第163話 外れギフト編⑧ 権力者の心
一見、平和ながらも『祝福の儀』のせいで実は問題だらけだったプレン国。
しかも祝福の儀によるギフト授与は、軍事費を削りたい王の口実にも利用されてたの。
そのせいで突如現れたサイクロプスに成す術もなく、城下町が壊されちゃってさ・・・。
なんとも皮肉な話ね。
だけど諸々の事情でサイクロプスの討伐は叶わずとも、せめて追い出せないかと勇者は『巨大化』のスキルを使用。
ミスリルソードをサイクロプスが震え出す程のサイズまで大きくしたの。
が、何を誤解したのかバルフ王子が『その巨剣は幻なのか?』って言い出してね。
彼の声が聞こえたからか、サイクロプスまで巨剣を幻だと思い込み・・・。
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
巨剣と化したミスリルソードに向かって、自慢の剛腕を振りかざしたの!!
・・・その結果。
「うが・・・?
うぎゃああああああああ!!!!????」
振りかざした腕が巨剣にグサーーーー、って刺さっちゃったわ。
当然ながら、巨剣は幻なんかじゃない。
本物よ。
咄嗟に巨剣から腕を離したものの、サイクロプスってば激痛のあまり、腕を抑えながら半泣きになってるわね。
・・・ちょっぴり可哀想。
「うがぁああああああああ!!!!!!!!
あーーーーーーーー!!!!????」
「ど・・・どうして奴は私に怒ってるのだ!?」
「きっと『よくも騙しやがって!!』。
などと思ってるのでしょう。」
「騙すって、そんなつもりは・・・。
いや。そもそもサイクロプスは頭の出来が悪い魔物だと学んだぞ!?
そんなケダモノに人語を理解する脳などあるはずなかろう。」
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
「ひっ!?」
あ。
ま~たあのサイクロプス、バルフ王子に怒ってるじゃない。
・・・これはもう確定ね。
「確かに一般的なサイクロプスは人語を理解出来ません。
しかしサイクロプスに限らず、数多の人間を襲撃した魔物の中にはですね・・・。
ある程度ながら人語を理解するケースも確認されています。」
「嘘でしょ、王女!?
そんなデタラメな事なんて、あるの?」
「勇者様の世界でも、たまにあるそうじゃないですか?
言語が異なるはずの人間と動物が、多少なりとも互いの言いたい事を理解し合うケースが。
今回のサイクロプスの件もそれと似たようなものです。」
私達の世界でも、例えば騎士とその愛馬が意思疎通し合うなんて話は珍しくない。
異なる生物だからって、人間の意図が理解出来ないとは限らないわ。
「そう例えられると、あり得ない話でもないのか・・・。
魔物も動物も、人間が思う以上に賢いんだなぁ。」
「ですね。
人語を介さないからと、迂闊にベラベラ喋るのは危険です。」
私はバルフ王子達を牽制する意味も含め、そう忠告する。
ま、今回は偶然、良い方に転がったけどさぁ。
下手な発言はただでさえ不利な状況を、余計に不利にする恐れもあるわ。
「だけどそれなら話が早い。
サイクロプスよ。
これでわかっただろう・・・。
この巨剣が幻でも何でもないと。」
「う・・・が・・・。」
勇者の巨剣に改めて生命の危機を感じ取ったのか、サイクロプスが後退りする。
あのサイクロプスは思った以上に賢く、そして思った以上に臆病な個体のようね。
この調子なら、このままサイクロプスを追い払えるかもしれないわ。
「(しかしあの巨剣が本物ならば・・・だ。
なおさらあのサイクロプスを始末すべきじゃないのか?)」
サイクロプスを警戒してか、バルフ王子が小声で私へ問い掛ける。
「(いやいや、ダメですよ。
あんな巨剣をこんな町中で振り回すなんて・・・。
きっと、とんでもない被害を出してしまいます。)」
勇者が『巨大化』の力で大きくしたミスリルソードは、この城下町すらも一刀両断しかねない程のサイズになってるわ。
そんなものを振り回したら、いろんな物を破壊しかねないし、何より人命すらも奪ってしまう恐れがある。
「(ああっ!?
そ、それはまずい。
民の命や財産を奪う訳にはいかぬ!!)」
「(・・・そういう事です。
勇者や私達だって、町を破壊したり、人を殺したくなんかありませんからね。
だからここは脅す程度に留めておきましょう。)」
「(うむ・・・。
確かにそれが1番、マシな選択かもな。)」
バルフ王子は直情的なのが困り者だけれど。
旅人の話であっても、きちんと耳を傾けようとする姿勢は好感が持てるわ。
・・・だけど世の中はバルフ王子のような、懐の広い権力者ばかりじゃない。
他者を見下し、己の意見を一方的に押し付けようとする輩も大勢いるの。
そしてそんな権力者達はね・・・。
「そのような下らぬ理由でサイクロプスを見逃すだと!?
ふざけるなーーーーーーーー!!!!!!!!
そこまで己の手を汚すのが嫌か・・・?
このクズ共がっ!!」
自分が気に食わないという理由だけで、事態をどんどん悪化させていく。
現実も全体の利も顧みず、自分自身の損得しか考えず。
「(ちょっと、ギト王子!?
ダメよ。そんな大声で騒いだら・・・。
サイクロプスが変な気起こしたら、ど~するのよ?)」
「喧しいわ。転移勇者なんぞに媚びを売る見苦しい聖女め。
大体、サイクロプスを追っ払ったところで、またこの国を襲い始めたらどう責任を取る気だ!?
少々の民の犠牲よりも、サイクロプスの始末を優先しろっ。」
・・・いやいや。
サイクロプスの再襲撃を警戒する気持ちはわかるけどさぁ。
それならちょっぴり卑怯だけど、サイクロプスを城下町の外へ追いやってから、攻撃を仕掛ければ済む話じゃない?
その方がこの国に余計な被害を出さずに済むのに・・・。
さすがにサイクロプスの手前、迂闊に口に出せないけれど。
「やはり異世界人など所詮、この程度なのか?
浅ましい正義感を振りかざし、気持ち良く暴力を振るいたいだけなのか!?
正義のために罪を背負う覚悟すらないのか・・・この偽善者が!!」
「うっ!?
あ・・・。」
偽善者って。
罪を背負えって。
ギト王子・・・。
今のあなたは偽善者よりも遥かに見苦しいわ。
「いい加減にしろ、ギト!!
お前の身勝手な態度が、どれだけ事態を悪化させたかわかってるのか!?」
「あんた達の不甲斐なさを俺のせいにしないでくれますかね?
兄上。
こうなったのも全て、テンイの覚悟が足りなかったからなのに・・・。」
「!!!!」
「・・・あんたさぁ。
あれだけテンイの妨害ばかりしてた癖に、よくもま~そんな戯言を口に出せたものね。
なんなの?
当たりギフトには人から良識を奪う副作用でもあるの??」
「黙れ、クソ聖女がっ。
巻き添えにするのは嫌だ、犠牲を出すのは嫌だと情けない態度ばかり・・・。
そんな事ばかり言って、もしあのサイクロプスが誰かを人質にでもしたら、どうする気だ?
手を汚したくないからと、無様に従う気か!?」
ちょ!!
だから余計な事を喋らないでくれる?
あのサイクロプスは人語を理解し・・・。
「うがっ!!
・・・・・・・・・・・・。」
って、サイクロプス!?
なんでギト王子の話を聞いて、何かに気付いたような反応を見せたの?
どうして急に周りをキョロキョロし始めたの!?
そして『何かを』見つけたサイクロプスがね。
それはそれは嬉しそうな顔でその『何かを』掴んだの。
「ひっ!?
うわぁああああああああ!!!!!!!!」
ま・・・まさか?
「うがが・・・。
うがはははははははは!!!!!!!!」
こうしてサイクロプスは掴んだ『何か』・・・。
上等な服を着た一人の青年を勇者に見せ付けてきたわ。
嘘でしょ!?
・・・これって。
「ひょっとして、人質のつもりなの!?」