第28話 お勉強編① ハーレム要員を目指す理由
異世界より転移されし勇者とそのハーレム達に新たな仲間、黒猫族のクロが加わった。
クロが正式に仲間になった後・・・。
さすがにもう夜が更けたので、今日は宿で一泊する事になった。
勇者は一人部屋、私と聖女、クロは三人部屋よ。
聖女は勇者も私達と同じ部屋に・・・って、誘ったんだけどね。
勇者がやたら恥ずかしがっちゃって、結局は男女別に部屋が分かれたの。
私としては別室の方が都合が良かったから、別に構わないのだけど。
勇者と同じ部屋で寝るのが嫌ってわけじゃないけど、彼には聞かれたくない事をクロに教育するつもりだったからね。
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「クロ。
今日はもう遅いけど、少しだけハーレムのお勉強をしましょうね。」
「は~い。」
「ハーレムのお勉強って何よ・・・。
相変わらず、変な王女ね。」
茶々を入れないでよ、聖女ったら。
立派なハーレム要員になるためには、学ばなければいけない事がたくさんあるのよ。
「大体ハーレム要員なんて、強引になるようなものじゃないでしょ?」
聖女にとっての常識はそうなのかしら?
「けどなるべく、クロには立派なハーレム要員になって欲しいの。
・・・もちろんまだ子供だから、大人の遊びなんかはやらせないけどさ。
心にも体にも良くない影響を与えそうだし。」
ただまあ、勇者の態度を見る限り、クロの事はお子様としか見ていないようね。
今はその方がお互いにとって良いと思うけど。
「さしずめ、ハーレム見習いってとこかしら。
でもなんであなた、クロをハーレム要員にしたいの?
無理にハーレムの真似事なんかさせなくても、テンイはきっと受け入れてくれるわよ。」
聖女の意見も間違ってはないわ。
将来的にはともかく、どうせしばらくはクロを一人の女として見たりはしないでしょうから。
でもね。
「名著『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』に書いてあったの。
転移勇者(♂)は自分の女仲間が魅力的なハーレム要員である事に至福の喜びを感じるって。
だからクロには立派なハーレム要員になってもらいたいの。
そして元の世界に帰れず、悲しい思いをしている勇者を幸せにして欲しいのよ。」
「・・・!!
ご主人様、あたしが立派なハーレム要員になったら、喜んでくれるの!?」
「もちろん!!」
「なる~♪
頑張って立派なハーレム要員になる~。
んでもって、あたしを助けてくれたご主人様に恩返しするの~!!」
よしよし。
クロは良い子ね。
「・・・目的だけを聞くと、凄く立派に思えるから困るわ。
手段がおかしすぎるんだけど。
じゃああんたが中途半端にハーレム要員っぽく振舞ってるのも、クソ王に誘拐されたテンイを慰めるため?」
『中途半端』に『クソ王』って・・・。
聖女も大概、口が悪いわね。
「それもあるけど、私はそこまでお人好しじゃないわよ。
私なりの打算があって、ハーレム要員を演じてるんだから。」
「打算・・・って、もしかして王女!!
私と同じ理由でテンイの正妻を目指してるの!?
お金や地位、更にはテンイの力さえ自分のものにするために・・・。」
「?~。」
・・・改めて聞くと、聖女がとんでもない悪女に思えちゃうわね。
だけど打算的な女が男に媚びを売る理由なんて、そんなものでしょう。
恵まれた男のお気に入りになって、甘い汁を吸いたい的な動機ね。
男の見た目が良ければ、プラスでエッチな動機も加わるんでしょうけど。
でも私はそんな前向き(?)な動機で、ハーレム要員を演じているわけではない。
「違う、違う。そうじゃないわ。
聖女は知ってると思うけど、私って勇者に凄く憎まれてるでしょ?
だから優秀なハーレム要員として振舞えば、憎しみも少しは収まってくれるかな~・・・って。」
「あ~、そういう意味・・・。
王女はどこまで行っても王女ね。」
「???
王女様、ご主人様に憎まれてる・・・の?
どうして~?
全然、そんな風に見えな~い。」
実は私も、本当に勇者は私を憎んでいるのか、疑問に思う事がある。
けどそれは多分、変な勘違いでしょうね。
だって勇者が私を憎まないはずないのだから。
「あのね、クロ。
勇者を無理矢理この世界に誘拐したのは、ジャクショウコクの王様。
・・・私の父親なの。」
「!?
そ、そんな・・・王女様のお父さん、酷い!!
・・・あっ、ごめんなさい・・・。」
なんでクロ、謝ったのかしら?
ひょっとして、私の父を貶したから??
「別に謝らなくて良いのよ、クロ。
私の父が勇者に酷い事をしたのは事実なんだから。
全く・・・罪も無い少年を無理矢理誘拐するなんて、愚かしいにも程があるわ!!」
適当な理由を付けて、罪も無い少年を誘拐し、奴隷のように扱おうだなんて・・・。
自分の父親がそんな愚かしい行為に手を染めたと思うと、情けないったらありゃしない!!
「・・・あれ~?
でも、ご主人様を誘拐したのって、王女様のお父さんでしょ~?
どうして王女様が憎まれるの~?」
「確かに私自身は勇者の誘拐に加担していないわ。
けどね。勇者からすれば私は、自分を異世界に誘拐した男の娘でしかないの。
被害者は加害者の肉親を嫌い、憎むのが常識だから・・・。」
例えばの話、自分の最愛の人を殺した相手に子供がいたとして、その子供に好感を持てるかと問われたら・・・。
ほとんど全員が好感なんか持てるはずが無い、むしろ最愛の人を殺した相手と同じようなものだ、って考えるでしょうね。
理不尽かもしれないけど、それは被害者からしたら当たり前の感情だわ。
だから勇者が私を憎んでいたとしても、それは仕方のない事なのよ。
「お話、難しくてわかんないよ~・・・。
それにあたし、ご主人様が王女様を憎んでるなんて、ちっとも思えないもん!!」
・・・やっぱりお子様にはややこしい話だったかしら?
混乱するクロに聖女が少し呆れた様子で語り掛ける。
「そんなに深く考えなくて良いのよ、クロ。
王女はね、クソ王・・・ごほん。お父さんに呪いを掛けられちゃったの。
『ヒガイモウソウ』って名前の呪いにね。」
「呪い!?」
「ええ、呪いよ。
そのせいで、王女は自分がテンイに憎まれてるんだって、思い込んじゃってるの。
・・・可哀そうでしょ?」
ちょちょ、ちょっと聖女?
クロに何、吹き込んでるのよ!?
「王女様・・・可哀そう。」
「いや、クロ。
あのね?」
「聖女様!!
聖女様の力で王女様の呪い、解けないの~?」
ど、どうして常識論が呪い云々って話に変わっちゃうの!?
「私の力じゃ無理だけど、テンイなら・・・。
テンイの真心が王女に届けば、きっと呪いは解けるはずよ。
けどそれには長い、とても長い時間が必要になるの。
王女の呪いが解けるその日まで、温かい目で見守ってあげましょうね?」
「うん!!
わかった~。」
聖女のとんでも理論をクロはあっさりと受け入れてしまった・・・。
「ちょっと、聖女!!
なんでクロに妙な嘘を吹き込むのよ!?」
「良いじゃない、別に。
どうせあんたの事情、馬鹿正直に話したって、クロは納得しないから。」
そりゃそうかもしれないけど。
子供には少し複雑な人間心理だもの。
「・・・だからって、呪われた扱いしなくてもさぁ。
まあ、騙しちゃったものは仕方ないけど。」
騙した所でクロが困るかと言われたら、多分困らないでしょうし。
「騙したって言っても、1割くらいでしょ?
さっきの話は9割方、事実だもの。」
「9割方、事実って。
・・・そんなはずないでしょ。」
「はぁ・・・。
王女、テンイのためにも早く『ヒガイモウソウ』を解きなさいよ。
この呪いはあなた自身が考えを改めないと、絶対に解けないからね!!」
・・・呪い、かぁ。
本当に呪いなら、良かったのにねぇ。
私だって何も、勇者に恨まれたいわけじゃないのだから。




