第164話 外れギフト編⑨ もう1人の味方
プレン国に襲来したサイクロプスをスキル『巨大化』で追い返そうとする勇者。
だけどギト王子の余計な一言のせいで、サイクロプスは・・・。
「ひょっとして、人質のつもりなの!?」
上等な服を着た青年を掴み、人質に取ってしまったわ!!
「うがっ!!
うがっ!!」
サイクロプスは嬉しそうに人質を巨剣へ近づける。
「ひっ!?」
醜悪な魔物の無邪気な悪意の前に勇者の『巨大化』は解除され、ミスリルソードは元のサイズへ戻る。
「バカか、貴様は!!
人質なんぞ、魔物ごと斬ってしまえば良かったのだ・・・。
この愚か者がぁああああ!!!!」
「愚か者はどっちだ、ギト!!
・・・って、あのお方は!?」
今の勇者は二人の王子の言葉に反応する余裕もない。
精神的に追い詰められ、剣を持つ手も震えている。
「う~・・・。
が、うががっ!!」
そんな勇者に対し、意外にもサイクロプスは攻撃を仕掛けてこなかった。
その代わり、人質をアピールしながら、足を地面に叩き付けている。
もう片方の手であっちへ行けとでも言いたげな仕草を行いながら。
「・・・もしかして、私達に立ち去れって言ってるの?」
「うがぁ♪」
そうきたか~・・・。
いくら勇者に人質が有効だとしても、迂闊に彼を殺そうとすれば、思わぬ反撃を受けるリスクも高い。
だったら無理に倒すよりも、危険分子なんぞとっとと追い払ってしまおう。
って判断したんだわ。
「そんなっ。
・・・う。」
サイクロプスの意志を知り、勇者が泣きそうな表情をしながら後ずさる。
「貴様、逃げる気かーーーー!!??
もしも貴様が逃げたら、この国の人間は人質諸共全滅するのだぞ!?
ならば多少の犠牲を出そうが、人質ごとサイクロプスを始末するべきだろうが!!
その程度の判断すら、出来んのかっ・・・。」
「・・・そんな如何にもっぽい事、言われてもさぁ。
誰のせいでここまで事態が悪化したと思ってるのよ?
偉そうな口、叩けた義理じゃないでしょ~が。」
「黙れぃ!!
茶々を入れるしか能のない、聖女風情が!!」
ただどちらにせよ、事態が増々悪化してしまった事には変わりないわ。
「ま、あの足手纏い王子はともかく、ど~しましょ~?
デルマ。
ど~立ち回るのが一番マシかしら?」
『マシ』なんて言い方がもう、ね。
こんな時に・・・。
「アビス様のような、頼れる存在がいればっ。」
無いものねだりしてもしょ~がないのはわかってるんだけれど。
でも私達だけで事態を好転させるのは、もう・・・。
「頼れる存在・・・?
・・・・・・・・・・・・ね~ね~。
頼んだら、助けてくれるかなぁ?」
へ?
「クロったら、急に何よ。
アビス様以外で助けてくれそ~な誰かなんているの?」
「え~っとね、エミリーお姉ちゃん。
アビス様じゃないけど、その~・・・。」
アビス様じゃない?
他に私達を助けてくれそ~で、かつあのサイクロプスをど~にか出来そうな誰かなんて・・・。
・・・あっ!??
「もしかして、その・・・。
近くにいる、の?」
「うんっ。
ず~っとテンイお兄ちゃんの事、見てたよ~。」
「ウッソでしょう!?
うっわ~・・・。」
・・・。
上手くいく保証なんて、一切ない。
けれど!!
「勇者様!!
・・・こうなったら、一か八かに賭けましょう。
助けを呼ぶのです。」
「た・・・助けを呼ぶって。
でもアビスは・・・。」
「アビス様ではありません!!
『彼女』です。
『彼女』に助けを求めるのです。
・・・応じてくれるかはわかりませんが。」
「『彼女』・・・?
・・・あっ!!
まさか近くにいるの!?」
「はいっ。
クロから聞きました。
間違いなく近くにいるでしょう。」
勇者も私の言わんとする事を理解したよ~ね。
だけど『彼女』が助けてくれるかまではわからない・・・。
敵じゃないにしろ、味方だなんて言い辛いし。
「・・・・・・。」
迷っているのか、勇者は沈黙している。
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
しかしサイクロプスは決して待ってはくれない。
あまりモタモタしていると、人質に危害を加える可能性も否定出来ない。
「助けて、くれ・・・。」
「うが?」
「助けてくれっ!!
ヴェリアーーーー!!!!」
勇者の助けを求める声が国中に響く。
「ちっ。
しょうがねぇなぁ!!」
このチンピラのような口調・・・。
!!!!
「四の奥義・手刀両断斬!!」
そして疾風の如く現れた女魔族により、サイクロプスの腕が一刀両断されたの!!
体から切り離された剛腕が人質諸共落下する。
「うぎゃああああああああ!!!!????」
『四の奥義・手刀両断斬』はね。
あらゆるものを一刀両断する、非常に強力なランク4の格闘スキルよ。
唐突に片腕を失ったサイクロプスが一足遅れ、悲鳴を上げる。
「おっと?」
女魔族・・・ヴェリアは人質を素早くキャッチし、私達の元へ届けた後、再びサイクロプスへ向き直る。
「ヴェリ・・・ア・・・。」
「ったく。
あんな奴相手に追い詰められてんじゃね~よ。
それでも転移勇者か?」
・・・まさか本当に勇者の声に応えてくれるなんて。
「ま、魔族・・・?
魔族までこの国に攻めて来たのか!?」
「あ~ん?
てめぇらなんぞに用はね~よ。
自惚れてんじゃねぇ!!」
「「「「「「「「ひぃ!?」」」」」」」」
にしてもチンピラ臭が半端無いのは相変わらずね~。
「ヴェリア!!
あなたは、その・・・。
あのサイクロプスに勝つ自信、ある?」
まず間違いなく勝てるでしょうけど、念のために質問する。
「ハッ!!
この俺を誰だと思ってんだ!?
あんな雑魚に負けるはず、ね~だろ。」
ヴェリアったら、威張りさえしないわね。
彼女からすればサイクロプスなんて、敵にも値しないのでしょう。
「・・・う、が、が。」
新たな格上を前にサイクロプスが涙を流しながら後退してるわ。
だけどこれ以上、あのサイクロプスに振り回されるのは御免よっ。
「エミリー!!
サイクロプスの後ろに盾の魔法をお願い。」
「ん・・・?
あ、そゆこと。了解。
フォース・シールド!!」
私はエミリーに頼んで、サイクロプスの後ろに盾を出現させるよう、要求。
サイクロプスの退路を塞ぐ。
「うががっ!??」
「おいおい、てめぇ・・・。
人質は取るわ、ヤバくなったら簡単に逃げ出すわ・・・。
どんだけ情けね~んだ、あ~?」
「が・・・。
が・・・。」
「悔しかったら、最期の一瞬くらい、根性見せたらど~だ?」
サイクロプス相手に挑発を続けるなんて、ヴェリアったら余裕綽々ねぇ。
そんな彼女の態度に苛立ったか、あるいは死に対する恐怖心からか。
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
サイクロプスが決死の表情で、ヴェリアに向かってその剛腕を振り下ろす。
並の人間があんな攻撃を受けたら、一撃でぺチャンコになっちゃうわ。
けれどヴェリアはその細腕でサイクロプスの剛腕を軽々と受け止め、弾き飛ばしたの。
「うががっ!?」
「じゃ、そろそろトドメといくか。
四の奥義・雷撃拳!!」
あ・・・あれは拳に雷を纏わせ、相手を攻撃するランク4の格闘スキル!!
まともに直撃すれば、野良ドラゴンですら一撃で絶命する程の威力よ。
「うがぁああああああああ!!!!????」
「はんっ!!
雑魚が。」
それほどの攻撃を受け、サイクロプスが耐えられるはずもなく。
プレン国を襲った魔物は一人の女魔族により、いとも簡単に討伐されたの。