第16話 初クエスト編② 初のクエスト受注
山奥での修行を終えた勇者テンイ。
彼は己の力を試すため、山を下り、その先にある町で冒険者ギルドへ行き、初のクエストに挑む・・・。
・・・のだけど。
********
「な、なんだか随分活気の無いギルドだね。」
「・・・そうね、テンイ。
こんなにどんよりした冒険者ギルドも珍しいわ。」
勇者や聖女の言う通り、冒険者ギルドに入ったは良いも、お葬式の如く活気が無かった。
酒場でヤケ酒したり、虚ろな目でどこかを見続ける人達ばかり・・・。
ジャクショウ国の城下町の冒険者ギルドとはまるで雰囲気が違う。
無暗に勇者に喧嘩吹っ掛ける人がいないのはありがたいけどね。
けどなんだか不安になるわ。
「あ~ん、見ねえ顔だな・・・おほっ!?
すっげぇ綺麗な姉ちゃんが2人もこんなギルドに!!
いや~もったいねぇ。実にもったいねぇ。」
?
妙に嫌らしい声と表情をした男ね。
でも服装からして、冒険者ギルドの受付なのかしら?
この町の冒険者ギルドは、冒険者よりも受付の方が柄が悪いみたい。
「大丈夫かしら?
この冒険者ギルド・・・。」
「大丈夫、大丈夫!!
この町の連中ときたらさぁ、簡単な依頼すら出来ずに逃げ出す連中ばっかで。
あんたらのような奴らが来るのを待ってたんだよ。
ささっ、どれでも好きなクエストを受けてくれ!!」
バカにする受付を冒険者達が怨念のこもった目付きで睨みつける。
けれどこの受付はそんなもの、どこ吹く風のよう。
・・・く、空気が悪いわ。
早くクエストを受けて、ここから立ち去りましょう。
え~と、ゴブリン討伐は・・・と。
あれ?
「ゴブリン討伐で金貨30枚!?
・・・なんだかやけに報酬が良いわね。」
故郷の冒険者ギルドだと、ゴブリン退治の報酬は金貨2枚だったはず。
その15倍はさすがに大盤振る舞いすぎやしないかしら?
「コボルトの討伐依頼が金貨40枚、ビックボアーの討伐依頼が金貨60枚・・・。
うわぁ。どれもこれも報酬金がめっちゃ豪華だ!!」
「ええー・・・、コボルトもビックボアーもゴブリンよりも少し強い程度ですよ。
いくらなんでも報酬が良すぎるような・・・。」
これがこの町の相場なのかしら?
私や勇者が疑問に感じる中、聖女が珍しく真剣な表情でクエストの依頼を見続けていた。
聖女ならこんな割の良い依頼は全部引き受けましょう、な~んて言い出しそうね・・・。
「・・・ねえ、王女。
ここのクエストは初心者には厳しすぎるわ。
別の冒険者ギルドでクエストを探しましょう。」
ん″!?
「な、なんで。聖女?
だって、ゴブリン討伐で金貨30枚よ。
あなたなら目の色変えて飛び付くと思ったけど。」
あのお金にがめつい聖女がどうして・・・。
勇者も同感だったのか、私の言葉にコクコクと頷いている。
「あのねえ・・・ゴブリン討伐で金貨30枚よ?
少なくとも50体、場合によっては100体以上の集団の討伐依頼に決まってるでしょ。
そんなもの、初級冒険者どころか中級冒険者でもかなり厳しいわ。」
「「「「「「「「100体以上の集団の討伐依頼!??」」」」」」」」
・・・って、あれ?
なんで周りの冒険者達まで一緒に驚いているのかしら??
「他の依頼も魔物の弱さの割に報酬が大きいみたいだしねぇ。
つまり最低でも数十体の集団の討伐依頼のはずよ。」
聖女の言いたい事はわかったわ。
弱い魔物の討伐で報酬が高ければ、その分討伐すべき数も多くなる、と。
それはさすがにクエスト未経験の勇者には鬼畜すぎるか。
「ね、姉ちゃん!!
その話、本当かい?」
ギルドにいた冒険者の一人が、血相変えて聖女に問いただす。
「えっ、ええ・・・。
他の冒険者ギルドだったら、そんなものよ。
・・・って、よく見たらクエストの依頼書に場所もモンスターの数も書いてないじゃない!!
随分といい加減な仕事ぶりねぇ。
なんだかますます不安になるわ。」
あっ、本当だ。
故郷の冒険者ギルドでも、場所やモンスターの数くらいは書いてあったはず。
「おいっ、この野郎・・・。
簡単な依頼とかほざいておきながら、そんなヤバい討伐クエストだったなんて。
ふざけるな、仲間が帰ってこないのは貴様らのせいか!!」
冒険者の一人が受付に向かって、怒りを露わにする。
「ひゃっ!?
お、おい。このアマ。
でたらめほざいてんじゃねぇよ!!」
「でたらめじゃなくて、冒険者ギルドの常識なんだけど・・・。
大体あなた、本当にクエストの内容を精査してる?
どうして場所もモンスターの数も書いてないの??」
・・・まあ、クエストに行く場所もわからなければ、仕事のしようがないしね。
モンスターの数だって、よほどの職務怠慢でない限り、おおよその数くらいは聞いているはず。
「場所は俺達、ギルドの職員が案内するから書いてないだけだよ!!
モンスターの数は1体、討伐するだけだけら端折ってるだけだ。
他のギルドならこうだとか言って、勝手にクエストの内容を決めつけんじゃねぇ!!」
なるほど。
それなら・・・それなら?
あれっ、なんかおかしいわね。
それってつまり・・・。
「ちょっと待ちなさい!!
それってもっと危ないクエストって事じゃない?」
「( ゜Д゜)ハァ?
なんで100体討伐するより、1体討伐する方が危ないんだよ!!
アホかてめぇ、見た目ばっかり綺麗で脳みそ空っぽなんじゃねぇのか!?」
・・・あっ、わかった。
聖女の話のおかげで、私が何を疑問に感じたか!!
「え~と、エミリー。
俺も君の言いたい事がよくわからないよ。
なんで100体討伐するより、1体討伐する方が危ないの?」
「よく考えてもみなさい、テンイ。
ゴブリン1体辺りの討伐報酬なんて、せいぜいが銀貨3~5枚程度よ。
なのに金貨30枚も報酬を出すなんて言われたら、どう思う?」
「日本円で例えるなら・・・。
普通なら3000~5000円の仕事に対して、300000円もくれるって事だよね。
・・・凄く怪しいね。何か悪い事でも企んでそう。
あっ!?」
勇者も気付いたみたい。
「そうよ、テンイ。
不自然に条件の良いクエストには必ずロクでもない裏があるの。
下手に飛び付かない方が無難だわ!!」
やけに実感のこもった口調で語る聖女。
・・・きっとこういうクエストに騙されたりもしたんでしょうね。
けどだからって、聖女の事を笑えないけど。
私と勇者だけだったら、怪しみながらも引き受けたかもしれないし。
どっちにしろ、この町の冒険者ギルドの依頼は受けない方が無難かしら。
「やっぱりそうか!!
そうやってお前らギルドの連中は、俺の仲間達を騙して・・・。」
「ちょっ、ちょっ・・・待てよ!!
そんなに俺達を疑うなら、お前らがクエストを受けてみろよ。
嘘かどうかすぐわかるぜ!!」
「「「・・・。」」」
「ほぅ~ら、見やがれ!!
依頼を受けもせずに、嘘付き呼ばわりしやがって。
このヘタレどもが!!」
受付の反論に黙る冒険者達。
でも確か話を聞く限り、依頼を受けた冒険者達って、誰一人帰って来てないのよね。
受付曰く『逃げ出した』らしいけど、顔なじみの人達が姿を消したままってのもゾッとしないはず。
冒険者達が怯むのもよくわかるわ。
「おい、そこの女ども。
キャーキャーキャーキャーいちゃもんばっか付けやがって!!
俺の言ってる事が嘘かどうかなんて、クエストを受けてから判断しやがれ!!!!」
「嫌よ。そんな怪しいクエストを受けて、酷い目になんか合いたくないもの。
さっ、テンイ、王女。
クエストは他の町で探しましょう!!」
「聖女の言う通りですわ。勇者様。
あのような怪しいクエストなんて、引き受けずとも良いのです。」
まだお金にも余裕があるし、あんな怪しいクエストなんて受ける必要は無い。
勇者の力を試すにしても、もっとまともなクエストの方が安全だしね。
「そ、そうだね。王女、エミリー。
何かあってからだと遅いし・・・。」
このギルドのクエストに得体の知れないものを感じたのか、びびりながら賛同する勇者。
だけど今回はそれで正しいと思うわ。
『君子危うきに近寄らず』ってね。
「ま、待てよ!!
おい、そこの優男。
お前、女どもの言いなりかぁ・・・情けねぇ。」
「・・・相手にしちゃダメですよ。
勇者様。」
「うん、わかってるよ。」
今回の件に関しては、私達よりもあの男の言いなりになる方が危険だもの。
勇者は正しい判断をしただけに過ぎない。
受付を無視し、ギルドから出ようとする私達に更なる罵倒が飛んでくる。
「なんだ、てめぇ。びびって逃げる気か!?
その剣は飾りか、腰抜けが!!
それでも男かよ?」
「・・・なんだと、お前。
ふざけるな!!!!」
「ひっ、ひぇ!??」
ゆ、勇者?
なんだかお顔が怖いわよ??
彼があんなに怒った所を見るの、初めてだわ。
私だけじゃなく、聖女も受付も他の皆も勇者の剣幕に驚きを露わにしている。
「王女、エミリー。
このゴブリン討伐のクエスト、受けよう。
俺が腰抜けなんかじゃないって事、あいつにわからせてやる!!」
「・・・ちょっと、テンイ。」
「さあ、早くこの受付から話を聞こう。」
どうしたのかしら、一体。
私と聖女は顔を見合わせつつも、大人しく勇者に付き従うのだった。