第199話 故郷編③ 王女の作戦
転移者に支配されたジャクショウ国を救うため、私は近くの町の冒険者ギルド・・・ゴキン町へ足を運んだの。
ヒドラだのクロとの出会いだので色々あった思い出深い町よ。
そこで大金をバラまいて大勢の冒険者を雇ったり、様々な準備をしたわ。
あれこれの準備が終わり、私達はジャクショウ国の手前まで辿り着く。
「・・・しかしデルマ王女。
よくもあれほどの大金を持ってましたね。」
「野良ドラゴンの素材を売ったり、報酬が金貨何千枚のクエストを受けたりしたからね。
活躍したのはもっぱら勇者やエミリー達だけど。」
それでも勇者の意向で報酬とかは山分けだったから、お金はたまる一方だったわ。
ほとんど散財しなかったし。
「うう・・・。
やっぱり勇者に申し訳ないわ・・・。」
実質、彼の稼いだお金で彼を誘拐した国を救うようなものだもの。
「ちょ、落ち込まないでくださいよ!!
そういうのは後にしましょう。
今はノマール王子や国民達を救うのが先です。」
「・・・そうね。シズカ。
ほんっとうに申し訳ないけど、勇者への懺悔は後にしましょう。」
なお、冒険者達にはジャクショウ国からほんの少し離れたところで待機してもらっている。
当然ながら彼らはチート能力者のような強者ではなく、それどころか1VS1じゃ私やノマール王子よりも弱いと思う。
けれど彼らにはとても重要な役目があるわ。
「じゃあ作戦開始よ。
お願いね、シズカ。」
「お任せください!!
デルマ王女。」
********
作戦通り、シズカが城内にいるノマール王子達と連絡を取っている間・・・。
「皆、騒がす、慌てず、でも素早く行動なさい。
荷物は必要最小限にね。
避難中の生活は保証するから大丈夫よ。」
私は城下町の皆に対し、ゴキン町へ避難するよう、指示を出したの。
もしも転移者が本気で暴れたら、大勢の国民が巻き添えを受けかねない。
彼らにはそれだけの力があるもの。
だから可能な限り、国から皆を逃がす事が先決だと思ってね。
シズカから聞いた限り、転移者は国民からふざけた額の税金を巻き上げている一方、基本的には城内で贅沢三昧を楽しんでるらしいわ。
そんな状況なら城下町の人々を避難させるのはそう難しくないはずよ。
「デルマ様。
もうそろそろ・・・。」
「ええ。
ゴキン町までの護衛、お願いね。」
ゴキン町で雇った冒険者達にはね。
国民の護衛を依頼したの。
私達や彼らが束になったところで、強大な力を持つ転移者には敵わず、いたずらに犠牲を出すばかりでしょう。
けれど転移者程のパワーはなくとも、冒険者達は国民を助けるための大きな力となってくれる。
「デルマ王女・・・。
本当に我々の国は大丈夫なのでしょうか?」
国民の1人が訪ねてくる。
「・・・あんまり大丈夫じゃないかも。」
「正直に言いすぎですっ。」
あ、つい・・・。
「でも曲がりなりにもジャクショウ国の王族である以上、せめてあなた達の命だけは守り抜いてみせるわ。
・・・王族としてはオマケみたいな存在だけどね。」
「そんな事はありませんて。
変だし、抜けてもいますが、こうして民を守ろうとしてくださるあなた達親子を・・・。
ずっと我々は慕っていたのですから。」
「・・・それは褒めてるのかしら?
ま、避難先さえばれなければ、転移者から目を付けられる可能性は限りなく低いと思うわ。
だから事態が落ち着くまで、戻ってきちゃダメよ。」
最低限の財産は持たせているとは言え、大半の私物を置き去りに違う町へ避難するのは不安でいっぱいでしょう。
それでも素直に従ってくれる国民の柔軟さはありがたい限りね。
「デルマ王女。
我々は信じています。
あなたならきっと、この国を救えると・・・。」
「一応、努力はするわ。
さ、そろそろ行きなさい。」
国民が頭を下げながら、ジャクショウ国から去って行く。
これで城下町の皆は全員、避難させられたはず。
彼らの生活もゴキン町の人達に大金払って頼んでおいたから、当面は大丈夫でしょう。
「デルマ王女!!
ノマール王子達へあなたの策を報告しました。」
「わかったわ、シズカ。
お疲れ様。」
そしてグッドタイミングでシズカが戻ってきてくれたところで。
「今度は城内の皆を避難させましょう!!」
********
「あーっはっはっはっ。
あーっはっはっはっ。」
この国で召喚された二人目の転移者、カゲトが豪快に笑い続けている。
美しい女性達の踊りを見ながら、ご馳走を貪り続けている。
そんな光景を私は式神経由でこっそりと見張っていたの。
カゲトの近くで姉上達が半泣き顔で給仕してるわね。
そんな様子の姉上達を彼は満更でもない感じで眺めてたわ。
畏怖されて嬉しがるなんて、勇者とは真逆ねぇ。
話によるとカゲトは既に何人もの人間を惨殺してるみたい。
でも最初の父上達の殺害だけは意図的なものではなく、父上達が召喚されたばかりのカゲトを無暗に脅したのが原因だったの。
脅された結果、彼は恐怖心から魔力を暴発させ、その巻き添えで父上は命を落とされたんだって。
・・・。
「カゲト様。」
「なんだ、ノマール。
ん、その酒瓶は?」
「はい。
マオーと言う名の美酒でございます。
フルーティで柔らかい口当たりだと評判ですよ。」
ノマール王子が優秀な執事のごとく振舞いながら、カゲトへお酒を注ぐ。
例の本によると、勇者の国の南西にも似たような名前の酒があるそうよ。
「・・・どれどれ?
!!
カーッ、スッゲェ上手いわ。この酒。
しかも超酔えるし。
もっとくれ、ノマール。」
「ハッ。」
「あ~。
このまま何もかも忘れてぇ~。」
マオーが大層気に入ったカゲトは湯水のごとくお酒を飲み続ける。
そして飲み続けた末に・・・。
「ハーッ・・・。
zzz。」
気持ち良さそうに眠っちゃったわ。
名酒『マオー』はとんでもなく酔いやすいって評判だからねぇ。
「作戦は成功したよ。
デルマ。」
「「「えっ!??」」」
その様を見届けたノマール王子が、私の式神に向かって合図したわ。
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「「「デルマ!!」」」
「姉上・・・。
ご無事で何よりです。」
転移者カゲトを名酒『マオー』の力で爆睡させて、しばし。
私は姉上達と久々の再開を果たしたの。
・・・正直、姉上達とはそんなに仲良くなかったけれど。
でも無事だった事に心から安堵している。
「デルマ・・・。
あの、その・・・。」
「話はまた今度にしましょう、姉上。
さ、早く隣町まで避難を。」
けれどまだ安心は出来ない。
カゲトが目を覚ます前に早く姉上達を城から避難させなきゃ。
こうして私はノマール王子達と協力し、城内の皆を避難させるために奔走したわ。




