第170話 全力編⑤ 最強の異世界人
地図にはない村がとんでもない強者に襲撃されそうなのを察知したクロ。
それを知った勇者とエミリーが村へ引き返し、私とクロも付いて行く。
繊細らしい勇者やエミリーの指示で、透明になって様子を探っていたところに彼らは現れた。
「ここが『あいつ』のいる村か・・・。
随分とチンケな場所だな。」
「そ~ねぇ。
うふふ。」
あからさまに凶暴な顔付きの日本人と、美人局でもやってそうな女魔族が・・・ね。
「「「「「「「「ひ、ひぃい!??」」」」」」」」
彼らは空から慌てふためく村人達を面白そうに眺めている。
「ん~・・・。
あ。あの子かしら?
報復対象のオネって子は。」
「そ~みてぇだなぁ。」
「い・・・いやっ!!」
どうやら彼らの目的はオネみたい。
・・・彼女ってば、魔族からの報復対象だったんだ。
だから変にヴェリアに怯えてたのかしら。
「止めろっ!!
どうして何もしてない彼女にまで、害を成そうとするんだ・・・。
国家の罪はこの子の罪じゃない!!」
「ヒデヨシ・・・。」
でも魔族に酷い事をしたのはオネの国であって、彼女自身は何もしてないよ~ね。
それでも彼女を許せなかった魔族に付け狙われていた、と。
「・・・ふ~ん。
嘘を付いてる感じじゃなさそうねぇ。
ど~しましょう、タケル?」
「そ~だなぁ、セツナ・・・。
ゲスをいたぶるのは嫌いじゃね~んだけどよぉ。
小者虐めにゃ興味ね~んだよなぁ、俺。」
「オネをバカにするなっ。」
憤るヒデヨシに対し、しかし謎の日本人タケルの関心はオネの方を向いてない。
彼が関心を向けているのはヒデヨシともう一人・・・。
「だがな。
抵抗しね~と、この村ごとオネをぶっ潰しちゃうぞ~?
な~、神竜の傭兵さ~ん♪」
神竜の傭兵であるアウザーに向いてたの。
「やれやれ・・・。
オネをダシにこの俺と戦おうってか?
身の程知らずなガキだ。」
「・・・大丈夫か?
アウザー。」
「この俺があんなチンピラどもに負ける訳ないだろう。
・・・悪い事は言わん。タケル、セツナ。
命が惜しければ立ち去れ。」
「立ち去る訳ね~じゃん。
俺はお前と殺し合いがしたくて、うずうずしてるんだからなぁ!!」
な・・・なんて好戦的なのかしら?
「おそらく彼はバーサーカータイプの異世界人でしょう。
暴力や闘争を何よりも好む、非常に危険な存在です。
例の本曰く、こ~いうタイプの異世界人は結構多いのだとか。」
「・・・・・・。」
権力を持っただけでゾンビのように腐り果てる人間にとって、チート能力なんて身に余る力なんでしょう。
強大すぎる力に溺れ、暴力を好むだけのケダモノに成り下がってしまうのは自然な流れかもしれない。
「とは言え、大抵は弱い者虐めを楽しみたいだけと記されています。
だから彼らは表面的な態度に反し、自分よりも何歩も劣る格下としか戦おうとしません。
・・・相手の実力を見誤り、心をへし折られたり、殺されるケースも少なくないようですが。」
「あ~・・・。
そ~いや知り合いにそんなタイプの日本人、いたわね~。
魔王に殺されちゃったけど・・・。」
なお、彼らのようなタイプは自分の強さを尊敬・信頼してくれる女の子を好むとあるわ。
また強さを求める素振りを見せつつ『あなたのようになりたい!!』って打ち明けたら、好感度が爆上がりするんだって。
「・・・いや。
目を見ればわかる。
あいつはそんな生温い奴じゃない。」
「へ?」
「・・・。」
しかし勇者はいつものように例の本の内容に喚いたりせず、真剣な目付きで上空にいるタケルを見据えている。
その様は正に歴戦の剣士といった雰囲気よ。
「やれやれ・・・。
そこまで言うならこの村の用心棒として、お前達を始末してやろう。
後悔してももう遅いからなっ。」
一方、アウザーは好戦的なタケルにうんざりしつつも、とうとうその重い腰を上げたの!!
そして。
「五の奥義・黒竜化!!」
なんと彼はランク5のスキル『五の奥義・黒竜化』を使用。
その身を強大な黒き竜へ変えたわ!!
「うおっ!??」
「おっきい~・・・。」
「・・・噂通りですね。
だからこそ彼は『神竜の傭兵』と呼ばれているのです。」
私でも一目でわかる。
アウザーの実力は自爆魔法を抜きにすれば、あの山賊王すら圧倒する程であると。
竜となったアウザーが翼を広げ、空中に漂うタケル達と対峙する。
「ゴギャアアアアアアアア!!!!!!!!」
黒き竜が咆哮をあげながら、タケル達に向かって強烈なブレスを吐き出す。
そのパワーは野良ドラゴン程度じゃ、相手にもならないでしょう。
数千、数万の命すら簡単に屠れそうなブレスを前に、しかしタケルは不敵な笑みを崩さず、とある魔法を発動させたの。
「フィフス・ミラー!!」
タケルの前に巨大な鏡のような盾が現れる。
あれは・・・。
「ランク5の盾魔法!?
しかも相手の攻撃を跳ね返すタイプの盾魔法よっ。」
「マジで!??」
エミリーの言う通り、『フィフス・ミラー』は盾として強力なだけじゃなく、竜や神々の攻撃すら跳ね返す事が出来るの。
現にアウザーのブレスすらあっさりと跳ね返してしまう。
「何っ!?
ぐっ・・・。」
驚いたアウザーが咄嗟に防御体勢を取り、跳ね返ってきた己のブレスに耐える。
けれど。
「・・・隙だらけだぜ?」
「!???」
「五の奥義・雷神拳!!」
己のブレスに気を取られ過ぎていたアウザーは、接近していたタケルに全く気付かず、雷を纏った拳を叩き付けられた!!
「あがぁああああああああああああああああ!!!!!!!!????????
が・・・あ・・・。。」
「「「アウザー様っ!!」」」
格闘スキルの中でも最強クラスの一撃を隙だらけの身体に打ち込まれ、アウザーは人の姿に戻りながら、地面へ落下する。
かろうじて生きてはいるも、酷く大きなダメージを受けてしまい、もうとても戦えそうにないわ。
そんな彼に向かって、ハーレム要員達が絶望的な表情をしながら駆け寄って行く。
「さすがねぇ。
タケル。」
「は~・・・。
パワーはまあまあだが、それだけだな。
期待外れもい~とこだ。」
あの神竜の傭兵とまで呼ばれた伝説級の存在を、こんなにあっけなく倒しちゃうなんて・・・。
タケルって一体、何者・・・?