第161話 外れギフト編⑥ ルールと正義の二者択一
「・・・暴力か?
そうやって都合が悪くなったら全部、暴力で解決する気か!?
この世界のルールなんぞ、知った事じゃないってか・・・?」
「な・・・?」
「全てが自分の意のままにならないと、気が済まないのか!?
何が転移勇者だ、チート能力だっ・・・。
・・・この浅ましい犯罪者共が!!」
プレン国へ迫りよる恐るべき巨人、サイクロプス。
しかしギフトを過信し、異世界人を毛嫌いするギト王子は勇者の助けを拒み、自分達だけで戦おうとしたの。
もしも私達が勝手な真似をしたら取り押さえるよう、取り巻きへ命令してまで・・・ね。
だけど所詮、ギフトなんて嘘っぱち。
だからいくら『当たりギフト』の持ち主がサイクロプスへ挑もうと、討伐なんて叶うはずもなく。
それを理解している勇者はギト王子とその取り巻きを叩きのめしてでも、サイクロプスの元へ向かおうとするも・・・。
「お、俺はそんなつもりじゃっ。
・・・そうだ。
不殺の剣ならいくら殴っても、体は傷付かない・・・。」
「・・・そんな言い訳が通じるとでも思ったのか!?
平気でルールに逆らい、都合が悪くなれば、すぐ暴力に訴える・・・。
異世界人とはなんて野蛮な存在なんだ?
この人の形をした醜悪な怪物めが!!」
「あ、あ、あ・・・。」
・・・・・・・・・・・。
「お・・・王女。
俺は・・・。」
「どうしたら良いの?」
「えっ!?」
わからない。
「このままギト王子の言いなりになれば、間違いなくこの国は滅びてしまう・・・。
だけど都合が悪くなったら、ルールなんてどんどん破って構いません。
全て暴力で解決しましょう!!
・・・なんて勇者へ言って良いの?」
「王・・・女・・・。」
そんな真似を続けてしまえば、いずれ勇者はなんでもかんでも力尽くで解決するような人間へ成り果てるかもしれない。
そうなってしまえば、この世界へ災厄をもたらす恐れすらある。
「いや、その辺は融通利かせましょ~よ。
・・・と言いたいところだけど、ど~したものかしらねぇ。
人間なんて、す~ぐ成功体験に溺れる生物だし。」
エミリー・・・。
いざとなったら、彼女の防御魔法に頼れば良いのかしら?
でもサイクロプスがプレン国へ迫る前にど~にかするのが一番良い事には変わりない。
どう立ち回るべきなの?
何が正解なの!?
「俺以外はクソの役にも立たないとでも、言いたいのか!?
傲慢な異世界人めっ。
もうとっくにサイクロプスなんて・・・。
サイクロプス・・・なんて?」
「・・・・・・ぁぁぁぁああああ!!」
こうしてギト王子と揉めている間にも、サイクロプスはプレン国へ迫っている。
「何故だ!?
討伐隊の中には『賢王』や『大聖女』のギフト持ちだっていたはずだ・・・。
なのにどうして、まだ奴は生きている!?」
そりゃまあ、嘘のギフトなんていくら授けられたところでさぁ。
サイクロプスを討伐出来る訳、ないもの。
「な、ならば剣聖であるこの俺がサイクロプスを討伐するまでだ!!」
「お・・・お止めくだされっ!!
ギト王子っ。」
「そうですっ。」
自棄を起こしたギト王子がサイクロプスへ突撃しようとするも、それを二人の中年が止める。
一人はいつぞやの神官で、もう一人はまるで豚さんのように肥え太ってるわ・・・。
つまり・・・。
「その体形、もしかしてこの国の大臣・・・?」
「どうして体形で判断するのじゃ!?
洗濯王子の暴言を真に受けおってからに・・・。」
でも当たってたって事はそ~いう事じゃない?
「・・・いや、それよりもギト王子!!
あのような怪物に突撃するような真似はお止めください。
王子の身に何かあられては・・・。」
「・・・舐めるなよ、大臣。
俺は剣聖のギフトを授かったのだぞ!?
神に選ばれた存在なんだぞ!!」
大臣がギト王子の無茶を必死で止めようとするも、ギフトを過信する彼は聞き入れようとしない。
「う・・・嘘なのです。
神もギフトも全て嘘なのです!!」
「「「「「「「「なっ!!??」」」」」」」」
・・・そんな彼を前にとうとう観念し、神官はギフトなんて嘘だと暴露したの。
「おいっ!!」
「だって、いくら王の命で始めた事だとしてもですよ・・・。
ここで王子を行かせるなんて、死なせに向かわせるようなものです。
下手すれば、我々の責任になるかもしれないのですよ!?」
「そ、それは・・・。
じゃがもっと上手い言い方は無かったのか!?」
嘘を暴露した一件で、神官と大臣が言い争ってる。
「・・・嘘だ。
ギフトが嘘だったなんて、そんなの嘘だ!!」
「私は神に選ばれた存在じゃなかったのか!?」
「じゃあサイクロプスに挑んだ奴らは・・・。
もう殺され・・・。」
ギフトが嘘だと知らされ、ギト王子やその取り巻きが取り乱してる。
「俺は・・・。
俺はっ!!」
そして取るべき選択がわからず、勇者が迷い続けている。
「皆~!!
もうサイクロプス、近くに来てるよ~!!」
誰もが惑い、だけどサイクロプスはその歩みを止めない。
プレン国が襲撃されるのも時間の問題だわ!!
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
「エミリー!!
お願いよっ。」
「しょ~がないわねぇ。
フォース・バリア!!」
「うがっ!?」
サイクロプスからプレン国を守るため、エミリーがランク4の防御魔法を使用。
さしもの怪物もこのバリアは突破出来ず、唸り声を上げながら拳を叩き付けるばかり。
「ランク4の防御魔法だと!?
まさかお前、『あの』聖女エミリーだったのか!!」
「ま~ね~。」
ようやくバルフ王子も気付いたようね。
きっとあんまりにも態度があれなせいで、『あの』聖女エミリーだとは思わなかったのでしょう。
このままバリアを張り続ければ、最悪の事態は免れ・・・。
「勝手な真似は許さん!!」
「ギト王子の命令だーーーー!!!!」
「へっ!?
きゃあ!!」
なんて考えてたら、なんとギト王子の取り巻きの何人かがね。
バリアを張ってたエミリーに向かって、飛び付いてきたの!!
そのせいで姿勢を崩し、集中力の途切れた彼女のバリアが解ける。
「ちょっとあんた達、何考えてるのよ!?
・・・あ~もう、サイクロプスが国の中へ入っちゃったじゃない!!
自分の国より、下らない面子の方が大事なの?」
「あ・・・・・・・・・・・・?
い・・・いや、違うんだ!!
ギト王子の命令で、仕方なく・・・。」
「僕達は何も悪くない!!」
「お・・・俺のせいにする気か!?
貴様ら!!」
・・・多分、彼らは混乱していたのでしょう。
混乱した上で、ギト王子の命令を中途半端に覚えていたのでしょう。
勇者とその仲間達に勝手な真似をさせぬように、と。
だから彼らからすれば、何の悪意もなく、条件反射であ~いう行動を取っちゃっただけかもしれない。
でもそのせいで、サイクロプスがプレン国へ侵入し・・・。
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
最悪の事態を招いてしまったわ。