第25話 第3のハーレム編③ 奴隷少女の決断
とある町の病院の一室。
「はぐはぐ、もぐもぐ。」
よほどお腹が空いていたのでしょう。
元奴隷の少女は目の前の食事を脇目もふらず貪っている。
・・・素手で。
「ず、ずいぶんワイルドな食べ方ねー・・・。」
「奴隷や戦災孤児なんてこんなものよ。
今回は大目に見てあげなさい。」
それはわかるけど、せめて最低限のテーブルマナーくらいは教えたくなるわ。
「ふぅ~、お腹いっぱい。」
「・・・あらまあ、こんなに汚しちゃって。
ほら、拭いてあげるからじっとしてなさい。」
「ええっ?
う、うん・・・。」
何故か少し驚いた反応をしつつも、されるがまま汚れた所を拭いてもらう少女。
それにしても。
「聖女ったら、なんだか手馴れてるわねぇ。」
「ああ。私、戦争に無理矢理付き合わされた事が何度かあるから。
こういう子供達の面倒を見た経験もあるのよ。」
事もなげに言ってるけど、随分とヘビーな話ね・・・。
「・・・。」
しかし彼女、知らない場所で、よく知らない女二人に囲まれているせいか、なんだか所在なさげだわ。
空気が少し重いけど、このまま黙っていても話が進まないわね。
あ、そう言えば。
「え~と、あなたのお名前は・・・。」
「・・・クロ。」
クロ。黒猫族だからかしら?
何にせよ、わかりやすい名前ね。
「クロ。単刀直入に聞くわね。
あなたはこれからどうしたい?」
「えっ?」
・・・あんまりよくわかってないみたいね。
もうちょっと具体的に聞いた方が良いかしら?
「今のあなたには2つの選択肢があるわ。
私達に付いて行くか、一人で自由に生きるか・・・。」
「え、ええっと。」
「・・・私はね。
クロは私達に付いて行かず、自由に生きるべきだと思うの。
誰にも縛られず、一人で好きなように過ごすって事よ。」
「!??
そんなの・・・あたしには無理!!」
あ、あら?
凄く拒絶されたわ。
どうして一人で生きるのが嫌なのかしら?
そっちの方が何のしがらみも無いはずなのに。
「・・・王女、あんたバカなの?
こんな小さな子がたった一人で生きていけるわけないでしょうが!!」
聖女まで・・・。
もしかして無一文で放り出すとでも思ったのかしら?
「えっと、もちろん当面の生活費として金貨100枚ほど渡すわよ?
それだけのお金があれば半年は大丈夫だし、その間に仕事だって見つけられる・・・。」
「・・・あたし。お金の使い方、知らない。
お仕事の見つけ方、わかんない・・・。」
え、ええー・・・。
「そりゃ、そうでしょうよ。
あのね、王女。いくら金貨100枚渡そうが、今のクロが一人で生きていくなんて無理よ。
そもそもクロ、あなた何歳なの?」
「8歳。」
おおよそ見た目通りの年齢ね。
「クロはまだ小さいの。私や王女とは違うの。
いくら金貨100枚渡そうと、8歳児が一人で仕事を見つけて生活するなんて、無理に決まってるでしょ!!
知り合いだって全然いないのに。」
・・・仮にクロに金貨100枚渡したとしても、彼女一人だったら。
ずーっと奴隷だった少女が、お金を上手に使って生活していけるかしら?
知らない人に仕事をさせて下さいって頼んで、受け入れてもらえるかしら??
「・・・確かにクロ一人で生きていけ、なんて無茶な話ね。」
私、クロは勇者と一緒にいない方が良いと思うあまり、全然頭を働かせてなかったみたい。
「あと、クロ。
『アイテム・ボックス』か『ゴールド・ボックス』は使える?」
「?
知らない、使えない・・・。」
『アイテム・ボックス』は物を自由に出し入れ出来る魔法よ。
『ゴールド・ボックス』はお金を自由に出し入れ出来る魔法ね。
どちらも便利ではあるんだけど、それなりに修得は難しい。
これが使えるくらいの実力があれば、奴隷になったり、例の村の連中に生贄にされたりはしなかったでしょう。
「やっぱり・・・。
王女。8歳児を大金持たせて放り出すなんて、ヒドラの傍に近づけるより危険よ!!
下手したら一日足らずで悪人に命ごと奪われちゃうわ。」
「うっ!?
・・・そ、それは。」
そうだった。
生活云々以前に大金を持った子供なんて、ケダモノよりも理性の無い悪人からすれば、極上の餌も同然よ。
「あっ、そうだ。
孤児院よ!!
孤児院に預ければ・・・。」
「一人で放り出すよりはマシだけど、この辺には黒猫族がいないからねぇ。
差別の対象になって虐げられる可能性が高いわ。
子供だからって・・・立場の弱い人間だからって・・・。
心が綺麗だとは限らないもの。」
「そ、そんな・・・。
けどだからって、私達と一緒に行くのも危険すぎるわ。
・・・一体、どうすれば良いのかしら?」
困ったわ。
何がクロにとって一番良い生き方なのかしら?
「どうして、危険なの?」
やや怯えた様子でクロが尋ねる。
「ヒドラからあなたを助けた男の人がいるでしょ?
彼は転移勇者なの。」
「転移勇者・・・あっ?
聞いた事がある!!
凄い力を持った偉い人だ~。」
目をキラキラさせているけど、随分と美化されてるようね。
でも、そんな甘い人達じゃないわよ。
「確かに凄い力を持っているけどね。
だけど彼はとっても怖くて恐ろしい人なのよ・・・。」
「え・・・?
勇者様、あたしに乱暴するの!?」
あ、あれ?
なんか変な風に勘違いされた??
「・・・王女。
そんな言い方じゃ、誤解を招くって。」
そうね。
そりゃ勇者は『怖くて恐ろしい人』だけど、クロが考えているような性格じゃない。
「あ~、クロ。勇者はあなたをいじめたり、乱暴するような人じゃないわ。
それなりに優しい性格だもの。
けどね、彼はまだ心が未熟だから力を上手く制御出来ないの。
もし彼が力を暴走させたら、あなたもそれに巻き込まれて死んじゃうかもしれないわ。」
「・・・。」
「それにね、もし勇者があなたの事を気に入っちゃったらね。
あなたは一生、勇者のハーレム要員として生きなければいけなくなるの。」
「ハー・・・レム?」
どうやらクロはハーレムが何か、知らないみたいね。
お子様だから無理もないけど。
「もしあなたが私達に付いて行くとしたら、ね。
着るものや、食べるもの、安全に休める所くらいは用意してあげられるわ。
だけどハーレム要員以外の生き方は出来なくなるかもしれない。
それどころか不慮の事故で命さえ、落としてしまうかもしれない。
・・・それでも私達に付いてくる覚悟、ある?」
「・・・・・・。
行く。
あたし、勇者様と・・・新しいご主人様と一緒に行く!!
ハーレム要員になる!!!!
・・・他にあたしが生きていく方法、ないから。」
・・・。
本当は無理にでも突き放す方がクロのため。
・・・と言いたい所だけど、突き放した所でクロが一人で生きていける可能性は限りなく低い。
ならば私達に付いて行く以外、ありえないって事ね。
ふぅ。
「わかったわ、クロ。
そこまでの覚悟が出来ているのなら、私達に付いて来なさい。」
「あ、ありがとう。」
誰かを助けるってのも難しいわね。
今回のように一度助けたらそれで終わり、で、済まない事もあるもの。
「ようやく決まったわね。
でもね、クロ。
私達の仲間になるんだったら、さっそくやらないといけない事があるわ。」
?




