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第17話 初クエスト編③ 怪しい依頼

なんやかんやあって、勇者テンイとその仲間達はゴブリン討伐へ向かう事になった。

・・・けれどゴブリン1体討伐するだけにも関わらず、報酬がなんと金貨30枚。

場所は依頼書には書かれておらず、胡散臭いギルド職員に案内してもらっている。


あからさまに怪しすぎて、とっても不安だわ・・・。



********



「・・・王女、エミリー。ごめん!!

 俺がムキになったせいで、こんな依頼を受ける羽目になって。」


依頼主の元へ向かっている途中、勇者が私達に謝罪を行った。


「まっ、受けちゃったものはしょうがないんじゃない。

 でもなんでテンイ、あんなに怒ってたの?」


「剣道・・・剣の修行が辛すぎて挫折した時、周りから凄く貶されたんだ。

 『逃げる気か!?』とか『腰抜けが!!』ってさ。

 あの時の悔しい気持ちを思い出しちゃって、つい。」


つまり心の地雷を踏まれてムキになっちゃったのね。

気持ちはわからなくもないけど・・・。


「はっ!!

 今更、後悔してももう遅い。

 せいぜい足掻くんだな。」


・・・ゴブリン一体討伐するのにこの言い草。

やっぱりこの受付、怪しさしかないわ。


「大丈夫です、勇者様。

 別に『もう遅い』なんて事はないですから。

 こんなに怪しい依頼、無視して逃げたって許されますわ。」


「( ゜Д゜)ハァ?」


これが普通の依頼なら、無責任に逃げるなんて良くないわ。

だけど騙す気満々の依頼なんて、無視して放り投げても全然OKだと思う。


「王女。あんたって、卑怯な約束は全力で否定するタイプね。

 ・・・まあ私も正直、逃げてOKだと思うけどさ。

 どうせ律儀に頑張った所で、私達にメリットなんか無さそうだもの。」


でしょでしょ。


「ふっざけんなよ、このクソ女!!

 ちょっと可愛いからって、調子に乗りやがって・・・。」


「あなたが『後悔してももう遅い』なんて、嘲笑うからよ!!

 ゴブリンを一体、討伐するだけの私達に言うような台詞じゃないもの。

 だからやっぱり、私達を騙して陥れようとしてるんだって・・・。」


ゴブリン一体なんて、その気になればあの受付の人だって倒せるはず。

『後悔してももう遅い』なんて、何と戦わせるつもりなのよ?


「この受付もあの冒険者ギルドも本気で怪しいわね。

 ・・・一度戻って、お役人や他の冒険者ギルドに調査してもらう?」


「ざ、ざざざ、ざけんな!!

 この自称聖女め・・・。」


自称て。

まあいくら綺麗でも態度が聖女らしくないからねぇ。

冒険者ギルドの受付を自称するあの男よりはマシだけど。


「なんでそんなに嫌がるのよ。

 やましい所がなければ、いくら調査されたって平気でしょ?」


とは言え、特に同じ町のお役人なんかはきっと疑っているんじゃないかしら?

実際に調査を依頼したら本当にあの冒険者ギルド、解体されるかもね。


「ちょ、調査とか、んな事してる暇はねえんだよ!!

 ・・・おいっ、そこの自称勇者!!

 まさか『やっぱり怖いから逃げます~』なんて言わないよなぁ?」


「!! ・・・もちろんだとも。

 逃げたりなんかするものか!!」


うっ!?

勇者を煽られると痛いわ。


だけど話せば話すほど、受付の態度が嘘だとしか思えない。

ここは強引にでも勇者を引きずって逃げた方が彼のためかも・・・。


「待ちなさい、王女。

 テンイったら、意固地になってる。

 ここで無理に止めても、後で一人で突撃しそうだわ。」


「そ、それは・・・でも、けど!!

 受注したクエスト、怪しい所だらけで凄く不安だし・・・。」


「そこは私も同感よ。

 けど、しばらくは様子を見ましょう。

 テンイ一人で突撃してしまうよりは、私達も一緒にいた方がマシだから。」


確かにそうね。

勇者だって、このクエストが怪しい事くらい、内心理解しているはず。

頭を冷やせばきっと、正しい判断を下せるはずよ・・・。



********



受付に誘われるまま、私達は山奥の村まで案内された。

外観は普通の小さな村って感じだけど、なんだか妙な所ばかり。


「てめぇ・・・。

 自分だけこの村から逃げようだなんて、舐めた真似を!!」


「許してくれ!!

 どうか逃がしてくれ、死にたくない!!!!」


「・・・なんなの、あれ?」


村から逃げ出そうと必死でもがく男性を、複数の人間が押さえつけている。


「あ、ああ・・・あれはな。

 村を襲うゴブリンに怯えてるんだ。」


いや、どう考えてもゴブリンに対する態度じゃないわよ!!


「そんなわけ無いじゃない。

 そもそもゴブリンが一体だけで人を殺そうだなんて、考えるはずないもの。」


「えっ!?

 そうなの、エミリー。」


「だって、テンイ。

 ゴブリンって力は弱いし臆病だけど、それなりに賢いもの。


 一体だけで人を殺そうとなんかするはずないわ。

 せいぜいが食べ物を盗むくらいじゃない?」

 

実際、私が実戦訓練の一環として、ゴブリンの群れを討伐した時もそうだった。

彼らは群れていると凶暴だが、数が減ると人間に恐れをなし、逃げ始める。

それだけゴブリンは単独だと弱い生き物なのよ。


「よく考えてもみなさい、テンイ。

 猿が一匹でトラやライオンに喧嘩なんか吹っ掛けると思う?」


「・・・思わない。」


「でしょ?」


そんなのただの自殺行為だものね。

ゴブリンと言えど、死にたがりってわけじゃないもの。


「今回の依頼、一から十まで怪しい所だらけじゃない!!

 やっぱ・・・。」


「ちょ、ちょっと待てって!!

 せっかくここまで来たんだ。

 話くらい聞いてけよ、なっ!?」


そんな事を言われても・・・。


渋々受付の案内により、小さな村にはそぐわない大きな屋敷の中へと入る。

そこには見張りらしき人達もちらほらと見掛けた。


・・・に、しても。


「ねえ、勇者様。聖女。

 この屋敷の人達、冒険者っぽい恰好の人が多くない?」


「あっ、本当だ。」


「手に持っている剣や鎧、駆け出しの冒険者がよく使うものだわ。

 ゴブリン退治くらい、彼らに任せられなかったの・・・?」


「そ、それは無理だ!!

 だって・・・いや、なんでもない。」


・・・。


そうこう話している内に私達はクエストの依頼人と対峙した。

屋敷の主かしら?

小太りだけど人相がやや悪いおじさんが話し始める。


「冒険者の皆様、よくぞ参られました。

 この度はコボルトの討伐依頼を受けて頂き、ありがとうございます。」


えっ?


「あの~・・・。

 私達が受けた依頼はゴブリンの討伐なんですけど。」


「う、うっせえんだよ。自称王女が!!

 細かいことをグダグダと・・・。

 ゴブリンだろうが、コボルトだろうが、似たようなものだろ?」


「・・・いや、確かに総合的な実力は同じようなものだけど。

 モンスターの種類が違えば、対策の立て方だって変わるじゃない。

 それくらい、ギルドの受付なら理解しているはずよ。」


強さが同じくらいだからって、討伐すべきモンスターをでたらめに言って良いはずがない。

特に冒険者ギルドの関係者なら、尚更気を付けるべきよ。


「あなた・・・本当に冒険者ギルドの受付なの?

 なんだか私、ますます信じられなくなっちゃった。」


「同感よ、聖女。

 ・・・それとも実はあの冒険者ギルド、偽物だったのかしら?

 勇者様、やっぱりこの依頼は・・・。」


「だだだ、だからそう疑うなって!!

 あ、あの依頼人、ちょっとボケてるだけだよ。


 それでコボルトとゴブリンを言い間違えただけだ。

 ・・・で、ですよね?」


「(#^ω^)ピキピキ。」


依頼人ったら、めっちゃキレてるじゃない。


「・・・そ、そうですとも。

 うっかり言い間違えただけです。

 どうか疑わないで下さい。」


受付にボケているとバカにされ、怒りを抑えつつも言い間違えを主張する依頼人。

無理やり話を合わせているようにしか見えないのだけど・・・。


「・・・そんな事を言われましても。

 そもそも私達はまだ冒険者として、未熟なのです。

 依頼内容と違う魔物を討伐しろと言われても、出来ないのです。」


元々私はゴブリンクラスの魔物を倒す程度の力しかない。

聖女だって防御魔法こそ凄くとも、攻撃力自体は私と大差ないレベル。


そして勇者は実戦経験がほとんど皆無な上、装備もかなりお粗末。

魔法・スキル無しだと、ゴブリンを倒すのがやっとだと思うわ。

しかしだからと言って、魔法・スキルを使ってしまうと、余波だけで周りに大きな被害を出す可能性が高い。


だからゴブリンよりも凶悪なモンスターなんて、倒せるはずがないのよ。


「あとはっきり申し上げますと、クエスト内容も受付も何もかもが信用出来ません。

 故に今回の依頼は辞退・・・。」


「まままっ・・・待ってください!!

 そ、そうだ。

 モンスターの居場所もこやつに案内させます故、どうか我らを疑わないで下さい。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、村長!!

 それは・・・。」


あら?

あの受付の人、この村の出身だったの??

・・・グルなのかしら。


「黙れぃ!!!!

 お前がふざけた対応をしてるから、この方達が疑うのだ!!

 ならば誠意を尽くし、彼らの信用を取り戻すのが筋だろうが。」


「誠意って・・・信用って・・・。

 そ、そもそも!!」


「このお方達に頼らなければ、我らの村はお終いなのだ。

 良いな。彼らを魔物の元へ案内するまで、この村に帰ってくるでないぞ!!」


「そんな・・・。

 あ・・・あああっ!!」


・・・あの受付。

私達をゴブリンの元へ案内するだけで、あの絶望っぷり。


どうしましょう?

関われば関わるほど、なんだか怖くなってくる。


「本当に信用して良いのかなぁ・・・?」


さすがの勇者も異様な雰囲気に戸惑いを隠せずにいる。


「・・・信用して良いのです。

 さっ、勇敢な冒険者様方。

 どうか我らの村をお救いください!!」


・・・。





私達は不安を抱えつつも、流されるまま魔物の住処まで案内される羽目になった。

虚ろな目付きとなった受付と共に・・・。


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
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