第191話 日の女神編⑮ 全滅寸前
『それ』は私達の前に現れた。
全てを滅ぼす最後の神喰いが。
コ コ カ 。 カ ミ ガ ミ ト ソ ノ シ モ ベ ド モ ヨ。
・・・大きい。
『それ』はとても、とても大きいタコの化物だった。
だけどその体は普通のタコとは比べ物にならない程、赤く、赤く染まっている。
そして・・・。
「・・・なんて熱気なんだ。
つ~かしゃべってる!?」
「おそらく火の神様を喰らい、その膨大な炎の力と知識を取り込んだからかと。
神喰いには喰らった者の力を取り込む能力があります故。」
「火の神を・・・、姉様、いえ、月の神をっ。
神喰い!!
なんて腹立たしい化物なのかしら!?」
2神を殺された恨みからか、日の女神様が憎々し気な眼差しを神喰いへ向けている。
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」」
他の人達は今までとは格の違う神喰いの出現に唖然とするばかり。
モ エ ヨ 。
けれど人間の感情なんて、神喰いは欠片も関心がないのでしょう。
なんの慈悲もなく、世界すら丸ごと燃やしかねない程の炎を放ったの。
「あ。」
これが人生最後の瞬間であろうにも関わらず、私は間の抜けた一文字しか口に出来ず。
「ひいっ!?
フィ・・・フィフス・サン・フレイーーーームっ!!!!」
それを考えると、恐怖で錯乱しながらも、運命に負けじと抗おうとしたタケルは大したものね。
けれど太陽にも似た火球をも、神喰いの放つ圧倒的な炎の前には飲み込まれる他なくて。
「・・・ま、負けるものかーーーーーーーー!!!!!!!!
雷撃波!!」
「四の奥義・連続気弾拳!!」
「五の奥義・極限零度の瞳。」
「「「フィフス・ドラゴン・ブレーーーースっ!!」
勇者が、ヴェリアが、セツナが、3体の竜が全力の一撃で放つ。
「「「「「「「「う、うわぁああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」
ユウを筆頭にマイケルの部下達の大半が、3人の魔族が全身全霊を込めて攻撃技を放つ。
ランク3~4の攻撃もこれだけ纏まればチート能力者すら圧倒する程のパワーとなるわ。
属性すらもバラバラで、なんの統率も取れていない一斉攻撃。
それでも数多の実力者達の攻撃は一時ながらも、神喰いの吐く炎と拮抗したの。
・・・本当にほんの一時だけ、ね。
異形が放つ炎が勇者達の攻撃を打ち破り、私達を焼き尽くさんと迫る。
そこからしばしの間、何があったかよく覚えていない。
********
・・・・・・・・・・・・。
「・・・う、う~ん。
やだも~。
暑苦しいし、焦げ臭いしで、寝れやしない。」
「あっ、エミリーお姉ちゃん。
良かった。
無事だったんだねっ!!」
「ん、クロ?
無事って・・・。
・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・。
「ギャ────∑(゜Д゜; )────ァァッ!!
何、これーーーーーーーー!!!!????」
「エミ・・・リー・・・。
無事だった、か・・・。
・・・テンイ、よ。デルマ達は守れた、ぞ。」
「って、アビス様ーーーーーーーー!!!!????
黒焦げすぎて、最早黒竜じゃない!!??」
「神喰いがっ。3番目の神喰いがっ。
皆、燃やしちゃって!!」
「あ、そっか。
まだ神喰いが1体、残ってたのよね。
とりあえずデルマは無事みたいだけど・・・。」
「・・・うん。
でもいくら声を掛けても、返事がなくて。」
・・・・・・・・・・・・。
「・・・おいっ、セツナ!!
誰が庇えなんて頼んだっ。
目を覚ませ、こらっ!?」
「父・・・上・・・、兄・・・上・・・。
・・・身を挺して、マイケル様を守って。」
「アース!!
目を覚まして、アース!!
なんで・・・どうして皆、私なんかを庇って・・・。」
・・・・・・・・・・・・。
「・・・はぁ、しょ~がない。
この状況で私がやるべき事なんて、1つね。
ラージ・ヒール!!」
「皆、元気になるよね・・・。
皆、エミリーお姉ちゃんの魔法で元気になるよね!?」
「・・・う~ん、ど~かしら。
あ、やっぱだるい。
全然、いつもの調子、出ない。
けど、やれるだけの事はやんないと・・・。」
・・・・・・・・・・・・。
「ったく、デルマもその悲劇のヒロインみたいな表情、い~かげん止めなさいって。
・・・そんな顔したって、事態は悪化するばかりよ。」
「・・・・・・・・・・・・。
エミリー。
でも、私があの時、無理にでも勇者を逃がしていれば・・・。」
「あ。テンイ・・・。
ねぇ、クロ。彼はどこにいるの?
・・・つ~か、無事なの!?」
「ん~っと、テンイお兄ちゃんは・・・。」
「もういないわよ!!
きっと神喰いに焼き殺されちゃったのよ!!
・・・私が周りの空気に流されちゃったせいで、彼は・・・彼はっ。」
どうして私はいつもこうなの・・・。
そのせいで取り返しの付かない事態になっちゃって。
必ず勇者を無事、元の世界へ戻す。
それが私のただ1つの目的だったのにっ。
・・・でも彼は・・・もうっ。
「勝手に殺さないでくれよ。
王女。」
????!!!!
「テンイ!!
良かった。無事・・・、無事かしら?
とにかく、生きてたのねっ。」
「・・・俺もいるぞ~。」
「あら、ヴェリアも。
二人ともボロボロじゃない。
でも、良かった・・・。」
あっ・・・・・・。
「勇者!!」
「王女!?」
勇者が無事だった事を理解した途端、無意識の内に私は彼を抱きしめていたの。
「あ、あわわっ。
わぁ~・・・。」
「良かった・・・。
無事で・・・。
・・・だけどこんなにお顔が真っ赤になって。」
「あんたのせいよ。」
えっ、なんで!?
よくわからないまま、勇者から体を離すと、何故か残念そうながらも、彼の顔色が元に戻る。
チート能力を抜きにしても、勇者の方が私よりも体が強いし、抱きしめたくらいで苦しさのあまり、顔が真っ赤になる事なんてないはずだけどねぇ。
・・・って、今はそれどころじゃない。
勇者の無事を知った途端、鈍っていた頭の働きが元に戻り、あまりに絶望的な現状を再認識させられる。
「やべ~よ、やべ~よ。
神喰いがこっちへ近づいて来やがる!!
炎を吐いて追撃してこね~だけ、マシだけどよぉ。」
炎を吐かないのは多分、私達の事を敵じゃなくて、餌として認識してるからでしょ~ね。
餌は燃やし尽くしちゃうと、食べられないから・・・。
「どちらにせよ、もう打つ手はありません。
もうなりふり構わず逃げる以外、道はないでしょう。
全員が無事、逃げ延びるのはおそらく不可能でしょうが・・・。」
幸い、アビス様は召喚魔法によりこの地へやって来ている。
アビス様なら召喚を解除する事ですぐに元の場所へ逃がせるし、その際、かの方にくっ付いていれば召喚者である勇者以外は一瞬で避難可能よ。
肝心の勇者も逃げに徹底すれば命は助かると思うわ。
・・・でもこんな状況でそんなやり方を選んだところで、多くの人達を助け損ねるでしょう。
ロクに時間もない中、ロクに動けない人達が多数なんだから。
「そんなっ・・・。
ねぇ、どうにかならないの?
どうにかあいつを倒す事は出来ないの!?」
「・・・無理ですよ。
この場にいる全員が万全の状態なら万に一つ、奴を倒せたかもしれませんが。
ですがこんなボロボロの状態ではとても・・・。」
なんせこの場で動けるのは私、勇者、エミリー、クロ、ヴェリア、タケルとたまたま無事だった何人かくらい。
エミリーは回復で手いっぱいだし、私やクロじゃ何の戦力にもなれないし・・・。
こんな状態であの神喰いを倒すなんて・・・。
「う・・・・・・・・・・・・。
・・・あれ?
逆に言えば、全員が万全の状態なら奴を倒せるの!?」
「属性の相性の話は覚えてますか?
勇者様。」
「確か・・・。
火属性は金属性に強く・・・。
水属性は火属性に強く・・・。
土属性は水属性に強く・・・。
・・・・・・・・・・・・って、ひょっとして。」
「そのひょっとして、です。」
勇者もなんとなく察したようね。
「おいおいおいおい・・・。
言いたい事はなんとなくわかったがよぉ。
んなもん、圧倒的な力の差の前じゃほとんど意味ね~じゃね~か。」
「圧倒的な力の差なら、ね。
だけど全員が一斉に攻撃した際、一時ながら拮抗してたじゃない。」
「「「あ。」」」
「あら。
寝てたからよく知らないけど、そ~だったんだ。」
個々の能力で考えるなら、神喰いとの力量差は絶望的よ。
とは言え、全員の力をぶつけた際、一時ながら拮抗していたのも紛れもない事実。
だから奴の攻撃を打ち破れる可能性は実は0じゃない。
0じゃないんだけど・・・。
「おおおっ、さっすが王女!!
だったらその方法で・・・。」
「いえいえ、非現実的すぎますよ。
そもそも私の理屈は単なる机上論です。
・・・大体今、ほとんどの方達が瀕死状態の上、回復魔法が使えるエミリーも限界に近いのですよ。」
その証拠に彼女は先ほどからず~っと回復魔法を使い続けてるにも関わらず、ほとんど効果が出ていない。
これでは回復が終わる前に神喰いが私達を喰らい尽くす可能性の方が高い。
・・・神喰い云々関係なく、回復が終わる前にエミリーが疲労で倒れる可能性の方が更に高そうだけど。
「億に一つ、神喰いがこちらへ来る前に回復が終わったとしても・・・。
全員で力を合わせる事自体、まず不可能でしょう。
だって私達は立場も、目的も、大切にすべきものさえも全然違うのですから。」
「「「「・・・。」」」」
「そんな不可能に挑んで全滅するくらいならですよ?
逃げ遅れる人が出るのを承知の上で、離脱を試みるしか・・・。」
「どうしてそんな冷たい事を言うのですか?」
へっ?
「日の女神・・・様・・・?」