第20話 初クエスト編⑥ ハーレム要員と勇者
「やっぱり、この異世界はロクでもない所なんだ。
よその世界の人間を無理やり誘拐したり、他人を騙して魔物の餌にするような・・・。
・・・そんなクズしかいない世界なんだ!!」
冒険者ギルドの受付に騙され、ヒドラの餌にされかけている勇者一行。
あまりにも醜すぎるやり方に勇者は暗く深い怒りに囚われ、力が暴走寸前。
そんな勇者に怯えたヒドラも全力で行う寸前。
ど、どうしたら良いの?
このままだと私達の命も、この周り一帯も全て消えてしまう!!
「ぎしゃああああああああああああああああ!!!!」
「こんな世界・・・・・・。
こんな世界!!!!
うわぁああああああああああああああああ!!!!」
誰か・・・誰か助けて!!!!
「泣かないで、テンイ!!」
「・・・えっ!?」
こ、この声は!!
「フォース・バリア!!」
「ぎしゃ!??」
聖女、聖女なのね?
防御魔法でヒドラの全力ブレスを防いでくれたんだわ!!
『フォース・バリア』は広範囲のバリアを作り、敵の攻撃から身を守るランク4の防御魔法よ。
非常に強力な防御魔法で、ドラゴンやヒドラのような恐ろしい魔物の攻撃さえ、防げるの。
「エミリー・・・。」
聖女の活躍により、勇者は落ち着きを取り戻し、力の暴走も収まった。
よ、良かった・・・。
本当に良かった。
今度こそ本当に人生が終わったかと。
「テンイ。安心なさい。
あなたは私の伴侶となる男・・・。
こんな所で死なせたりはしないわ!!」
「エミリー・・・で、でも。
俺なんか守っても仕方ないよ。
こんな情けない男なんか・・・!!」
自分の弱さに打ちひしがれ、勇者は自暴自棄になりかけている。
しかし聖女は・・・。
「・・・今のテンイがまだ未熟だって事くらい、わかってるわよ。
でもいつかきっと、あなたは誰にも負けないくらい強くなれる!!
私はそう、信じてる。」
「あっ・・・。」
「この世界がどんなに残酷だったとしても、怯えなくて良いの。
あなたが強くなれるその日まで、私が守ってあげるから!!
・・・だから安心なさい、テンイ。」
防御魔法でヒドラの攻撃を防ぎつつ、勇者に向かってウインクをする聖女。
「エ、エミリー!!」
聖女の言葉に感激の涙を流す勇者。
それにしても。
「まあ~、なんてかっこいいのかしら?
さすがね、聖女。男前よ!!」
あまりにもヒーローすぎて、私まで聖女に対する感激を隠せなかった。
・・・だけど何故か彼女は不服そうな表情を見せる。
「誰がかっこいいよ?
男前よ!?
こんなにか弱い美少女に向かって失礼ね!!」
「え~・・・まあ『美少女』ってのは合ってるけどさぁ。
『か弱い』ってのは絶対違うでしょ?」
いっそのこと、勇者と聖女は立場を逆転させた方が良かったのでは?
「・・・ったく、王女ったら!!
いつまでもふざけてないで、早くテンイを連れて逃げなさい。
殿は私がやってあげるから。」
「あっ、そうね。
じゃあ、防御は任せたわよ。聖女。」
いくら聖女の防御魔法が凄くとも、彼女の魔力だって無地蔵ではない。
今の状況がいつまでも続くと不安ね。
早く勇者を連れて、ヒドラから離れないと・・・。
私は未だ呆然としている勇者に声を掛ける。
「ささっ、勇者様。
早く立ち上がってください。
聖女が頑張っている今の内に逃げましょう。」
「・・・。
うっ・・・ううっ・・・・・・。」
「・・・?
勇者様??」
まだ、ヒドラを怖がって泣いている・・・?
のとは、ちょっと違う気がするわね。
どうしたのかしら?
「・・・あんな受付の挑発に騙されて。
魔物に怯えて、我を見失って、女の子に守られてばかりで・・・。
俺は自分が情けない!!」
あ~・・・。
色々やらかしたと思って、自分を責めているのかしら?
「別に気にする必要はありません。
私も聖女もあの受付が怪しいと思いながら、油断して何もしなかったのです。
勇者様だけのせいではありません。私達も悪かったのです。
・・・一番悪いのは、もちろんあの受付ですが。」
世の中『騙される奴が悪い』なんて言葉がある。
でもそんな言葉を作ってまで、ロクでもない嘘吐きを尊重する理由がわからない。
誰が何と言おうと、人を不幸にする嘘を付く輩が一番最低なんだから。
そりゃもちろん、悪い嘘吐きに騙されないよう、日々気を付ける必要はあるけどね。
「でもっ、でもっ!!
王女もエミリーもヒドラを前にしても、あんなに落ち着いているのに・・・。
・・・男の俺だけみっともなく取り乱して!!」
「え~と・・・。
さすがにヒドラのような災厄を前に取り乱すのは、仕方のない事ですよ?
そもそも聖女はともかく、私はヒドラに凄く怯えてますし。」
「・・・ちっとも、怯えているように見えないのよ。
あんた。」
そ・・・そう?
勇者が凄すぎるせいで、感覚が麻痺しちゃったかもしれないわね。
でも今はそんな事よりも。
「勇者様、そんなに落ち込まなくても良いのです。
・・・勇者様も聖女も私も生きています。
取り返しが付かないような失敗もしていません。
多少、失敗したとしても、その経験を次に活かせば良いのです。
だから今は生き延びる事だけを考えましょう。」
「・・・王女。
うっ、うう・・・。」
まだ少し取り乱しているけど、動く気にはなってくれたみたい。
良かったわ。
別に少ししくじったくらい、気にしなくて良いの。
生きてさえいれば、罪も無い人を傷付けさえしなけえれば・・・。
いくらだって、やり直せるのだから!!
「・・・って、おいこら。
お前ら!!
本当に勇者に聖女に王女だったのかよ・・・!?」
あらら?
受付・・・まだいたのね。
すっかり忘れてたわ。
「そうだけど、何か?」
もっとも私は元王女なだけで、全然大した事の無い人間だけど。
「てっ・・・てっきり。
美形同士で大層なあだ名を付け合って、悦に浸ってるとばかり。」
・・・どういう解釈してるのよ、あの受付は。
偽物だと思うのは仕方ないにしても、発想が斜め上すぎるわよ。
「ほ、本物の勇者一行だったらよぉ・・・。
あのヒドラ、ぶっ殺してくれよ!!
お前らの力ならそのくらい、余裕だろ?」
「無理だって。
私はてんで弱いし、聖女だってヒドラの攻撃は防げても、倒す事は出来ない。
・・・勇者はその・・・色々事情があるから。」
勇者ならヒドラを倒すのは可能よ。
けど周りに何の被害も出さず倒すのは多分、無理。
あまりに力が強すぎるから・・・。
「嘘付くんじゃねえ。ふざけるな!!
・・・大体なぁ、俺達はお前らの依頼主なんだぞ。
冒険者はなぁ、依頼主の言う事には背かないものなんだよ!!」
いつから受付が私達の依頼主になったのかしら?
それに・・・。
「私達が引き受けた依頼は、あくまでゴブリンの討伐よ。
ヒドラの餌になる依頼も、倒す依頼も引き受けた覚えはないわ。
元々のクエスト内容と無関係な指示なんて、従う義理はないから。」
正直、あのヒドラを放っておくのもどうかと思うけど、私達の力ではどうしようもないの。
どうしようもないのであれば、逃げる以外の手は無い。
「・・・そんなぁ。」
「さっ。
あんな受付の戯言は放っておいて、早く逃げましょう。
勇者様。」
私と勇者が逃げられれば、聖女だって遠慮なく逃げる事が出来る。
とにかく今は三人全員で生き延びる事だけ、考えなくちゃ。
「た、助けて・・・。」
ん?
女の子の・・・声??
「受付、あなたねぇ。
いきなり女の子みたいな声で、妙な事を言わないで!!」
「ち、違う。
俺じゃない!!」
あれ?
でもあの声は聖女のものではないし、当然私の声でもない。
だとしたら、誰の声なの?
「あっ、あれは!?」
あれはって・・・あっ!!
勇者の指差す方にいるのは・・・ヒドラの少し奥にいたのは・・・。
縄で縛られた小さな・・・女の子?




