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第205話 故郷編⑨ 二人の絆

Side ~聖女~


カゲトのせいでテンイの魔力が暴走したあの日・・・。


私やデルマ達の必死の呼びかけでテンイは我に返り、ジャクショウ国の外へ影響が出る前に魔力暴走は収まった。

完全ではないにせよ、ヴェリアやアビス様がテンイの魔力を抑えていたのも大きかったわ。


クロも私の『リザレクション』が奇跡的に成功し、一命を取り留めた。

・・・実力に見合わない大魔法を使ったせいで今の私は一切、魔法が使えなくなっちゃったけどね。


城や城下町を派手に壊した件はちょっとどうしようもなく、どれほどの死傷者が出たかと内心、青ざめていたけれど。

ど~やらカゲトと事を構える前にデルマ達以外の全員を隣町へ避難させてたらしく、巻き添えで死んでしまった人は誰もいない。


ついでに言うならカゲトすら重傷を負わせたものの、殺してはいない。

なんなら自力で逃げだす余裕があるくらいよ。


その事実を知るまでのテンイはそれこそ自殺するんじゃないかってくらい、精神が追い詰められていたわ。

自分は誰も殺めていないと知った後も、ず~っと一人塞ぎ込んでしまっている。

それでも事実を知る前よりははるかにマシな状態だけどね。


いつもの彼なら落ち込んでも割とさっさと立ち直るんだけど、今回ばかりはそうもいかずにいたの。



********



「クロ・・・。

 ごめんね、俺のせいで。」


「大丈夫よ。

 今はぐっすり眠ってるだけ。

 その内、目を覚ますわ。」


テンイが未だ眠り続けるデルマやクロを見ながら、悲しそうに呟く。

実際、クロの方は大丈夫だと思うわ。


ちなみに今、この場にいるのは私、テンイ、デルマ、クロの4人だけよ。

ノマール王子はカゲトを発見したとか聞いて、ヴェリアを護衛にそっちへ行っちゃったの。


「ごめん・・・な、さ・・・い。」


「王女・・・。」


「・・・あ~、デルマはあんまり大丈夫じゃないかも。

 いや、体の方は問題ないんだけど。」


彼女は相変わらず悪夢にうなされ続けている。

いつもの彼女は良くも悪くも図太く、こんなに精神的に追い詰められる事なんてないんだけどね。


でも今回ばっかはしょ~がないのかしら。

彼女がずっと危惧していた未来が現実になりかけたのだから。


「俺、最初から王女の気持ちに気付いてた。

 別に俺に惚れて同行したとかじゃなくてさ。

 ただ自分の国のせいで俺がこの世界へ連れて来られた事を悔いて、その罪滅ぼしとして付いて来ただけだって。」


「ま、普通は気付くわよね。」


テンイは戦闘面以外は天才とかじゃなく、頭の良さについてはごく普通の男の子の域を出ないと思うわ。

でも逆に言えばごく普通の男の子並に頭は回る訳で、あのデルマの態度で自分に惚れたなんて誤解はしないでしょう。


「けど俺、それがわかっていながら何もしなかった。」


「えっ?」


「本当は『君は何も悪くないんだ』って・・・。

 『君の事を恨んでなんかいないんだ』って・・・。

 もっとしっかり伝えておくべきだったんだ!!」


そう言えば、その件でデルマを責めたりこそしなかったけどさ。

実は彼女の誤解を解こうともしていなかったわね。

よく考えたらど~してなのかしら?


「・・・でも俺、今の関係が壊れるのが怖くて。

 王女が俺の元から離れちゃうじゃないかと思うと、怖くて。

 何も言い出せなかったんだ!!」


あ。


「俺は最低だ!!

 最低の男なんだっ・・・。」


眠り続けるデルマへ懺悔するかの如く、テンイが独白する。

そっか。


「遠慮していたのはデルマだけじゃなかったのね。

 テンイもまたずっと遠慮して、彼女の心に触れる事が出来なかったのね。」


「・・・。」


パッと見だとデルマばかりが罪悪感からか、彼女なりにテンイに遠慮して、気を遣って、一線引いていたように見えたけれど。

改めて思い返すとテンイの方も相当デルマに気を遣っていたのね。


「ったく、あんた達は。

 どっちが悪い訳でもないのに、勝手に遠慮し合ってもしょ~がないでしょ~が。」


「それは・・・。」


これだから思春期の男女はめんどくさいのよ。

そうは言っても私もテンイやデルマと年齢、ほとんど変わんないけどさ。


・・・やれやれ。


「確かに最初は罪滅ぼしのためだけにあなたに付いてきたんでしょう。

 きっとそれ以上でもそれ以下でもなかったはずよ。」


「・・・。」


「でも最初だけよ。」


「へ?」


「共に旅し、苦難を乗り越えていく内に・・・。

 あなたとデルマの間には確かな絆が育まれていったと思う。

 それは間違いないはずよ。」


もっとも今のデルマは恋愛感情なんてちっとも理解していない。

だからハーレム要員として惚れたとか、んな事はまだないんでしょ~けどね。


「エミリー・・・。」


「あとは互いに一歩踏み出すだけ。

 そうすればあなた達は本当の仲間としてわかりあえるはずよ。」


テンイとライバルであるデルマの仲を深めるのに手を貸すのは、一応ながら正妻を目指す身としてど~かなと考えなくもない。

けれどテンイもデルマも私の大切な仲間。

ずっとこのままにしておくのもあれだしね。


私の言葉を聞いて、ずっと落ち込んでいたテンイの瞳に少しずつ力強さが戻っていく。





「俺、王女を助けたい。

 もっとちゃんと話し合いたい。

 本当の仲間になりたい!!」





彼ったらよ~やく立ち直ったみたい。

相変わらず世話が焼けるんだから。


「でもど~したらい~んだろう?

 やっぱり目を覚ますのを待つしかないのかなぁ。」


「ん~・・・。」


正直、今の調子でデルマは悪夢から抜け出せるのかしら・・・。

ん?

悪『夢』?


「そ~だ。

 『ドリーム・イントリュージョン』。

 あれ、使えばい~んじゃない?」


「『ドリーム・イントリュージョン』って、あれ?

 ちょっと前、日の女神アイア様が王女に使ってたやつ??

 確か他人の夢の中へ入り込む魔法だよね。」


厳密には他人の潜在意識に入り込む魔法ね。

相手が眠ってる時くらいしか成功しないから、テンイの解釈もあながち間違いじゃないけど。


「でもあの魔法って、使い方を間違えると危険じゃなかったっけ?

 それにほら、魔王の人も言ってたじゃん。

 俺には『極大化』っていう凄く危険なチート能力があるって。」


「別にあの魔法自体はただ他者の潜在意識に入り込むだけだし多分、大丈夫でしょ?

 『フライング』と同じで魔力の強弱で効果が変わるタイプの魔法じゃないはずよ。」


成功率には影響あるかもしれないけど、効果そのものは変わらないでしょう。

精神崩壊の危険もあるとは聞くけど、それはあくまで使用者に悪意がある場合に限るからね。


「多分て。

 使ってるシーンは見たから、その気になれば使えるだろ~けどさぁ。」


「デルマに関してはこのまま放っておくと、ますます状態が悪化しそうなのよねぇ。

 だからテンイ。あの子の夢の中に入って元気づけてきなさいよ。

 それが一番、良い結果に繋がると思うわ。」


あくまで私の勘だけどね。


「わかった。

 今から俺、王女の心を助けに行くよ!!」


「ん、頑張りなさい。

 あなたならきっと出来るわ。」


決意を秘めた瞳でテンイがデルマに向かって魔法を発動させる。





「ドリーム・イントリュージョン!!」


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