第17話 初クエスト編③ 怪しい依頼
なんやかんやあって、勇者テンイとその仲間達はゴブリン討伐へ向かう事になった。
・・・けれどゴブリン1体討伐するだけにも関わらず、報酬がなんと金貨30枚。
場所は依頼書には書かれておらず、胡散臭いギルド職員に案内してもらっている。
あからさまに怪しすぎて、とっても不安だわ・・・。
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「・・・王女、エミリー。ごめん!!
俺がムキになったせいで、こんな依頼を受ける羽目になって。」
依頼主の元へ向かっている途中、勇者が私達に謝罪を行った。
「まっ、受けちゃったものはしょうがないんじゃない。
でもなんでテンイ、あんなに怒ってたの?」
「剣道・・・剣の修行が辛すぎて挫折した時、周りから凄く貶されたんだ。
『逃げる気か!?』とか『腰抜けが!!』ってさ。
あの時の悔しい気持ちを思い出しちゃって、つい。」
つまり心の地雷を踏まれてムキになっちゃったのね。
気持ちはわからなくもないけど・・・。
「はっ!!
今更、後悔してももう遅い。
せいぜい足掻くんだな。」
・・・ゴブリン一体討伐するのにこの言い草。
やっぱりこの受付、怪しさしかないわ。
「大丈夫です、勇者様。
別に『もう遅い』なんて事はないですから。
こんなに怪しい依頼、無視して逃げたって許されますわ。」
「( ゜Д゜)ハァ?」
これが普通の依頼なら、無責任に逃げるなんて良くないわ。
だけど騙す気満々の依頼なんて、無視して放り投げても全然OKだと思う。
「王女。あんたって、卑怯な約束は全力で否定するタイプね。
・・・まあ私も正直、逃げてOKだと思うけどさ。
どうせ律儀に頑張った所で、私達にメリットなんか無さそうだもの。」
でしょでしょ。
「ふっざけんなよ、このクソ女!!
ちょっと可愛いからって、調子に乗りやがって・・・。」
「あなたが『後悔してももう遅い』なんて、嘲笑うからよ!!
ゴブリンを一体、討伐するだけの私達に言うような台詞じゃないもの。
だからやっぱり、私達を騙して陥れようとしてるんだって・・・。」
ゴブリン一体なんて、その気になればあの受付の人だって倒せるはず。
『後悔してももう遅い』なんて、何と戦わせるつもりなのよ?
「この受付もあの冒険者ギルドも本気で怪しいわね。
・・・一度戻って、お役人や他の冒険者ギルドに調査してもらう?」
「ざ、ざざざ、ざけんな!!
この自称聖女め・・・。」
自称て。
まあいくら綺麗でも態度が聖女らしくないからねぇ。
冒険者ギルドの受付を自称するあの男よりはマシだけど。
「なんでそんなに嫌がるのよ。
やましい所がなければ、いくら調査されたって平気でしょ?」
とは言え、特に同じ町のお役人なんかはきっと疑っているんじゃないかしら?
実際に調査を依頼したら本当にあの冒険者ギルド、解体されるかもね。
「ちょ、調査とか、んな事してる暇はねえんだよ!!
・・・おいっ、そこの自称勇者!!
まさか『やっぱり怖いから逃げます~』なんて言わないよなぁ?」
「!! ・・・もちろんだとも。
逃げたりなんかするものか!!」
うっ!?
勇者を煽られると痛いわ。
だけど話せば話すほど、受付の態度が嘘だとしか思えない。
ここは強引にでも勇者を引きずって逃げた方が彼のためかも・・・。
「待ちなさい、王女。
テンイったら、意固地になってる。
ここで無理に止めても、後で一人で突撃しそうだわ。」
「そ、それは・・・でも、けど!!
受注したクエスト、怪しい所だらけで凄く不安だし・・・。」
「そこは私も同感よ。
けど、しばらくは様子を見ましょう。
テンイ一人で突撃してしまうよりは、私達も一緒にいた方がマシだから。」
確かにそうね。
勇者だって、このクエストが怪しい事くらい、内心理解しているはず。
頭を冷やせばきっと、正しい判断を下せるはずよ・・・。
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受付に誘われるまま、私達は山奥の村まで案内された。
外観は普通の小さな村って感じだけど、なんだか妙な所ばかり。
「てめぇ・・・。
自分だけこの村から逃げようだなんて、舐めた真似を!!」
「許してくれ!!
どうか逃がしてくれ、死にたくない!!!!」
「・・・なんなの、あれ?」
村から逃げ出そうと必死でもがく男性を、複数の人間が押さえつけている。
「あ、ああ・・・あれはな。
村を襲うゴブリンに怯えてるんだ。」
いや、どう考えてもゴブリンに対する態度じゃないわよ!!
「そんなわけ無いじゃない。
そもそもゴブリンが一体だけで人を殺そうだなんて、考えるはずないもの。」
「えっ!?
そうなの、エミリー。」
「だって、テンイ。
ゴブリンって力は弱いし臆病だけど、それなりに賢いもの。
一体だけで人を殺そうとなんかするはずないわ。
せいぜいが食べ物を盗むくらいじゃない?」
実際、私が実戦訓練の一環として、ゴブリンの群れを討伐した時もそうだった。
彼らは群れていると凶暴だが、数が減ると人間に恐れをなし、逃げ始める。
それだけゴブリンは単独だと弱い生き物なのよ。
「よく考えてもみなさい、テンイ。
猿が一匹でトラやライオンに喧嘩なんか吹っ掛けると思う?」
「・・・思わない。」
「でしょ?」
そんなのただの自殺行為だものね。
ゴブリンと言えど、死にたがりってわけじゃないもの。
「今回の依頼、一から十まで怪しい所だらけじゃない!!
やっぱ・・・。」
「ちょ、ちょっと待てって!!
せっかくここまで来たんだ。
話くらい聞いてけよ、なっ!?」
そんな事を言われても・・・。
渋々受付の案内により、小さな村にはそぐわない大きな屋敷の中へと入る。
そこには見張りらしき人達もちらほらと見掛けた。
・・・に、しても。
「ねえ、勇者様。聖女。
この屋敷の人達、冒険者っぽい恰好の人が多くない?」
「あっ、本当だ。」
「手に持っている剣や鎧、駆け出しの冒険者がよく使うものだわ。
ゴブリン退治くらい、彼らに任せられなかったの・・・?」
「そ、それは無理だ!!
だって・・・いや、なんでもない。」
・・・。
そうこう話している内に私達はクエストの依頼人と対峙した。
屋敷の主かしら?
小太りだけど人相がやや悪いおじさんが話し始める。
「冒険者の皆様、よくぞ参られました。
この度はコボルトの討伐依頼を受けて頂き、ありがとうございます。」
えっ?
「あの~・・・。
私達が受けた依頼はゴブリンの討伐なんですけど。」
「う、うっせえんだよ。自称王女が!!
細かいことをグダグダと・・・。
ゴブリンだろうが、コボルトだろうが、似たようなものだろ?」
「・・・いや、確かに総合的な実力は同じようなものだけど。
モンスターの種類が違えば、対策の立て方だって変わるじゃない。
それくらい、ギルドの受付なら理解しているはずよ。」
強さが同じくらいだからって、討伐すべきモンスターをでたらめに言って良いはずがない。
特に冒険者ギルドの関係者なら、尚更気を付けるべきよ。
「あなた・・・本当に冒険者ギルドの受付なの?
なんだか私、ますます信じられなくなっちゃった。」
「同感よ、聖女。
・・・それとも実はあの冒険者ギルド、偽物だったのかしら?
勇者様、やっぱりこの依頼は・・・。」
「だだだ、だからそう疑うなって!!
あ、あの依頼人、ちょっとボケてるだけだよ。
それでコボルトとゴブリンを言い間違えただけだ。
・・・で、ですよね?」
「(#^ω^)ピキピキ。」
依頼人ったら、めっちゃキレてるじゃない。
「・・・そ、そうですとも。
うっかり言い間違えただけです。
どうか疑わないで下さい。」
受付にボケているとバカにされ、怒りを抑えつつも言い間違えを主張する依頼人。
無理やり話を合わせているようにしか見えないのだけど・・・。
「・・・そんな事を言われましても。
そもそも私達はまだ冒険者として、未熟なのです。
依頼内容と違う魔物を討伐しろと言われても、出来ないのです。」
元々私はゴブリンクラスの魔物を倒す程度の力しかない。
聖女だって防御魔法こそ凄くとも、攻撃力自体は私と大差ないレベル。
そして勇者は実戦経験がほとんど皆無な上、装備もかなりお粗末。
魔法・スキル無しだと、ゴブリンを倒すのがやっとだと思うわ。
しかしだからと言って、魔法・スキルを使ってしまうと、余波だけで周りに大きな被害を出す可能性が高い。
だからゴブリンよりも凶悪なモンスターなんて、倒せるはずがないのよ。
「あとはっきり申し上げますと、クエスト内容も受付も何もかもが信用出来ません。
故に今回の依頼は辞退・・・。」
「まままっ・・・待ってください!!
そ、そうだ。
モンスターの居場所もこやつに案内させます故、どうか我らを疑わないで下さい。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、村長!!
それは・・・。」
あら?
あの受付の人、この村の出身だったの??
・・・グルなのかしら。
「黙れぃ!!!!
お前がふざけた対応をしてるから、この方達が疑うのだ!!
ならば誠意を尽くし、彼らの信用を取り戻すのが筋だろうが。」
「誠意って・・・信用って・・・。
そ、そもそも!!」
「このお方達に頼らなければ、我らの村はお終いなのだ。
良いな。彼らを魔物の元へ案内するまで、この村に帰ってくるでないぞ!!」
「そんな・・・。
あ・・・あああっ!!」
・・・あの受付。
私達をゴブリンの元へ案内するだけで、あの絶望っぷり。
どうしましょう?
関われば関わるほど、なんだか怖くなってくる。
「本当に信用して良いのかなぁ・・・?」
さすがの勇者も異様な雰囲気に戸惑いを隠せずにいる。
「・・・信用して良いのです。
さっ、勇敢な冒険者様方。
どうか我らの村をお救いください!!」
・・・。
私達は不安を抱えつつも、流されるまま魔物の住処まで案内される羽目になった。
虚ろな目付きとなった受付と共に・・・。