第195話 日の女神編⑲ 命懸けの鬼ごっこ
「ホントにこんな作戦で上手くいくのかしら・・・?」
「きっと大丈夫だよ~。
デルマお姉ちゃん♪」
「・・・まったく。
クロったら、能天気なんだから。」
未知なる異形、神喰いの体内で生き永らえている月の女神ルーナ様。
かの方を救うため、話し合った結果、私とクロは『とある仕掛け』を行った後、やや離れた場所で神喰いの様子を伺ってたの。
(準備は終わりました。アビス様。)
(うむ。あとはあの汚らわしい神喰いが罠に掛かるのを待つだけよ。)
上空で待機しているアビス様と『テレパシー』でやり取りを行いながら、待つ事しばし。
予想通り、分が悪いと判断した神喰いが勇者達から背を向け、氷漬けの体のまま逃走を始めたわ。
神喰いは命の危機に瀕するとね。
誰にも気づかれない場所まで逃走した挙句、その傷が癒えるまで気配を殺し、身を潜める習性があるんだって。
「・・・今だっ。
フィフス・イリュージョン!!」
そしてアビス様がランク5の魔法『フィフス・イリュージョン』を発動。
この魔法は広範囲にわたり、精密な幻影を生み出す魔法よ。
ヲ ヲ ヲ ?
『とある仕掛け』が勇者や日の女神様などが横たわる幻影へと変貌する。
神喰いにも一定の知能はあり、普段であればここまで不自然な幻影に引っ掛かりはしないでしょう。
けれど勇者達の猛攻撃により、凍死寸前まで追い込まれたせいで、奴には幻影を疑う余裕すら残されてなかったわ。
・・・その結果。
ヲ ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ! ! ! !
神喰いが一欠片の知性も感じない姿で勇者達の幻影を喰らい始める。
でもそれこそが私達の仕掛けた罠だったの。
神喰いが勇者達だと思い込んだ『それ』はただの人の形をしたお人形。
・・・そしてお人形の中にはね。
ユ” ! ?
グ 、 ゴ 、 ド 。
ボ ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ? ? ? ?
吐き気がする程、甘~い甘~い食べ物なんかが、た~っぷり詰め込まれているの。
アルコールや催吐薬なんかと一緒にね。
結果、神喰いは激しすぎる嘔吐に見舞われ、激烈な異臭を放ちながら、吐瀉物を出し続ける。
「デルマお姉ちゃん!!
神喰い、月の女神様を吐き出したよっ。」
「ホ・・・ホントに上手くいっちゃうなんて・・・。
とにかく急ぎましょう。」
『クリーニング』で異臭を退けながら、クロの案内の元、私達は月の女神様の救出へ向かう。
・・・私達が話し合いの末、月の女神様救出のために考えた作戦は単純明快。
神喰いの吐き気を催し、かの方を腹の中から吐き出させよう!!
ってものだったの。
まさか『火の神様に吐き気を催す程、嫌いな物があればなぁ。その味覚を神喰いも引き継いでればなぁ。』
なんて、さ。
そんな私の愚痴を日の女神様も、周りの皆も真面目に受け取っちゃうなんて思いもしなかったわ・・・。
どうやら火の神様、甘い物が吐く程お嫌いだったらしいのよ。
・・・だからって、んなふざけてるとしか思えない作戦を実行しようだなんて正気の沙汰じゃない。
日の女神様なんて『喰らった者の能力は引き継ぐのに味覚は引き継がないなんて、誰が決めたのです!?』
なんて言い出しちゃう始末だし。
「いたっ。
月の女神様だ~!!」
「偉いわ。
クロ。
じゃ、急いで撤収よっ。」
「う・・・?
其方、達・・・。」
でもそんな作戦が成功しちゃうんだから、世の中わからないものね。
嘔吐によりますます弱り果てた神喰いを尻目に私はクロと月の女神様を抱え、飛行魔法で宙を舞う。
正直、生きた心地がしなかったけれど、なんとか上空で待機中のアビス様の背まで運び出す事に成功したわ。
「やったねっ。」
「うむ、でかしたぞ。デルマよ!!
では至急、テンイ達の元まで撤収・・・。
んなっ!??」
「きゃあ!??」
ところが神喰いの一撃がアビス様の体を掠めてしまう。
大したダメージにこそならなかったものの、アビス様はバランスを崩し、私はその背から振り落とされてしまったの。
慌てて飛行魔法を掛け直したから、地面へ激突・・・なんて事態は避けられたけど。
「デルマお姉ちゃん!?」
「私は平気よ!!
アビス様っ。
クロと月の女神様を連れ、急ぎ勇者の元まで撤退して下さいっ。」
今、神喰いに一番狙われてるのは月の女神様を乗せたアビス様なのだから。
それでも勇者達の元まで撤退すれば、アビス様達の安全は確保されるはず。
「・・・むっ。
あい、わかった!!」
申し訳なさそうにしつつ、撤退するアビス様。
だけど私なら大丈夫。
だって神喰いにとって、私はミジンコ同然の存在。
どうでも良さ気に踏みにじる事はあれど、執着するような真似は・・・。
キ サ マ ダ ケ ハ ユ ル サ ン ! ! ! !
・・・・・・・・・・・・あれ~?
神喰いったら、私に向かってものすっごい怒ってる気がするんだけどぉ!!??
****************
「い~~~~や~~~~~~~~~!!!!????
た~~~~すけて~~~~~~~~!!!!!!!!」
シ” ネ" エ" ー ー ー ー ! ! ! !
涙目で逃げ惑う私に向かって、神喰いがてめ~だけは許さんとばかりに襲い掛かる。
凍死寸前になった挙句、激しい嘔吐により消耗しきった神喰いの動きは緩慢で、私程度でもぎりぎりながら攻撃を回避出来るわ。
・・・そうは言っても、神喰いからすればあまりに弱々しいその殴打でさえ、野良ドラゴン程度なら一撃でぺしゃんこになるくらいの破壊力を誇る。
そんなものを私なんかが受けてしまったら・・・。
ヨ ケ イ ナ ク チ ダ シ バ カ リ シ オ ッ テ 、 コ ノ オ ロ カ モ ノ ガ ! ! ! !
「神話の怪物が一般人風情を敵視しないでよーーーー!!??」
所詮、神喰いなんて誇りなき異形・・・。
だから無力な女の子相手にムキになって襲い掛かるのねーーーー!!!!
死にたくない一心で必死になって飛び続ける私に神喰いの魔の手が迫る。
「四の奥義・零度波動法!!」
ガ ッ ! ?
こ・・・これはヴェリアの攻撃スキル。
私を逃がすため、援護してくれたのね。
とは言え、若干怯みこそすれど、神喰いはまだ私の命を諦めてはいない。
「デルマ。てめぇ、戦闘力だけならこん中でも最弱に近いんだがなぁ。
・・・なのに根性、見せてるじゃね~かっ。
今回だけはてめぇに敬意を示し、手を貸してやらぁ!!」
「タケルぅ・・・。
なんでもい~から、た~すけて~・・・。」
「フィフス・チャージ・エクスプロージョン!!」
へ?
ア” ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ? ? ? ?
「ぎゃーーーーーーーー!!!!????」
って、なんつ~危険な攻撃魔法をっ!?
あのバーサーカーときたらーーーー!!!!
あれでも私を巻き添えにしないよう、計算してるっぽいんだけど、生きた心地がしないわ・・・。
グ ・ ・ ・ 。
キ サ マ ヲ イ カ セ バ 、 カ ナ ラ ズ ワ レ ラ ノ ワ ザ ワ イ ト ナ ロ ウ 。
イ ノ チ ニ カ エ テ モ ニ ガ サ ヌ ! !
「ふざけた事、言わないでくれるーーーー!!??
私はもう、二度とあんた達なんかと関わりたくないんだからーーーー!!!!」
ボロボロになりながらも、意地でも逃がさんとばかりに神喰いが私へ迫る。
お願い・・・。
誰か、誰かーーーー!!!!
「王女に・・・。
俺の大切な仲間に手を出すなーーーー!!!!」
えっ!?
見苦しく逃げ惑う私と、勇ましく剣を振りかぶる勇者がすれ違う。
「巨大化ーーーーーーーー!!!!!!!!」
そして彼はスキルにより、ミスリルソードを町をも切れるサイズへ変貌させ、神喰いを一刀両断したの。
ア” キ” ャ ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ? ? ? ?
振り返ると勇者渾身の一撃が、神喰いの肉体を派手に切り裂いてたわ。
「本当によく頑張ったね、王女・・・。
あとは俺達に任せて、君はアビスの元へ向かうんだ。」
「は・・・はいっ。」
凛々しい表情で声を掛ける勇者。
・・・あれ?
なんだか彼が輝いて見える。
まるで本物の・・・。
とにかくヴェリアやタケル、そして勇者が力を貸してくれたおかげで、私は神喰いに殺される事なく、アビス様の背へ辿り着けたわ。
「デルマお姉ちゃん!!
無事で良かった・・・。」
「まだかなり衰弱しているけど、月の女神様は無事よ。
安心なさい。」
エミリーの回復魔法のおかげで、死ぬ寸前だった月の女神様も一命を取り留めたようね。
どうにか助かりそうで本当に良かった・・・。
私達以外のほとんどのメンバーは今、神喰いに向かって総攻撃を行っている。
・・・神喰いったら少し哀れに感じるくらい、ボッコボコにされてるわ。
「火の神を喰らい、月の神を長年の間、暗い所へと閉じ込めた痴れ者よ・・・。
今こそ日の神の裁きを受けなさい!!」
って、日の女神様!??
「フィフス・ホーリー・ピュリフィケーション!!!!」
そしてかの方がランク5の日属性魔法、『フィフス・ホーリー・ピュリフィケーション』を発動。
全てを浄化する強力な光のパワーであらゆる悪を滅する、選ばれし者だけが扱える究極魔法よ。
あれほど弱っていながらも、これほど強力な魔法を扱えるなんて、さすがは8大神の1神ね。
ア 、 ア 、 ア ・ ・ ・ 。
日の女神様の一撃がトドメとなり、神喰いが弱々しい悲鳴を上げながら、光の中で完全に塵と化す。
「・・・ようやく、ここいらの神喰いは皆、滅んだのね。」
「うんっ。
もう神喰い、いないよ~♪」
クロのお墨付きをもらい、果てなき死闘が終わったんだと理解した途端・・・。
「あ。」
何故か私の視界が暗転し、意識も途切れてしまったの。
「お、王女・・・?
王女ーーーー!!??」
「デルマお姉ちゃん!?」
「・・・だいじょ~ぶよ、二人とも。
ただ気を失ってるだけ・・・。」
「まさかあの・・・が気絶・・・・・・。」
勇者達の声がどんどん遠くなっていく。
そのまま私は真っ白な世界へと導かれたの。