第15話 初クエスト編① 分け前の分け方
山奥での修行を終えた勇者テンイ。
彼は己の力を試すため、山を下り、その先にある町で冒険者ギルドへ行き、初のクエストに挑む・・・。
・・・前に聖女がドラゴンの素材を売りたいと言い出したので、そっちを先に済ませる事にした。
まっ、お金はいくらあっても困らないしね。
********
「きゃ~~~~、やったわ!!
鱗を少し売っただけで、金貨300枚よ!!」
「ええっ!!
鱗だけで金貨300枚も!??」
「・・・そりゃあドラゴンの素材は超高級品ですから。
全て売り払えば、金貨100000枚はくだらないでしょうね。」
けどだからこそ、買い取る側もドラゴンの素材を丸ごと買ったりなんてできない。
故に全て売り払いたいなら、いろいろな場所でちまちまと売りさばく必要があるわ。
「ぐふ、ぐふふふ・・・。」
き、気持ち悪いわねぇ、聖女。
せっかくの綺麗な顔が台無しだわ。
ただ、水を差すようで悪いけど・・・。
「聖女。ドラゴンの素材が手に入ったのは、全て勇者様の功績だから。
だから手に入ったお金はちゃんと勇者様に渡すのよ。」
「・・・うっ!?
確かに独り占めはいけないと思うけど。
でも私だって素材の確保に貢献したのよ。
分け前くらい欲しいわ。」
う~ん。
それはそれで事実だから、全額渡せなんて言うのも聖女が可哀そうね。
けどねぇ。
「あの件で聖女がやった事って、解体くらいでしょ。
分け前と言っても、せいぜいが1割くらいじゃない?」
魔物の解体だけなら、ある程度の経験を積めば割と誰でもこなせる。
しかしドラゴンを単独で狩れる人なんて、それこそ転移勇者くらいしかいない。
「え~・・・。」
「そんなものでしょ。
大体、分け前の1割でも個人で考えれば多すぎるくらいよ。」
普通ならドラゴンなんて国が総力を挙げて、やっと倒せるかどうかなのよ。
だから個人の分け前なんて、1割どころか1%もらえるかだって怪しい。
「それは間違っていないけど、1割って響きがねぇ。」
「納得いかないなら、勇者様と分け前の交渉する事ね。
・・・でも脅したり、騙したりするのは絶対ダメよ!!」
「わ、分かってるわよ。」
これまでの聖女の様子を見る限り、脅したりは多分、しないでしょう。
だけど騙すってのはありえそうだから、不安だわ。
「・・・本当に分かってるのかしら。
ねえ、聖女だって聞いた事くらいあるでしょ?
妖怪『もうおそい』について。」
「妖怪『もうおそい』って・・・あれでしょ?
座敷わらしの親戚みたいなやつよね。」
座敷わらしの親戚って。
少し似ている所はあるけど。
「な、なんだい?
妖怪『もうおそい』って!?」
「えっ!?
勇者様、ご存じないのですか?
妖怪『もうおそい』とは・・・。」
『もうおそい』とは15~18歳くらいの少年・少女の姿をした妖怪よ。
冒険者パーティに好んで近づき、その強大な力で仲間達に富と名誉を与えると伝えられているわ。
だけど『もうおそい』を蔑ろにしたり、出て行けなんて言って、仲間から追い出したりすれば・・・。
追い出した連中にとんでもない災いが降りかかり、不幸のどん底に陥ったり、場合によっては全滅する事すらあるの。
「・・・な、なんかおぞましい怨霊みたい。
怖いね。」
「そうね、テンイ。
私も旅の途中、急に有名になったと思ったら、急に全滅してしまった冒険者パーティの話を何度も聞いたわ。
『もうおそい』が実在する妖怪だってのは、間違いないでしょうね。」
「い、異世界って怖いなぁ。」
なんで勇者がそんな事を言うのかしら?
だって。
「あの~、勇者様。
『もうおそい』は勇者様が住んでいた日本からこの世界へとやってくる妖怪ですよ。
ご存じないのですか?」
「嘘!!
『もうおそい』って、テンイ達の世界からやってきた妖怪なの!?」
「えええっ!??
俺達の世界に『もうおそい』なんて妖怪、いないよ。
・・・座敷わらしなら聞いた事はあるけど。」
あらら、勇者ったら『もうおそい』を知らないの?
・・・妖怪に疎いのかしら。
「実際『召喚の転移陣』で、妖怪『もうおそい』が召喚されるケースも何件か確認されていますわ。
見た目だけなら転移勇者も『もうおそい』も同じ人間ですから、見分けるのは困難ですが。
そして『もうおそい』を蔑んで、城から追い出した国が滅亡した・・・なんて逸話も珍しくありません。」
妖怪『もうおそい』は転移勇者に匹敵する実力を持っているわ。
けど大抵はテンイよりもはるかに弱気でお人よしみたいなの。
その態度から彼らの真価を理解できず、蔑ろにする人達が多いようね。
実は結構、可哀そうな妖怪かもしれない。
「お、おかしいなぁ。
そんな妖怪、日本にはいな・・・んっ!?
『もうおそい』・・・『もう遅い』?」
「ちょっと話が逸れたけど・・・。
聖女。妖怪『もうおそい』に限らず、異世界の人達を迫害すると、仕返しされて人生詰むわよ。
だから、勇者様を搾取するような真似だけはしちゃダメだからね!!」
勇者だってまだ未熟なのにも関わらず、ドラゴンすら軽々と葬ってしまう極めて危険な存在。
勝手な理由で迫害し、敵対するような真似だけは絶対避けるべきだと思うわ。
「わ、分かってるわよ。
・・・ね~え、テンイ様ぁ~ん♪」
「・・・・・・ん?
な、なんだい。エミリー。」
突然、聖女に声を掛けられ、何やら考えこんでいた勇者がやや驚く。
「私ぃ、テンイ様のためにドラゴンの解体、たくさん頑張ったのぅ。
だからご褒美に分け前ぇ、いっぱい欲しいなぁ♪」
し・・・死ぬほど似合わない上、欲望が駄々もれすぎて滑稽ねぇ。
でもまあ、色仕掛け?なら、公平なやり取り・・・なのかなぁ。
男の方も分かった上で、女のお願いを聞いているだけだろうし。
・・・微妙なラインだけど。
「エ、エミリー!!
そんなわざとらしく、俺に媚び売らなくても良いって!!
・・・俺達三人、今は仲間じゃないか。
だからドラゴンの素材を売ったお金は全員で山分けしようよ。
ね?」
えっ?
全員って、私も??
ぶっちゃけ私、聖女以上に何もしてないわよ。
「!! ええっ、ええ!!
なんて素敵な考え方なのかしら。
さすがね、テンイ!!」
私にも分け前を~なんて話に怒り出すかと思ったら、むしろ喜んで賛成する聖女。
変ねぇ。
・・・と思ったけど、普通に交渉しても、常識から考えれば1/10しか分け前はもらえないはず。
けど、単純に山分けしたら1/3も分け前がもらえる。
後者の方がお得だから、喜んで賛成した・・・と。
妙な所で計算高い闇聖女だわ。
でもまあ、勇者が納得しているのなら、聖女に分け前を1/3渡すのは別に良いと思う。
けれど・・・。
「いや、あの。勇者様。
私、あの一件は聖女以上に何もしていません。
だから無理に分け前なんか渡さなくても平気ですよ。」
分け前をくれるのはありがたいけど、ただでさえ勇者には父の一件で多大な迷惑を掛けている。
なのにそんな大盤振る舞いされるのは、さすがに心苦しいわ。
「良いんだ、王女。
・・・俺達、こうして縁合ってパーティを組んでるんだからさ。
嬉しい事があったら、こうやって皆で分かち合いたいんだ。
だから、受け取ってくれないかな?」
「そこまでおっしゃられるのであれば・・・。
ありがとうございます、勇者様。」
やや戸惑いつつもお礼を述べる私に勇者は笑顔を返す。
どういうつもりなのかしら?
ふと私は愛読書『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』に書いてあった事を思い出す。
転移勇者はほとんど自分の力でお金を儲けたにも関わらず、その利益を仲間達に公平に分けようとするケースが多い、とある。
考えられる理由は3つの内のどれか、あるいは複数らしいわ。
①力はあれど少年故に利益の正しい分配方法がわからず、単純に山分けしようとする。
②仲間達に大盤振る舞いをする事で、自分が大物であるとアピールしようとしている。
③仲間達と対○な関係になりたいが故、純粋に利益を山分けしようとする。
①はまあ、正直あると思うわ。
この世界にやってきたばかりの勇者が『利益の正しい分配方法』なんて、わかるはずないしね。
・・・私だってよくわかってないんだもの。
ってか『利益の正しい分配方法』なんて、誰にもわからないんじゃないかしら?
単に自分に都合の良いやり方を主張し合っているだけで。
②は例の本曰く、最もありえるケースだと書かれているわ。
・・・なんだか、とても悪意のある分析だけど。
でも勇者のあの笑顔を見ると、②は違う気がするの。
だったら③なのかしら?
一部、文字が掠れて読めなかったけど、対○な関係になりたかったのね。
けれど、対○な関係ってなんなのかしら。
異世界独自の単語だとしたら、私にはよくわからないわ・・・。
彼は一体、私達に何を望んでいるかしら?
少し不思議に思いつつも、私達は金貨300枚を平等に山分けした。
言うまでもありませんが、現実の日本に妖怪「もうおそい」なんて存在しませんw
「もうおそい」はなろう系のとある人達を参考に設定した架空の妖怪ですww