第174話 全力編⑨ 観戦する者達
「さあ・・・。
思う存分、戦おうじゃね~か!!」
「・・・ああっ。
行くぞっ!!」
様々な因果のめぐり合わせにより、転移勇者と狂戦士タケルの想像を絶する戦いが始まったの。
「フィフス・ロック・バレット!!」
「ウインド!!」
空中でタケルが放つランク5の岩魔法と、勇者が放つランク1の風魔法が激突する。
・・・どうして勇者が今まで一度も使った事のない『ウインド』を?
と思ったけれど、確か以前、私がホブゴブリンの足止め目的で『ウインド』を使用したのを彼も見てたのよね。
だから使えたんだわ。
彼は一度でも見た事のある魔法・スキルなら、その天性のセンスで自分も使えるようになっちゃうもの。
ランク1の魔法VSランク5の魔法・・・。
本来ならば勝負にもならないはずだけど、勇者はチート能力による超強化でランク5の岩魔法すら弾き飛ばす。
って、弾き飛ばした岩がこの村へ落ちてくるわ!!
「フォース・バリア!!」
だけどエミリーがランク4の防御魔法を使用し、流れ弾を防ぐ。
今のエミリーにランク5の攻撃技を直接防ぐ力はないけれど、余波や流れ弾から村を守るくらいは出来るわ。
勇者は当然ながら、タケルもこの村を人質に取るような真似をする気はないようで、その点は一安心ね。
「勇者・・・。」
でも私は激しい戦いを繰り広げる勇者を不安な気持ちを抱えながら、眺めていたの。
単純に彼の身が心配ってのもあるんだけど・・・。
「あれは大悪魔ベルゼブブ!!
しかも3体も!?」
「もうこの世界はお終いだぁ・・・。
って、あのベルゼブブが一瞬で斬り伏せられただと!??」
「聖女様の仲間のテンイって何者だよ!?
異世界人にしたって強すぎるだろ!!」
私が思い悩む間にも勇者のデタラメすぎるパワーに村人達は驚き続けるばかり。
ど~やらタケルが召喚した3体のベルゼブブを『巨大化』や『斬撃波』のスキルであっさり倒したみたい。
村人達のざわめきが、上の空で戦いを眺めている私に雑音として響く。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!
今度は勇者がタケルの気を引くためにだけに放った『ボム』が凄まじい轟音を鳴り響かせたわ。
さすがのタケルも一瞬、意識が取られ、そしてその隙を突いた勇者が攻撃へ転じる。
「今だっ!!」
・・・嘘!?
勇者が剣から電撃を放った!??
「あの両手剣スキルは『雷撃波』!!
テンイってば、いつの間にそんなスキルを修得したのかしら?」
『電撃波』は『斬撃波』に近い性質を持つランク1のスキルで、斬撃の形を模した電撃を放つの。
だけど彼の前で『電撃波』を使った人はいなかったはず。
例え、彼が一目で技を修得する天性のセンスを持とうが、見た事もない技を突然使えるようになる訳がない。
ないのだけど、もしかして・・・。
「以前、『五の奥義・電光斬撃波』を繰り出した日本人がいたけどさぁ。
まさか勇者ったら、あのスキルを参考に『電撃波』を編み出したのかしら!?」
『五の奥義・電光斬撃波』は竜や魔族すら一撃で葬ってしまう、最強クラスの雷系スキルよ。
けれどあれも『電撃波』と同系統の両手剣スキルなの。
もちろんながら、修得難易度は『五の奥義・電光斬撃波』の方が遥かに上だけどね。
けれど勇者はかのスキルを無意識ながらランク1用にアレンジし、その結果、新たに『電撃波』を修得したんだわ。
しかも本来であれば『電撃波』の方が圧倒的に威力は低いはずが、彼のチート能力の効果で『五の奥義・電光斬撃波』をも上回る威力となった。
「なるほど。
テンイったら、どんどん凄い男の子になっていくわねぇ。」
・・・本当に、ね。
「はわ~・・・。
やっぱりテンイお兄ちゃんって、とっても凄い人なんだね~・・・。」
クロも勇者の戦いっぷりを半ば呆然と眺めるばかり。
・・・それでも彼女の場合、単純に驚いてるだけでしょ~けど、私は違う。
勇者が恐ろしくてしょうがない。
「・・・せ、聖女エミリー。
恥を忍んで頼む!!
どうかこの村を守ってくれっ。」
「「「聖女様・・・。」」」
一方、村を案ずるヒデヨシや村人達がエミリーに縋るような視線を向けていたの。
アウザーがボロボロとなった今、この村を守れるのは彼女だけだから。
「・・・・・・・・・・・・。
勘違いしないでよね。
ただのついでよ。」
そっぽ向きながらも聖女はヒデヨシ達の懇願を受け入れる。
・・・これがかの有名な『ツンデレ』なのかしら?
馬鹿正直に喋ったら、ぶっ飛ばされそ~な気がしたから、口には出さないけれど。
「・・・ま~百歩譲って、ヒデヨシ達の事は守ってあげてもい~わ。
でもねぇ。
あんたはとっとと出て行きなさいよ!!」
「・・・・・・・・・・・・。
あら?
何か言ったぁ?」
でもさすがに彼女・・・タケルの連れのセツナまで、ちゃっかり防御魔法の恩恵を受けていたのは許せないのでしょう。
バリアの外へ出て行くよう、大声で叫ぶ。
「そうよ、そうよ!!
大体、なんで魔族がこの村の事を知ってるのよ!?
・・・あのヴェリアって女魔族がチクったの?」
国が魔族に仇成したせいで、自身も狙われているオネが悲鳴を上げる。
「いや、それはないと思うわ。。
そもそも彼女、あなたの名前すら知らなさそ~だったもの。」
ヴェリアはあれで結構、腹芸が得意だわ。
ただそれでもオネの殺害やこの村の滅亡を望んではいなかったはずよ。
「ヴェリアですって・・・?」
「あ、そ~よ。
あのストーカー魔族にセツナを倒してもらいましょう!!
クロ。今、ヴェリアはどこにいるの!?」
「ん~・・・。
今は近くにいないかなぁ。
ぜ~んぜん気配を感じないもん。」
「もう!!
ヴェリアったら、肝心な時に役に立たないわねっ。」
クロの反応からすると、もうヴェリアはこの場から遠くへ離れちゃったみたい。
「・・・ま、今は良いでしょう。
それよりタケルとテンイの戦いを見ていたいからね~。」
なんかセツナもヴェリアを知っているっぽい感じだけど、観戦を優先したのか上空で繰り広げられる戦いをうっとりしながら眺め続けるばかり。
「デルマ!!
あの図々しい魔族を追っ払う方法を考えなさい!!」
「・・・残念だけど、今は下手に手を出さない方が良いと思うわ。
この場に彼女をなんとか出来そうな人がいないもの。」
エミリーはこの村を守るので手一杯だし、ヒデヨシの戦闘能力はセツナよりも劣る。
もちろん私やクロ、村人達ではとても彼女に敵わない。
唯一、この場でセツナより強いかもしれないのはアウザーね。
だけど彼はタケルにボコボコにされて、虫の息だし・・・。
一応、アウザーをエミリーの魔法で回復すれば、セツナを追っ払える可能性も0じゃない。
「・・・もしもアウザーを回復しようとしたら、さ。
回復する前に彼にトドメを刺すわよ~?」
けれどそんな私の考えを見抜いたのか、セツナがそう釘を刺す。
抜け目の無い、厄介な相手ね。
もっとも回復のためにバリアの手を緩めるのも危険すぎるし、やっぱりセツナを追い払うのは現実的じゃないか。
「う~・・・。」
「少なくとも、今のセツナがこの村に危害を加える事はないはずよ。
なら、迂闊に刺激するよりそっとしておいた方が安全だと思うわ。」
「よくわかってるじゃな~い♪
大体、最初からこんな村の事なんかど~でも良いしねぇ。
観戦の邪魔をしないなら、手を出さないであ・げ・る。」
別にセツナの事なんて、放っておいても平気よ。
彼女なんかよりも私は勇者の事が気になってしょうがない。
「勇者・・・。
タケル相手になんて楽しそうに戦ってるのかしら。」
その後も世界の命運を掛けた最終決戦と勘違いしそうになる程、激しい攻撃の応酬が続いている。
・・・薄々はわかっていたの。
普段の態度に騙されそうになるけれど。
実は勇者は戦いが・・・闘争が・・・誰かと争う事が大好きなんじゃないか、と。
それを今までの勇者は彼自身の理性で抑え続けていた。
けれど少し前の『祝福の儀』の一件で、自分の感情を抑えるのにも限界が来てしまい・・・。
旅を続ける内にすっかり忘れ掛けていた勇者に対する恐怖心が湧き出てくる。
本当の彼がこれほどの凶暴性を胸の内に抱えていた事実に動悸が止まらない。
「このまま勇者は破壊神へと変わり果ててしまうの・・・?
タケルのような破壊と殺戮だけを好む化物に変わり果ててしまうの!?」