第177話 日の女神編① 謎の吟遊詩人
「魔法やスキルには8つの属性があります。
光のエネルギーを活用する日属性。
闇のエネルギーを駆使する月属性。
炎の力で全てを焼き尽くす火属性。
水や氷を生成し、利用する水属性。
風を自在に操る木属性。
雷のパワーで戦う金属性。
岩を飛ばしたり、大地の恵みを活かす土属性。
そしてこれらの属性に属さない無属性。」
「「ふんふん。」」
「火属性は金属性に強く・・・。
水属性は火属性に強く・・・。
土属性は水属性に強く・・・。
木属性は土属性に強く・・・。
金属性は木属性に強く・・・。
そして日・月属性は他の属性よりも強力な攻撃が多い他、互いを弱点とし合う特殊な属性です。」
「「へ~。」」
私は元ジャクショウ国の第四王女、デルマ。
転移勇者のハーレム要員として、旅を続けてるわ。
今はリーア国という、大昔に滅んだ国の廃墟で勇者とクロへ属性についてお話をしていたの。
もう日も暮れたし、村や町なんかまで辿り着けそうになかったから、ここで野宿するつもりよ。
「もっとも勇者様程のパワーがあれば、属性による相性差なんて吹き飛ばしちゃいますけどね。」
「でもタケルのよ~に強い奴が相手だと、そういう訳にもいかないからなぁ。
次は絶対、勝つ!!」
ちなみにエミリーはつい最近、私が教えた魔法『フライング』を使って、楽しそうに空を飛んでいるわ。
コントロールの難しい『フライング』を数日足らずでマスターしちゃうんだから、さすがは聖女と言ったところかしら。
・・・勇者は一目で修得してたけど、彼は聖女以上に規格外の存在だから。
「つ~かエミリーって、飛行魔法を修得してなかったんだね。」
「彼女はとある国で様々な魔法を身に付けたそうですが、『フライング』は教えて貰えなかったそうです。
おそらく逃亡を警戒されての事でしょう。」
「なるほどね・・・。」
こんな感じでのんびりと雑談をしていた最中。
「?・・・。
!!」
突然クロがびっくりした挙句、どこかへ走り出しちゃったの。
「あっ!?
こら、待ちなさい。
クロ!!」
多分、何かの気配を察知したのでしょうが、一人で行かせるのは危ないため、急いで追いかける。
♪~。
「はわ~・・・。」
「・・・。」
すると儚げながらも気品あふれる青年が美しいメロディーを奏でていたの。
「あれが話に聞く吟遊詩人ですか~。」
「吟遊詩人!?
へ~。
この世界へ来て初めて見たよ。」
勇者が珍獣にでも出会ったかのよ~なノリではしゃぐ。
ま、私も見るのは初めてなんだけどね。
「吟遊詩人は勇者様の世界で例えるなら、ストリートミュージシャンと小説家を足して2で割ったような存在です。」
「・・・ロマンが無さ過ぎるよ。
その例え。」
そんながっかりした態度を取らずとも。
「何をがっかりしてるのかわかんないけど、あんま油断しちゃダメよ。
『旅の』吟遊詩人は声や歌に関する魔法やスキルが得意で意外と強いのよ。
それに各国のスパイなんかが情報収集のために吟遊詩人に扮する事も多いしね。」
いつの間にか私達の傍に立っていたエミリーが吟遊詩人について解説する。
「お~~!!
それでこそ異世界だ~~♪♪」
「ど~して嬉しそうなの?」
例の本曰く、異世界人ってそ~いうのが大好きらしいからねぇ。
妙な価値観・・・。
「あなたが最近、噂のテンイですね。
類稀なる実力と高潔な魂を持つ、英雄の資質を備えし転移勇者・・・。」
私達のやり取りを微笑を浮かべながら眺めていた吟遊詩人が口を開く。
「へっ?
英雄の資質を備えし転移勇者!?
俺にそんなカッコ良い噂が立ってたんだ~♪」
「こらこら、テンイ。
そんな簡単におだてに乗らないの。」
やっぱり吟遊詩人だけあって、表現が大袈裟ね~。
『類稀なる実力』はともかく、彼が『高潔な魂』の持ち主だなんて、なんだかピンとこないわ。
まあまあ善良な性格だとは思うけどさ。
「決しておだてなどではありませんよ、聖女エミリー。
それに恥ずかしがらずに姿を見せてくれませんか?
魔族ヴェリア。」
「・・・・・・・・・・・・。
なんで俺が近くにいるってわかったんだ?」
あ。
いたのね、ヴェリア。
割といつもの事だけど。
「私は吟遊詩人ですから、耳が良いのですよ。」
「うっわ~・・・。
なんて胡散くせ~笑顔・・・。」
微妙に嫌そうな彼女に態度を崩す事なく、謎の吟遊詩人は話を続ける。
「あなた達に頼みがあります。
どうか我らの大切なお方を助けて頂けないでしょうか?」
へ?
********
成り行きで謎の吟遊詩人についていく事、しばし。
いきなり景色が変わり、廃墟の中にあってそれなりに整備された空間と大きな祭壇が現れる。
「こ・・・これは!?」
「いわゆる結界というやつですね。
外から見えなくしたり、気配を隠す効果などがあります。」
結界は隠す事で外敵から大切なものを守るための技法よ。
急にクロがあの吟遊詩人を察知したのは、彼が結界の中から外へ出たからでしょう。
「あなたの言う通りです、デルマ。
ここは『秘匿の魔法陣』によって、隠蔽された空間です。」
「嘘!?」
「多分、結界を張るための道具なんだろ~けどさぁ。
そんなにびっくりする事なの?」
「『秘匿の魔法陣』は神話で語られてるよ~な、都市伝説級の超強力な魔法具ですよ!!
如何なる存在も未来永劫、隠し続ける事が可能とすら伝えられている程です。」
「残念ながら物理的な侵入までは防げませんが、ね。
隠蔽自体は完璧にこなせても、偶然発見されてしまうケースも稀にあります。」
それでもクロの『索敵』ですら気付けないんだから、とんでもない代物ね。
そのクロは結界に入ってからというもの、どこか呆然とし続けている。
「おい、ど~したんだよ?
クロ。」
「・・・不思議な気配がするの。
ね~、吟遊詩人さん。
ここに誰がいるの?」
「クロは『索敵』が得意との噂ですが、さすがですね。
すぐにわかりますよ。」
そう微笑みながら、彼は私達を祭壇の中心へと案内する。
それほどまでに珍しい何者かがいるのかしら?
「「「「「「「「マイケル様。よくぞご無事で!!!!」」」」」」」」
少し進むと多くの人達が姿を現し、謎の吟遊詩人もといマイケルに対し、頭を垂れる。
私でも一目でわかる程度には皆、実力者みたい。
「様って・・・。」
「吟遊詩人には高貴な身分の方々も一定数、いるそ~ですから。」
道楽だったり、変装だったりの目的でね。
「お願いします、英雄テンイとその仲間達よ。
どうかこの方をお助け下さい。」
と、マイケルが示す先にはね。
この世のものとは思えない程の美人がクリスタルの中に閉じ込められていたの。
・・・って、この方はまさか!??
「日の女神、アイア様!?」