表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/211

第27話 第3のハーレム編⑤ ナデポ出来ないハーレム要員

「き、君・・・えっ、えっ?

 嘘だろ!?

 まるで別人みたいだ。」





あっ!!

勇者、帰って来てたのね。


「はぁ~~~。

 やたらと可愛くなってて、びっくりしたよ。」


会ったばかりの時のクロって、痩せてて汚れてたものねぇ。

・・・主に生活環境が酷すぎたせいで。

実は可愛い、なんてわからなかったでしょう。


『転移勇者は可愛い女の子を見境なく助けようとする』ってのは有名な話よ。

なんせ例の本で調べるまでもなく、知られているくらいだもの。


でも今回の勇者は、良くも悪くも『ノリと勢い』でクロに手を差し伸べたみたいね。

まあ、私や聖女も『ノリと勢い』で賛同したわけだけど。

人助けの動機なんて、そんなものよね。





「あ、あの・・・。」





ん、クロ?


「あたしも勇者様の仲間に入れてくだ・・・さい。

 足手纏いにならないよう、精一杯頑張りますから・・・。」


「うん、わかった!!

 これからよろしくね、え~と・・・。

 ・・・あっ、そう言えば君、名前は?」


ああ、勇者はまだクロの名前、聞いてなかったわね。


「クロ・・・。」


「クロ、か。良い名前だね。

 俺はテンイ。

 これからよろしくね、クロ。」


「!!」


自己紹介をしながら、勇者はクロの頭を優しく撫でる。


・・・こ、これはナデポのチャンスよ。

さあ、クロ。ナデポなさい。

勇者の好感度が爆上がりだから!!


頑張って、クロ・・・。





「・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・うっ。

 うぇええええええええんんんんんんんん!!!!」





えぇええええ??


ちょ、泣くの!?

泣き叫んじゃうの!??


「わぁああああああああんんんんんんんんん!!!!

 お父さん、お母さん・・・。

 うわぁああああああああああああああああ!!!!」


「ちょっ!?

 突然、どうしたんだい?

 クロ!!」


クロの様子を見るに、ナデポに失敗する可能性も考えていたわ。

けどまさか、泣き叫ぶとは思わなかった・・・。


・・・実は勇者に撫でられるの、本気で嫌だったのかしら?

でも彼にだって悪気は無いんだから、泣かなくても良いのに・・・。


「どうしたのよ、クロ?

 いい加減、泣き止みなさい。」


「わああああああああ!!!!」


泣き続けるクロに勇者は困惑するばかり。

まずいわね。

このままだと勇者が不機嫌になっちゃうかもしれない。


「クロ、勇者をよく見なさい・・・。

 彼、とんでもないイケメンなのよ。

 売れっ子ホストにタダでちやほやされると思えば、むしろ役得でしょうが!!」


「ちょっと王女!!

 俺の事、褒めてるの?

 バカにしてるの??」


急に勇者まで騒ぎ出し、場は混乱する一方。


「・・・ん~、もしかして。

 こらこら。

 テンイも王女もいい加減、落ち着きなさい。」


ただ一人、冷静だった聖女がクロに向かって問い掛ける。


「クロ、どうしてそんなに泣いてるの?

 テンイに撫でられるの、そんなに嫌だった??」





「・・・ううん、違うの。

 あたし、誰かに撫でられるなんて思ってなかったの。


 だってあたしを優しく撫でてくれたお父さん、お母さん。

 山賊に殺されちゃったから!!」





あっ!?


「あたしも山賊に捕まって、売り飛ばされて、奴隷になって・・・。

 殴られて、蹴られて、ひもじくて。

 けど誰もあたしに優しくなんてしてくれなかった!!」


クロ・・・。

酷い目に合っていたのはわかってたけど、改めて聞くと胸が痛くなる。


「もうお父さんにも、お母さんにも会えない。

 村にだって帰れない!!


 そう思ったら、涙が止まらなくなって・・・。

 うぇええええんんんん!!!!」


「・・・そうだったの。

 辛かったわね。」


聖女は悲しげな表情でクロを慰め、そして私達の方へと振り返る。


「安心なさい。テンイ、王女。

 クロはテンイに撫でられたのが嫌で泣いたわけじゃないから。

 ・・・ずっと寂しかったのよ。」


「そうだったの。

 クロ・・・ごめんね。

 騒いだりして。」


8歳の女の子がそんな目に合っていたとしたら、寂しさの余り、泣き喚いても仕方がないわ。

なんとか彼女を慰めて上げられないかしら・・・。





「大丈夫だよ、クロ。」


「えっ?」





勇者?


「俺もね、悪い王様に誘拐されちゃったんだ。

 そのせいで、家族や友達と離れ離れになってね。

 知らない世界で自分の家に帰れなくもなって、凄く寂しかった。」


「・・・ご主人様も寂しかったの?」


「うん、けどね。

 動機はともかく、王女やエミリーが俺の傍にいてくれたんだ。

 彼女達はね、とっても良い人達なんだよ。」

 

「「うっ!?」」


心が痛い・・・。


なんせ聖女は打算で勇者に付いて来ただけ。

私に至っては、罪を償うために一緒にいるようなものだから。


なのに勇者は気まずげな私達に向かって、穏やかな笑顔を向ける。

・・・どうしてかしら?

あの笑顔を見ると、罪が全て許されたような気になってしまう。


戸惑う私を尻目に、勇者はクロに向かって語り続ける。


「クロもね、一人じゃないよ。

 これからは俺が・・・俺達が一緒だから!!


 ・・・例え、知らない世界で迷子になったとしても大丈夫。

 皆、一緒なら大丈夫だから・・・。」


「・・・う、うわぁああああああああ!!!!

 ご主人様ーーーー!!

 えっぐ、ひっぐ・・・。」


そしてとうとうクロは、彼の胸に飛び付いて泣き始めた。

そんな彼女を勇者は優しく受け止める。





私、クロは勇者と一緒にいない方が良いと思ってた。

・・・転移勇者は神に匹敵する力を持つ。

そんな人と一緒にいても、幸せになれるはずないと・・・。


けれど、その考え方は間違っていたのかもしれない。


「転移勇者だから・・・いや、彼だから。

 クロの気持ちをわかってあげられたんだわ。」


彼も悪い人達のせいで、元いた世界から引き離されてしまった。

だからこそ、境遇の似ているクロに寄り添えたのかもしれない。


「チート能力だけじゃない。

 彼の優しさがクロを救ったのね。」


「そうね、王女。

 例え力があっても、無くても・・・さ。

 苦しんでいる人に手を差し伸べるのは良い事だと思うわ。」


「・・・・・・!!!!」


あれ?


一瞬、勇者が凄く嬉しそうな顔で私達を見ていたような・・・。

でも彼、まだクロに寄り添ってるみたいだし。


気のせいかしらね。





こうして、勇者テンイのパーティに三人目のハーレム要員が加わったの。

私達の旅はまだまだこれからよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] 「一瞬、勇者が凄く嬉しそうな顔」 また、勇者と王女小さい一歩近づいたのか〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ