第206話 故郷編⑩ 本当の仲間
「ハァ、ハァ。」
真っ黒な景色の中、私は走り続ける。
けれど走っても、走っても逃れられない。
「キャッ!?」
それどころか足がもつれ、転んでしまう。
「逃げても無駄だ。」
「ひっ!!」
そして私の目の前で勇者がみるみる内に巨大化し、凶暴な怪物へと姿を変える。
三面六臂なその姿はまるで彼の世界に登場する争いを繰り返す鬼神のよう・・・。
「俺が破壊神へとなり果てたのはお前のせいだ・・・。
その結果、世界が滅び全てが死に絶えたのはお前のせいだ!!」
「あ・・・。」
「諸悪の根源はチート能力者じゃない。
そんな危険な存在を浅ましい私欲で召喚する無知無能な連中共こそ、真っ先に滅ぼすべき巨悪だ。
そしてそんな輩を見て見ぬ振りするお前のような存在も同罪だ!!」
「あっ。」
残酷な事実を突きつけられ、私は涙を流す。
「全ての罪を背負え。
そして永遠に苦しみやがれーーーーっ!!!!」
私のせいで・・・。
私のせいで世界が滅んでしまったんだ!!
「・・・何が永遠に苦しみやがれ、だ。
ふざけるなーーーーーーーー!!!!!!!!」
えっ?
まさかっ!?
「勇者、様・・・。」
破壊神の成れの果てなんかじゃない、いつも通りの姿。
金髪の美少年の姿で私の前に立っていたの。
「・・・確かに召喚者達は諸悪の根源かもしれない。
でも止め損なったってだけで、同罪だなんて思うものかっ。
親の罪は子の罪じゃないんだ!!」
!!
「都合の良い言葉を並べて何になる?
貴様だって本当はそこの女を恨んでいるのだろう??
あいつが愚王の無能さを理解しきれなかったせいで、あれほど辛い思いをしたんだぞ!?」
そうよ・・・。
チート能力者なんて危険すぎる人達を強引に呼ぶ以上、万一反発された時に備え、元の世界に帰す手段くらい準備するのは当たり前。
父がそんな当たり前すら理解出来ない愚者だと見抜けず、そのせいで勇者はっ。
「だからって、王女を恨んだりするものか!!
・・・人の親を貶すのもあれだけど、単にあの王がアホだったってだけじゃないか。
彼女の何が悪いんだ!?
それにわかってるから。
王女がずっと俺を支え続けてくれた事、わかってるから!!」
「勇・・・者・・・。」
・・・なんで。
・・・どうして涙が止まらないの?
「戯言なぞ、聞く耳持つかーーーーーーーー!!!!!!!!」
痺れを切らした破壊神が恐ろしい表情で私達に襲い掛かる。
勇者!!
「偽物の俺め・・・。
王女の心から出て行けーーーーーーーー!!!!」
破壊神を前に一歩も引く事なく、勇者は剣を抜き、振るう。
何もない虚空に対し、正確無比に。
「な?」
すると破壊神が真っ二つに斬られていたの。
剣筋に触れてないはずの破壊神が。
「ぎぃやぁああああああああああああああああ!!!!????」
破壊神は悲鳴の限りを尽くした後、痕跡すら残さず消滅していったわ。
「・・・って、なんだこのびっくり現象!!??
ま、夢だからなんでもありって事なのかなぁ。」
って、どうして斬った張本人が一番びっくりしてるのかしら?
でもそんな抜けた姿に何故か心が安らいで・・・。
妙に呆けていた私に向かい、彼は振り向いてすぐに。
「ごめんっ、王女!!」
「へっ!?」
急に謝りだしたの。
・・・なんでっ!?
本当になんで?
「俺が弱かったせいで、クロがあんな目に合っちゃって・・・。
君の国だって、あんなにたくさん壊しちゃって・・・。
ただ君を助けたかっただけなのにこんな事になっちゃって、本当にごめんっ!!」
「謝るのは私の方ですっ。
私のせいで、とうとうあなたは取り返しの付かない事を・・・。」
「・・・エミリーが魔法、使えなくなっちゃったけど。
・・・建物とかいっぱい壊しちゃったけど。
でもね。クロは『リザレクション』の効果で助かったんだ。
俺も誰かを死なせちゃう前に魔力暴走を抑えられたんだ。
皆のおかげでね。」
!!??
「俺、今回は大失敗しちゃったけど、人だけは殺めずに済んだんだ。
だからまだやり直せる・・・よね?」
「もちろんですっ。
良かった・・・。
本当に良かった!!」
彼は誰も殺していない。
それがわかっただけで、私は心の底から安堵していたの。
私や勇者のせいで失った命なんてどこにもなかったのだから。
「だからさ、王女。
この先、何が起きようが罪悪感なんて持たなくて良いんだ。
だって君は何も悪くないんだから。
俺を強引に召喚したのは君じゃないんだから。」
・・・。
「あなたがその件について決して私を責める気がない事、はっきりと理解しました。
・・・ですが罪悪感を消す事は出来ません。
いつかあなたを元の世界へ戻す、その日まで。」
例え勇者が許そうと、私が父の愚かさを見誤ったせいで彼に迷惑を掛けた事実は消せないのだから。
「そっか・・・。
でもさ。」
勇者が未だ座り込んでいる私に手を差し伸べる。
「それでも俺の事、仲間として受け入れてくれないかな?
俺、ずっと君と本当の仲間になりたかったんだ。」
その言葉を聞いて、例の本のかすれていた部分を思い出す。
『転移勇者は仲間達と対○な関係になりたい』と、書かれていたあの部分。
・・・あのかすれた部分には『等』が。
つまり勇者はずっと私と対等な関係になりかたったんだ。
「どうかな?」
「私も・・・。
あなたと本当の仲間になりたい。
こんな私でも、受け入れてくれますか?」
旅を始めた頃は罪悪感ばかり強くて、そんな事なんて考える余裕すらなかった。
けれど共に行動を続ける内に少しずつ彼への仲間意識が強くなって。
・・・強くなる度に自分にそんな資格はないと、考え直して。
「もちろんさっ!!
これからもよろしくね。
王女。
「はいっ。
勇者様!!」
そして彼が差し伸べた手を掴んだ途端・・・。
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周りの景色が黒一色から、見慣れた風景へと切り替わったの。
ここはジャクショウ国城の一室ね。
「・・・やれやれ。
よ~やく悪夢から目を覚ましたよ~ね。」
「エミリー!?
髪が真っ白・・・。」
ひょっとして『リザレクション』の後遺症かしら。
「テンイにちゃんとお礼を言うのよ。
彼があなたを悪夢から救ってくれたんだから。」
あっ!?
そう言えば、お礼がまだだったわ。
「ありがとうございます。勇者様。
私を助けて頂いて・・・。」
「ううん。
君が元気になって本当に良かった。」
多分、いつだったか女神様が私の夢へ入り込んだよ~に。
勇者も魔法で私の夢へ入り、悪夢から救ってくれたんだわ。
「う~ん・・・。
あれ?
ここ、どこ??」
「「クロ!!」」
「わっ!?」
そして隣で眠っていたクロが目を覚ました瞬間、思わず勇者と二人、クロへ抱き着いていたの。
「大丈夫かい、クロ?
どこかが痛いとかは・・・。」
「?~。
どこも痛くないよ~。
なんか前より体が軽くなった感じ~♪」
それって『リザレクション』の効果で絶好調な状態まで回復したって事かしら?
凄い話ね。
「お~、二人ともよ~やく目を覚ましたか~。
遅ぇぞ。」
「ったく、心配かけさせないでくれるかな。
デルマ。」
「ヴェリア!!
ノマール兄上!!」
話には聞いてたけれど、改めて二人の無事な姿を確認し、心から安堵する。
「ま、とりあえずは一件落着ってとこかしらね。」
まだ今回の騒動は解決した訳じゃなく、問題だって山積みだけど。
でも私は誰一人、失ってないし、勇者だって誰一人、殺めてなんかいない。
「じゃ、改めて・・・。
これからもよろしくね。
王女。」
「はいっ。
勇者様。」
きっとどんな試練だって、乗り越えていける。
勇者達と一緒なら。




