第179話 日の女神編③ 早すぎる再会
「神喰い伝説に登場する封印術かしら?」
たった今、思い出した。
私は見た事がある。
目前の光景を。
母上が持っていた本で。
幼き頃、今は亡き母上から何度も読み聞かされた知られざる神話の1つ。
「「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
「な・・・何故、神喰い伝説を知って!?」
「神喰い伝説?
なんだい、それ。」
どういう訳かマイケル達が驚愕する中、何も知らない勇者が無邪気に問い掛ける。
「グウォオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!!」
それを私が語ろうとした直前、眩い銀色の身体を持つドラゴンが現れ、上空から唸り声を上げたの。
・・・って、えーーーーーーーー!!!!????
「銀色のドラゴンだーーーー!!!!
でもなんであたし、気付けなかったの!?」
「『秘匿の魔法陣』で作られた結界の中にいたからよっ!!
・・・盲点だったわ。」
結界の力で気配が遮断されるのなら、外からの気配に気付けなくても仕方ないからね。
マイケルが私達の存在に気付いたのは、警戒のためか一時的に結界の外へ出ていたからでしょう。
「しかもあのドラゴンって、まさか凶竜ダース!?
アビス様の弟とも噂されている・・・。」
「アビスの弟って、マジでっ!??」
凶竜ダースは己を見下す者、立ち塞がる者全てを焼き尽くすと伝えられてる恐るべきドラゴンよ。
・・・それでも野良ドラゴンなどと違い、弱き村や国を見境もなく滅ぼすような、誇り無き振る舞いは取らないけれど。
とは言え、如何なる強者にさえ獰猛な態度で牙を剥く姿は、何者からも畏怖されている程なの。
「おっ、テンイじゃね~か。
こんな所で会うとはなぁ!!」
「なっ!?
タケル!!」
更に銀竜の背から、凶竜よりも凶暴な異世界人であるタケルが姿を見せる。
彼は非常に獰猛な性格でしかも勇者と互角の実力を誇る、恐るべきバーサーカーよ。
「ちっ・・・。
もう戻って来たか!!
日の女神様に仇を成そうと目論む痴れ者がっ。」
セインが忌々しそうに声を上げる。
「仇を成そう・・・と・・・?
って、タケル。
お前!!」
「あ~、そ~だ。
俺は日の女神とやらをぶっ倒すためにやって来たんだ!!
完全に偶然だがこんなにスゲェ奴と出会えるなんて、ラッキーな話だぜ。」
マイケル達からすれば、とんだアンラッキーね。
「ニューン、ダウィ、ドロシー!!」
そしてタケルの号令と共に3人の魔族が私達の前へと降り立った。
チート能力者にこそ劣るものの、結構な実力はありそうね。
「ゲエっ!??
魔族!!」
「あんたも魔族でしょ~が。」
ニューン達に見つかるのを恐れ、エミリーの後ろへ隠れるヴェリア。
その様子に少し訝し気な態度を見せつつも、魔族達は日の女神様(仮)が封印されているクリスタルへと向かう。
「・・・ちょっと待ってくれよ!!
君達もタケルのようにあの女性に危害を加える気か!?
どうして・・・神話の言い伝えのせいかっ。」
「「「・・・。」」」
慌てた様子で話し掛ける勇者に対し、ドロシーと呼ばれた女魔族が口を開く。
「勘違いしないでください。
我々はセツナ様の命令で仕方なくここまで来ただけです。
日の女神の姿をした方の封印を解くために・・・。」
「へ?」
「セツナ・・・って。
おいおい。」
心底嫌そうな表情で。
「そうだ。
日の女神とやらの封印を解いた後、お前らが保護しようが、タケルが痛めつけようが、知った事ではない。
我らにとって、神を騙る女性なぞ心底どうでも良いのだ。」
「なんだと!?
魔族風情が無礼なっ!!」
「己の崇める者さえ助けられぬ分際で、よくもまあ他者を見下せたものよ。
・・・喚かずとも、我等に封印を解く以上の事をする気などない。
それがわかったならさっさとどくのだ、口だけの無力な人間共め。」
「ぐっ!!」
「・・・止しなさい、トール。
彼らの言葉に嘘はないようです。
ならば好きにさせた方が私達にとっても都合が良いでしょう。」
そう言いながらマイケルは警戒心剥き出しの部下達を抑え、道を譲る。
あの3人自身に害を成す意思がないのなら、自由にさせた方が都合が良いと判断したのでしょう。
「タケル・・・。
もしかして単純に日の女神様(仮)と戦いたいだけなのか?
魔王の意思とか、そんなんじゃなくて。」
「他に何があるっつ~んだ?
あいつが本物の日の女神かはさておき、とんでもね~実力者っつ~事だけは確かだからな。
なんか文句あっか!?」
良くも悪くもタケルらしいわね・・・。
「・・・封印されてる所を一方的に攻撃するとかよりは、マシだけどさぁ。
タケル、お前あんな綺麗な女性に暴力を振るう気か?」
「ハッ、知るかっ。
綺麗だろうが、女性だろうが、強そうだから戦いて~んだっ!!
・・・しっかし、エミリーがいてくれて良かったぜ。
弱ってよ~が、回復魔法で簡単に元気にさせられる。」
「あんたねぇ・・・。
なんで私がタケルの命令を聞かなきゃいけないのよ!!」
少なくともこの様子なら、日の女神様(仮)の封印が解けたからと、即座に攻撃される事はなさそうね。
けれど。
「・・・なんて強力な封印なのでしょう。」
「一体、誰がこんな封印を施したんだ!?」
「それにあいつからは得体の知れない何かを感じる!!
まさか本当に・・・本当に日の女神・・・なのか?」
3人の魔族でさえ、あの封印術には手も足も出ないようで、驚愕するばかり。
「ふぁ~あ・・・。
もう着いてたんだ。」
更にダースの背からもう1人の魔族、セツナが姿を現す。
呑気に昼寝でもしてたのかしら。
「うげぇ!?
マジでいやがった!!」
「あらま、テンイ達じゃない。
・・・それと、んんっ?
あなた、まさかヴェリア!?」
「「「ヴェリア様だと!??」」」
そして予想通り、セツナとヴェリアは知り合いだったようね。
ついでにニューン達もヴェリアを知ってるみたい。
「あ。俺、用事思い出したわ~。
じゃ、またなっ!!」
「「「早っ!!??」」」
でもヴェリアはよほどセツナと出会いたくなかったようで、即座にこの場から離れようとしたの。
「逃げたらここにいる全員にあなたの正体、バラすわよ。」
「なっ!?
卑怯だぞ・・・。
セツナ!!」
しかしズル賢いセツナに釘を刺され、ヴェリアは逃げ損なってしまう。
「あらあら。やっぱりテンイ達にはあなたの正体、まだバレてなかったようね~。
しっかし相変わらず口が悪いわねぇ。
昔のよ~に『セツナお姉様』って、慕ってくれないかしら~♪」
「黙れ、この性悪女っ!!」
ま~一旦、彼女達の事はさておくとして。
「それにしても強大な力を持つ魔族でさえ、手も足も出ない封印術だなんて。
やっぱりあの封印は神喰い伝説をなぞらえたものなのかしら。」
そう呟きながら私は1冊の本をアイテム・ボックスから取り出し、とあるページを開く。
「あの本は!??」
「あ~、これこれ。
勇者様、ほら。
この絵を見て下さい。」
「どれどれ・・・。
お~っ!!
あのクリスタルと日の女神様にそっくりだ~。」
「うん、そっくり~♪」
勇者もクロも、本の絵と目の前の光景がそっくりで驚いている。
「おそらくあの封印は日の女神様を嫌う宗教団体が神喰い伝説を模して、実現したのでしょう。
異世界人や異世界パワーを浴びた方の力を借りれば、そういった再現も無理ではないと思われますし。」
「ま、あの日の女神様が自称だと仮定するなら、そんなとこでしょ~ね。」
「・・・勝手に話を作らないで欲しいのですが。」
マイケルは私やエミリーの推測に不満そうだけど、『あの』神喰い伝説が現実のものだったとはとても思えないからねぇ。
「つまりその神喰い伝説にあの女性の封印を解くヒントがあるのかな?」
「事実はどうあれ、あの封印と神喰い伝説に深い関わりがあるなら、あるいは・・・。
絶対とまでは言い切れませんが。」
「・・・デルマ。
君の口から、君の知る神喰い伝説について、聞かせてくれませんか?
どれほど小さなものであれ、それが日の女神様を救う可能性に繋がるのならっ。」
「あ、俺も聞きたい。」
興味本位で聞きたがってる勇者達はともかく、マイケル達の様子が真剣すぎて怖いわねぇ。
でもやっぱり話しません、なんて選択肢は取れそ~にない空気だし。
「わかりました。
では語りましょう。
知られざる神話の1つ、神喰い伝説について。」