第1話 序章① 転移勇者召喚
王の間に設置された五芒星が眩く光り続ける。
その光景を王や大臣、たまたまこの国に立ち寄っていた聖女達が固唾を飲んで見守り続ける。
光がおさまった後、そこには呆然とした表情の金髪の美少年が佇んでいた。
異世界召喚。
『召喚の転移陣』と呼ばれる希少な道具を使い、『地球』と呼ばれる異世界から『日本人』を召喚する儀式。
日本人は地球の住民で、チートと呼ばれる神をも凌駕する物凄い力を秘めている。
この世界では彼らの事を転移勇者と呼んでいた。
転移勇者の力を借り、吹けば飛ぶような小国が世界有数の大国へと発展した例も存在する。
・・・けどこの国の第四王女である私、デルマは転移勇者を召喚する事に反対したの。
父であるジャック国王に何度も直談判を繰り返し、召喚を辞めるよう、訴え続けた。
これまではずっと物静かな王女として過ごしてきたから、父も周りの皆も、そんな私の態度に驚いていたわ。
でも結局、転移勇者の召喚が中止される事は無かった。
「こ、ここは・・・。」
「異世界より召喚された勇者よ。よくぞ参られた。
わしの名はジャック。ジャクショウ国の王じゃ。」
「えっ、えっ!?」
「この世界の人間は魔王軍により、危機に瀕しておる。
勇者よ、世界を救うために魔王達を倒すのじゃ!!」
「・・・何それ?
どういう事??」
国王がさっそく魔王討伐を命じるが、彼は地球からこの世界に召喚された事すらよく理解していないようね。
戸惑った表情で周りを見渡すばかり。
召喚されたばかりの勇者が示す反応は、いくつかのパターンに分かれると伝えられている。
①召喚者の要望に素直に応じる者。
②召喚者の言葉に従わず、好き勝手しようとする者。
③召喚した者達を敵とみなし、暴れまわる者。
④召喚された事に戸惑い、元の世界へ帰すよう訴え続ける者。
その中でも④のパターンが圧倒的に多いようね。
①~③のパターンの人は精神が相当参っているか、元の世界を心底嫌っている場合くらい。
・・・普通に考えたら、当たり前の事なんだけど。
「幸いにも今、この国には素晴らしい力を持つ聖女が滞在しててのう。
彼女と力を合わせれば、魔王すら討伐できるはずじゃ。」
「勇者様。
この美しい世界を守るため、力をお貸しください。
聖女として、私も微力ながら助力させて頂きます。」
美しい聖女が穏やかな笑顔で勇者に声を掛ける。
でもなんか、営業スマイルのような感じがするのよねー・・・。
・・・疑いすぎかしら?
それでも平常時なら、あの聖女に微笑みかけられて、心奪われない男はいないでしょう。
だけど混乱している勇者には彼女の笑顔も届かない。
「な・・・なんだよ、それ。
訳が分からない!!
帰してくれ・・・元の世界に帰してくれよ!!!!」
それどころか興奮して、元の世界へ帰すよう叫び続けるばかり。
まあいきなり召喚された挙句、こんな事を言われても、受け入れられなくて当然よね。
「おい、なんだ!!
王に向かってその口の利き方は!?」
しかし王の護衛兵が信じられない事を言い出した。
い・・・いやいや!?
彼は異世界から無理矢理この世界に連れて来られたのよ?
礼儀正しく振舞えなんてそんな心の余裕、持てるわけないじゃない!!
「なんと無礼な・・・。
身の程を弁えよ、異世界人め!!」
それどころか兵士達は勇者に向かって、手に持った槍を突き付ける始末。
「ひっ!?
い、嫌だ。やめろ。
・・・まだ死にたくない!!」
恐怖に駆られた勇者から、とんでもない魔力の波動を感じた。
ま、まずい!!
「兵士達、やめなさい!!
早くその槍を下ろして!!!!」
「王女様!?
し、しかし・・・。」
「よく見なさい!!
恐怖のあまり、勇者様の魔力が暴走しかけている・・・。
これ以上、彼に近づくと消し飛んでしまうわよ!!」
「「「ひ、ひえーーーー!!!!」」」
ようやく事態に気付いた兵士達が、慌てて勇者から距離を取る。
だが死の恐怖で錯乱している勇者の魔力の暴走は止まらない!!
・・・こ、このままじゃ私達、皆死んじゃう。
「どうか落ち着いて下さい、勇者様。
お願いします!!」
必死になって呼びかけるも、その声は勇者に届かない。
「う、うわああああああああああああああああ!!!!!!!!」
暴走した勇者の魔力は、王の間を跡形もなく吹き飛ばした。
レベル1のハーレム要員
~完~
まだ続きます。