第171話 全力編⑥ 戦いの幕開け
神竜の傭兵が異世界からやって来たバーサーカー、タケルによってあっけない程簡単に倒された・・・。
「お・・・俺の村に手を出すなーーーー!!!!」
頼りにしていたアウザーがあっさりやられ、取り乱したヒデヨシがタケル達に向かって炎魔法を放つ。
その威力はおそらくランク3の攻撃魔法レベルね。
けれど。
「四の奥義・絶対零度の瞳。」
セツナの瞳により、タケルの放った炎魔法が瞬時に凍り付いてしまう。
『四の奥義・絶対零度の瞳』はその目で見たもの全てを凍らせてしまう、怖ろしいランク4の攻撃系スキルよ。
「あ・・・あ・・・あ・・・。」
「・・・ヒデヨシの方はアウザー以下か。
ど~にも不思議な力は感じるんだが、戦闘系じゃなさそ~だな。
つまんね~の。」
タケルとセツナ。
たった二人ながら、これまで出会った誰よりも脅威に感じるわ。
「・・・なんでだ?
どうして人間が魔王の手先になって、俺達へ危害を加えるんだ!?」
「いや~。俺、魔王にボロ負けしちまったからなぁ。
だからある程度までは言う事、聞いてやってんだよ。
リベンジのための修行も兼ねてな。」
そう語るタケルの瞳はぎらぎらと凶暴な光を宿している。
「うふふ・・・。
それでこそタケルよ♪」
「なのにお前らときたら、才能に胡坐かいてい~気になってただけかよ?
下らね~連中だぜ。」
「・・・た、頼むっ。
これ以上、この村には手を出さないでくれっ!!
ここは俺にとって大切な場所なんだ・・・。」
「「「「「「「「ヒデヨシ様・・・。」」」」」」」」
あのプライドの高いヒデヨシが土下座をしながらタケルに懇願してるわ。
「・・・立てよ。
ヒデヨシ。」
「えっ!?」
「そ~やって惨めに振る舞ってりゃあ、見逃してもらえるとでも思ったか!?
おら、立てよ・・・。
てめぇの村を守りたかったら、てめぇの力で抗ってみやがれ!!」
けれどタケルはヒデヨシの態度が気に食わなかったのでしょう。
冷気を集めながら、彼を睨み付けている。
「や、やめろ・・・。
やめてくれっ。」
「村を守りたいんなら、死ぬ気で力を振り絞るんだなっ。」
って、タケルったらこの村を氷漬けにする気なの!??
「フォース・アイス!!」
そして凶暴すぎる異世界人、タケルがランク4の氷魔法を放つ!!
・・・まずい。
このままじゃあ、私達まで巻き込まれてしまうっ。
「エミリー!!
防御魔法を・・・。
あれっ?」
なんかいつの間にか勇者もエミリーも私の身体から離れてるじゃない。
傍にいるのは肩に乗っかっているクロ一人だけ。
「二人なら飛び出しちゃったよ~。」
へ?
「フォース・バリア!!」
考えがまとまる前に聞き覚えのある声が届き、見慣れた防御魔法がタケルの氷魔法を防ぐ。
「俺の攻撃が防がれた・・・?
だがヒデヨシの仕業じゃないな。
誰の魔法だ?」
「彼女じゃないかしら~?
・・・あら。
あの子、ひょっとして・・・。」
誰がタケルの魔法を防いだかなんて、語るまでもない。
「「「「「「「「せ・・・聖女様!!」」」」」」」」
考えるより先に体が動いてしまったのでしょう。
エミリーが防御魔法でタケルの攻撃魔法を防いだの。
その近くで勇者が真剣な目付きでタケルを見据えている。
「・・・結局、自分から姿を現しちゃったか~。
何のために隠れてたのよ?」
「デルマ・・・。
ふんっ。」
二人がこうなっちゃった以上、透明なままでいる理由も無いので私とクロも姿を現す。
「お・・・お前ら。
どうし、て・・・?」
それは勇者やエミリーに聞いて欲しいわ。
私やクロは彼らに付き合ってるだけだもの。
「あらま~。
透明になる魔法で隠れてたようね~。
・・・・・・・・・・・・タケル?」
一方、タケルは自分の攻撃を防いだエミリーよりもね。
勇者の方を注視してたの。
「そこのお前・・・。
一体、何者だ?」
「俺の名はテンイ!!
お前と同じ日本人だっ。」
「テンイ、か。
・・・まあ良い。
お前がどれほどのものかは攻撃すればわかる事。」
そう言いながら、タケルが太陽にも似た火球を作り出す。
「あっ!?
あれって、山賊王が使ってた太陽の魔法~?」
『フィフス・サン・フレイム』ね。
あらゆるものを焼き尽くす恐るべきランク5の炎魔法よ。
「あら~・・・。
あれは私の防御魔法じゃ、防げないかしら~。」
「「「「「「「「そんなっ!?」」」」」」」」
「もうダメだ。
お終いだぁ。」
エミリーの台詞にヒデヨシも村人達も絶望する中、しかし勇者は怯まない。
「お前の実力を見せてみろっ。
テンイ!!」
そんな彼に向かって、タケルは何の躊躇もなく『フィフス・サン・フレイム』を放つ。
「任せたわよっ。
テンイ!!」
「ああっ。
任せてくれっ!!」
勇者の邪魔にならぬよう、エミリーがバリアを解く。
「アイス!!」
バリアが解かれた後、彼はランク1の氷魔法『アイス』を使用。
「アイスだと!?
そんなランク1の魔法で、ランク5の魔法が打ち破れる訳・・・。
打ち破れる・・・訳・・・?」
勇者の手から太陽をも凍らせんばかりの冷気が吹き荒れる!!
全てを燃やし尽くすはずの火球がランク1の氷魔法によって、どんどん小さくなっていく!!
彼はチート能力のせいで、通常の数十倍、数百倍の威力で魔法を放てるわ。
だからランク1の魔法でもランク5の魔法を打ち破れるの。
「嘘っ!?」
「!!!!????
回避だっ。
セツナ!!」
けれどこの常識外れな展開にタケルは驚愕しつつも、冷静に回避を選択。
自身も氷漬けとなる未来を回避する。
「・・・寸止め?」
もっとも最初から勇者は寸止めする気でいたため、どっちにしろ氷漬けになる事はなかったけれど。
「この俺相手に寸止めたぁ、いい度胸してるじゃね~か。
なあっ!!」
「タケル!!
これ以上、この村の人々を傷付けるのは止すんだっ。
・・・お前はただ、思いっきり戦いたいだけだろう?
だったら俺と戦おうぜ!!」
えっ?
「望むところだ・・・。
お前のような強者と戦ってこそ、俺はより高みへ登れるんだからなぁ!!」
少なくとも純粋なパワーだけなら、タケルよりも勇者の方が上回ってるはず。
それを薄々理解しつつも、タケルが勇者に怯む事はない。
・・・もしや彼、バーサーカータイプの異世界人の中でも希少種と言える、互角以上の相手とも喜んで戦いたがるタイプ!?
弱い者虐めを好むのではなく、命を賭した闘争を心の底から望んでいる異端者。
格上にすら怯む事を知らない彼らは、ただでさえ強すぎる異世界人の中でも特に強く、そして危険な存在よ。
いくら勇者でも下手に戦いを挑んでは・・・。
「王女!!
空を飛ぶ魔法をお願いっ。」
「えっ!?」
「早くっ!!」
あまりに強い意志で魔法をせがまれるので、私は考える間もなく彼の指示に従う。
「フ・・・フライング!!」
そして私は飛行魔法『フライング』を使い、勇者の前で空を舞ったわ。
「これが空を飛ぶ魔法か・・・。」
「なんだなんだお前。
まさか『フライング』も使えね~のかぁ?」
「・・・よしっ。
これで俺も空を飛べる!!」
「・・・・・・・・・・・・。
な。」
勇者の強みは何も魔法やスキルの威力が強すぎる点だけじゃない。
「フライング!!」
一目で魔法やスキルを自分のものに出来るセンスも、彼の大きな強みよ。
これには余裕綽々だったタケルも驚愕してるわ。
「テンイ、お前・・・。
スゲェよ。
スゲェよ!!」
「・・・俺にもわかる。
タケル、お前が只者じゃないってのが。
この世界で出会った誰よりも強いって事がね。」
勇者?
「さあ・・・。
思う存分、戦おうじゃね~か!!」
「・・・ああっ。
行くぞっ!!」
こうして転移勇者と狂戦士タケルの想像を絶する戦いが始まったの。