第160話 外れギフト編⑤ 当たりギフトを授かりし者
祝福の儀のせいで社会問題が勃発しつつも、それなりに平和だったプレン国。
だけどそんなプレン国へサイクロプスの魔の手が迫る!??
サイクロプスは人間が豆粒に思える程の巨体を誇る怪物よ。
空こそ飛べないものの、その戦闘力は野良ドラゴンに匹敵し、小国なんてたった1体で滅ぼしかねないわ。
「早く住民の避難を!!
・・・くそっ。
こんな状況でサイクロプスがやって来るなんて。」
しかも間が悪い事にプレン国では王の方針やギフトへの過信もあって、軍事費が物凄く削られてたからね。
でも残念ながら、平和に慣れ切った国では軍事費が削られるなんて、よくある話なの。
実際、野良ドラゴンなんかは数百年経っても襲来されないケースも珍しくなく、そうなると警戒も緩みがちなのよ。
それでも無警戒の状態で襲撃されたら一貫の終わりな以上、お金をケチって最低限の戦力すら放棄するのは悪手にも程があるわ・・・。
「で、私達はど~します?」
どう答えが返ってくるかを半ば予測しつつも、勇者へ問う。
「・・・サイクロプスからこの国を守ろう!!
俺達の力でっ。」
「そ~いうと思ったわ。」
「うんっ。」
でしょ~ね。
「では急いでサイクロプスの元へ向かいましょう。
国内に入られては、対処が困難になりますから。」
なんたって勇者の力はあまりにも強大すぎるもの。
だけどサイクロプスが人気の無い場所にいる今なら、巻き添えを恐れる事なく、戦えるわ。
「だねっ。
じゃあ、さっそく・・・。」
「貴様が話に聞くテンイだな?
俺の国で出しゃばるのは止してもらおう。
野蛮な異世界人風情がっ。」
!??
なんか凄く良い服を来た男の人が、大勢の取り巻きを連れながら私達を睨み付けてるわ。
どことなくバルフ王子に似ているけれど、彼よりも軽薄な顔付きね。
「あの~・・・。
君は一体?」
「『君』だと!?
プレン国の第二王子である俺に向かって無礼な!!
・・・これだから異世界人は嫌なんだ。
王族相手すら弁えようとしない痴れ者がっ。」
って、この国の第二王子だったの!?
「って、テンイ!!
お前、異世界人だったのか!?」
「おや、気付いてなかったのですか?
兄上・・・。
恥知らずにもハーレムを侍らせてる時点で丸わかりじゃないですか。」
「なるほど・・・。」
「なるほど・・・。
じゃないよ!?」
確かに顔立ちやスタイルだけだと、異世界人(日本人)かそうじゃないかは案外、見分け辛いからねぇ。
そ~いう部分は私達と似通ってるもの。
だからハーレムを侍らせてるか否かは、異世界人とそれ以外を見分ける良い指標になるわ。
「話を戻すが、テンイよ。
この国にはこの国のルールがあるのだ・・・。
それを異世界人に乱されては迷惑なんだよ!!
罰せられたくなければ、大人しくしていろ。」
「なっ!?」
「・・・あの~、では王子様?
どうやってサイクロプスを討伐するおつもりで?」
嫌な予感がしつつも、第二王子へ尋ねる。
「はんっ。サイクロプス如き、選ばれしギフトを持つ俺達なら余裕よ。
既に『賢王』や『大聖女』などの選ばれしギフト持ちが、サイクロプスの討伐へ向かったしな。
『剣聖』である俺が出ずとも、あのような下らない魔物、すぐに討伐されるだろう。」
やっぱり~!!
「何っ!?
ギト・・・。
お前、なんて事を!!」
「何を怒っているのですか、兄上。
どうせあなたのような外れギフト持ちに、サイクロプスは荷が重すぎます。
無能は大人しく震えていればいかがです?」
第二王子もとい、ギト王子がバルフ王子を貶す。
釣られてギト王子の取り巻きも侮蔑の視線を送っている。
でも彼が憤っているのは、そんな事じゃない。
「・・・ギフトなんか、でたらめなんだ。
私達は何の力も授かっていないんだ!!」
「外れギフトすら使いこなせないからと、戯言を・・・。」
「戯言じゃない!!
そんなありもしない力を過信し、奴らが殺されたらどう責任を取る気だ!?
・・・・・・・・・・・・あ?
だからデルマは当たりギフトの持ち主が危険な状態にあると言ったのか。」
そうよ。
ありもしない力への過信はこんな物騒な世界じゃ命取りだもの。
「・・・バルフ王子。
『当たりギフト』を授かった方々はどのくらい、強かったのですか?」
それでもギフト云々に関係なく、強ければ良いのだけれど。
「全員、俺よりも弱いくらいだ・・・。」
「ギフトを授かる前の話なぞ無意味でしょう?
今となっては所詮、ランク2止まりの攻撃技しか使えない兄上如きにねぇ。
・・・俺達が負けるはずないのですよ!!」
つまり皆、ランク3以上の攻撃技を持たないバルフ王子よりも劣る、と。
そして基本的にサイクロプスはランク4以上の攻撃技の使い手、あるいはランク3の攻撃技の使い手が複数いないと敵わないとされている。
「つまり彼らじゃサイクロプスを倒すなんて、不可能って事!?」
「でしょ~ね。
このままじゃ~、この国はサイクロプスに襲われて滅んじゃうわ。」
状況を理解し、勇者は呆然としている。
「くっ!!」
「だから粋がるんじゃねえよ・・・。
異世界人がっ!!」
そしてギト王子の言いなりでいては、プレン国が危ない・・・。
そう考え、行動を起こそうとした勇者を彼の取り巻きが邪魔する。
「お前達!!
少しでもテンイ達が妙な動きを見せたら、すぐに取り押さえろっ。」
「「「承知しました!!」」」
「どうして・・・?」
「何がチート能力だ・・・?
神から授かりしギフトがあればなぁ。
愚かな異世界人なんて、この世界には必要ないんだよ!!」
「ギト・・・。
お前、いくらよそで異世界人に煮え湯を飲まされたからって。」
それがギト王子が異世界人を毛嫌いする理由だったのか~。
・・・よくもまあ、五体満足でいれたわね。
下手に彼らに喧嘩を売れば、王族・貴族ですら破滅しかねないもの。
それを考えるとギト王子に喧嘩を売られた異世界人はまだ、温和な方だったかもしれない。
「ギト王子!!
『ギフト』なんて、嘘っぱちなんだ・・・。
神から与えられた力なんて、存在しないんだ。」
「自分の気に食わないものは、全否定ってかぁ?
・・・さすがは異世界人様。
気色の悪い思想が丸見えだ。」
「違うって!!」
異世界人憎しの心もあるにせよ、本当にギト王子は『ギフト』を絶対視してるのね。
これは勇者の世界で例えるならば、悪い宗教に騙される妄信者と似たような感じかしら・・・。
狭いコミュニティで歪んだ価値観に染まり続けた結果、この国の人々はありもしない『ギフト』を信じ切ってしまったのでしょう。
「・・・・・・・・・・・・。
どうしてもわからないのなら・・・。
この国を守るためにも、力尽くで行かせてもらう!!」
話し合いは無理だと悟り、勇者が不殺の剣を構える。
その姿に取り巻きが動揺し始めたわ。
「そんな玩具で、特別なギフトを授かった俺達に敵うと思ったのか!?」
「なら、試してみるかい?」
「!!??
うぐっ・・・。」
不敵な笑みを浮かべる勇者にギド王子が気圧されている。
例え、ギフトの力を妄信しようが、彼にとって異世界人は恐怖の対象なのかもしれない。
でもこの調子で勇者に怯え、道を開けてくれれば・・・。
「・・・暴力か?
そうやって都合が悪くなったら全部、暴力で解決する気か!?
この世界のルールなんぞ、知った事じゃないってか・・・?」
「な・・・?」
「全てが自分の意のままにならないと、気が済まないのか!?
何が転移勇者だ、チート能力だっ・・・。
・・・この浅ましい犯罪者共が!!」