第190話 日の女神編⑭ 全てを滅ぼし者
「フィフス・チャージ・エクスプロージョン!!」
タケルの魔法が発動し、2体目の神喰い諸共大地が消滅した。
「犠牲者がベルゼブブだけだったのが奇跡ね・・・。」
底の見えない地面を眺めながら、私はそう呟いたの。
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「ラージ・ヒール!!」
エミリーが全体回復魔法『ラージ・ヒール』で皆を癒す。
私もヒデヨシ印の果物を渡し回っているところよ。
あれ、理屈はよくわかんないけど、食べると元気が出るからね。
「・・・にしてもタケルのあの魔法。
威力やばすぎでしょ。」
「ですね。
『フィフス・チャージ・エクスプロージョン』は『溜め』が必要となるタイプの爆発系の魔法です。
隙が大きいため1VS1の戦いなどでは使い辛いですが、発動すればその威力は山賊王の自爆魔法すら上回るでしょう。」
「山賊王の自爆魔法以上!??
俺の魔法より強いじゃん!!
スッゲェ・・・。」
そんな魔法がポンポン飛び交う戦いなんて、夢でも関わりたくなかったわ。
だって私はただの無力な一般人ですもの。
「タケル、てめえっ!!
魔族なら犠牲になって良いってかぁ!?」
「ハッ、人も魔族も関係あるかっ。
そいつらが避難さえ、満足に出来ない足手纏いなのが悪いんだろが!!」
って、ヴェリアとタケルが口喧嘩開始!?
どうやらタケルが魔族ごと、神喰いを殺そうとしたのが大層、お気に召さなかったよ~ね。
その件について、セツナこそ気まずそうだけど、ダースは無関心を貫いており、彼らのスタンスがよくわかる。
「あ、そうだった・・・。
見損なったぞ、タケル!!
もしクロが気付かなかったら、魔族達はどうなっていたかっ。」
「・・・こらこら、勇者様まで熱くなっちゃいけませんって。
意図的に殺そうとしたならともかく、戦場の狂気にわざわざ突っかかってもしょ~がないですよ!!
魔族達もどうか今だけは落ち着いて・・・。」
「「「・・・。」」」
まあ、あんな体験後に落ち着けってのも無茶ぶりでしょうが。
でも今、怒りで我を忘れたり、哀しみで気力を失ったら、命に関わるし・・・。
「・・・戦場の狂気って。」
「勇者様の世界でも戦場での同士討ちなんて珍しくないそうじゃないですか。
それはこっちの世界でも大して変わらないのですよ。」
「あ・・・。」
あくまで本や伝聞で知った話だけどね。
戦死者の2割前後が同士討ちな事は珍しい話じゃなく、酷い時は半分以上が同士討ちのケースもあるそうよ。
「だがよっ!!」
「よすのです、ヴェリア。
・・・所詮、タケルは平和な国からやってきた異世界人。
いくら強大な力を授かろうが、戦場に耐えうるような心など持ち合わせていないのです。
ならば我が身可愛さに味方ごと犠牲にしようとしても、仕方ありません。」
「は?」
あの~、マイケルったらヴェリアを宥める振りして、タケルへの暴言吐きまくりじゃない・・・。
やっぱり彼も神喰いごと自分達を巻き添えにしかけた事をかなり根に持ってるのね。
「その通りです、マイケル様。
異世界人も異世界パワーを授かった輩も所詮、努力もせずに手にした力で粋がっているに過ぎません。
無能が身に過ぎた力を手にしたところで、宝の持ち腐れどころか害悪にしかならないのです。」
そしてマイケルに便乗し、トールが異世界人や異世界パワーを授かった人達を貶す。
この発言には勇者も嫌そうな表情ね・・・。
でもトールのように無暗に暴言を吐いて、周りの空気を悪くする人が有能だとも考えにくいけど。
「無能はどっちだ?
カスが。」
しかし今の一言は相当気に障ったようで、静かな口調ながらもタケルが激怒しちゃったの。
こ・・・怖いわ。
「何の役にも立たなかった無能の分際で、よくもま~そんな大口が叩けたものだ。
本当に無能なのはどっちか今、ここで証明してやろうかぁ?」
「ひっ・・・。
む、無能だとっ!?
この私がっ、無能だとっ!!」
だけどトールも無能扱いされ、腹を立てたのか、怯えつつもタケルを憎々し気に睨み付けている。
ちなみに彼はマイケルの部下の中でも立場が強い方だからか、主にマイケルや日の女神様の護衛に徹しており、先ほどの戦いでもほとんど被害を受けてない。
・・・アビス様が護衛として活躍しすぎたからか、彼の見せ場がほとんどなかったの。
けれどランク4以上の攻撃技が使えないトールじゃ、神喰い相手には分が悪すぎるからねぇ。
ほとんど戦わずに済んだのは結果的に幸運だったと思うわ。
「き、貴様らはたまたまチート能力を授かったから、戦えてたに過ぎんわっ。
もしも私がチート能力を授かっていたら、貴様らの何倍も貢献・・・。」
「・・・んな訳あるか、アホ。断言するわ、トール。
仮にお前がチート能力を持ってようが、何の役にも立たなかった、と。
だってお前の本質が無能なんだからよ。」
「なん、だと・・・。」
あの~。
いくら相手がトールだからって、それは言い過ぎじゃ・・・。
「だって単純な戦闘力ならお前よりもず~っと弱い、デルマやクロの方が役立ってるんだぜ?
・・・なのにチート能力を得れば活躍出来るだなんて、妄想にしたって見苦しいわ。
非戦闘要員どころか、子猫にすら劣る分際でよ~♪」
「!!??
私があんな華奢な少女や子猫にすら劣る、だと・・・?」
ちょっといきなり私達をダシにしないでよ!!
「どうせお前の努力なんか見栄を張る事、権力に固執する事くらいだろう?
だからいざという時、何の役にも立たないんだ。
・・・いや、それどころか何かの役に立つ気すらないのかもな。
私欲さえ満たせれば、仕える主すらど~なろ~が構わね~んだ。」
「違う・・・違う違う違う!!
お前なんかに私の何がわかるんだーーーーっ!!!!」
ここまで貶されると、いくら相手がトールでも哀れね。
「・・・ったく。
こんな状況でくっだらない言い争いなんか、よしなさいよ。
あ~、やっと回復が終わったわ・・・。」
だけどそんな口論を止めたのはひたすら回復に専念していたエミリーだった。
「千切れた腕が元に戻って・・・。」
「・・・これが聖女の力。」
彼女のおかげで、死が間近だった重傷者達も五体満足で復活したの。
ところが回復が済んだと同時にエミリーは倒れてしまう。
「エミリー!??」
「エミリーお姉ちゃん!!」
「おい、大丈夫かよっ。」
そんなエミリーに勇者、クロ、ヴェリアがあわてて駆け寄る。
私も『念のため』彼女の元へ向かう。
「・・・大丈夫、よ。
少し疲れちゃっただけ。
悪いけど、ちょっと休ませてもらうわね。」
そう告げた後、エミリーはそのまま意識を失っちゃったの。
「エミリー・・・。」
「大丈夫ですよ。
魔法を使い過ぎて、疲れちゃっただけですから
しかしこれ以上、彼女の回復魔法に頼るのは難しいでしょう。」
予想通り、単純な疲労が原因で倒れただけだから、きちんと休めばエミリーは問題なく元気になるわ。
・・・これから先、彼女の力に頼れそうにないのは大問題だけど。
なんと言っても回復魔法が使えるのはエミリーだけだもの。
「「「「「「「「・・・・・・。」」」」」」」」
これ以上、回復魔法に頼れない事実が重くのしかかる。
「勇者様、私達はもう限界です。
一刻も早く、この場から立ち去りましょう。」
ここが潮時ね。
「えっ!?
でも残りの神喰い、放っておいて良いの・・・?
あんなのが暴れたらこの世界は滅茶苦茶になっちゃうよ!!」
「ですがこれ以上戦えば、かなりの確率で大量の犠牲者が出てしまうでしょう。
いや・・・。
下手すれば、あなたの命すら危ういかもしれません。」
「犠牲者!?
・・・それは・・・やだな。
誰かが殺されちゃうだなんて、そんな・・・。」
旅を通じ、心が強くなったとしても、元々彼は平和な国から拉致された青年。
自身や仲間の死の可能性を知り、戦意が萎む。
「きっと最後の神喰いこそ、月の神様や火の神様を喰らった張本人でしょう。
・・・先ほどの戦いさえ、生き残れたのは運が良かったからに過ぎません。
なのにそれよりも更に悍ましい化物との戦いなんて、全滅の可能性すらあります。」
さっき撃破した神喰いは火や闇の力による攻撃は行わなかった。
1番最初の神喰いも炎こそ吐いていたものの、神々を喰らい力が増していたなら、あれほどすんなりと倒せなかったでしょう。
だとしたら最後の神喰いが、火の神様達を喰らったのだと思うの。
「確かにあなたの才能は素晴らしい・・・。
日の女神様が英雄と称したくなる気持ちもわからなくはないです。
・・・ですがいくら強くとも、あなたは単なる拉致被害者でしかありません。
命を賭して戦うだなんて、とんでもない。
自分の身を第一に行動すべきだと思いますよ?」
こんな台詞、例の本基準で言えば邪道もい~とこよ。
でも私にとって彼を褒め称え、良い気分にさせるよりも、さ。
無事、元の世界へ帰す事の方が大切だもの。
「自分の身を第一に、か・・・。
ま、どっちにせよこんな状態じゃ、もう撤退した方が無難かもね。」
「・・・・・・・・・・・・。」
さてと。
話も纏まった事だし、後は手遅れになる前に撤退を・・・。
「起きちゃった。」
「目覚めてしまいました。」
クロとマイケルが呆けた口調で呟く。
まさか!!
「最後の神喰い・・・。」
でも、なんなの・・・?
まだ神喰いはその姿を見せていない。
そして今の私は気配察知系の魔法を使っていない。
・・・なのにどうしてなの?
どうしてこんなに怖気がするの!?
これほどの恐怖を感じながらも一歩も足が動かない。
今すぐにでも逃げ出したいのにそれすら叶わない。
一体、どれくらいの時間が経ったのか・・・。
わずかな時間か、かなりの時間か・・・。
コ コ カ 。 カ ミ ガ ミ ト ソ ノ シ モ ベ ド モ ヨ。
『それ』は私達の前に現れた。
全てを滅ぼす最後の神喰いが。