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第176話 全力編⑪ 消え去った迷い

「や、やめてくれっ。

 オネを離してくれーーーー!!!!」





勇者VSタケルの勝負は引き分けで幕を下ろした。

激しい戦いにより勇者は気を失うも、命に別状はなく、一安心したところにヒデヨシの悲鳴が轟いたわ。


嫌な予感がした私達は顔を見合わせた後、急いで地図には無い村まで戻ったの。


「いやーーーーっ!!!!

 助けて、ヒデヨシ!!」


「あら~・・・。

 あなた達、遅かったじゃない。

 待ってたのよ♪」


するとそこにはオネを人質に取り、周りを騒然とさせているセツナの姿があったの。

そのすぐ傍に意識を失ったタケルが横たわっている。

彼もかなりのダメージを受け、気は失ってるけれど、命に別状はなさそうね。


・・・けれどこの口ぶり。


「オネを人質に取ってまで、私達に何を望むの?」


「話が早くて助かるわ~♪」


まさかタケルが倒れた腹いせに、人質を使って勇者や私達を始末するつもり!?


「そんなに身構えないでちょ~だいな。

 ちょ~っと、聖女の回復魔法でタケルを癒して欲しいだけなんだ・か・ら♪」


「(゜Д゜)ハァ?

 なんで敵を癒さなきゃいけないのよ!?

 大体、放っておいても死にそうにないじゃない!!」


そりゃいくらエミリーが聖女でも、そ~言って当然よねぇ。


「そ~は言うけどこの人ったら、あちこちで敵を作りまくってるもの。

 弱ってるとこを責められたら、面倒だしぃ。」


「自業自得よ!!」


「そんなにタケルに回復魔法を使うのは嫌?

 ならオネの命をど~しようっかな~♪」


「ひ・・・。」


・・・やっぱりそうきたか~。

オネを人質に取ったのは、自分の望みを押し通すためでしょう。


「なんて性根の腐った魔族かしら・・・。

 これじゃヴェリアの方が遥かにマシよ!!」


「た、頼む!!

 聖女!!

 どうかオネを助けてくれっ。」


ヒデヨシが悲痛な叫びをあげながら、エミリーへ懇願する。

彼女もこの状況でオネを見捨てるなんて、きっと出来ないでしょう。


「ど~しよう?

 デルマお姉ちゃん。」


仕方ないわね。

どうせセツナに従う羽目になるのなら。


「タケルを回復するのは良いけど、条件があるわ。」


「デルマ!?」


「条件・・・?」


「1つはエミリーにきちんと治療費を払うこと。

 もう1つは『この村の人々に』二度と危害を加えないこと。

 この2つが守れるなら、タケルを回復してあげる。」


少しでもこちらが有利になるよう、交渉しないとね。


「ん~・・・。

 そんな条件でい~なら、約束してあげるわ~。

 ま、治療費に関しては払える範囲で良ければだけどね~。」


「こらっ。

 デルマ!!

 勝手に決めないでくれる!?」


「ま~ま~、エミリー。

 こんな状況じゃ~、ど~せ回復魔法を使う羽目になってたわよ。

 そうムキにならないの。」


「う・・・。」


エミリーは闇の心を持ちつつも、根はそれなりにお人好しだからねぇ。


「それにタケルは勇者にとって必要な存在だと思うの。

 彼のライバルになりうる人間なんて、早々いないからね。」


「・・・へ~。

 デルマ、あなたも女として少しは成長したようねぇ♪」


そ~なの?

よくわかんないわ。


「はぁ・・・。

 わかったわよっ。」


そんなこんなで渋々ながらもエミリーが回復魔法でタケルを癒す。


「・・・終わったわよ。

 気が済んだら、さっさとこの村から出て行きなさい!!」


「ハ−イ♪(´∀`∩)。

 じゃ、またね~。」


そして未だ意識を失っているタケルを抱え、セツナは上空へ飛び去って行ったわ。


「エミリー!!

 お願いだ・・・。

 どうかアウザーも回復してくれっ。」


「別にい~けど、治療費はきちんと払うのよ。」


「もちろんだっ。」


ヒデヨシに懇願され、今度はアウザーに対し、エミリーは回復魔法を使用する。



「「「「「「「「・・・・・・。」」」」」」」」


「あら~?

 人を癒すのに金を取るなんて、聖女の風上にも置けない女めっ。

 ・・・とでも思ってるの!?」


「「「「「「「「い、いえっ!!」」」」」」」」



そんな光景を居心地悪そうに見つめる村人達をエミリーは一括。

その後、自嘲気味にぽつりと呟く。



「ったく・・・。

 なんで私はあんた達を助けになんて向かったのかしら?

 ・・・どうして見捨てる事に後ろめたさを感じちゃったのかしら。」


「「「「「「「「聖女様・・・。」」」」」」」」



見捨てる事への後ろめたさは、今回だけじゃなく、過去の一件も含まれてるんでしょう。


彼女はこのままだと自分も飢え死にするからと、彼らを見捨てた経験があるからね。

ま、しょ~がない部分もあるとは言え、村人達は彼女に対し、一方的な搾取を続けていたもの。

見捨てられて当然よ。


だから客観的に見れば、エミリーが責められる云われはない。

そもそも自分の命が危うい状況なのに、無償で赤の他人を救おうとする人間なんてまずいないわ。

彼女は何も悪くない。


・・・それでも後ろめたさを感じてしまうのが人間なのかもね。


「・・・・・・・・・・・・。

 あの時も、そして今回も我らを助けて頂き、本当にありがとうございます。

 聖女様。」


「しかし我らも助けられてばかりのままでいる気はありません。

 これからは大恩ある方々を微力ながらもお助け出来るよう、精進していきます。」


「そっか。

 ・・・精々頑張りなさいよ。」


ただまあいろんな意味で自分の本音をぶちまけられたからかしら。


「なんか良かったね~。

 エミリーお姉ちゃん♪」


「これもあの時、テンイが心の赴くまま、突っ走ったからかもね・・・。

 彼には感謝しないと。」


エミリーの内に潜む暗闇がわずかながら晴れたよ~な気がしたの。


「じゃ、用も済んだしそろそろ出発しましょ~か。

 行くわよ。

 デルマ、クロ。」


「そ~ね。」


「うんっ。」


相も変わらず、ま~た派手な事件に巻き込まれた。

・・・と言うより、今回は自分達から突っ込んじゃったけれど。

最終的には誰一人として犠牲者が出ずに済んで良かったわ。


「デルマ、エミリー、クロ!!

 ・・・そしてテンイ。

 俺の村を守ってくれてありがとう。」


「そんな神妙な顔でお礼なんか言わなくてい~わよ。

 勝手にやった事だし、実入りも割と良かったしね~。」


「俺もアウザーも、さ。

 スローライフ気取りで、怠けてばかりいないでさ。

 今度は自分達の力で村を守れるよう、頑張っていくよ。」


そう語るヒデヨシの顔はどこか晴れやかとしている。


「そして『あいつ』からの頼まれごとを少しくらいは引き受けてやろうかな?

 俺に何が出来るかわからない・・・。

 だけど世界が滅亡したんじゃ、転生した意味ないもんな。」


「えっ!?」


続くヒデヨシの意味深な台詞が妙に気になるものの、彼は私に対しおちょくるような笑みを浮かべるばかりで、これ以上を語ろうとはしない。


「じゃあ元気でな。

 気が向いたらまた来いよ。」



********



「・・・ん~。

 おわっ!!

 王女!?」


「わわっ?

 勇者様・・・。

 ようやく目覚められたのですね。」


村から出発し、しばらく経った後、私に背負われていた勇者が目を覚ます。

背負われていた事に驚いた勇者が慌てて私の背から下りた。


「・・・あれ?

 エミリー、クロ。

 その果物はもしかして・・・。」


「これ?

 ヒデヨシが村を救ったお礼にって、実りの種で作った果物をくれたのよ。」


「おいし~よ。

 テンイお兄ちゃん。」


まだ私は食べてないけど、そんなに美味しいんなら何個か頂こうかしらね。

なんて呑気に考えていると、勇者が後ろめたそうな表情で私に声を掛ける。


「・・・あのさ、王女。

 俺の事、その・・・。

 『また』怖くなっちゃった?」


「怖くなんてなっていませんよ。

 それとも転移勇者のハーレム要員として、あなたにもっと畏怖の念を抱くべきでしょうか?」


「いやいや!?

 そんな事はないって!!」


ど~やら勇者はあまり他人から畏怖の念を抱かれたくはないよ~ね。

ちなみに例の本曰く、大半の転移・転生勇者は身近な人物からは畏怖されるよりも、親しみを持たれたいとの事よ。

・・・転移勇者じゃなくても、真っ当な人間関係を築きたい人なら大抵そ~だけど。


「でも今回の俺、タケルと派手に戦っちゃったじゃん。」


「別にタケルなら構わないんじゃないですか?

 勇者様が本気で攻撃しよ~が、1~2撃程度なら平気で耐えますからね~。」


「耐えるんなら、全力でぶん殴っても構わない。

 ・・・なんて言い方は酷いと思うけど、ま、い~や。

 今度戦う時は絶対に勝ってやる!!」


しっかし勇者ったら、どこか嬉しそうね~。


「もしもまた、タケルと戦う時は誰にも迷惑の掛からない場所まで誘導してくださいね。

 彼も自分が楽しむためなら、その程度は乗っかってくれるでしょう。」


「なんかいつもと違って、俺が力を振るう事にえらく寛容だね。

 王女ったら。」


「確かにテンイが力を使う事に、ちょっぴり寛容になったかしら?」


そんなに私は勇者に対して不寛容だったかなぁ。

それはさておき。



「本気で戦える相手を求めること・・・。

 自分の力を試したいと願うこと・・・。

 それ自体はなんら悪い事じゃないですからね。」


「そっか。

 良かった。」



何が良かったのかはわからないけど、エミリーに続いて勇者も心のつかえが取れたようで、良かったわ。



「ね~ね~。

 テンイお兄ちゃん、デルマお姉ちゃん。

 ヒデヨシさんがくれた果物、一緒に食べよ~よ~。

 おいし~よ♪」


「そだね。

 せっかくだから何個か頂こうかな。」


「そうですね。」





強大な力を誇る転移勇者に対し、どのように寄り添うべきなのか・・・。

それは私にとってとても難しい問題よ。

けれど一から十まで色眼鏡で見ず、彼自身の心を理解していこうと思うの。


例え、チート能力を持っていても、そうでなかったとしても。

勇者は私の・・・私達の大切な仲間なのだから。


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
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