第180話 日の女神編④ 神喰い伝説
気が遠くなるような大昔のとある日・・・。
何の前触れもなく、太陽の光が途絶え、夜よりも深き闇に人々が不安を感じる中・・・。
世界が揺れた。
・・・ほんの一瞬。
一瞬ながら、今なお語り継がれる記憶。
そしてその一瞬から、世界は滅亡に向かいつつあった。
『神喰い』と呼ばれる、神をも喰らう化物共によって。
神族は世界を守る者達。
特にその代表たる神が減れば世界そのものが脆くなり、いずれ全てが崩壊すると伝えられている。
そんな尊き存在を喰らわんとする神喰いは世界の敵に他ならない。
神族と神喰いの戦いは遥か昔から今現在に至るまで、続いていた。
その戦いの中でも『3大神の最期』と呼ばれる、最も神族に大きな被害が出た戦いが存在した。
人々にとってはあまりに受け入れ難くそれ故、歴史の影に埋もれつつある戦いが・・・。
神喰いはただでさえ、並の神族では手も足も出ない程の戦闘力を誇る。
なのに喰らった者の能力や性質を我が物にする特性を備え、喰らえば喰らう程、更に強大な災厄へと化す。
始めに犠牲となったのは、封印術ではこの世の右に出る者はいないと伝えられている先代の日の神様。
先代の仇を取るため、多くの配下を連れ、神喰いへ立ち向かった今代の日の神アイア様も返り討ちに合い、クリスタルの中へ封じられる。
当時のエンシェントドラゴンであるアーク様や、アイア様によって救われたリーア国の協力により、最悪の事態こそ免れたものの、被害は甚大だった。
日の神様に続いて、月の神様、火の神様が配下達と共に戦場へ赴き、日の神様を封印した神喰いを滅ぼした。
けれど疲弊した神々の元へ別の神喰いが襲撃し、月の神様、火の神様の2神は数多の配下と共に喰らい尽くされた。
それでも神喰いに大きなダメージを与え、その活動を抑える事は出来たものの、滅ぼすまでには至らず・・・。
封印された日の神様は恩義を感じたリーア国により丁重に匿われたと伝えられているも、その姿を見た者はいない。
2神を滅ぼした神喰いもいつその傷が癒え、神々へ・・・世界へ牙を剥くかわからない。
人々は・・・世界はこの凄惨な戦いを語り継がねばならない。
世界が危機に瀕している事を心へ留めておくために。
そして命を賭して戦い続ける神々への感謝を忘れてはならない。
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「・・・と、日の女神アイア様が大きく関わっている『神喰い伝説』はこんな感じですかね。」
「スケールでかすぎない!??
・・・つ~か大丈夫なの!?
この世界・・・。」
封印されし日の女神アイア様(?)を救う可能性を探るため、私は勇者達へ神喰い伝説の1つを語る。
「別に怖がらなくても大丈夫ですよ。
勇者様。
神話なんですから。」
「そっかぁ、神話だもんね。
だから大丈夫だよね♪
あ~、良かったぁ。」
「清々しいくらい、神話を信じてないわねぇ。
・・・いえ。
逆の意味で信用されてるのかしら。」
「神の信者共が信用無くす事ばっか、しでかすからだろ。」
ヴェリアの言い分は辛辣すぎるけど、そ~いう事かしらね。
もちろん悪さをしない信者の方が多いのだけど、ロクでもない信者達の悪辣さは並の犯罪者なんて、軽々と上回る程だもの。
「「「「「「「「女神様・・・。」」」」」」」」
だけどそんな私達の会話なんて全く気に留めず、クリスタルに封印された日の女神様へ祈りを捧げるマイケル達。
ひたすら家族仲の悪いユウやトール達でさえ、心を一つに祈り続けてるのだから、彼らの神々を敬愛する心は本物のようね。
「ほ~ん、神をも食らう化物ねぇ・・・。
面白そうな話だが、まずは日の女神が先だ。
おい、デルマ。で、ど~すれば封印は解けるんだ!?」
「あ、そ~だった。
で、王女。
どうすれば日の女神様の封印は解けるのかな?」
タケルや勇者に聞かれるも、残念ながら先ほどの神話に直接、封印を解く手掛かりは記されてないわ。
だからより深く事情を知ってそうなお方に尋ねるのが良いと思うの。
つまり。
「アビス様にお尋ねすればい~のですよ。」
「「「「「「「「アビス様!!??」」」」」」」」
「アビスだとっ!?」
アビス様の名を聞き、マイケル達や上空に佇む銀竜さえも驚きの声を上げる。
「確かテンイは現在を生きるエンシェントドラゴン、アビス様を召喚出来ると噂されていたが。
まさか真実だったなんて!!」
「ねえ、王女。
そもそもアビスって、神話に詳しかったっけ?」
「アビス様は『神』の使いと呼ばれている伝説のドラゴン・・・。
更に先代のエンシェントドラゴン様は件の神喰い騒動に深く関わっておられる・・・。
・・・詳細を知らぬはずがありません。」
私の台詞に勇者も周りの人達も喉を鳴らす。
「・・・と、言いたいところですが、実際のところはど~なんでしょうかねぇ?」
「って、なんだよそりゃ!!」
仮に神話やアビス様にまつわる伝承が全て真実ならば、確実に知っていると思うんだけどね。
あくまで『全て真実』だったらだけど。
「ただまあ、アビス様は私達よりも遥かに長く生きてますから。
それに変に中二病気質な上、よく『世界の命運が~』とか、語られてるじゃないですか?
だから少なくとも私達よりは神話に詳しいと思いますよ・・・多分。」
「随分といい加減な話ねぇ。」
しょ~がないじゃない。
嘘臭い話の中から解決策を探すしかないんだから。
一応、アビス様があの方なりに大事なお勤めに励んでらっしゃるのは確かなんだけど。
「アビス様が先代日の神の設定について、詳しければ良いのですがね。
あの封印術を解く手掛かりとなるはずですから。」
「それはど~してかな?」
「おそらく件の神喰いは先代日の神を喰らい、その封印術を我が物としたのでしょう。
そしてその力を今代日の神のアイア様へ使って・・・。」
「・・・封印したって訳か。
なるほど。
あの神話にそんな裏設定が・・・。」
「その『設定』というのは止めて欲しいですが、興味深い考察ですね。」
どちらにせよ、私達だけではあの強固な封印を解く手掛かりを掴めないでしょう。
「もしもアビス様本人がご存じでなくても、その手の書物や、その手の話題に詳しい方を教えて貰えるかもしれません。
だから聞いてみるだけ、聞いてみてもい~んじゃないですか?」
「それもそっか。
聞くだけならタダだしね。
あの女性が本物の女神様かはさておき、あんなクリスタルに閉じ込められたままってのもあんまりだしさ。」
そうね。
あとはアビス様が忙しくなければ、い~のだけれど・・・。
でも忙しくなると言われた時から日は経ってるし、もうそろそろ大丈夫でしょう。
「・・・アビスってば、今回の事件に凄く興味があるみたい。
だから来てくれるってさ。」
無言でアビス様とやり取りを行っていた勇者がそう告げ、マイケル達がざわめく。
「あと神喰い伝説について、自分よりも詳しい竜がいるってさ。
でも連れて来れるかなぁ。」
「あ~・・・。
召喚の際にアビス様に触れていれば、触れていた方も一緒に呼び出せますよ。
ただ触れていた方にまで召喚魔法による繋がりが結ばれる訳じゃないので、その点は気を付けて下さいね。」
だから元の場所へ帰す際もアビス様に触れておく必要があるわ。
「なんか裏技みたいなやり方だね。
・・・ちょっと都合良すぎない?」
「そんな事は無いと思いますが。
例えば、アビス様に小さな羽虫がくっ付いていたとしてですよ?
その羽虫だけ避けて召喚する方が困難だと思いますが。」
「それもそっか。」
けれど一体、誰が来るのでしょう?
「じゃ、行くよ・・・。
コントラクト・1・サモン!!」
「「ウォオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!!」」
こうして勇者は伝説の竜を2体、呼び寄せたの。