第169話 全力編④ 心の赴くままに
「「・・・・・・。」」
く・・・空気が重い。
それもこれもたまたま立ち寄った地図にもない村のせいね。
エミリーは出会いたくもない人達と再会するわ、勇者は『神竜の傭兵』に言い負かされちゃうわ・・・。
困ったものよ。
「・・・そんなに落ち込まないで下さいよ~。
勇者様。
ほら、エミリーも元気出して。」
「元気出して~・・・。」
「「・・・・・・。」」
けれど私やクロの励ましくらいじゃ、何の慰めにもならないようで、二人して塞ぎ込むばかり。
こんな時こそ気分をリフレッシュする『メンタル・リフレッシュ』の出番なんだけどさぁ。
肝心の使い手が今、絶賛落ち込んじゃってるエミリーだし・・・。
魔法やスキルは使用者の精神が不調だと、効果も落ちるからねぇ。
「ったくよ~。
おい、テンイ。
んなに落ち込むくれ~なら、アウザーに殴り掛かれば良かったじゃね~か。
あいつ、それなりに強そ~だったし、一発殴るくらいは平気だったと思うぞ?」
「こらこら。」
一方、私達を茶化すために現れたヴェリアが乱暴者丸出しな発言を行う。
ど~いうつもりか知らないけど、その意見はど~なの?
「・・・でも、俺。」
「前にも言っただろ~が。
あんま我慢ばっかしてると、心が壊れるってよ~。
たまには派手に暴れた方がい~ぞ。」
「あのねぇ。」
「・・・。」
って、勇者も考え込まないでよ~。
なんだか不安になるわ。
「クソ聖女もあんな雑魚相手に悲劇のヒロインぶってんじゃね~よ。
気に食わね~なら、捻り潰せばい~ものを・・・。
見てていらいらするぜ。」
捻り潰せばって。
確かにいくら攻撃魔法の使えないエミリーでも、あの村人達くらいなら勝てそうだけどさぁ。
「うるさいわねっ!!
はっ倒されたいの!?」
「「ひゃい!??」」
「・・・。」
しかも好き放題言い続けるヴェリアにとうとうエミリーが切れ出しちゃう始末。
他人事なはずの私とクロが震え上がる一方、当のヴェリアは冷静な表情でエミリーを見つめるばかり。
「・・・ほ~ほ~。
この俺にはそんな啖呵を切れるんだな。
だったらあいつらにもびびってね~で啖呵切れよ。
お前なら出来るだろ?」
「あ・・・。」
ん?
ひょっとしてヴェリアなりに勇者やエミリーを励ましたかったのかしら?
「ったく面倒臭い連中だぜ。
・・・じゃな。」
「あ、ヴェリアお姉ちゃんっ!?
・・・飛んでっちゃった。」
相変わらず気まぐれな女の子ね。
「・・・。」
「ふんっ。
ストーカー魔族が偉そうに・・・。」
ヴェリアの活躍(?)で勇者もエミリーも少しだけ調子を取り戻したようね。
ほんの少しだけれど。
・・・さて、ど~したものかしら。
「!!??
来る・・・。
すっごく強い人達が怖い気配を放ちながら、やって来る!!」
へ?
何、その唐突な察知!?
「・・・この気配は日本人と魔族?」
「妙な組み合わせね~。
って、まさか狙いは私達!?」
「多分、違うと思うよ・・・。
さっきの村へ向かってる感じだから。」
「「なんだ(です)って!??」」
クロの分析に他人事であるにも関わらず、勇者とエミリーが驚きを露わにする。
「・・・あの村には『神竜の傭兵』がいるから平気よ。
ヒデヨシもランク3の攻撃技くらいは使えるようだし。
並の日本人や魔族なんて、返り討ちでしょ?」
「でもアウザーさん達より、強そ~な気配だったよ・・・。
あの村、大丈夫かなぁ?」
神竜の傭兵よりも強そうって・・・。
幸い、私達が狙いじゃないようだし、気付かれる前に逃げ出すべきなのかしら?
「・・・。
たまには心の赴くまま、走ってみようかな?」
えっ!?
そう呟いた勇者が急にさっきの村に向かって走り出しちゃったの!!
「テンイ!?
心の赴くままに、か・・・。」
・・・えーーーーーーーー!!??
勇者の行動に何を刺激されたのか、エミリーまでさっきの村に向かって走り出しちゃったわ!!
「わっ?
デルマお姉ちゃん!!
あたし達も行こ~よっ。」
「そ~するしかなさそうね・・・。」
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「あのね、勇者。
それにエミリーもさぁ。
いくらばつが悪いからって、何も透明にならなくても・・・。」
結局、さっきの地図にはない村へ戻った転移勇者一行。
だけどエミリーったら、私に姿を透明にする魔法『クリーンネス』を使うよう言い出して・・・。
しかも勇者まで一緒になって頼み出すし・・・。
『クリーンネス』は使用者の姿を消す魔法よ。
だけど魔法を使った際、着ている服や触れている人も一緒に透明化出来るの。
使用者から離れると、透明じゃなくなっちゃうけどね。
なので今、勇者やエミリーは私の腕に触れ、クロは私の肩へ乗っかっている。
・・・うん。
正直言って、とっても窮屈だわ。
「ふんっ。
あなたのよ~な図太い子に繊細な乙女心はわからないのよ。」
「そ~だよ。
王女のよ~な図太い子に繊細な男心はわからないんだ。」
「確かにデルマお姉ちゃん、図太いね~。」
「皆揃って、酷くない!?」
今日の私、何か悪口を言われるような事、したかしら!?
「それよりもクロ。
例の二人組は・・・。」
「うんっ。
もうすぐそこまで来てるよ~。」
・・・いや。
そんな事よりとんでもなく危険な二人組がやって来てるのよね。
今からでも遅くないから逃げるよう、提案した方が・・・。
「ここが『あいつ』のいる村か・・・。
随分とチンケな場所だな。」
「そ~ねぇ。
うふふ。」
しかしそんな葛藤も虚しく、とうとう日本人と魔族がやって来たの。
あからさまに凶暴な顔付きの日本人と、美人局でもやってそうな女魔族が・・・ね。
彼らが神竜の傭兵よりも強力な二人組なの・・・?