者の世界ってとっても平和だって伝えられているのに、強さに拘る人達が案外多いみたいなのよね。

不思議だわ。



「俺は向こうの世界でも、ずっと自分の弱さに打ちのめされていて・・・。

 強くなりたい、ってずっと願い続けてて、それが叶ってもなお、心は弱いままで・・・。

 ・・・。」



あらら、悩み始めちゃった。

思春期って奴かしら。


「・・・・・・・・・・・・。

 よしっ!!」


あら?


「ありがとう、皆。

 相談して良かったよ!!」


「えっ!?

 あの~、魔法やスキルは教えずとも良いのですか?」


「大丈夫。

 必要になったら、その時教えてもらえば良いから!!」


それで本当になんとかしちゃう勇者、実はとんでもない大物じゃないかしら?

妙にすっきりした表情となった勇者は、急いで私達の部屋から出て行った。


「なんだったのかしら・・・。」


「誰かに相談~なんて、そんなものでしょ。

 悩みを解決出来て良かったじゃない。」


「ご主人様。

 悩み、無くなって良かった~。」


それもそうね。

しかし勇者は一体、今の相談で何を閃いたのやら。



********



あの後、クロのお勉強の続きを行うも彼女、かなり眠そうにしてたわ。

なので一旦、勉強は切り上げて、今日はもう休むことにした。


「むにゃむにゃ・・・。」


クロったら、可愛らしい寝顔ね。

ふふっ。


「ガ~っ、ガ~っ!!」


・・・聖女ったら可愛らしさの欠片も無い、豪快ないびきね。

こんな姿を見たら、百年の恋だって冷めるんじゃないかしら?


さて、私もトイレだけ済ませたら、もう寝ましょうか。

静かに部屋を出た後、トイレ目指して宿屋の中を歩き回る。



ぶんっ、ぶんっ!!



・・・何の音かしら??

窓の外から聞こえるわ。


ふと気になって覗いてみると、勇者が真剣な表情で剣の素振りを行っているのが見えた。

これは・・・魔法やスキルは使ってなさそうね。

純粋な剣の修行みたい。


相変わらず綺麗な太刀筋だけど、どうしてこんな時間に剣の素振りをしているのかしら?



・・・・・・。



あっ!!

これが勇者の閃いた精神を鍛えるための修行!?


う~ん・・・。


私には何故、剣の素振りが精神を鍛える事に繋がるのかわからない。

一応、体を鍛えれば、心も少なからず鍛えられるわけだし、そういう意味では効果がありそうだけど。


疑問に思う所は多々あるも、勇者は一心不乱に剣を振り続けており、彼なりに強くなろうと足掻いているのが見て取れる。



・・・・・・。



今の勇者は力こそ最強でも、心は最強からは程遠い。

でもいつの日か心だって最強になれる・・・と良いわね。


私は心の中で勇者を応援しながら、彼の素振りを眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ