第19話 初クエスト編⑤ 恐怖のヒドラ
「ぎしゃああああああああああああああああ!!!!」
巨大な胴体に3つの首を持つ大蛇・・・。
まさか、ヒドラ!!
ヒドラなの!?
ヒドラは空こそ飛べないものの、その戦闘力はドラゴンに匹敵するの。
普通の村・町や小国でさえ、ヒドラの前では単なる餌場でしか無い。
人間社会における災厄の1つだと言われているわ。
なので駆け出しの冒険者はもちろん、一流の冒険者パーティでさえ、ヒドラには歯が立たない。
「なんで・・・。
なんでこんな所にヒドラなんかいるのよ?」
「ぎしゃ・・・ぎしゃしゃ!?
ぎしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!!!」
・・・なんか私と聖女を見て、凄く嬉しそうにしてるんだけど。
涎まで垂らしているし、もう悍ましさしか感じない。
「ヒ、ヒドラ様・・・。
あなた様に極上の餌をご用意致しました。
ささ、どうぞご堪能下さい。
・・・だから、俺まで食べないでくれ。」
「ぎしゃああああああああああああああああ!!!!」
餌って。
あんた、まさか・・・!!
「あなた達!!
もしかして、あの町の冒険者を騙してヒドラの餌にしてたの・・・?」
いくら何でも、そこまで鬼畜な行為を続けていた・・・とは思いたくない。
けどあの受付達の様子を見ると、どうしてもそう疑わざるをえない。
「う・・・嘘だよね。
いくら何でも、人を騙して魔物の餌にするなんて、さ。
王女の考えすぎだよ。そんな最低な事、企んでないよね?」
縋るように受付に問い詰める勇者。
平和な世界で暮らしてきた彼にとっては、信じがたい行為なのかもしれない。
・・・自分で言っておきながら、私も信じられないのだけど。
しかし。
「そ、そうだよ、自称王女。お前の言う通りだよ!!
けどな、冒険者なんて何が起こっても自己責任・・・。
騙される方が悪いんだ!!」
・・・うわぁ。
本当に冒険者を騙して、ヒドラに食べさせていたんだ・・・。
なんてどうしようもないクズなのかしら?
「あ、あああ・・・。
そんな、そんな!!」
あまりに残酷な行為に、勇者の顔が真っ青になる。
そりゃまあ、騙された挙句、魔物の餌にされるかも・・・って、考えたらねぇ。
にしても『冒険者は自己責任』って、あの受付ったら!!
「ふざけないで!!!!
『冒険者は自己責任』・・・って言えば、他人を騙し、魔物の餌にして良いと思ってるの!?
あなた達がやっている事はただの人殺しよ!!」
「そうよ、そうよ。王女の言う通りだわ。
大体、ヒドラ相手に報酬が金貨30枚なんて、ぼったくりってレベルじゃないわよ!!
金貨3000枚でも安いくらいなんだからね!!!!」
「いや、あの聖女。
そういう問題じゃないんだけど・・・。」
良くも悪くもぶれないわね、あの闇聖女。
・・・ある意味、頼もしいわ。
ただ聖女の言う通り、ヒドラの討伐依頼なんて、報酬が金貨3000枚でも安すぎる。
なんせ相手は小国程度なら軽く捻りつぶすほどの災厄なのだから。
「ってか、もしかしてあのギルドの依頼・・・。
全部、冒険者をヒドラの元へ連れていくための罠だったの!?」
弱い魔物の討伐報酬を多めに設定し、駆け出しの冒険者達を欺く。
場所が全部同じだと、怪しまれるかもしれないからわざとボカす。
・・・でもって、どの依頼を受けたとしても、ヒドラの元へ案内する。
餌として引き渡すために。
「そ、そうでもしなきゃなぁ。
しょうがなかったんだよぉ・・・。
生贄をたくさん捧げなきゃあのヒドラ、俺達の村の人間まで食っちまうんだから!!」
「・・・あのね、あんた。
魔物に生贄を捧げてやり過ごすってのは逆効果よ。
餌場だと認識されやすくなるもの。」
聖女の発言は正しい。
ドラゴン注意報などでも、たまに身分の低い人間を生贄に捧げてやり過ごそう、って考える連中がいる。
しかし実際にそんな事をすれば、余計に魔物が寄り付きやすくなり、さらに危険が増すわ。
犠牲を強いる連中が、逆に自分の寿命を縮めているのだから、皮肉なものね・・・。
「生贄なんて捧げるくらいなら、さっさと逃げちゃば良かったのに!!
人がいなくなれば、ヒドラだって違う餌場を求めて去って行くはずよ。」
あの村の連中にヒドラを倒せと言うのは、さすがに酷すぎる話よ。
だから村人総出で逃げ出す程度であれば、誰も彼らを責める事は出来ないわ。
・・・でも。
「俺達に村を捨てて逃げろ、だってぇ!?
・・・あんなケダモノなんかのために。
そんなの、俺達の誇りが許さねぇ!!」
誇りって・・・。
「ゴミとしての誇り?」
「んだと!?
ざっけんな、この自称王女が!!」
「・・・人を騙して魔物の餌にしているくせに。
誇りだなんてよくもまあ、ほざけたものね。」
そりゃまあ、今住んでいる場所を捨てて、新しい場所で生きていくのは結構大変だわ。
だけど、あの村の財政状況を考えれば、引っ越す余力くらいはあったはず・・・。
出来なくもない苦労を避け、他人を魔物の餌にしている時点で何一つ擁護出来ない。
「やたらと依頼主の館が豪華だったり、駆け出し冒険者みたいな恰好の人がいたけど・・・。
・・・あれってヒドラに食わせた冒険者のお金や持ち物をはぎ取った成果なのね。」
「それの何が悪い!?
雑魚の持ち物を有効活用してやってるだけだ!!」
これほどまでに清々しいクズも珍しいわね。
・・・って、そんな事よりも!!
「聖女!!
早く勇者を連れて逃げましょう。」
早く逃げないと私達全員、ヒドラのお昼ご飯よ!!
「そうね、王女。
さすがにヒドラを相手取るのはきついわ・・・。」
しかしヒドラは巨体に似合わぬ俊敏さも持ち合わせており、頑張った所で逃げられないかもしれない。
でもだからって、何もせずに食べられるわけにはいかない!!
「ぎしゃしゃしゃしゃ・・・しゃ?
げぎゃ・・・??」
・・・ヒドラ?
どうしたのかしら。
急に戸惑った唸り声を上げて・・・。
「ぐぎゅ、ぎゃ・・・。」
怯えているの・・・?
ドラゴンに匹敵する強さを誇るヒドラが??
ドクンッ。
!??
な、何?
このとてつもない魔力の波動・・・。
まさか!?
「やっぱり、この異世界はロクでもない所なんだ。
よその世界の人間を無理やり誘拐したり、他人を騙して魔物の餌にするような・・・。
・・・そんなクズしかいない世界なんだ!!」
ゆ、勇者?
ひょっとして怒っている・・・の??
だけどさっきのような『舐められたから腹を立てた』程度の怒りではない。
この世界のあまりの醜さに嘆き、絶望した故に生まれた暗く深い怒り・・・。
「げぎゃぎゃ!??
ぎ・・・ぎしゃしゃしゃしゃああああ!!!!」
ヒドラまで怒ってる・・・受付に。
勇者のような超危険人物を連れて来た事に抗議でもしているのかしら?
「ヒドラ様。ち、違・・・。
俺はそんなつもりじゃ。
・・・お、お前ら一体、何者なんだぁ!?」
何者って、勇者に聖女に王女よ。
さっきから言ってるじゃない。
・・・って、そんなことは本気でどうでも良かった!!
「こんな世界・・・・・・。
こんな世界!!!!」
涙を流しながら、絶望に満ちた表情をしながらも、増々魔力を増幅させる勇者。
こんな所であれほどの魔力を暴発させたとしたら・・・。
私達や依頼主の村、あの冒険者ギルドがあった町くらいは丸ごと消滅してしまう!!
・・・いや、その程度で済むかどうかも怪しいわね。
早く、早く止めないと。
「ダ、ダメです・・・。
どうか落ち着いて下さい、勇者様。
お願いします!!」
私が必死に懇願するも、嘆き悲しむ勇者の心には届かない。
・・・ど、どうしよう。
「ぎしゃああああああああああああああああ!!!!」
さらに勇者のでらためな魔力に怯え切ったヒドラが、全力でブレス攻撃を行おうとする。
危険分子を一刻も早く排除したかったのだろうけど・・・ダ、ダメ。
今の勇者にちょっかいなんか掛けたら、余計に被害が拡大してしまうわ!!
暴走寸前の勇者に、全力で攻撃を行う寸前のヒドラ。
ど、どうしたら良いの?
このままだと私達の命も、この周り一帯も全て消えてしまう!!
誰か・・・誰か助けて!!!!




