第193話 日の女神編⑰ 英雄達の底力
Side ~聖女~
ア キ ラ メ ノ ワ ル イ カ ト ウ セ イ ブ ツ ガ 。
神をも喰らう化物が、世界すら焼き尽くす程の炎を吐き出した。
「今よっ、皆!!」
「「「おうっ!!」」」
疲労困憊ながらも回復魔法を使い続ける最中、デルマ達の声が聞こえる。
そして彼女達の狙いが何かもわかっていたわ。
「アイス!!」
「四の奥義・零度波動法!!」
まずはテンイとヴェリアが氷による攻撃技を放つ。
「「ぐっ!??」」
だけどたった2人の攻撃じゃ、神喰いの吐く炎を防ぐ事は難しいでしょう。
あれでも山賊王辺りなら、あっけなく倒せるくらいのパワーがあるんだけどね。
「・・・チャージ完了!!
行くぜっ。
フィフス・チャージ・コキュートス!!」
けれどテンイ達の攻撃が打ち破られる前にタケルの魔法が発動。
『フィフス・チャージ・コキュートス』は溜めが必要なタイプの氷魔法でね。
発動までに時間は掛かるものの、その威力は並のランク5魔法どころか、テンイの『アイス』すら上回るの。
ナ 。
あの神喰いが驚いている。
たった3人の攻撃で己の吐く炎と拮抗してる事実に。
「あれ~・・・?
さっきと違って、テンイお兄ちゃん達だけで!?」
「属性の相性よ。
水属性は火属性に強いから。」
そう。
デルマの作戦は至ってシンプル。
相手が火属性の攻撃を得意とするなら、こっちは水属性の技で攻めちゃえ~って作戦よ。
ま、それでも力の差がありすぎたら、どうしようもないんだけどね。
でもデルマは皆で力を合わせれば、属性の相性で相手を打ち破れる可能性もある、と。
そう判断したのよ。
とは言え・・・。
「「「ぐっ。」」」
持ちこたえてるだけマシなものの、まだテンイ達の方が分が悪い。
たった3人じゃ、パワーが足りないのよ。
デルマもそれに気付いてるようで、その表情は暗い。
「一体、どうしたら・・・。
あっ!!
・・・そっか、初めからこうすれば良かったのよっ。」
ところが何か効果的な案を思い付いたようね。
彼女は魔力を集中させ、とある魔法を唱えたの。
「フィフス・コキュートス!!」
ランク5の氷魔法を。
・・・ん?
「「「・・・・・・。」」」
しかし何も起こらない。
神喰いすら、呆気に取られてるよ~ね。
「お・・・おかしいわね。
あんまりにも生々しすぎて、すっかり忘れてたけどさぁ。
これは夢、しかも明晰夢のはずよ!!
・・・だから私でもランク5の魔法が使えるはずなんだけど。」
って、あの子ったらまだ今の状況を夢だと思い込んでたの!?
相変わらず、妙なところでおバカなんだから・・・。
「・・・あのなぁ。
こっちは真剣なんだ。脱力させるんじゃねぇ、このアホ!!
もう良いから、大人しく司令塔に徹しやがれっ。」
これにはタケルも呆れ半分、怒り半分ねぇ。
無理もないけど。
テンイとヴェリアも気持ちを同じくしているよ~で、ジト目でデルマを睨んでいる。
「だ、だって・・・。
他に戦えそうな人達は・・・。」
と言いながら、デルマは呆然とした様子のユウやニューン達魔族へ目をやった。
あ。
そ~だ、彼らがいたんだった。
「・・・ダメ。
どう説得すれば力を貸してくれるか、わからない。」
「「「「・・・。」」」」
けれどデルマは悲し気な表情で首を横に振り、神喰いへ目線を戻す。
なるほど。
ユウやニューン達からしたら、テンイ達に手を貸すよりも彼らが頑張っている隙に自分達だけ逃げちゃう方がお得なのか。
今でもデルマはお互い、都合が悪くなれば、見捨て合うなんて当たり前。
そして見捨てられようが、元より他人で互いを守り合う義務もない以上、仕方ない。
・・・そう考えてるのでしょう。
「うっ!??
はぁ、はぁ・・・。
もう魔力が。」
いや、彼らがどうこう以前にもう私が限界に近いわね。
でも。
「・・・だけど、頑張らなくちゃ。
テンイ達を、助けなきゃ。」
「エミリーお姉ちゃん!!
どうしよう・・・どうしよう・・・。
・・・・・・・・・・・・あれ?」
なんかに気付いたクロがどっか行っちゃったけど、今は彼女を気に掛ける余裕もない。
度々意識を失い掛けるも、それでも踏ん張り、効果の程もわからないまま回復の光を放つ。
悪足掻きになってるかさえ、怪しいものの、それでも放ち続ける。
・・・ホント、私ったら無様な聖女ね。
「彼女を見返したくはないのですか?」
薄れゆく意識の中、日の女神様の声が響く。
「デルマはあなた達の力を欲しながらも、救いを求める事を諦めてしまった。
それは柵だらけの中で、互いを信じ、歩み寄る事なんて、絶対に不可能だと・・・。
そんな風に思い込んでいるからです。」
「「「「・・・。」」」」
「ですが私はそうは思いません。
あなた達の胸の内に秘める、正義の心を信じています。
・・・テンイの真っ直ぐな心に打たれ、巨悪に抗う覚悟を決めたデルマのように。」
ど~やらユウ達に向かって演説しているようね。
でも良い年した人間に綺麗ごとなんて、通用するのかしら?
「彼の・・・テンイの勇姿をよく見るのです。
皆を守るため、必死になって戦い続けるあの姿を見るのです!!
きっと勇気が湧いてきますよ?」
「「「「!!!!」」」」
日の女神様の演説により、ユウやニューン達の表情が変わる。
えっ!?
「・・・え~いっ、も~しょ~がないっ。
例えランク1の魔法でも、無いよりはず~っとマシよ!!
アイ・・・。」
「「「サード・ブリザード!!」」」
「へっ!?」
そしてデルマがヤケクソでランク1の氷魔法を放とうとした寸前、3人の魔族達がランク3の氷魔法を一斉に放つ。
「ニューン、ダウィ、ドロシー!?
・・・どうして。」
「人間なんぞ・・・。
特にタケルのように強い力を手にしたからと、イキリ散らす輩へ手を貸すなんぞ、冗談ではない!!
・・・だがな。」
「俺達は恩を無視して逃げ出すような、そんなクズじゃないっ。」
「そうです。
あなた達には助けて貰った恩があります。
だから!!」
ほ・・・本当に魔族がテンイ達へ手を貸した!??
「俺だって、逃げない。
・・・命を賭してマイケル様を守った父上達に負ける訳にはいかないからっ。
フォース・アイス・バレッド!!」
更にユウがランク4の魔法を発動。
氷の塊を弾丸の如く、打ち飛ばす。
彼らの協力により、テンイ達の状況が幾分かながら改善したわ。
まさか彼らがテンイ達に協力してくれるとは・・・。
「エミリーお姉ちゃん、これ食べて・・・。
これ、凄い何かを感じるのっ。
きっと、元気が出るよ!!」
「・・・これって、ヒデヨシ印の果物?」
多分、デルマが出しっぱなしにしてたのが、散らばっちゃったのね。
確かにあれ、食べると元気が出るけど、こんな状況で1個、食べたくらいじゃ・・・。
とは言え、クロが妙にプッシュするのが引っ掛かる。
経験上、デルマの分析やこの子の勘は軽視すべきじゃないからねぇ。
「ま、とりあえず食べてみましょ~か。」
気休めとばかりにもらった果物を口にした途端。
「へっ・・・?
何、これ・・・!!
力が・・・力が湧いてくる!?」
今まで口にしたヒデヨシ印の果物とは訳が違う。
これは一体・・・。
って、そんな疑問は後回し、後回し。
「ありがとね、クロ!!
これなら・・・いけるっ。
ラージ・ヒール!!」
こうして私は体力満タンの時となんら変わらぬ勢いで全体回復魔法を放つ。
さっきまでは皆、半死半生だったけれど、次々と復活する。
「・・・助かったぞ。
エミリーよ。
後は我らに任せろ!!」
重傷ながらも話を聞いていたアビス様達がテンイの元へ向かう。
「我らも加勢するぞ、テンイ!!
フィフス・アイス・ブレス!!」
アビス様が全てを凍てつかせる程の氷の息を吐き・・・。
「「フィフス・アイス・ブレス!!」」
「五の奥義・極限零度の瞳。」
アーク様、ダース、セツナも水属性の攻撃技を放つ。
「「「「「「「「「はぁああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」
「♪~。」
マイケルの部下達が一斉に氷魔法を放つ。
マイケルも竪琴を奏で、皆の魔法やスキルを強化する。
立場も目的も関係ない。
全員が一致団結し、神喰いを倒すために力を振り絞る!!
ナ 、 ナ 、 ナ ! ! ? ?
その結果、神喰いとの力関係がとうとう逆転。
世界をも焦がす炎が、全てを凍てつかせる程の氷を前に消し飛び、その冷気が化物へ迫る。
ア” ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ? ? ? ?
神喰いがじわり、じわりと凍り付いていく。
「人間、竜、魔族・・・。
皆が協力する事で、これほどの力を出るなんて!!」
「わ~~~~♪」
「あら~・・・。
凄いじゃな~い。」
デルマもクロも私も素直に驚愕するばかり。
「これが今を生きる英雄達の力なのですね!!」
日の女神様も神喰いが凍り付いていく光景を眩しそうな表情で眺めている。
ア” ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! ! ? ? ? ?
これならいける。
これが最強最悪の神喰いの最期よっ。
「・・・あれ?」
ん?
「えっ、えっ!?」
急にクロが戸惑い始める。
「ど・・・ど~したの!?
クロ?」
その様子が気になったデルマが私達の元へ飛んでくる。
「・・・ほんの一瞬。
・・・ほんの一瞬、神喰いのお腹らへんから気配を感じたの!!」
へ?