第196話 日の女神編⑳ 変わりゆく運命
真っ白な世界の中、声が聞こえる。
一時の別れを告げる声。
どこか感謝の念がこもった声。
デルマ。デルマ。
不思議な感覚に見舞われていると、声が響いたの。
・・・とても綺麗で、けれどどこかで聞いた声。
「デルマ・・・。」
目を開けると私以外、誰もいないはずの世界で日の女神アイア様が微笑んでいたわ。
意識が朦朧としているせいか、私はぼんやりとした気分でかの方を見つめていた。
・・・。
・・・???
?!
「ぎゃーーーーーーーー!!!!????」
「『ぎゃー』はさすがに失礼でしょう?」
眩いばかりの笑顔から一転、そこにはどこか憮然とした表情の日の女神様が佇んでいたの。
ってか、ここはどこ!?
「ここはあなたの内なる世界・・・。
簡単に言えば、夢の中の世界のようなものです。」
「夢・・・。
そう言えば、ついさっき夢の中で神話の化物に殺されかけたよ~な。
私ったら、夢の中で夢を見ちゃってる?」
「・・・まだ『あれ』を夢だと思い込んでるとは。
テンイ達が語る通り、妙なところで勘違いを拗らせるタイプなのですね。」
失礼ねぇ。
でもなんで私の夢に日の女神様がいるの?
ま~夢なら誰が出てきてもおかしくないんだけどね。
けれど何故かかの方自身の意思で私の夢へ入り込んでるような気が・・・。
「その通りです。
特別な魔法を使い、あなたの潜在意識の中に入り込んでいます。」
「潜在意識・・・。
あ。
ドリーム・イントリュージョン。」
『ドリーム・イントリュージョン』は他人の潜在意識に入り込む魔法よ。
でも基本的には相手が眠ってる時くらいしか成功しないわ。
この魔法は深く傷付いた相手の心を癒す目的で使われる事もある。
だけど基本的には他者の心を除いたり、精神崩壊させる事を目的に使われるケースが多くてね。
・・・・・・・・・・・・。
「ぎゃーーーーーーーー!!!!????」
ど・・・どうしましょう!?
きっと日の女神様、私の心を壊すためにそんな魔法を使ったのね~~~~!!!!
「・・・私を悪女に仕立て上げるのは止めてくれませんか?
あなたの心を壊す気なんて、一切ないですから。
そもそも私がちょっかい掛けたくらいで、壊れるようにも見えませんが・・・。」
いや、だって日の女神様ったら、何故か私の態度に怒ってばかりだったし。
「何故かって・・・。」
というか、さっきから日の女神様、私の思考を読み取ってないかしら?
「それはもう『ドリーム・イントリュージョン』がそういう効果ですから。」
・・・もうヤダぁ。
「あなたには怒りたくもなりますよ。
やれば出来る癖に楽で安全な方に逃げようとしてばかり・・・。
あまりに薄情ではありませんか!!」
だ・・・だって、私達には世界のために戦う義務も責任もないし・・・。
って、そんな怖い形相で睨まないでよーーーー!!!!
「・・・神喰いはまだ他に存在するというに、まったく。
だからこそ、あなたにはテンイが必要なのかもしれません。
強さもその気高き精神も英雄と呼ぶに相応しい、彼のような方が・・・。」
あの~・・・。
いくらなんでも勇者の事、ほめ過ぎなんじゃ・・・。
そもそもの話・・・。
「これ以上、勇者に英雄の真似事をさせる訳にはいきませんよ。
これ以上、危険な目に合わせる訳にはいきません。
だって彼はただの拉致被害者なのですから。」
そう。
どれほど強くても所詮、彼は身勝手な王によって攫われた罪無き青年でしかない。
だからね。
世界のために犠牲とするなんて、論外なのよ。
「・・・だからそう疑わないで下さい。
確かに私達神族は世界を守るため、時に他者を犠牲にする事もあります。
ですが決して、進んで誰かを犠牲にしようだなどと目論んだりはしません。
誰も犠牲を出さずに済むのであれば、それがどれほど困難な道であれ、突き進む次第です。
今回だってベルゼブブ以外、誰も犠牲とならず心の底から安堵したのですから。」
・・・・・・。
「強大な力を持つ個人に全てを押し付け、世界を救うための犠牲とする・・・。
そのような道しか存在しない訳ではないのです。
デルマ。あなたならきっとテンイも、世界も、全てを幸せにするための道を示せるでしょう。」
「勝手に妙な期待をしないでください!!
・・・私はただの無力な一般人なのですから。」
「もちろんあなた1人で世界の命運は変えられないでしょう。
ですが皆と力を合わせれば、神々でも超えられないような困難すら乗り越えられる。
そんな気がするのです・・・。」
そんなの、嘘よ~・・・。
「・・・そろそろ時間のようですね。
最後に我ら2神を救い、3体もの神喰いを滅し、火の神の無念を晴らして下さったこと。
本当に感謝しています。
この御恩は永遠に忘れる事はないでしょう・・・。」
「いや、あの・・・。
私は感謝される事なんて、何も・・・。」
「・・・さようなら、デルマ。
近い内にまた会いましょう。」
ちょっ!??
********
「( ゜д゜)ハッ!」
あれ・・・?
ここはもしかして、どこかの祠の中?
傍で勇者、エミリー、クロ、ヴェリアがぐっすり眠っているのが見える。
・・・良かった。
皆、無事だったのね。
でも他の人達は・・・。
他の人達?
???
「ん~・・・。
あっ、王女!!
良かった。
ずっと眠ってたから、ちょっと心配だったんだよ。」
「勇者・・・様・・・。」
彼の声が響いたからか、エミリー達も目を覚ます。
「・・・とても怖い夢を見ました。
神をも喰らう恐ろしい化物に殺されかける夢・・・。
夢とは思えぬ程生々しく、これほど恐怖した事はありませんでした。」
「「「「・・・。」」」」
あまりに印象的な夢だったから、思わず話題に出したんだけど、勇者達ってばどこか複雑そうな表情ね。
いきなりの変な話題に困惑してるのかしら?
「そっか・・・。
ま、怖い夢なんて、さ。
忘れちゃっても構わないんじゃないかな?」
そう語り掛ける勇者の顔がいつになく優しい。
「・・・そ~ですね。そもそも夢の中の話ですものね。
じゃないと、勇者があんなに格好良く振舞えるはず、ありませんから。
特に絶体絶命の私を勇ましく助け出した時なんて、まるで本物の英雄のように感じましたもの。」
なんかこう・・・。
自分でもよくわからないんだけど、その時のシーンは凄くグッとくるものがあったのよねぇ。
あんな夢なんて今すぐにでも全部、忘れたいんだけど、あのシーンだけは・・・。
「ねぇ、王女・・・。
俺さ。例え、夢のように怖い出来事があったとしてもさ・・・。
忘れちゃダメだと思うんだ。現実として受け入れるべきだと思うんだ!!」
「え”!?」
彼ったら、ど~して急にんな力説を・・・。
「テンイってば・・・。
さっきと言ってる事が180度違うじゃない。」
「だってぇ!!
だってぇ!!」
どうして勇者はあんなに駄々をこねてるのかしら?
騒ぐ勇者に呆れ果てるエミリーとヴェリア、不思議そうにしているクロを尻目にそんな事を考えていたの。
こうして私達はいつも通りの旅へ戻っていった。
けれどこの時の私は気付かなかったの。
今回の1件で私達の・・・。
勇者の運命が大きく変わってしまった事を・・・。