第23話 第3のハーレム編① 初クエストの後始末
とある日、勇者テンイ一行はゴブリン討伐のクエストを受注する。
けれどこのクエストは嘘だらけであり、対峙した魔物もゴブリンではなく、なんとヒドラ!!
危うく世界崩壊の危機に見舞われるも、勇者の活躍でヒドラは倒され、生贄にされていた奴隷少女の救出にも成功。
・・・だけど。
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「ねえねえ。王女、エミリー。
この村人達、ぶっ飛ばして良いよね?」
「お辞めくだされ、お辞めくだされ!!
ど、どうかご慈悲を・・・。」
今、依頼主の村は勇者の手により、滅亡の危機に瀕していた。
既にスキル『巨大化』により大きくなった剣を構えており、殺る気満々よ。
そりゃ、騙されて魔物の餌にされ掛けるわ、罪なき少女が生贄にされているのを目の当たりにするわ・・・。
そんな目に合わされたら、勇者じゃなくても怒り狂うわよね。
けれど。
「止めておきなさい、テンイ。
そんなのでも一応、この世界では人として扱われているのよ。
迂闊に殺すと、指名手配されたりする恐れがあるわ。」
「聖女の言う通りです、勇者様。
それにあんなのでも、人の形をした生物には違いありません。
迂闊に殺すと、精神に悪影響を及ぼす恐れがあります。」
私は例の奴隷少女をおんぶしながら、勇者に待ったを掛ける。
理由はどうあれ、聖女も村の殲滅には反対みたいね。
「いや。さすがに殺す気は無いよ?
でも泣いて謝るまでボコボコにするくらいなら、許されるかな~・・・って。」
オロチをぶった斬った剣でそんな器用な真似、いくら勇者でも出来るのかしら?
「許されねえよ!?
大体なんだよ、クソ女ども。俺達をそんなのとか、あんなの呼ばわりしやがって。
ちょっとばかし身分が高いからって、見下してんじゃねえ!!」
・・・『見下している』ってのは、当たってるわね。
でもね。
「あのね。別に身分云々を理由に見下している訳じゃないの。
あなた達が人を平気で魔物の餌にするような連中だから見下しているの!!
あなた達を尊重するくらいなら、コソ泥を神様の如く称えた方がマシよ。」
「んだと?
(゜Д゜)ゴルァ!!」
この村の連中には罪の意識が無いのかしら?
・・・無いからこんな事、ずっと続けてたんでしょうけど。
「わかったよ・・・。
いくらクズでも、無暗に人を攻撃するのは止める。
けど、依頼主の建物をぶっ壊すくらいは良いだろ?」
普通なら、腹を立てたからって、人様の建物を壊すなんて絶対ダメよ。
とは言え、相手は身勝手な理由で私達を殺そうとした輩だからねぇ・・・。
例え、身勝手な理由で殺され掛けたとしても、仕返しを企む奴は最悪!!
・・・なんて意見には賛同できないわ。
それはいくらなんでも、悪党を甘やかしすぎだと思うの。
「その程度であれば、ご自由にして頂ければ。
どうせ自力ではなく、殺した冒険者から奪った金で建てたのでしょうし。」
「よっしゃ、やったぜ!!
じゃあ、さっそく・・・。」
「『じゃあ、さっそく』じゃねえ!!
辞めろ、どうか辞めてくれぇ・・・。」
腹いせに暴れたくて仕方のない勇者と、それを必死に止めようとする村人達。
中々カオスな状況ねー・・・。
しかしそんなカオス状況に、一人の少女が待ったを掛ける。
「こらこら、テンイ。いつまでもこんな連中に構っている場合?
生贄にされた女の子をいち早く、安全な場所まで連れて行くんじゃなかったの??
自分で決めた事くらい、ちゃんと守らないとダメでしょ。」
あっ。
「そ、そうだった・・・。
ごめん、エミリー。」
そうね。急いであの冒険者ギルドがあった町まで連れて行かないと。
・・・こんな人殺し溢れる村では、安全に休ませられないもの。
「気持ちはわかるけど、さ。
テンイもまだまだ子供ね。」
「・・・うん。
けど、生贄にされた奴隷達や、騙されて殺された冒険者達の事を考えるとさ。
どうしても怒りが抑えられなくなって・・・。」
なるほど。
勇者は理不尽に殺された人達の事を思って、怒ってたのね。
意外と正義感が強いみたい。
例の本の内容通りね。
転移勇者って、どちらかと言えば正義感の強い人が多いようなの。
けれど正義感が強すぎるあまり、小さな罪にも過剰な罰を下し、他者を苦しめる事もあるんだって。
それでも彼らの行いは全肯定すべきだって書かれてたけど、さすがにそれはちょっと・・・ね。
今回の村人達は『小さな罪』とは言えない悪事を働いてたから、ともかく。
今後は彼が正義感を暴走させないよう、注意しないと。
過剰に罰を与え回るのも良くないわ。
「あっ、殺された冒険者達・・・。
テンイ、王女。ちょっと協力してくれない?
この村でやらないといけない事が残ってたわ。」
「?」
?
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聖女の言う『やらないといけない事』をささっと済ませた後。
私達は縄で縛った受付と共に冒険者ギルドまで戻り、そして・・・。
「・・・。
あなた達に見せたいものがあるの。」
少し気まずげな表情で、聖女はアイテム・ボックスから剣や鎧などを取り出す。
「この剣の模様は、あいつの・・・!!」
「この鎧の傷跡!!
間違いない、あの人の鎧だわ。」
「この冒険者ギルドのクエストの依頼主が持っていた武具よ。
・・・やっぱりあなた達の知り合いの遺品だったようね。
良かったら、受け取ってちょうだい。」
聖女の言う『やらないといけない事』は、遺品泥棒達から彼らの仲間の遺品を取り戻す事だったの。
勇者のスキル『巨大化』で脅したら、簡単に返してくれたわ。
彼らに仲間の末路を伝えるべきかは、迷ったけど・・・。
「貴様らぁ!!
よくも、よくも俺達の大切な仲間を・・・。
絶対に許さん、ぶっ殺してやる!!」
「ひぇええええ!!!!」
「お、落ち着いて下さい。
お気持ちはわかりますが、ここは冷静に。」
なお、この場にはお役人の方々も大勢いる。
今、この冒険者ギルドは取り調べの真っ最中なの。
私と聖女が冒険者ギルドの悪事を訴えたからね。
まあ、始めは信じてもらえなかったわ。
だけど『証拠品としてヒドラの瞳を提供するので、冒険者ギルドを調査して欲しい』って交渉すると、目の色変えて動き出したの。
・・・お役人も人間よね。
ヒドラの瞳は超高級素材だし、手の平を返したくなるのもわからなくはないけど。
けれど、素材Getのためのヒドラの解体がこんな形で役に立つはねー・・・。
「なっ、これは息子に買い与えた剣と鎧・・・。
息子まで、息子まで犠牲に!!」
急にお役人の一人が声を上げ、聖女が出した剣と鎧の元へ向かう。
・・・お役人のお子さんまで、ギルドの嘘の犠牲者だったとは。
「嘘偽りない依頼に失敗し亡くなったのであれば、悲しみはすれど、誰かを恨む気など無かった・・・。
だが貴様等は、嘘の依頼でわざと息子をヒドラの犠牲者にしたのだな!?
・・・絶対に、絶対に許さん!!
罪を全て明るみにし、然るべき裁きを下してやる!!!!」
「「「ひ、ひゃああああ!?」」」
・・・お役人の恨みを買ったとあっては、この冒険者ギルドももうお終いね。
例の村の連中も本当に無実な人間以外、一人残らず裁きを受けるでしょう。
それ自体は、喜ばしいのだけれど・・・。
「うっ・・・。
うっ・・・。」
遺品に縋りながら泣いている冒険者の仲間を見ると、いたたまれない気持ちになるわ。
「彼ら・・・。
これから大丈夫かしら?」
「・・・もうこれ以上、私達に出来る事なんてないわ。
ここから先は彼ら自身の問題よ。」
まあ、そうかもしれないけど。
「あなた、割り切りすぎじゃない?」
「たった数人の人間が出来る事なんて、たかが知れているわよ。
どれほど力があったとしてもね。
あとはもう彼らが今後、前向きに生きられるよう、祈るだけよ・・・。」
・・・う~ん。
私はともかく、勇者と聖女が全力を出せば、世界を大きく変えられるかもしれない。
でもそれと、大勢の心を救えるかどうかは別問題ってわけね。
世の中、そんな単純には出来ていないもの。
「そう言えば、ヒドラを打ち倒した勇者様はどちらへ?」
「ああ、テンイのこと?
今、彼はね・・・。」




