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第165話 外れギフト編⑩ 外れと当たりの明暗

突如、プレン国を襲撃した恐るべき魔物サイクロプス。

けれどたった一人の女魔族により、いとも簡単に討伐されたの。





「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」





その女魔族・・・。

ヴェリアの底知れぬ実力を前に誰もが唖然とするばかり。


「よう、てめぇら。

 せっかくこの俺がわざわざ助けてやったんだぞ。

 一言、言うべき事があるだろ?」


けれど彼女はプレン国の人々を完全に無視し、勇者や私達にそんな事を言い出した。

・・・その通りね。


「ええ。

 助けてくれてありがとう。

 ヴェリア。」


「ありがと~♪

 ヴェリアお姉ちゃ~ん。」


「ストーカー魔族もたまには役に立つのね~。」


「そ~そ~♪

 ・・・って、おいこらっ!?

 このクソ聖女が!!」


エミリーったら、いくらヴェリアが気に食わないからって・・・。


「あ、そうだ。

 ヴェリア。

 『ゴールド・ボックス』は使える?

 助けてくれたお礼にお金を・・・。」


「・・・あ~?

 いらね~よ。あんな雑魚、倒した程度で金なんてよ~。

 クソ聖女のよ~な金の亡者と違うんだ。」


「金の亡者で何が悪いのよ!?」


って、自分が金の亡者なのは認めるのね。

エミリー。


実は金の亡者な聖職者は害虫並に多いけれど、堂々と金の亡者な聖職者は彼女くらいね。

聖女としてそれでい~のかしら・・・。


私達がしょ~もない事を言い合ってる一方、他の人々は一言も喋ろうとしない。

ギト王子を筆頭にプレン国のほぼ全員が強すぎるヴェリアに怯えてるのがわかる。

バルフ王子やヴェリアに助けられた青年も呆けた表情で彼女を見つめるばかり。


「・・・。」


そして勇者もまた、無言でヴェリアを見つめ続けていたの。

でも彼が浮かべていたのは感謝の表情じゃなかった。


「・・・。」


「あっ!?

 ・・・ありがとう、ヴェリア。

 本当に助かったよ。」


それでもヴェリアから視線を向けられた勇者はね。

慌てて笑顔を作り、彼女にお礼を述べたの。

そんな彼に対し、ヴェリアは・・・。





「この俺が羨ましいのか?

 テンイ。」


「へっ!?

 いや、あの・・・。

 その・・・。」





静かにそう問い掛けたわ。


勇者がさっきまで浮かべてた表情は感謝ではなく羨望の眼差し。

彼は心の底からヴェリアを羨ましそうに見ていたの。


「テンイ。てめぇに一言、忠告してやる。

 あんま、我慢ばっかしてるとよ~。

 いつか心が壊れるぜ?」


「あ・・・。」


「それが嫌ならたまには我儘三昧に振る舞うんだな。

 ・・・じゃな。」


そう忠告を残し、ヴェリアは空高く飛び去ってったの。


「・・・。」


ヴェリアの言葉に何を感じたのでしょう。

勇者はじ~っと彼女の飛び去った方を眺め続けていたわ。


「・・・ヴェリアを危険だと思う気持ちに変わりありません。

 ですが私は『普段の』彼女を誤解してました。

 私が思っていた以上に、彼女は信頼における人物のようですね。」


「うんっ。

 ヴェリアお姉ちゃん。

 良い人~♪」


「まったく。

 デルマもクロも1度、助けられた程度で随分と信用しちゃってまぁ。

 と~んだお人好しよねぇ。」


そ~かしら?

勇者やクロはともかく、私がお人好しだなんて事はないでしょ。


「あのヴェリアと名乗る魔族・・・。」


「ああっ。」


そして勇者の他にもヴェリアが去った方を眺め続ける男性が二人。

例え、助けられたとしても、バルフ王子達にとっても魔族は・・・。





「「なんて美しいお方なんだっ!!」」





・・・へ?


「ま~、確かに美しいとは思うけどさぁ。

 なんて能天気な反応かしら。

 ・・・これだから男は。」


あ。

エミリーもヴェリアが美しいってのは認めてるのね。


「何が能天気だ!??

 ヴェリア様の美しさは世界の宝だ!!」


「『様』て。

 『宝』て。」


「おっしゃる通りよっ。

 確かにエミリー達も類まれなる美しさだ・・・。

 しかし戦女神のような猛々しい魅力はヴェリア様にしか出せぬだろう!!」


「ア、ハイ。

 ソーデスカ。」


なんかバルフ王子達を見てるとさぁ。

本当に人間と魔族は分かり合えないのか、疑わしく思うっちゃうのだけれど。


・・・いや。

あの二人が変わり者なだけかも。

だってギト王子達はヴェリアの事をサイクロプス以上の化物として、見ていたみたいだからね。



********



こうしてプレン国のサイクロプス騒動は幕を下ろしたわ。

クロがサイクロプスの存在にいち早く気付き、バルフ王子の避難誘導も迅速だったおかげでさ。

奇跡的にも『民』に死傷者は出なかったの。


・・・でも。


「では、私達もそろそろ出発しましょうか。」


「そ~ね。」


「は~い。」


「・・・。」


これ以上、余計なトラブルに巻き込まれる前に立ち去ろうとするも・・・。





「・・・貴様のせいだ、テンイ。

 貴様が不甲斐ないせいで、プレン国はこんなにも被害が出てしまったのだっ。」





残念ながら、ま~たギト王子から謂れのない難癖を付けられちゃったわ。

ギト王子だけじゃなく、彼の取り巻きや神官、大臣も口には出さずとも、勇者に対し、複雑な眼差しを向けている。


「俺の友や仲間も大勢、サイクロプスに殺されてしまった・・・。

 それもこれも無能な貴様のせいでっ!!」


「!!!!

 ・・・・・・。」


「・・・いや。無能だからじゃなくて、わざとだろう?

 この俺が気に食わないから、わざとあいつらを見殺しにしたんだろう!?

 なんせ貴様はチート能力を持つ転移勇者様だ。

 その気になればなんだって出来るはずだからな!!」


「そんなの誤解だ!!」


「何が誤解だ!?

 言い訳するな!!」


・・・確かに『民』に死傷者は出なかったものの、城下町の物的被害はかなり大きかったわ。

そして『ギフト』の力に惑わされ、サイクロプスへ挑んだ大勢の有力者の子がその犠牲となったの。


アリィのように今日、当たりギフトを授かった子達は殺されずに済んだけどさ。

どうやら私やバルフ王子が起こした騒動のせいで、ギフトの存在を信じ切れず、手遅れになる前に逃げ出したようね。

あんなトラブルのおかげで命拾いするなんて、運の良い人達だこと。


ちなみに犠牲者のほぼ全員がギト王子寄りの人物よ。

祝福の儀の意図が丸見えすぎるわ。


「あのですね、ギト王子。

 どう考えても今回の勇者様は一切悪くありません!!

 勝手に責任転嫁されてはいい迷惑です。」


「そ~よ、そ~よ。

 ぜ~んぶ、ギト王子と祝福の儀が招いた惨事じゃない・・・。

 自業自得の癖に言い掛かりは止して欲しいわ。」


「うんっ。

 テンイお兄ちゃん。

 な~んにも悪くないもんっ。」


「皆・・・。

 でも、俺は・・・。」


そもそも勇者が気付いた時には既に『当たりギフト』の持ち主はサイクロプスへ突撃してたわ。

いくら彼が転移勇者でも、止めようがないわよ。

ギフトの力を過信しすぎた時点で、もう手遅れだったのよ・・・。


こ~なるくらいなら、始めから『外れギフト』を授かった方がまだマシだったかもね。

『外れギフト』の持ち主の中にサイクロプスの犠牲者はいないし。

行き過ぎた冷遇のせいで、災厄に抗う気概なんて失ってたもの。


どうやら本物だろうが偽物だろうが、『外れギフト』を授かる方が幸せになれるってのは真理のようね。


「・・・・・・・・・・・・黙れ、黙れ黙れーーーー!!!!

 薄情な異世界人のハーレム要員風情がっ!!

 貴様ら愚民共は上に立つ者を気遣う素振りすら見せないのか!?

 そんなに俺の心を傷付けて、何が楽しいんだ・・・?」


だってあなたが理不尽な事ばかり言って、勇者を追い詰めようとするんだもん。


・・・そりゃあギト王子からすればさぁ。

今回の一件は誰かに責任転嫁せずにはいられないくらい、辛いものだったでしょ~けどねぇ。


「ギト王子は神から『剣聖』のギフトを授かりし者・・・。

 そう聞いてたが、随分と愚かな人物のようだ。」


「!??

 貴様はサイクロプスの人質になっていた・・・。

 ただの民草が王族であるこの俺に偉そうな口を聞くなっ。」


「・・・ギト、お前まだ気付いてないのか!?

 このお方はな。

 グレウト国の大貴族のご子息なんだぞ。」


「なんだって!??

 嘘だ・・・。

 嘘だ!!」


って、グレウト国!??

チュウオウ国には一歩譲るものの、相当な大国家じゃない!?

その大貴族ともなれば、プレン国のような小国の王族よりも圧倒的に立場は上よ。


「祝福の儀とやらの実情を探るため、お忍びでこの国にやって来たは良いが・・・。

 バルフ王子から全て聞いたぞ?

 あんな下らぬ儀式で己の国を腐敗させてたとは、な。」


「「ひいっ!??」」


大国の大貴族様に睨まれ、大臣と神官は震え上がるばかり。


「この私を平気で犠牲にしようとした事は、ヴェリア様やテンイ達の功績に免じ、不問としよう。

 だがバルフ王子ならまだしも、ギト王子やその取り巻きが国の中心を担うようであれば・・・。

 プレン国への援助や交流を断絶するよう、我が国の王へ進言する!!」


「お待ちください!!

 どうか、どうかお慈悲をっ。」


これで少なくともギト王子やその取り巻き・・・。

もっと言えばギフトに選ばれた人間が幅を利かすような、醜い風習は無くなりそうね。

・・・それでもそれらによるこの国の被害は決して、軽視出来るようなものじゃないけど。





「テンイ、デルマ、エミリー、クロ・・・。

 すまなかったな。お前達には色々と迷惑を掛けた。

 あとの事は私達に任せ、旅へ戻るが良い。

 ・・・ヴェリア様に会ったら、このバルフが感謝していたと伝えといてくれ。」





サイクロプス騒動は一応ながら解決し、バルフ王子から幾ばくかの謝礼も貰えた。

だけど私達は何とも言えない気分を抱えながら、この国を後にしたの。





「・・・・・・・・・・・・。

 ああ、クソっ。

 なんかもやもやするなぁ。」


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
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