第189話 日の女神編⑬ 無限の答え
「「「「「「「「################」」」」」」」」
空が歪な化物で埋め尽くされている。
神喰いの一種である奴らは1体、1体のサイズはゴブリン並で突進や腕を振り回す等、単純な肉弾戦しか出来ない。
が、そのパワーは野良ドラゴン以上でいくら倒せど、一向に数が減る気配はない。
「ガハっ!?
・・・ちっ。
何体いやがるんだ、こいつら。」
「さすがにこのままじゃ、まずいわねぇ。」
「グルル・・・。」
勇者に匹敵する実力を持つタケルやその仲間達をも、奴らの猛攻によりじわり、じわりと追い詰められていく。
タケルが召喚したベルゼブブもとっくに数の暴力に敗れ、喰われてしまっていた。
「ぐぉおおお・・・。
倒しても倒しても、キリが無いわ!!」
先代エンシェントドラゴンであるアーク様も相当消耗している。
・・・それでもアーク様やタケル達はまだマシだったの。
「ぎゃああああああああ!!!!????
足が、足がぁああああああああーーーーーーーー!!!!!!!!」
・・・『また』マイケルの部下が1人、体の一部を潰されてしまった。
「あ、う、う・・・。」
向こう側では魔族の1人が翼を引き千切られ、苦悶の表情を浮かべている。
当たり前のように誰かが大怪我を負う状況・・・。
けれど誰もが自身の命すら危うき今、他者の身を案じる余裕すら許さない。
「フォース・シールド!!
ああっ、も~何体いるのよ!?
こいつらっ。」
・・・唯一の回復魔法の使い手であるエミリーも、自分や周りを守るので手一杯。
重傷者多数ながら、彼らの回復に向かう事さえ叶わない。
このままじゃ死者が出るのも時間の問題よ・・・。
「もう、ダメなの?
私達は神喰いの群れに皆殺しにされちゃうの・・・?」
これは夢よ。
夢なのよ!!
そう思いたくとも、生々しい光景が夢だと思う事さえ許してくれそうになく。
・・・如何なる強者すら、神喰いには成す術がないの?
私は皆が死んでいく様をただ眺める事しか出来ないの!?
「ま、負けるかぁああああああああ!!!!!!!!」
勇者!!
あの、勇者が・・・。
旅に出たばかりの頃はチンピラにさえ泣かされていた彼が・・・。
神をも喰らう化物相手に、怯む事なく戦い続けてる。
「あ~、もういい加減にしやがれっ。
この化物が~~~~!!!!」
「皆の者、案ずるな・・・。
神の使いとして、我が必ず守ってみせるから!!」
ヴェリア、アビス様・・・。
あんなに傷だらけになりながら、それでも皆を守るためにっ。
・・・・・・・・・・・・。
ダメ。
勇者も、皆も、必死になって絶望の運命に抗い続けている。
なのにっ、なのにっ!!
「・・・諦めちゃダメなのよ。
どんなに無力だったとしても・・・。
私だって、勇者達の仲間なんだから!!」
どれほど足掻いても、私なんかじゃ大した事なんて出来ない。
・・・それでも彼らのために力を尽くさなきゃ。
「そ~よ!!
今日のあんた、柄にもなく怖がりすぎなのよ・・・。
さっさとあの無限沸きする化物をど~にかする方法、考えてちょ~だいっ。」
「無限沸きって、エミリーってば・・・。」
でも倒しても倒しても、際限なく現れる様は正に無限沸きね・・・。
やっぱりどこからともなく援軍が延々と飛んで来てるのかしら?
と、つい気になって周りを見渡したのだけど。
「あれ?」
見渡せど、見渡せど、遠くからあの化物共が向かってきている風には見えず。
だけど何体化物を倒そうが、数が減る気配すら見えない。
・・・なんで?
勇者の世界の『ゲーム』じゃあるまいし、何の脈略もなく化物が湧き出てくる・・・。
なんて現象は現実なら絶対にありえない。
それでも化物の数が常に一定数、存在し続けてるのは紛れもない事実。
「・・・・・・。」
私は阿鼻叫喚な光景に心乱されないようにしつつ、周りを注意深く観察したの。
すると死角から『それ』が唐突に出現するのが見えて・・・。
「えっ!?」
--------
「ふ・・・増えた増えたふえたふえた。
やだやだやだやだやだやだやだやだ。
やーーーーーーーー!!!!!!!!」
「十・・・いや、百か!?
音が、音がどんどん増えていく。
何故、どうして!!」
--------
あっ!!
もしかして!?
私はとある仮説を検証するため、急ぎマイケルへコンタクトを取ろうとするも、酷い乱戦のせいで彼に声を掛ける事すら、出来そうになかったの。
マイケルがダメなら、もう後は・・・。
・・・。
「・・・クロっ、お願いっ!!
あなたの力を貸してっ!!」
「・・・・・・。
あたしの、力?」
頼れる相手はクロしかいない。
こんな幼子に縋る自分があまりにも不甲斐ない。
申し訳なささえ、感じてしまう。
けれど、どれほど惨めだったとしても・・・。
「そうよっ。
勇者を・・・皆を・・・そしてあなた自身を救うために・・・。
あなたの力が必要なの!!」
「!!??」
勇者やエミリー達を神喰いの犠牲なんかに出来ないわっ。
「テンイお兄ちゃんを・・・。
皆を助ける・・・。
あたし、皆を助ける!!
テンイお兄ちゃんを、助けるの!!」
クロっ。
・・・ありがとう。
「で、デルマお姉ちゃん。
あたし、何したらい~の!?」
「それはね・・・。」
私はクロにやって欲しい事とその目的を手短に話す。
「へっ、そ~なのっ!?
・・・うん、わかった。
あたしの『索敵』で調べてみるね。」
そしてクロは神経を集中し、辺りの気配を探る。
「ひっ!?
あわわ・・・。ここっ、ここっ!!
デルマお姉ちゃんのお話、本当だったんだ。」
結果、『それ』に気付いた彼女が恐怖のあまり、私の肩へ避難しつつ、地面を指差し続けたの。
・・・どうやら私の仮説は当たっていたみたい。
だったら次にやる事は1つ!!
「勇者様ーーーーーーーー!!!!!!!!
どうか私達の元まで、来てくださーーーーいっ!!!!」
私は大声で勇者を呼んだ。
他力本願極まりないけど、彼の力が必要だから。
「どうしたんだい!?
王女!!」
ボロボロになりながら戦っていた勇者が猛スピードで私達の元へやって来る。
「お・・・臆したか!?
デルマ!!
貴重な戦力であるテンイを我が身可愛さに呼び寄せるとはっ。」
なんか勘違いしたトールが悪態突いてるわね・・・。
彼に同調して私を睨み付ける人達もいるし。
でも今はそんなしょ~もないものに構っている余裕はない。
「勇者様!!
まずは地面へミスリルソードを突き刺してください。
早くっ。」
「へ・・・?
う、うん。」
急かす私に戸惑いつつも、素直に指示に従う勇者。
「そのままランク1のスキル、巨大化を!!」
「?・・・。
あっ!!
うんっ、わかった!!」
唐突な要望にほんの少し考えた後、私の意図に気付いた彼が勢い良く返事する。
「いくぞっ。
巨大化ーーーーーーーー!!!!!!!!」
勇者のスキルが発動し、地面に突き刺された剣がみるみる内に大きくなり、地面の中を突き進む。
「@@@@@@@@▼▼▼▼▼▼▼▼????????********」
彼のおかげで私の狙い通り、巨大化したミスリルソードが『それ』へ突き刺さり、人には理解不能な悲鳴が地中から鳴り響いたわ。
「化物共の様子が!?」
更に地上の化物共まで理解不能な動きを始め、滅した分だけその数も減り始めたの。
「王女。
これは一体・・・?」
「簡単に言えば、神喰いの本体が地中に潜んでいたのです。
地上にいた連中は本体の分身だったのです。
クロが探り当ててくれました。」
「・・・本体。
君の口ぶりから、地中に敵が潜んでるんだろ~な~。
とは思ったけど・・・。」
剣のサイズを戻しながら、呟く勇者。
おそらく分身共で勇者達を弱らせた後、地中から喰らい尽くす算段だったのでしょう。
「デル・・・マ・・・。
神、喰い、の、戦略を。
見破っ・・・て・・・。」
「・・・喋るな、セイン。
傷が開く。
だがあんな無力な小娘達が、どうして・・・。」
だけど安心するのはまだ早い。
「あなたの一撃でかなりのダメージを負ったようですが、まだ死なないとは・・・。」
「神喰い・・・。
とんでもない化物!!」
2番目の神喰いの本体はまだ生きているのだから。
その事にクロもしっかり気付いており、私の肩から地面を睨み続けている。
「だったら急いで追撃・・・しちゃダメだよね。
まだ・・・。」
「はい。
あまり余裕は無いですが、追撃に移るのは皆の避難を終わらせてからでないと。」
もたもたしてると、神喰いの本体が反撃へ転じたり、逆に逃げ始める可能性もある。
しかしだからと言って、避難も終わらないまま本体が滅ぶ勢いで攻撃を行えば、まず確実に誰かが巻き添えになっちゃうわ。
勇者の攻撃や私の指示で罪の無い人達を危険に晒す訳には・・・。
「・・・悠長な事、言ってんじゃねぇよ。
デルマぁ!!」
「「へっ?」」
ところが私の言葉がいたく気に入らなかったのか、タケルが怒りに満ちた形相で地面を睨み付けていたの。
勇者さえも超えかねない程の魔力を溜めながら。
「1分だ・・・。
待ってやるのは1分だけだ!!」
・・・これ、絶対まずいやつじゃない!?
「皆ーーーーーーーー!!!!!!!!
早く空中へ避難してーーーーーーーー!!!!
タケルが、タケルがーーーーーーーー!!??」
私は大声で周りに避難を促しつつ、クロを肩に乗せながら『フライング』の魔法で宙へ舞う。
勇者、エミリー、ヴェリアや、比較的軽傷だった人達も急ぎ、飛行魔法で空中へ避難する。
でも。
「待つのです、タケル!!
まだ怪我人の避難がっ。」
「知るか!!
避難もロクに出来ね~足手纏い共なんぞ、化物共々死にやがれーーーー!!!!」
「そんなっ!?」
マイケル自身は無事だけど、彼の部下に重傷人が多すぎて、わずか1分で全員が避難出来るとは・・・。
「フィフス・テレキネシス!!」
しかしアビス様がマイケル達ごと地面の一部を抉り、空中へと浮かす。
『フィフス・テレキネシス』は村や町すら動かす程の強力な念動力で物を操るランク5の魔法よ。
「わしも力を貸すぞ、アビスっ。
日の神アイア様・・・。
あなたを決して死なせたりなどしません!!」
「アーク・・・。」
ある程度、マイケル達を浮かせたところでアーク様がその下へ回り、日の女神様ごとマイケル達を更に空高く持ち上げたの。
ものすんごい荒業だけど、これでど~にか全員、逃げ切れ・・・。
「あ~~~~!!!!????
デルマお姉ちゃん・・・。
あそこ、あそこ!!」
・・・てなかった。
飛ぶ事すら出来ない程の傷を負った魔族達がね。
地面から恐怖に満ちた表情でタケルを眺めていたの。
「わーーーーーーーー!!!!????
待ちなさい、タケル!!!!
まだあなたの・・・。」
「黙れっ!!
あと5秒だ!!」
あ、ダメそう。
タケルったら、すっかり頭に血が上っちゃって・・・。
もう地中に潜む神喰いを滅ぼす事しか、頭に無いじゃない。
・・・え~い。
もうしょ~がない!!
「ロープ!!」
私は咄嗟にランク1の魔法『ロープ』を使用。
『ロープ』は縄を作り出し、自在に操る事が出来る魔法よ。
「「「!!??」」」
そして力一杯、縄を操り、どうにか魔族達を縛りあげる事に成功する。
あとは引っ張り上げるだけだけど・・・。
「お、重い・・・。」
・・・私の素の力で、3人もの魔族を持ち上げるのは無理ね。
早く『強化』をスキルを発動させて・・・。
「俺も手伝う!!」
「まったく、世話が焼けるわねぇ。」
「おらおらっ、急ぐんだよっ!!」
勇者、エミリー、ヴェリア!!
気付いた時には3人が私の生み出した縄を掴んでいたの。
共にあの魔族達を引っ張り上げるために・・・。
「「「「間に合えーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」
4人で力を合わせ、縄を引っ張り上げた直後・・・。
「フィフス・チャージ・エクスプロージョン!!」
タケルの魔法が発動し、2体目の神喰い諸共大地が消滅した。