第27話 第3のハーレム編⑤ ナデポ出来ないハーレム要員
「き、君・・・えっ、えっ?
嘘だろ!?
まるで別人みたいだ。」
あっ!!
勇者、帰って来てたのね。
「はぁ~~~。
やたらと可愛くなってて、びっくりしたよ。」
会ったばかりの時のクロって、痩せてて汚れてたものねぇ。
・・・主に生活環境が酷すぎたせいで。
実は可愛い、なんてわからなかったでしょう。
『転移勇者は可愛い女の子を見境なく助けようとする』ってのは有名な話よ。
なんせ例の本で調べるまでもなく、知られているくらいだもの。
でも今回の勇者は、良くも悪くも『ノリと勢い』でクロに手を差し伸べたみたいね。
まあ、私や聖女も『ノリと勢い』で賛同したわけだけど。
人助けの動機なんて、そんなものよね。
「あ、あの・・・。」
ん、クロ?
「あたしも勇者様の仲間に入れてくだ・・・さい。
足手纏いにならないよう、精一杯頑張りますから・・・。」
「うん、わかった!!
これからよろしくね、え~と・・・。
・・・あっ、そう言えば君、名前は?」
ああ、勇者はまだクロの名前、聞いてなかったわね。
「クロ・・・。」
「クロ、か。良い名前だね。
俺はテンイ。
これからよろしくね、クロ。」
「!!」
自己紹介をしながら、勇者はクロの頭を優しく撫でる。
・・・こ、これはナデポのチャンスよ。
さあ、クロ。ナデポなさい。
勇者の好感度が爆上がりだから!!
頑張って、クロ・・・。
「・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・うっ。
うぇええええええええんんんんんんんん!!!!」
えぇええええ??
ちょ、泣くの!?
泣き叫んじゃうの!??
「わぁああああああああんんんんんんんんん!!!!
お父さん、お母さん・・・。
うわぁああああああああああああああああ!!!!」
「ちょっ!?
突然、どうしたんだい?
クロ!!」
クロの様子を見るに、ナデポに失敗する可能性も考えていたわ。
けどまさか、泣き叫ぶとは思わなかった・・・。
・・・実は勇者に撫でられるの、本気で嫌だったのかしら?
でも彼にだって悪気は無いんだから、泣かなくても良いのに・・・。
「どうしたのよ、クロ?
いい加減、泣き止みなさい。」
「わああああああああ!!!!」
泣き続けるクロに勇者は困惑するばかり。
まずいわね。
このままだと勇者が不機嫌になっちゃうかもしれない。
「クロ、勇者をよく見なさい・・・。
彼、とんでもないイケメンなのよ。
売れっ子ホストにタダでちやほやされると思えば、むしろ役得でしょうが!!」
「ちょっと王女!!
俺の事、褒めてるの?
バカにしてるの??」
急に勇者まで騒ぎ出し、場は混乱する一方。
「・・・ん~、もしかして。
こらこら。
テンイも王女もいい加減、落ち着きなさい。」
ただ一人、冷静だった聖女がクロに向かって問い掛ける。
「クロ、どうしてそんなに泣いてるの?
テンイに撫でられるの、そんなに嫌だった??」
「・・・ううん、違うの。
あたし、誰かに撫でられるなんて思ってなかったの。
だってあたしを優しく撫でてくれたお父さん、お母さん。
山賊に殺されちゃったから!!」
あっ!?
「あたしも山賊に捕まって、売り飛ばされて、奴隷になって・・・。
殴られて、蹴られて、ひもじくて。
けど誰もあたしに優しくなんてしてくれなかった!!」
クロ・・・。
酷い目に合っていたのはわかってたけど、改めて聞くと胸が痛くなる。
「もうお父さんにも、お母さんにも会えない。
村にだって帰れない!!
そう思ったら、涙が止まらなくなって・・・。
うぇええええんんんん!!!!」
「・・・そうだったの。
辛かったわね。」
聖女は悲しげな表情でクロを慰め、そして私達の方へと振り返る。
「安心なさい。テンイ、王女。
クロはテンイに撫でられたのが嫌で泣いたわけじゃないから。
・・・ずっと寂しかったのよ。」
「そうだったの。
クロ・・・ごめんね。
騒いだりして。」
8歳の女の子がそんな目に合っていたとしたら、寂しさの余り、泣き喚いても仕方がないわ。
なんとか彼女を慰めて上げられないかしら・・・。
「大丈夫だよ、クロ。」
「えっ?」
勇者?
「俺もね、悪い王様に誘拐されちゃったんだ。
そのせいで、家族や友達と離れ離れになってね。
知らない世界で自分の家に帰れなくもなって、凄く寂しかった。」
「・・・ご主人様も寂しかったの?」
「うん、けどね。
動機はともかく、王女やエミリーが俺の傍にいてくれたんだ。
彼女達はね、とっても良い人達なんだよ。」
「「うっ!?」」
心が痛い・・・。
なんせ聖女は打算で勇者に付いて来ただけ。
私に至っては、罪を償うために一緒にいるようなものだから。
なのに勇者は気まずげな私達に向かって、穏やかな笑顔を向ける。
・・・どうしてかしら?
あの笑顔を見ると、罪が全て許されたような気になってしまう。
戸惑う私を尻目に、勇者はクロに向かって語り続ける。
「クロもね、一人じゃないよ。
これからは俺が・・・俺達が一緒だから!!
・・・例え、知らない世界で迷子になったとしても大丈夫。
皆、一緒なら大丈夫だから・・・。」
「・・・う、うわぁああああああああ!!!!
ご主人様ーーーー!!
えっぐ、ひっぐ・・・。」
そしてとうとうクロは、彼の胸に飛び付いて泣き始めた。
そんな彼女を勇者は優しく受け止める。
私、クロは勇者と一緒にいない方が良いと思ってた。
・・・転移勇者は神に匹敵する力を持つ。
そんな人と一緒にいても、幸せになれるはずないと・・・。
けれど、その考え方は間違っていたのかもしれない。
「転移勇者だから・・・いや、彼だから。
クロの気持ちをわかってあげられたんだわ。」
彼も悪い人達のせいで、元いた世界から引き離されてしまった。
だからこそ、境遇の似ているクロに寄り添えたのかもしれない。
「チート能力だけじゃない。
彼の優しさがクロを救ったのね。」
「そうね、王女。
例え力があっても、無くても・・・さ。
苦しんでいる人に手を差し伸べるのは良い事だと思うわ。」
「・・・・・・!!!!」
あれ?
一瞬、勇者が凄く嬉しそうな顔で私達を見ていたような・・・。
でも彼、まだクロに寄り添ってるみたいだし。
気のせいかしらね。
こうして、勇者テンイのパーティに三人目のハーレム要員が加わったの。
私達の旅はまだまだこれからよ。




