第192話 日の女神編⑯ 1%のギャンブル
「どうしてそんな冷たい事を言うのですか?」
へっ?
「日の女神・・・様・・・?」
圧倒的な強さを誇る神喰いを前に全滅寸前の転移勇者一行。
既に勝ち目は0に近く、もう逃げに転ずる以外、生き残れる道はない。
例え、逃げ遅れる人が現れても、受け入れるしかない。
そう薄情な提案をした私へ日の女神様が怒りの表情を見せる。
「何故、あなたは互いを信じ、歩み寄ろうとしないのです?
誰かを救うだけの能力を持ちながら、どうしてっ。」
ちょっ、怖い怖い怖い!!
「『誰かを救うだけの能力』だなんて、訳のわからない事を言われても。
そもそも回復が間に合うかも怪しいのです。
エミリーはきっと精一杯、頑張ってくれるでしょ~が、それでも体力的な壁はど~しようもありません。
何がなんでもなんとかしろと言うのは、信頼ではなく、ただの無責任な無茶ぶりで・・・。」
「わぁああああああああああああああああ!!!!!!!!」
泣いちゃった!!??
日の女神様が・・・。
「・・・また私は大勢が死ぬのを黙ってみるしかないのですかっ。
・・・また私は使命すら果たせず、世界が蝕まれるのを見守るしかないのですかっ。
私は・・・私は・・・!!」
まあこの方もいろいろ辛いお立場なんでしょ~が。
しかも封印が解けたばかりで、体調が絶不調だから、守られる事しか出来ず・・・。
私だって、叶う事なら誰も見殺しになんかしたくないわよっ。
・・・でも所詮、一般人でしかない私に出来る事なんて。
「自分で煽っておきながら、上手くいかなきゃ泣き喚くしか出来ね~のかよ・・・。
このクソ女神が。
こんなのを守ろうと犠牲になった連中が憐れでしょ~がね~ぜ。」
って、タケル?
お子様どころか、神々にすら容赦皆無ね。
「・・・。」
タケルの罵倒により、泣き止みこそしたものの、日の女神様の精神はもう限界に近い。
だからと言って、エミリーの『メンタル・リフレッシュ』に頼る余裕もないしねぇ。
「タケル、お前!!
日の女神様になんて酷い事を・・・。」
「・・・おっと。
今はこんな連中、ど~でも良い。」
勇者すら相手にせず、タケルはほんの一瞬、気絶したセツナを見やる。
その後、猛スピードで空高く飛んでったの。
「この化物がっ。
さっきは不覚を取ったが、今度こそ負けねぇ。
てめ~みたいな気色の悪いタコ野郎、この俺がぶっ殺してやる!!」
チ カ ラ ノ サ モ ワ カ ラ ヌ ト ハ 。
ヨ カ ロ ウ 、 カ ミ ガ ミ ヨ リ モ サ キ ニ キ サ マ ヲ ク ロ ウ テ ヤ ロ ウ 。
けれどタケルの咆哮など歯牙にも掛けていないのか、神喰いは嘲笑い続けるばかり。
「おい!?
あの馬鹿野郎!!」
「勇者!?」
「テンイ!?」
一人、無謀な突撃をするタケルを止めるためか、助太刀故か・・・。
勇者までもが空を飛び、それを私とヴェリアが追いかける。
「何、考えてんだよ!?
タケルっ。
一人であいつに敵う訳、ないだろ~が!!」
「るせえっ!!」
・・・もうタケルったら、勇者の正論も聞きやしない。
いくらなんでも無駄死にを良しとするのもあれだし、せめて時間稼ぎしなきゃ。
ただ当然ながら、私が実力で神喰いの足止めをするなんて、不可能も良いとこでしょう。
じゃ~後は上手くいく保証0ながら、問答による場繋ぎくらいしか・・・。
あれ?
「ねえっ!?」
「おい、デルマ?」
ふと強烈な疑問が湧いてしまったので、素で神喰いへ問い掛ける。
「あなた・・・火の神様達を喰らい、知識を得たのでしょう?
だったら神々を喰らえば、この世界が脆くなり、崩壊へ繋がる事も知っているはずよ!!
なのに何故、未だ神々を喰らおうとしてる訳!?」
いくら取り込んだ者の力を得れるとは言え、それで世界が崩壊したら何の意味もない。
神喰い自身も生きる場所を失ってしまうのだから・・・。
どうして?
シ ラ ヌ ワ ケ ガ ナ カ ロ ウ 。
ユ エ ニ ワ レ ワ レ ハ カ ミ ガ ミ ド モ ヲ ク ラ ウ ノ ダ ! !
へ?
わかってながら、神々を喰らいたがるって、嘘でしょう!!
どれほど神喰いが歪な化物だとしても、生物である以上、自ら滅びへ向かうような真似なんてするはずが・・・。
「ど~でもい~わ、てめ~らの事情なんてよ~。
どうせここで死ぬんだからなあっ。
フィフス・チャージ・エクスプロージョン!!!!」
私と神喰いが話していたわずかな時間、魔力を溜めたタケルがランク5の爆発魔法を放つ。
前の神喰いとの戦いじゃ、この魔法1撃で大地ごと消滅させた程よ。
オ ロ カ ナ 。
けれど神喰いの放った炎の前では、タケルの魔法も飲み込まれるしかなくて。
神々を喰らったからか、先ほどまでの神喰いとはレベルが違いすぎる。
「・・・なっ!?」
世界を燃やす炎がタケルを襲う!!
「タケルーーーーーーーー!!!!
シールド!!」
死を悟ったのか、呆気に取られるしかないタケルを守るため、勇者が盾魔法を発動。
ランク5の攻撃すら軽々と防ぐ程の防御力を備える盾も、神喰いの吐く炎の前ではわずかな時間稼ぎにしかならない。
でも。
「ロープ!!」
わずかでも時間を稼げれば十分よ。
勇者の盾のおかげで、私は魔法の縄でタケルを引きずり下ろす事に成功したの。
下から上にいる一人を降ろすだけなら、私の腕力でも簡単ね。
「な・・・。」
「ナイス、王女!!」
「何故だ・・・。
なんでセツナも、お前達も俺を助けるんだ?
・・・どうして。」
「あれ!?
そ~いやど~してかしら?
さっきの魔族もそ~だったけど。」
自分でやった事なのに、自分でもその理由がわからないわ。
「やれやれ、君ってやつは・・・。
エミリー!!
俺達が神喰いを食い止めている内に皆の回復をっ。」
「勇者様!??
どういうおつもりで。」
「・・・簡単な話さ。
俺、ヴェリア、タケルの3人で神喰いを食い止める。
その間にエミリーに皆を回復してもらって、そっから先は数の暴力であいつを倒す・・・。」
「無茶です!!
さっきの私の話、聞いてました?
そんな作戦なんて、この状況じゃ成功率は精々1%かと。」
「例え1%でも、全てが救われる可能性があるのなら・・・。
俺はその可能性に賭ける!!」
し・・・しまったわ!!
例の本曰く、異世界人はこういう状況での1%をやたらと妄信したがるって。
そう書いてあったのを覚えている。
「テンイ!!
ああ・・・やはりあなたは誠の英雄なのですね。」
日の女神様ったら・・・。
勇者のギャンブラーっぷりにあんなに目を輝かせちゃってさぁ。
恋する乙女じゃないんだから。
「・・・てめ~ら相手に借りを作りっぱなしだなんて、御免だ。
だからテンイ。今回だけだ。
今回だけは力を貸してやる!!」
「借り・・・?
ま~、なんでもい~や。
力を貸してくれ、タケル。」
「ちっ!!
腹立たしい奴めっ。」
なんかタケルまで、勇者に協力的だし・・・。
「・・・しゃ~ねぇ。付き合ってやるよ。
で、さっきデルマの話してた作戦で行く気か?」
「うんっ。」
「ヴェリアまで・・・。
いけませんって、勇者様!!
そんな無謀な挑戦に挑まれては。」
せっかくあなたやエミリー達だけなら、ほぼ確実に逃げられるのにさぁ。
無茶に賭けに出て、命の危機を晒すような真似を見逃がす訳には・・・。
「でもさ。
王女だって、本当は誰かを見殺しにするなんてヤでしょ?」
!!!!
「俺だって嫌さ。
だって目覚めが悪いもん。
だから、ね?」
「ね?・・・って、もう。
あなたと言う人は。」
・・・こ~なった以上、彼を止めるのは無理かぁ。
もうしょ~がない。
ここはぜ~んぶ開き直って、勇者の作戦が上手くいくよう、手を尽くすしかなさそうね。
「・・・良いですか?
私の案で行くなら、先に手を出してはいけません。
相手が攻撃を繰り出してから、反撃するのです。」
先に水属性の攻撃を仕掛けると、警戒されて火属性以外の反撃をされかねないもの。
「武術で言う後の先って奴ね。
わかったよ、王女!!」
勇者達の闘志を感じ取ってか、神喰いが攻撃姿勢に入る。
ア キ ラ メ ノ ワ ル イ カ ト ウ セ イ ブ ツ ガ 。
そして予想通り、奴がもっとも得意であろう攻撃を・・・。
世界をも焼き尽くす程の炎を吐き出したの。
「今よっ、皆!!」
「「「おうっ!!」」」