第187話 日の女神編⑪ 次なる脅威
「私達は立場も、目的も、大切にすべきものさえも全然違います。
しかも今日、初めて出会ったばかりの方々も多数ですし・・・。
そんな状況で命を預け合うなんて、いくらなんでも無理に決まってますよ。」
夢の世界とは言え、安易に神話の怪物へ挑もうとする勇者に告げる。
信頼関係はおろか、人となりさえもロクに分からない状態で互いに力を合わせ、命を賭けた戦いに挑む。
・・・そんなのどう考えても上手くいくはずがない、と。
「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」
さすがにこればかりは誰も反論出来ず、押し黙るばかり。
「下手に戦いに挑み、状況が悪化すれば、誰かを見殺しにせざるを得なくなるかもしれません。
それどころか互いを傷付け合う危険性さえあります。
ですが今なら、他者を犠牲にする事なく、皆で安全に撤退出来るでしょう。
だから・・・。」
「いけません!!」
って、日の女神様!?
「デルマ。確かにあなたの言う通り、私達は立場も、目的も、大切にすべきものすらも異なっているでしょう。
が、それでも互いを信じ、歩み寄る勇気を忘れてはいけません。
・・・巨悪を打ち砕き、世界を守るためにっ。」
「そ・・・そんな事、言われても・・・。」
反論を試みる私に対し、日の女神様は輝かんばかりの笑みを浮かべている。
うっ・・・。
私なんかじゃこの方に太刀打ちなんか出来ないかも・・・。
「そうだよ、王女。
きっと大丈夫だって♪」
・・・なんか周りも日の女神様の振る舞いに当てられて、楽観的な雰囲気になりつつあるしさぁ。
「もう・・・。
勇者も皆もお気楽なんだから。」
「ま、もうなるようにしかならないんじゃな~い?」
「だな。
こればっかはエミリーの言う通りだぜ。」
エミリーやヴェリアまで。
・・・こうなってしまった以上、私風情がいくら言葉を尽くそうが、皆の説得なんて絶対に無理ね。
「じゃ、せめて神喰いが覚醒する前に奇襲でも仕掛けましょ~か。
そ~いう事だから、クロ。
神喰いの気配がする方まで案内・・・。」
「・・・。」
「クロ・・・。」
この子、まだ震えて・・・。
「しょ~がないのかしら。
こんなに小さな女の子があんな歪な怪物に襲われちゃったらさぁ。
震えが止まらなくても、無理ないわよ。」
クロもだいぶ逞しくなって、ワイバーンやサイクロプスあたりなら、怯える素振りすら見せなくなったわ。
でもさすがに今回の相手は次元が違うからねぇ。
エミリーやヴェリアが心配そうにクロを見つめている。
・・・勇者は心配そうと言うより、何故か真顔で彼女を見ているけれど。
「じゃあ、神喰いの索敵はマイケルに任・・・。」
「ガキだからって、甘やかしてんじゃね~よ!!
デルマ!!」
って、タケル!?
「別にてめ~らの力なんぞ、あてにする気はね~んだがなぁ。
・・・いらいらすんだよ、このクソガキがっ。
ピーピー泣けば、誰かが守ってくれるとでも思ってんのか!!」
「ひぐっ!?
う・・・うぇ~ん!!」
「ちょっとなんなのよ、タケル!!
こんなお子様相手に怒鳴らないでくれる?」
あんまりにも横暴なタケルに腹を立てたエミリーがクロを庇う。
「ハッ。
・・・所詮、泣いてばっかじゃ運命は変わらね~んだ。
悪意からは逃げられね~んだ・・・。
なのに怯えて、甘えて・・・逃げ続けて!!
それで何が変わるってんだ!?」
う~ん・・・。
なんかタケルっぽくないわねぇ。
彼なら無関心を貫くか、うるせぇの一言で終わらせそうな感じなだけに意外だわ。
「さすがに言い方はきつすぎるけどさ。
でもタケルの言い分もわかるかな。」
勇者!?
何故かタケルに同調した彼はしゃがみ、泣き続けるクロと目線を合わせつつ、優しく語り掛ける。
「・・・すぐにじゃなくて構わない。
クロ、お願い。
どうか君の力も貸してくれないか?」
「テンイ、お兄ちゃん・・・。」
「いやいや、無茶ですって!!
確かにこの状況なら、クロの『索敵』に頼りたくもなりますが。
だからと言って、こんなに幼い子を世界を滅ぼす化物の討伐に関わらせるなんて・・・。」
「王女の意見ももっともだけど、さ。
でもここで逃げたら、きっとクロは後悔すると思うんだ。
剣の修行から逃げて、後悔した俺みたいにね。
だから・・・。」
勇者・・・。
「・・・あたし。
・・・・・・!?
1体、起きた?」
「・・・確かに音が聞こえます。
悍ましき怪物の心音、が。」
けれど歪な怪物は幼き子供の心の整理すら待ってはくれず。
次なる神喰いがとうとう目覚めてしまったの。
「残念ながら、奇襲は無理そうね・・・。」
「せっこい事、考えてんじゃね~よ。
デルマ!!」
・・・タケルってば、勇者よりも酷い脳筋なんだから。
それはともかく、神話によると神喰いは何よりも神々を最優先に喰らおうとする習性を持つ。
次いで強大な力を持つ者・・・。
時代の英雄達や聖女、竜、魔族等の強者を好んで喰らおうとする、とあるわ。
ならば先ほどの神喰い同様、ほぼ確実にこちらへ向かってくるはず。
一体、どう対処すれば・・・。
「「へ?」」
・・・ん?
クロとマイケルの様子が。
「「ふ・・・増えた!?」」
へ?
「ふ・・・増えた増えたふえたふえた。
やだやだやだやだやだやだやだやだ。
やーーーーーーーー!!!!!!!!」
「クロ!??
急にど~したのよ!?
い~から落ち着きなさいって。」
錯乱するクロをエミリーが宥めるも効果がない。
「十・・・いや、百か!?
音が、音がどんどん増えていく。
何故、どうして!!」
マイケルも普段の落ち着いた物腰が嘘のように取り乱している。
・・・と言うより、百を超えた神話の化物とか嘘でしょ!!
「ね・・・ねぇ、王女!!
神喰いって、唐突に増えちゃう生物なの!?」
「いえいえいえいえいえ!!!!
本にはそのような事はこれっぽっちもっ。」
「・・・我もそのような話は初耳だ。
だが奴らは世の理から外れた異形。
何が出来ても不思議ではあるまい。」
アビス様ったら、そんな無茶苦茶な・・・。
「マジかよ。
おい。」
ヴェリアが空を見上げながら呆然と呟いていたので、釣られて見上げてみると。
「「「「「「「「################」」」」」」」」
まるで世界の終わりを告げるかのように・・・。
歪な化物の群れが空を埋め尽くしていたの。