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第204話 故郷編⑧ 脈略なき登場

Side ~聖女~


「ごめん・・・な、さ・・・い。」


「・・・やれやれ。

 いつまでそ~やって苦しみ続ける気かしら・・・。」





ここはジャクショウ国城で奇跡的に無事だったとある一室。

今日もデルマはベッドの上で悪夢にうなされ続けていたの。


・・・どんな悪夢にうなされているかは、呻き声から大体予想は付く。


「やっぱ、心に受けたダメージが大きすぎたのかしら。」


だけど今の私は回復魔法どころか、魔法そのものが一切使えない。

その証か髪まで真っ白になっちゃったしさ。


だから自然と目を覚ますのを待つしかない。

困ったわ。


「お~、エミリー。

 ど~だ?

 デルマ達はまだ目を覚まさね~か?」


「ええ・・・。

 肉体的には大したダメージもないし、その内目を覚ますと思うけど。」


とは言え、この調子だと永遠に目覚めないんじゃないかと不安に感じてしまう。


「そっか。

 とりあえず少し休んで来いよ。

 デルマ達は俺が見といてやるからさ。」


「わかったわ。

 ヴェリア。

 しばらく休んだら交代するからよろしくね。」


「おうっ。

 任せろ。」



********



・・・やれやれ。

私達、これからどうなっちゃうのかしら?


ボロボロになった城内を歩きながら、物思いに耽る。


「うるさいな!!

 もう俺の事はほっといてくれよっ・・・。」


ん?

テンイったらここのとこほとんど喋らず、塞ぎ込んでたのにさ。

急にど~したのかしら。


「ノマール王子に嫌味でも言われたのかしら?」


「誰が嫌味を言っただって?」


「あら。

 ノマール王子。」


いつの間に私の傍にいたのやら。


ちなみに彼の部下のシズカ達は知らない間に姿を消していたカゲトの捜索中よ。

アビス様は『ちょっと考えがある』とか言って、帰っちゃったわ。


「ノマール王子じゃないとしたら、誰と言い争ってるのかしら?」


「とにかく行ってみようか。」


二人でテンイのところへ向かうと、どこからやって来たのやら・・・。

数人の魔族が彼を取り囲んでいたの。


・・・え~っと。

どゆこと?


「ど~しましょう?

 こいつ、我々の方を見向きもしませんよ。」


「このままでは話が進みません。

 気は引けますが、少し痛い目に合わせた方が・・・。」


「止めろ。

 迂闊に手を出すな。

 何が起こるかわからん。」


魔族の中でも一番偉そうな一人は、どっかで見たよ~な・・・。

・・・・・・。





「あーーーーーーーー!!!!????

 魔王!!??」





なんでこんな不意打ち気味に魔王がやって来たの!?


「ま、魔王だとっ!?」


「貴様はエミリー!?

 転移勇者の仲間になったとは聞いたが・・・。

 そうか。こいつが噂のテンイだな。」


「ど~してあんたがこんなド田舎にいるのよ?

 魔王って暇なの??」


「・・・ド田舎って。」


別に私達は魔族に命を狙われるよ~な事なんかしていない。

ジャクショウ国も打倒魔王を掲げてはいたものの、所詮自力じゃはぐれ魔族数人にすら敵わない程度の小国。

そんな小国に口だけでなんにもしてこない内から攻め入ったりなんて彼らの性質上、しないはずだけど。


「ハッ、口の悪い聖女め。

 ・・・世界を揺るがしかねない程の魔力を感知したのだ。

 警戒しない理由なぞ、どこにある?」


「ま~そ~かもだけど。」


そっか~・・・。

魔王からしてもあの魔力暴走は本気で警戒すべきものだって判定なんだ~。


「へ~、あんた魔王だったんだ。

 ・・・い~からさっさと部下連れて帰ってくれない?

 俺の事はそっとしといてくれよ!!」


「テンイ、君なぁ・・・。

 いくら落ち込んでるからって、魔王相手にその態度はど~なんだい?」


普段の彼も割かし危機感が薄いけど、さすがに魔王相手にこんな口の利き方なんてしないはず。

人間、心に余裕がないと誰にどんな態度を取るかわかったもんじゃないわねぇ。


だけど魔王はテンイのぞんざいな態度なんて気にも留めず、じっと彼を観察し・・・。





「・・・なるほど。

 テンイ。

 貴様のチート能力は幻の特性と言われる『極大化』か。」





『極大化』?


「何、その特性?」


「魔法・スキルの威力を何十倍、何百倍に増大させるだけの単純ながら危険極まりない特性だ。

 『フライング』のような魔力の強弱で効果に変化のないものは影響無いが。

 類まれな才能を秘めし者が心の底から『強さ』を渇望した時、身に付ける事があると伝えられている。」


なるほど。

これまで見たテンイの性質と一致するわ。


「だがこの特性を身に着けたものは大概、周りに大きな被害を被りながら自滅する。

 強大すぎる力を制御しきれずな。

 我も実際に見たのはこれで二人目だ。」


つまりただでさえとんでもなく珍しい上に持ち主があっという間に自滅しちゃうから、幻の特性扱いされてるのね。


「ふ~ん。でもそ~いう事ならテンイに手を出さない方がい~んじゃないの~?

 ど~せ私達、自分からあんたらに攻撃する気なんて、ないんだし~。

 下手にちょっかい掛けたら取り返しの付かない被害が出るかもよ~?」


「そういう事だ、魔王よ。

 我が国は魔族と関わる気など一切ない。

 悪いがお引き取り願おう。」


・・・ノマール王子、あんたら魔王討伐を掲げていた癖に白々しい。

シズカ曰く、彼自身はそんなものに興味なんてないらしいけど。


「・・・・・・。

 撤収するぞ。」


「えっ!?

 良いのですか、魔王様?」


「どうせ放っておいてもいずれ自滅するだろう。

 ならば無理に構う必要もあるまい。

 ・・・奴らには借りもあるしな。」


借りってのはきっと、いつぞやのはぐれ魔族達を故郷まで送った件の事ね。

律儀ね~。


こうして魔王達はちらりとテンイを見やった後、空高く飛び去ってしまったの。

何も起きなくて良かったわ。


「ど、どうなる事かと・・・。

 どうなる事かと・・・!!」


「って、ノマール王子ったら今頃、腰が抜けちゃったの?」


「君らみたいな出鱈目人間と一緒にするな!!

 私はただの小国の王子に過ぎんのだからっ。」


それでも魔王相手にあんなに堂々とした態度が取れるなら、父親と違って意外と大人物だと思うけどね。

兄妹揃って普通アピールが好きねぇ。


ま、それはさておくとして。


「・・・・・・。」


「テンイったら・・・。

 いつまで塞ぎ込んでるのよ?」


早く彼には元気になってもらわないと困る。





「そもそもそこまで落ち込む理由なんて、無いのよ。

 だって結局、誰一人として犠牲者なんか出なかったんだから。」


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